表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/94

第二十六話「それぞれの戦い」②

--------------------------------------------------

第二十六話「それぞれの戦い」②

---3rd Eye's---

--------------------------------------------------

  

「くそったれ! アースワームとホーンビートルだと? 北の平原にしかいないような奴らじゃねぇか……それになんだあの数は! 魔獣使いが100人単位でもいるってのか! まったく、西方も次から次へとやってくれるな!」

 

 ロドニー達、司令部にもホーンビートルが来襲し、司令部要員も動員しての応戦中だった。

 相手が空を飛んでいる上に、入り組んだ森の中では飛び道具もあまり効果的でないのだが。

 大盾を持った防御担当が円陣を組み突撃を受け止めた上で、その背後から槍兵が突くという二人一組の戦術で対応していた。

 

 更に槍兵の後ろには、弩兵が二列の輪になって並び上空からの攻撃を迎撃する。


「幸い森の中ですから、こいつらの機動力も半減しています。それに、くろがねちゃん達がほとんどの敵を引きつけてくれてるから、教本通りの戦い方で十分対処可能です! 早く突入してきた奴を撃破して、あの娘達を援護しましょう!」

 

 照明魔法を多数打ち上げて、光源を確保したサエリが振り返ると、ロドニーに応える。


 ホーンビートルは水平方向から突撃してくる傾向が強いので、この三段構えの輪形陣での対処が最善とされていた。

 帝国軍も国内の辺境地などに出没する魔獣討伐などを日常業務の一つとしているので、この手の対魔獣戦術も万全だった。

 

「そうだな……おい、野郎ども! 聞いての通り、こんな雑魚魔獣なんぞとっとと片付けて、俺達も打って出るぞ! どうせ、この魔獣の後は本命の大軍勢の一斉突撃って寸法だろう。くろがね嬢は、今もたった三人で魔獣共とやりあってる。……俺達は、こんなとこで自分の身を守りながら高みの見物とか、そんな訳にいくか! どうせあのチビ助共に拾ってもらった命だ! きっちり借りは返してやらんと、何と言ってもかっこ悪い! それに……!」

 

「「「「「帝国兵は……仲間と認めたものを決して見捨てない! そして、命の借りは命で返す!」」」」」

 

 帝国兵が一斉に唱和する……彼らの気持ちはロドニーが代弁してくれたとおりだった。

 あの時、本来死ぬはずだった自分達に一晩の猶予をくれたのは、くろがね達だった。

 

 そのささやかな時間で、戦友との最後の晩餐に興じた者もいた。

 家族への最後の手紙を書く事が出来たものがいた。

 

 魔術療兵ですら首を横に振るような重傷者が、くろがねの治癒魔法で、わずか10分後には歩きまわっているのを見て、その光景を見たものは誰もが……奇跡……そう思った。

 

 くろがねにしてみれば、手持ち無沙汰の散歩ついでに、怪我人を治して回ったり、ちょっとした話し相手になった程度だったのだけど……。

 

 そんなたった一晩の交流と、ほんの数人で西方の大軍勢を追い払ったくろがね達を見て……ほんの少しでも手助けを……と言うのが共通した思いだった。

 

 そして、そんな彼女達は今、恐ろしいほどの数の魔獣相手にわずか三人で立ち向かっている!

 

 更に、その背後には西方の軍勢4万が迫りつつある!

 

 帝国兵は死すらも恐れぬ勇者達の集まりだった。

 彼らにとって生き様とは、どのような最期を遂げたかで決まる……そんな独特の価値観を持っていた。

 

 あの小さな少女達を守り、戦い散る……帝国兵としては、本望というべきもの。

 

 それが彼らの共通した思いだった。

 

 くろがね達の獅子奮迅の戦いに魅せられた帝国軍の決死の覚悟の戦いが始まった!

 

 一方、西方軍の4万の軍勢。

 

 彼らは、圧倒的な数の魔獣相手に一歩も引かないくろがね達のすさまじい戦いぶりと、アースワームを一撃で吹き飛ばす戦車の猛威を目にして、誰もが自然と逃げ出したくなりながらも、総司令官の突撃命令を静かに待っていた。

 

「な、何という凄まじさ……これが噂に聞く魔王軍……ラビトール……貴様の魔獣だけで始末出来るのではなかったのか! あの調子では、魔王の手のものだけで狩りつくされるのではないか? 冗談では無いぞ……あのような化物共の相手をするなど……部下達に死ねというようなものだ……」

 

 西方軍派遣軍総司令官のグローム二等上将は、目の前で繰り広げられている魔王軍の少女達の戦いぶりを見て、恐怖と戦慄を覚えていた。

 

「ふむ……あそこまで手強いとは正直、想定外……でしたな。しかしながら、よろしいので? グローム二等上将殿。すでにバーツの王城では衛兵も王族も全滅、城門が解放されるのも時間の問題だと我が主人より報告がありました。今ならまだ帝国軍を蹴散らして、あなた方が王都に突入すれば勝利の目はありますぞ? なぁに……今なら奴らも我が魔獣の相手で手一杯です……そこへ西方4万の軍勢が突入すれば……後はお解りでしょう? 確かに当初の予定では、軍勢は囮でしたが……予定通りに行きそうもない以上仕方ありません。勝利のチャンスが目の前に転がっていながら、戦わずして、逃げ出す……それはまさに怯懦きょうだと言うべきもの。……閣下、ここはひとつ、ご決断の時かと……チャンスは今しかないのです!」

 

 ラビトールと呼ばれた漆黒のローブの男がいやらしい笑みを浮かべながら、総司令官に進言する。

 

 総司令官の背後に並び立つ幕僚達もその言葉に血相を変える。

 幕僚たちの試算によると、シグリーズの森の突破は夕刻の時点では、大隊規模程度の戦力であり十分可能だった。


 だが、予想外の魔王軍の来援。

 それもよりによって、魔王軍のエースくろがねが戦車と呼ばれる鋼の怪物を引き連れて来るという悪夢のような展開。

 

 石巨人を一撃で屠るあの火力。

 まともに喰らえば身体に風穴が空くホーンビートルの体当たりを物ともしない装甲!

 

 正面切って戦えば、師団ですら一瞬で壊滅する……その程度の事、想像できないような馬鹿でもなかった。

 だからこそ、幕僚団の出した結論は、全軍撤退が妥当であり、総司令官も一度はその方向へ傾きかけたのだ。

 

 だが……このラビトールと言う魔獣使いが、魔王軍と帝国軍に魔獣をけしかけるなどと、余計なことを言ったばかりに、総司令官はすっかりその気になってしまったのだ。

 

 全軍動かす必要など無いのだから、戦いたければ一人で勝手に戦えと言うのが彼らの本音だったのだが。

 

 問題は、撤退ともなれば当然、総司令官の責任問題となる事だった。

 ダストン二等上将が魔王との戦いで戦死し、ライバル不在となった今、グローム二等上将はこの戦に勝てば陸軍総司令官の椅子すら夢ではなかったのだが……負ければ、それは夢に終わる。


 ただでさえ、情報軍などと言う得体の知れない日陰者達が帝都の奇襲に成功し、過去にない規模の被害を帝国に与えた事で、大手を振って軍の主導権を奪いつつあるのが現状なのだ。

 ここで敗北ともなれば、もはや陸軍の権威の失墜は免れない。

 

 だからこそ、囮で全軍を出し、優勢になった段階で一個師団程度を動かして帝国軍を蹴散らし、戦果をあげる……そんな提案に総司令官もつい乗ってしまったのだった。

 

 だが……この状況で全軍突撃など行えば……魔王軍の兵達は先程のように容赦などしないだろう。

 あの虫けら共と同じようにまとめて薙ぎ払われるのは、西方軍の将兵たちだった。

 

 総司令官も苦悩するように、上を向いたり下を向いたり、逡巡しているようだったが……。

 

 しばしの逡巡の末、総司令官から全軍へ司令が下った!

 

「全軍……総攻撃を開始せよ! そして、帝国軍と魔王の下僕どもを粉砕せよ! これは派遣軍総司令官たる私、グローム・アスヴァール二等上将の命令である! いかなる損害にも構わず、前進せよ! この一戦は我ら西方陸軍の誇りと命運を賭けた一戦なり! 退くことは許されない! 断固として戦い抜け!」


 最悪の決断と言えた……幕僚たちは瞑目する。

 

 その場に居並ぶ4万の兵士達の運命と……そして、自分達の行く末に……。

 司令官の愚行を諌めきれなかった以上、責任は自分達にものしかかってくるのだから。

 

 ヤケクソのような歓声と共に、夜闇の中の4万の軍勢の一斉突撃が始まる!

 

 バーツ王国の命運を決する戦いは、クライマックスに達する!

さぁ、何だか盛り上がってまいりましたーってとこで…。


せっかくなので、第二部は大晦日に完結って流れにしたいのですが。

一話足りん話と言うことで…。


急遽、7000テキスト程の短編を一本軽く作成したので、流れガン無視でこのタイミングでスチャラカ外伝回ぶち込みます。(笑)


今日の夜にでも、前編…明日は本編お休みして、後編アップします。

まぁ、クリスマス回っぽいのをつくりたかったんですがね…残念です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ