閑話休題その2 「ロザリオ隊活動日誌1 いちご狩りレポート」①
はい、二日遅れのクリスマス回!
ついでに言うと、二度目の外伝回!
今回、カヤ様と愉快な仲間たちの日常「ロザリオ隊活動日誌」シリーズです。
いきなりブチ込んできたのには、例によって、それなりの訳がありまして…。
えっと…第二章最終回、これでいいのか? と迷った挙句の尺稼ぎのため、昨日3時間位で書き下ろしたとか言いません。(笑)
外伝回なので、本編あんまり関係ありません。
「さぁっ! クリスさん! ベンジャミンさん! 張り切って、クリスマスケーキを作りますわよっ!」
ここは、西方情報軍ロザリオ隊ベースキャンプ。
サザンカルマの街から、少し離れた森の近くに設営されているのだけど。
本日、ベースキャンプの糧食班の仮設厨房は、カヤ様に占拠されていた。
カヤ様の犠牲者ならぬ助手その1は、なんだかすっかりカヤ様の従者みたいになってしまったクリスさん。
それと助手その2、本来のこの仮設厨房の主。
彼の名はベンジャミン(命名カヤ様)。
獣人達も人に猫耳と尻尾を生やした程度の者もいれば、獣を擬人化したような見た目のものもいるのだけど。
ベンジャミンは後者で、もはや二本足で歩く巨大トラ猫と言った雰囲気。
毛ももっさもさで、一応服とかは着てるのだけど、ここまで人間離れしている個体が、人里に降りてくるのは珍しかった。
クリスの一族と言うことで、ロザリオ隊に縁故就職した手合の一人でもあった。
けれど、料理の腕は抜群! 見た目の割に性格も温厚で、クリスも子供の頃とかによく遊んでもらったりしていた。
なにより、彼はカヤ様直伝の日本料理やスイーツにすっかり魅了され、自称カヤ様一番弟子だったりする。
その器用な肉球で寿司だって握れるよ? 爆弾おにぎりサイズのシャリに生魚一匹丸ごと乗せて、カヤ様を困惑とかさせちゃったけどね!
「はっ! カヤ先生! ケーキについては某、相応に理解しておりますが……。くりすますとは何でござるかにゃー!」
割りとマッスルな感じのゴツい猫獣人なのだけど、語尾は「にゃー」
一人称の某とか、古臭い言葉使いの厳つい雰囲気なのだが……この語尾ににゃーを付け始めてからは、その辺の古武士的な雰囲気とかは、もう色々台無しだった……むしろ、ベンジャミン古武士に謝れ。
別にカヤ様も強制なんかしていないのだけど。
クリスがカヤ様に語尾に「にゃー」を付けるように強制されているのを見て、自分から率先してこんな喋りをするようになった。
尚、ベンジャミンは人間で言うと30代半ばのおっさんである。
ついでに言うと声は渋く、度の強いグルグル眼鏡みたいなのを掛けている。
「べ、ベンジャミン……」
クリスさん、頭抱える。
ベンジャミン……元々無口な渋い職人肌で渋カッコイイとかクリスも思ってたのに……。
……子供の頃、泣いていたクリスを慰めてくれた渋い声に大きな肉球。
それがなんともまぁ、こんな風に残念な感じになってしまって……何と言うか思い出はセピア色の彼方。
その上、カヤ様は何だか知らないけど、猫系獣人をひどくお気に入りになられた。
ロザリオ隊にはクリスさんを筆頭に猫系獣人は30人ほどいるのだけど。
全員、カヤ様直々にコードネームを付けられてしまった上に、毛深いのも毛深くないの男女問わず、カヤ様に捕まって撫で回されると言うのが、通例になった。
おまけに、語尾に「にゃー」を付けると可愛いからそうしろと言うご無体なご命令を皆、真に受けて本当にそうしてしまった。
もっとも、当人達はむしろ楽しそうにしているので、何の問題もなかった。
元々獣人は猫系に限らず、大体が脳天気なお気楽な連中。
と言えば、聞こえが良いのだけど……要するに割りとお馬鹿さんが多い。
けれども、その戦闘力は獣が色強くなる程高い傾向があり、ベンジャミン辺りだと並みの人間だと三人がかりでも返り討ちにされるくらいには強い。
そんなのが街中を闊歩してれば、そりゃあ普通の人はドン引く。
なので、本人たちもその辺は結構気にして、割りとコソコソと生活すると言うのが常だった。
けれど、カヤ様は毛深かろうが獣ライクだろうが、全くお構い無しで、何かと言うとその毛並みを撫で回したり、抱き付いてその毛皮に顔を埋めたりとやりたい放題。
獣人族にとっては、その手の行為は親愛の情を示す行為で、毛皮を撫でられると純粋に嬉しくてたまらない。
この辺は、犬猫と一緒。
さすがに、男性が女性にそういう事をするのは、本人の許可なくやっちゃダメなんだけど。
カヤ様、女の子なのでその辺は問題なしだし、絵面的にもまぁ良いんじゃないでしょうか?
そんな訳で、ロザリオ隊の半数以上を占める獣人組にとっては、差別しないケモノスキーなカヤ様は、皆のアイドルのような感じだった。
「良いですわ……そもそもクリスマスとはなんぞや? クリスさんもそういう事ですね?」
「あ、はい! 私も良く解らないので教えていただけませんでしょうか……にゃー!」
なんでも、にゃーを付ければ良いというものでもないのだけど。
いまいち吹っ切れていないらしく、すこし恥ずかしげなクリスさん。
「グッドです! クリスさん。」
親指立てなカヤ様のグッドです! でましたーっ!
どうやら、そんなクリスさんがツボらしかった。
「かしこまりました……。それでは、わたくしの世界のクリスマスについて、お二人に解るように丁寧に解説しましょう。それは、およそ……2000年まえのベツレヘムと言う街で起こったとある出来事にまで遡ります……」
こんな感じでカヤ様によるクリスマスについての説明が始まったのだけど。
それは延々30分以上にも及ぶ、とっても長い……それもカヤ様的に毒味が効いてアレンジされた話。
なのだけど、クリスチャンを敵に回しかねない内容の上に、作者もめんどいのでもう省略ーー。
「……そんな訳で、クリスマスと言えばケーキということなのです! この世界でクリスマスに当たる日がいつのなのかさっぱり見当つきませんけどね。」
要約すれば、すごい人の誕生日って事で、とってもめでたい日なのでケーキを食べたり、プレゼントし合ったりする日。
と言うようなことを延々30分も語ってしまうカヤ様も大概なのだけど、付き合う方も大概だった。
気がつくと聴衆もめっちゃ増えてて、30人位に増殖していた。
何処に感動する要素があったのか理解に苦しむ所ながら、ベンジャミン以下ケダモノーズが感涙して拍手してたりする。
皆、馬鹿なの?
「かしこまりましたにゃ! では、デッカイケーキを作って、皆で食べようと言うことですねにゃ!」
若干疲れた顔のクリスさんのキャラクターが崩壊気味ですが。
誰もツッコミなんて入れません。
この隊、クリスさんに恩義ある人多いし、何と言っても隊長さんであり、二等少佐!
某赤い彗星の人と同じ階級のボス猫ですよ? ボス猫。
猫獣人は基本的に女性上位。
彼らの里では、グランドマザーと呼ばれる女族長がいて、群れを仕切ってたりする。
そのせいか、猫獣人の男性は皆、尻に敷かれ属性、つまり紳士が多かったりする。
「さすがですわ……クリス……では、このレシピの材料を調達してくるのです!」
そう言ってカヤ様がレシピの書かれたメモをずいっとクリスに差し出す。
「イエスマム! けど、カヤ様……この「イチゴ的な何か」ってなんですにゃー? ベンジャミン……見当付くのにゃ?」
ベンジャミン及び糧食班のニャンコ隊……全員一斉に首を振る。
いくらなんでも、無茶振りだった。
「えー? クリスさん……そこ、ツッコんじゃうんですかぁ?」
両手を握って、顎に当てるカワイコぶりっ子ポーズのカヤ様。
実はカヤ様、張り切ってレシピ書いてたのだけど、イチゴに該当するものが思いつかなくて、こんな事を書いた。
けど、イチゴなしのクリスマスケーキとか、それただのクリーム掛けスポンジ! そんな訳で頑張れ、原住民!
と言う発想の……つまり、無茶振り以外の何物でもなかった!
……尚、反省とか後悔と言った単語はカヤ様の辞書には存在しない。
「ツッコミますよ! そりゃもうっ存分に! ええ解ります! どうせカヤ様の住んでた異世界の食べ物なんでしょうけど! ノーヒントで探せとか無茶です! にゃーっ!」
キレッキレなクリスさん……けど、こんな時でもにゃーは忘れなかった。
「解りました……では、ヒント! 色は赤です!」
ベンジャミンが、器用にペンを取ると、メモを始める。
「色は……赤……ですかにゃ」
「そして、味は甘酸っぱくもフルーティ! 更に甘くほろ苦いビタースイーツチョコとかもあれば最高ですわっ!」
そう言って、最後に満面の笑顔と共に手を打つカヤ様。
説明になってないような気もするのだけど、ベンジャミンには何か通じたようで、その頭の上に電球マークが浮かぶ。
「甘酸っぱくもフルーティ……なるほど、なるほど……見えてきましたにゃ……カヤ様! ズバリ、それはレッドボロニティクスの事ですにゃ!」
ドヤ顔のベンジャミン。
突如出てきた謎の単語に、カヤ様も「はあっ?」と言いたげな顔で首を傾げる。
ベンジャミンのメモには、走り書きで「赤、甘酸っぱい! かつほろ苦くて甘い! これにゃー」とか書いてある。
やっぱ所詮はネコ科……どっか馬鹿だった。
「レッドボロニティクス! よりにもよってあれかっ! くっ! そうなると、戦闘部隊の編成が必要ですにゃ! カヤ様、かしこましたにゃ! これより部隊の半数を率いて、レッドボロニティクス狩りに出撃いたしますにゃっ! 皆の者っ! ロザリオ隊、緊急出撃にゃーっ!」
決意を秘めた目でテキパキと指示を出し、武装を整えるクリスたち。
もう狩りとか言ってる時点で訳が解らないのだけど。
砂糖が巨大アリマキから採れたりとか、そんな調子なんだから、いちご型モンスターでもいるのかしら? とカヤ様はカヤ様で呑気なものだった。
そして、クリスは自らの直属、猫獣人一族の者達と、その辺にたまたま居あわせたカーペンター隊のメンバーを強引に引き連れて、総勢50名ばかりで森へと向かっていった。
さすがに、カヤ様も訳の解らない展開に、ポツーンと取り残される。
「やぁ、カヤちゃん! 探したよ! なんだ、クリスさん達のところにいたんだ。どうしたんだい? それに、ロザリオ隊の皆は? 随分とメンツが少ないみたいだけど」
暇そうにやってきたアオイが、辺りを見渡しながらカヤ様にそう聞いてくる。
周辺には、数人の一般兵や猫よりは真面目な狼や犬系獣人がぽつぽつといるばかり。
「アオイ先輩……良く解らないのですが……。イチゴっぽいものを探すように言ったら、皆で魔獣狩りに行ってしまいました……」
カヤちゃん、日本語でOK? と言いかけたアオイだけど。
また変な無茶振りして、必死で頑張るクリス達と言う構図が容易に想像できてしまい頭を抱える。
けど、いちご狩りが魔獣狩りになってしまった理由なんて、もはや見当もつかなかった。
「良く解らないけど……魔獣と戦うとか言ってたなら、私も様子見に行ってくるよ。カヤちゃんは、お留守番?」
「うーん、とりあえず、クリスマスケーキを作るつもりだったので、下ごしらえとかありますからね。アオイ先輩が行っていただけるのであれば、心配無用ですね……よろしくお願いします!」
そう言って、カヤ様が微笑む。
息をするように、混沌とトラブルを大量生産するカオスの申し子。
相変わらずのカオスメーカーぶりにアオイも苦笑するしか無かった。
当初予定、5000文字程度の短編のつもりだったのに…。
テキスト量自重出来ない性分で、あっという間に8000テキスト。
なので、前後編に分けました。
明日は作者の誕生日なので、本編おやすみ。
代わりに外伝回の後編をお楽しみに!




