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第二十四話「シグリーズの森の戦い」③

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第二十四話「シグリーズの森の戦い」③

---3rd Eye's---

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「んっと……そうなると……ロドニー中佐さん達は、ここで何が何でも西方軍を食い止めるつもりだったと?」


「ああ、そう言うことになる……まぁ、正直全滅確定だなこりゃ……とか思ってたんだがな。こちらとしては、夕刻前の総攻撃さえしのげりゃ、一晩は時間が稼げるからな……それで上出来って腹積もりだった。くろがね嬢達の助太刀でこっちは誰一人死なずに目標達成……皆、君らには感謝してる。とにかく、一杯飲め! って言いたいとこだが、さすがに子供に酒は飲ませられんか……。祝杯用の取って置きのやつだったんだがな……美味いぞ?」

 

「ま、まぁ……どう見てもこの娘達……子供ですからね……やめといた良いんじゃないかと。けど、くろがねちゃん達って10歳も行ってないように見えるのに、なんか妙に大人っぽい雰囲気ですよね。西方とかには、見た目が子供みたいな亜人種もいるって話聞きましたけど……」


 サエリが心配そうに、口を挟む。

 けど、くろがね的には取っておきのお酒とやらには興味があった。

 

 だって、くろがねちゃん……自称大人の女なんですから。


「ふふふ……わたし達、身体がちっこいだけで中身は「大人」なんで、お酒とかも飲めるんですよ? 玻璃ちゃんとかと温泉浸かってビールの一杯とかやってたんで、むしろご相伴させてくださいな!」

 

 ドヤ顔で「大人」と言う単語を強調するくろがね。

 

 そう言われて、ロドニーも本人が大丈夫というのなら良いのかと納得して、ウイスキーの入った酒瓶の中身をくろがねの差し出したコップの中に注ぐ。

 

 止せばいいのに、一息で飲もうとしてむせるくろがね。

 

「うっわ! ……なにこれ、口の中がアルコール消毒されたみたい……ゲホッゲホッ!」


「やっぱ、子供にゃ早かったんじゃないか? ……なら、緩めのエールとかぶどう酒にでもしとくか……。黒茶もあるぞ……麦をこんがり炒った奴を煎じたやつなんだが……口直しにそれでも飲むか?」


「ううっ……そ、そうします」


 涙目状態のくろがね……ウイスキーと言っても、彼女が今飲んだのはアルコール度数50%を超える蒸留酒。

 それなりの高級品なのだけど、度数の濃いウォッカ並みに強烈な奴だった。


 基本、オンザロックとか水割りでちびちび飲むようなものなので、そんなものをストレートでガバッと飲もうとする方が間違ってる。

 所詮は、自称大人の女ですから……。


「あ、意外と美味しいこれ……麦茶の濃いやつですね……なんか懐かしい」


 黒茶とか言うから、何かと思ったら、要するに焦げ味の効いた麦茶だった。

 麦茶と言えば夏、夏といえば……スイカとラムネ、そして蚊取り線香の香りを連想して、何となくノスタルジックな気分に浸るくろがね。


「麦茶? ああ、そう呼ぶ地方もあるって話だな……この香ばしさがいいだろ? それにしても……夜の見張りは、連れに任せろって言うから、本当に任せてしまってるが問題ないのか? うちもずっと警戒態勢で張り詰めっぱなしだったから、今のうちに休めるのはありがたい話なんだが」


「大丈夫っ! 黒曜としろがねでサーチ・アンド・デストロイしてるから、夜闇に紛れて浸透してきた敵は片っ端から仕留められてるはずですよ」


 そうくろがねが言った矢先に遠くから銃声と断末魔と思わしき悲鳴……。

 

 案の定、西方の情報軍も紛れ込んでいたようで、主力が撤退後もひっきりなしに少勢による夜間浸透攻撃がおこなれているようだったが……。

 

 索敵機能を持った水晶を飛ばすことによる長距離広範囲索敵能力を持った黒曜が敵を見つけ、しろがねがエトワールによる長距離狙撃と言うコンビネーションで速やかに撃退していた。

 

 黒曜石は夜闇に紛れてしまうので、発見は困難な上にしろがねの夜間射撃能力の前には、夜戦に長けた情報軍の兵であっても為す術が無いようだった。

 

 くろがね達ももっとも警戒すべきは、カヤ達の襲来だと想定していたので……。

 あえて一般兵を出さすに、魔王軍の二人が警戒網を張る……このような体制となった。

 

 本当はくろがねもヘッツァーで警戒に出るつもりだったのだけど、ヘッツァーは目立ちすぎる上に、やたらとやる気満々の黒曜としろがねが先を争うように行ってしまったので……。

 

 取り残されたくろがねは、ロドニー達の晩酌に付き合ってる……そんな感じ。


 先程まで森の中を歩き回っていて、兵隊たちと立話をしたり、怪我人を治療して回ったりもしていたのだけど。

 さすがにちょっと疲れたので、ロドニー達のところに顔を出してみたところだった。

 

「とにかく……日没後の大規模攻勢は、さすがに無理があるはずだからな……これで半日は稼げたな。くろがね嬢達は、これからどうするつもりなんだ?」

 

「えっとですね……わたし達も皆さんの時間稼ぎに協力するつもりです。王都の方は、玻璃ちゃん……わたしの友達がきっとケリを付けてくれるから! わたしは、その背中を守る……そんなつもりでここに来たんです。それに、さすがに4万もの大軍勢にもなると、わたし達三人でも厳しいかもしれないけど。足止めくらいなら、わたし達だって出来ます……」

 

 くろがねの理想としては、このまま西方軍がビビって睨み合いにでもなってくれるのが理想だった。

 その為に、一番強そうな石巨人を粉砕して見せて、向こうの将軍に話合いを提案し、逃したのだ。

 脅しとしては十分だったとは思うのだけど。

 

 敵が損害無視で強行突破を図る……そのような展開になってしまうと厳しいものがある。

 

 ヘッツァーをもう2台くらい召喚して、全力砲撃を仕掛ければ万の軍勢とて粉砕出来るかもしれないけど。

 くろがねとしては、気が進まなかった。

 

 そんな事になったら、どれほどの敵兵を虐殺することになるのやら。

 実際、ヘッツァーを動かしているのは、ハチゴロウMkⅡであってくろがねではないのだけど。

 命令を出すのはくろがねである以上、くろがねとしてはやっぱり気が進まないのだった。

 

 つくづく、自分は戦いに向いていないのだな……とくろがねも痛感し、否が応でも暗い気分になる。

 けど……「黒の節制」は実際に殺さずに戦意だけを粉砕すると言う真似をやってのけていたと聞く。

 

 不可能ではないのだ……ただ困難だと言うだけで……。

 

「なぁに、安心しろって……君らに頼り切るつもりなんて、こっちも更々ないからな。後方からも再編成が完了した部隊が続々と来援中だ……最終的には駐留軍の残存戦力全てがここに集結する。少なく見積もっても、今の倍以上……3000か4000くらいは行くはずだからな。これも君が時間を稼いでくれたおかげだ。どうせ、こんな森の中へ万単位の軍勢なんぞ展開出来るわけがないからな……なんとかなるさ!」

 

 強気の言葉と裏腹に、うつむき加減で暗い表情を見せるくろがねの様子にロドニーも気付いていたのだが、敢えて気楽そうにそう言う。

 

 ロドニー達としては、あのタイミングで敵軍を追い返してくれた事でもう十分過ぎる程の借りなのだ。

 

 それにあえて、口には出していないのだけど。

 ロドニーは元々ダイン将軍の配下の士官でもあるので、彼女が殺さずの信念を持つ変わり者だと言う話は聞いていた。

 

 さっきの戦いも威嚇止まりで、誰一人として殺めること無く西方軍を追い返してしまった。

 それに、部下からの報告で、彼女が怪我人を治療して回っていたと言う話も聞いていた。

 

『黒い聖女』

 

 ロドニー達の部下の間では、そんな風に彼女を呼んで崇める者すらも出ているようだった。

 

 人を殺す生業の軍人だからこそ、彼女持つその信念が如何に尊く困難なものか……ロドニーにもよく解ってしまった。

 比類なき強さを持ちながら、あえて茨の道を歩む少女に何かしてやりたい。

 

 ロドニーはごく当たり前のようにそう思った。


「なぁ、くろがね嬢。そんな辛気臭い顔するな……悪いが、俺達は地上最強を自負する帝国軍だぜ?

 君は、あの戦車の砲弾をバカスカ打ち上げてりゃそれで十分。あの音だけで騎兵なんぞあっさり壊乱するだろうし、ビビって足を止めた兵なんぞ片手で撫でて終わりだ。なぁ、野郎ども? この程度の戦、楽勝だよな」

 

 ロドニーの言葉にその場に居た兵士達が一斉に頷く。

 

「そうですよ! くろがねちゃん……それに私もこう見えて帝国魔術院の主席だったくらいのエリート魔術師なんですよ! そちらの蒼玉様とかには、とても及びませんけどね」

 

 サエリが自信満々と言った調子で、胸を張る。 

 

「ああ、そう言えば……増援として、蒼玉さんもパーラミラの人達と一緒に向かってるって聞いてますよ。早ければ朝のうちにでも到着するって言ってましたよ」

 

 こちらに来る途中で、魔王様が気を回してくれて、パーラミラで女神様扱いされていた蒼玉に出撃命令を出したと言う話はくろがねも聞いていた。

 

 対軍勢用……それも殺さずに無力化と言う事なら、彼女の右に出るものは居ない。

 

「ええっ! それ本当ですか! た、隊長っ! これって、大ニュースですよ! と言うか……蒼玉様来たら、もうこっちの勝ちは確定ですよ!」

 

「良く解らんが……そんなすげぇのかその蒼玉ってのは?」


「帝国の伝説に謳われる水元素大魔術師オルガに匹敵どころか、それを遥かに上回るくらいなんですよ! はっきり言って、魔力の時点で私が100人いても一蹴されますね!」


 何故かドヤ顔のサエリ。

 

 ちなみに、彼女はエーリカ姫の命を受け、例のパーラミラの蒼玉さんやらかし湖の現地調査を担当した一人なのだが。

 広大な湖の水全部が魔術由来と言う桁違いの所業に気付き、卒倒した魔術師の一人だった。

 

「あはは……魔王軍でも最強クラスの人ですからね……。あの……一応、先に言っておきますけど……来たら、全力で高台へ逃げましょう……。いちいち加減間違える人だから……絶対大惨事になると思うんで……」

 

 魔王城大浴場水浸し事件の時は、現場にくろがねも居て、しっかり巻き込まれたクチなのだ。

 「ちょっと水で薄めまーす」とか言って、津波みたいなのが出てきたのをくろがねも忘れてない。

 

 かくして、魔王軍という強力な援軍を得た帝国軍は、値千金とも言える貴重な時間をかせぐ事に成功する。

 

 そして、物語の舞台は移り変わる……!

さて、前哨戦は終了。

次は、決戦に挑む玻璃ちゃんパートです。


ちなみに、ロドニー&サエリの帝国軍コンビはやっぱり無名の隊長&副官って感じでしたが。

ネームドキャラにしたら、割りといい感じの人達になりました。

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