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第二十六話「それぞれの戦い」①

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第二十六話「それぞれの戦い」①

---3rd Eye's---

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 玻璃達が死闘を繰り広げていた同時刻。

 午前3時……夜明けを待たずに敵が動いた。

 

 沈みかけた月明かりの中……数万もの敵兵が夜闇の中を蠢く。

 

 対する帝国第78独立歩兵大隊も、残存兵力で戦闘可能な人員をすべてかき集めた増援を受け、総勢5000の旅団規模にまで膨れ上がった上で、森の中に最終防衛ラインを形成し、くろがね達と共に対峙していた。


 森の入り口付近に潜むくろがねとヘッツァー。

 森と平原の境目には、くろがねの手により有刺鉄線が張られ、平原の至る所にも設置済み。

 

 ヘッツァーの戦闘室には所狭しと砲弾が並び、砲塔にも榴弾が装填済み。

 

 くろがねの号令一つで榴弾を敵軍のど真ん中に叩き込むことも可能だった。

 敵は、ヘッツァーの砲射程すら解っていないようで完全に無防備な状態。

 

 一撃で総司令官とその取り巻きを吹き飛ばしてしまうのが一番手っ取り早いのは解っていたのだけど。

 くろがねとしては、出来れば、その選択はしたくなかった。

 

 このままにらみ合いで時間切れ……もしくは、敵との話し合いのひとつでも、持ちたい。

 そんな甘い願いをどうしても捨てきれなかった。

 

 そして、屋根の上には、しろがねと黒曜。

 

「やれやれ……浸透攻撃が止んだと思ったら、全軍で払暁前に夜襲か……くろがね……だから、言ったじゃないか。敵はやれる時にやっとかないと……まぁ、敵にも優しいくろがねだから、しょうがないか。けど、あれだけ居ると全滅させるのはちょっと骨かな」

 

「じゃあ、しろがね……引っ込んでて、私……全部……始末する!」


「あはは……黒曜こそ、別に寝てたって構わないよ? くろがねのガード役は私一人で十分だよ……もう十分に役に立ったから、なんなら玻璃達の手伝いに回ったら?」

 

 売り言葉に買い言葉……戦車の屋根の上でバチバチと見えない火花を交わす二人。

 4万もの軍勢を前に呑気なものだった。

 

 くろがね的には、二人共仲良くしてよねーとか思いつつ、なんとも複雑な心境。

 

「あー、くろがね嬢……これで聞こえてるか? 俺達の配置は完了だ……まったく、敵も夜明け前に夜襲とか思い切ったな……。何か急ぐ理由が出来たのかもしれんな……本部からは、ダントワースの城の中で何かあったらしく、王都の中がやたら騒々しいとか言ってたぞ。ひょっとしたら、君らの仲間が上手くやったのかもしれんが……確認は取れてない……状況は不明だ……。いずれにせよ、このまま、にらみ合いが続く分には俺達は大歓迎なんだがな」

 

 戦車に積んであった無線機をコピー錬成して、ロドニー達に預けておいたので、無線機からノイズ混じりのロドニーの声が聞こえてくる。

 

 おかげで、リアルタイムにロドニー達帝国軍司令部と連絡が取れるようになっていた。

 軍事的には、この無線機自体が恐ろしく革命的なものなのだけど、どっちも便利だなー程度の感想で、あまりその有用性を解ってなかった。

 

「聞こえてますよー! ロドニー隊長さん。けど、話し合いに応じるとか言ってたのに、どうなっちゃったんでしょうね……。それに集まっただけで、仕掛けてくる様子もないし……。黒曜も近づいてくる敵はいないって言ってるんで、ハッタリで軍勢を出して、特殊部隊の夜襲って感じでも無いみたいです」

 

「そうか……何にせよ……こちらから打って出る必要もないだろう。ひとまず、様子を見る……そっちの黒曜嬢がそう言うなら、敵が来るまでしばらくの猶予はありそうだな。あれだけの大軍を夜闇の中動かすとか、本来正気の沙汰じゃないからな……。ちょっと進軍させるだけでも、いらん怪我人やら落伍者続出……それが当たり前。騎兵突撃なんてやろうものなら、勝手に蹴躓いて近づくまでに全滅ってオチさ。人間様だって、夜闇の中走り回るなんて、よほど訓練してなきゃ無理な話だ……」


 そう言って、ロドニーが一旦言葉を区切ると、なんだか無線の向こう側が騒々しくなる。


「くろがね嬢……なんか地面が揺れてる気がするんだが、そっちはどうか?」

 

 少し慌てた風のロドニーの言葉に、くろがねも地面が揺れていることに気づく。

 

「なんでしょう……これ……ちょっと外の様子見ます……隊長さん達も念のため戦闘準備を!」

 

 ハッチを開けて、外に顔を出すと、何処からともなくゴゴゴッと言った地響きの音が響き渡り始めており、しろがねが無言で巨大な両手剣を錬成するところだった。

 

「くろがね……警戒した方がいい……何か……大きいのが来るよ!」


 ロドニー達も行動開始したようで、戦闘開始を告げるラッパの音が鳴り響く。

 

 黒曜が何か察知したようで、閉じていた目を見開く。


「……これは……下から……来るっ!」


 黒曜の声と同時に、一斉に目の前の平原の地面があちこちで盛り上がり、何かが飛び出す!

 

 くろがねが攻撃指示を出す前に、ヘッツァーが砲撃!

 長さ10mはある巨大な紐状の何かが砲撃を食らって半分になると地面の上でビッタンビッタンとのたうつ!

 

「あれは……アースワームだね。北の平原でたまにお目にかかる……要するに巨大ミミズ。煮ても焼いても食えない奴さ……牙も爪もないけど、あの大きさだからやたらしぶとい。くろがね……ここは私が近接戦で仕留める……さすがにエトワールじゃ、効果ない……援護よろしく!」


 そう言って、しろがねが手近なアースワームに向かっていって、剣を振るう!

 対大型魔獣用なのか、いつもの大剣より更に巨大な2m以上ある重剣を軽々と振り回していた。


「……しろがね……あそこまで錬成使いこなしてて、自分で気付いてなかったって……何なんだろね?」

 

 そう呟いて、くろがねがあたりを見渡すと同じような奴が3-40匹はいた……。

 更に、アースワームの開けた穴から、ゾロゾロと角の付いた50cmはある巨大カナブンのようなものが這い出してきて、一斉に飛び立つ!

 すかさず黒曜の水晶剣が向かっていき、空中戦が始まる!

 

「くろがね……数が多い……こんなとこに、止まってちゃダメ!」


 黒曜の言葉にくろがねもヘッツァーを前進させる。

 真正面からヘッツァーの正面装甲に巨大カナブンの体当たり!

 

 傾斜装甲なのが幸いして、突き刺さること無く滑ったらしく、ボロボロになってくろがねの脇を掠めていく。

 

「ハチゴロウ! とにかく、ジグザクに走り回りながら全力射撃! もう片っ端から撃ってよし!」


 この手の魔獣との戦闘経験の薄いくろがねも、かろうじて冷静になると、ハチゴロウの自律戦闘モードに任せることにした。

 

 と言うか……くろがね、実は虫とかあまり触ったことがないので、はっきり言って苦手なのだった。

 おまけに、気がつくと尋常でない数に膨れ上がっており、いちいち細かい指示を出していたら、とても対応できそうもなかった。

 

 また一匹体当たりを食らう……今度は薄い側面を狙われた上に、角度が良かったらしく角が深々と突き刺さっている!

 

 グルカナイフを錬成し、突き刺さったカナブンを叩き切るとくろがねはヘッツァーに全周シールドを張る。

 

 MG42が凄まじい勢いで弾幕を張り、群がってくるカナブンがバタバタと落ちていく。

 たちまちの屋根の上は薬莢の山が出来、地面の上にはおびただしい量の死骸の山が出来る。

 

 くろがねもMP40を錬成すると、バラバラと弾幕を張る。

 たまに、角度によっては甲殻に滑って跳ね返されているようだが、地味に殺傷力の高い9mmパラベラム弾だけに、十分効果があるようだった。


 こんなキモい巨大カナブン……くろがねとしては、文字通り害虫退治気分。

 本能任せで暴れまわる虫なんて、文字通り殺られる前に殺るしかなかった。

 

 けれど、久しぶりの銃撃の感覚に、何とも感慨深くなるくろがねだった。

 

「あはは……やっぱ銃はいいわ……この反動、硝煙の匂いがたまらないね! けど、こんな映画のシーン、どっかで見たなぁ……。ああ言うのって、大抵調子よく撃ちまくって、弾がなくなったーとかなって、ピンチになるんだよね……。うん、こうなったら、わたし……守りと弾丸補充係に専念しよう! 攻撃はハチゴロウくんにお任せっ!」


 そう言いながら、ピンポイントシールドで弾幕を抜けてきたカナブンの体当たりを迎撃!

 基本、突っ込んでくるしか能がない敵だから、この戦法はありだった。


 こうも数が多いとくろがねが懸念したように弾薬の心配が出て来るはずだったが……。

 くろがねは、武器のみならず弾薬すらも文字通り湯水のように錬成できる。


 事実上、無限の弾薬庫を随伴しているようなものだった。


 MG42も銃身加熱を起こして、怪しくなってくるのだけど……。

 

「黒曜……ちょっとの間……迎撃お願い」


「大丈夫……くろがね、これくらいなら……任せて。」


 くろがねの背中を守る黒曜が呟く。

 彼女も水晶剣を次々錬成すると、カナブンの迎撃に回していく。

 

 くろがねが知らない間に彼女自身も進化しており、膨大な量の錬成剣を自律モードで統率する……そんなレベルにまで進化していた。

 

「黒曜すっごいなぁ……しろがねも凄いけど、こっちも頼もしいなぁ……」

 

 その間に、MG42を錬成すると銃座にセットし、熱々のは錬成解除して消滅させる。

 ついでに、足場を確保すべく屋根の上の薬莢を捨てる。

 

 先頭室内の様子を見て、砲弾の残数を数える……後30発程残っているようだった。

 

「おっけー! まだまだイケる! 弾の心配はいらないから、もう手当たり次第に撃ちまくって!」


 くろがねに応えるようにハチゴロウの赤ランプがピコピコと点滅。

  

 くろがねが防御と弾薬補充、武器メンテ……合間合間に大雑把な移動指示。

 ヘッツァーは攻撃と移動に専念。

 

 隙を埋める形の黒曜の防空網。

 

 たまに、黒曜とくろがねで魔術回路連結による魔力コンバート……何てこともやってる。

 魔力の保持量と回復速度がバカ高いくろがねに対し、黒曜達水晶系マテリアは半分程度の魔力しか持っていない。

 

 それでも一般の魔術師などと比べると化物級なのだけど、黒曜剣の同時多数制御は魔力を湯水のように使うので、くろがねのサポートは、黒曜としては実にありがたかった。

 

 二人と一台の即席チームだったが、実に問題なく機能していた。

 

 くろがねは……はっきり言って気質的に戦闘向きとはいい難いのだけど。

 今回、バックアップに専念する事でその真価を発揮していた。

 

 攻撃は仲間や召喚した兵器に頼って、鉄壁の防御でそれらを守りサポートに専念する。

 強敵が現れたら、自らが打って出て一騎打ちでケリをつける。

 

 実は、それこそが使徒「黒の節制」本来の戦い方なのだけど。

 くろがねは、そのほんの入口にたどり着いたところだった。

 

 しろがねも凄まじい速度で走り回りながら、当たるを幸い薙ぎ払っていた。


 また一匹アースワームが輪切りにされて沈む。

 

 その後ろをウンカの群れのようになった巨大カナブンが追いかけ回しているのだが……しろがねの移動速度は加速を使っているらしく軽く100km以上の速度で動き回っている!

 さらに、直角ターンなども平然とやっているので、機動力で優位に立っているようだった。

 

(さすが、しろがね……凄いなぁ)


 いい感じに的が集まっているので、くろがねは砲弾を時限信管に変えると、しろがねの進路を予想し、空中で榴弾が爆発するようにセットし、砲撃!

 

 しろがねが通り過ぎた辺りで、砲弾が爆発し、群れの鼻っ面で炸裂!

 一気にしろがねを追っていた巨大カナブンの一団が一気に消滅する!


 だが、くろがね達の奮戦にも関わらず、森の中に魔獣の群れが突入する!

さてさて、玻璃ちゃんサイドも大騒ぎですが。

くろがね達の方も激闘開始です。


尚、一応@4話で第二章終了の予定です。

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