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第二十三話「カヤ様のホットケーキパーティ」②

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第二十三話「カヤ様のホットケーキパーティ」②

---Kaya Eye's---

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「もう一つのバーツ王国でしたっけ? あちらの救援作戦も同時進行で進められてたって話ですが……。そちらはどうなりました?」

 

「バーツ方面については、ダルワール公国軍に西方陸軍が合流する形で、帝国軍の魔王領駐留軍と交戦中。目下、兵力の差で優勢……帝国内部の混乱でまともな増援が出せない状況なので、これは必然ですね。ただし、バーツ王国の方は、王都ダントワース以外の全ての都市と軍事拠点が反乱軍により占拠。元々魔王軍との戦いでバーツ王国の主力が壊滅してしまいましたからね……。一見風前の灯のようですが、ダントワースは城塞都市なので、反乱軍も攻めあぐねている状態です。反乱軍と言っても、所詮は一般市民の寄せ集めなので、帝国軍を突破すれば勝負は呆気なく付くでしょうね」

 

 要は、バーツの陥落が早いか、救援部隊が帝国軍を突破するのが早いか……そんな所という訳です。

 そうなると、わたくし達としてはどう動くか……ですね。

 

 ひとまず、わたくし達としては敵は魔王軍に絞りたいところ。

 軍勢の相手とか面倒なだけですし、わたくし達はどちらかと言うと対個人戦向き。

 

 アオイ先輩の能力を使えば、100万の軍勢だろうが一撃ですけど……正直、そう言うことはやらせたくありません。

 アオイ先輩は……先のブレイブルの事を随分気に病んでいるみたいですので……。


 わたくしは、その程度何とも思わないのですが……先輩は元々優しすぎるくらいの人。

 この異世界に来てしまったのだって、わたくしが巻き込んでしまったようなもの。

 

 だから、これ以上、負担はかけたくありません。

 

 それに、状況としては、もはや決戦間近。

 

 順当に行けば、戦略的に優位に立っている西方側の勝利は確実ですが。

 魔王軍というイレギュラーがどう動くか……ですね。

 

「では、クリスさん、魔王軍の動きについてはどうでしょう?」


「魔王軍については、かなり多くの者が帝都に入って復興や救援作業に従事しているとの報告です。例の北の軍勢にも動きがあったようで、魔王軍も北の軍勢との戦いを視野に入れているのではないかと言ったところですね。カヤ様達が戦ったブラックとシルバーナイトの二人については、どうも魔王城に引き上げたようです。それとバーツ方面でも6名ほどのまとまった魔王軍の隊が各地の戦場で目撃され、猛威を振るっていたようです」

 

「なるほどね……状況としては、普通にやったら西方の勝ちは確実。番狂わせがあるとすれば、魔王軍次第って事だね。カヤちゃん、どうしようか……私達もそっちに出向くべきなんじゃないかな? 魔王城とバーツなんて、目と鼻の先だからあいつらが出てくる可能性も高いんじゃないかな」

 

 アオイ先輩のおっしゃりよう……確かにもっともですが……。

 その場合、魔王軍の大ボス千年魔王が出てくる可能性が出てきます。


 魔王……わたくし達にとっておそらくラスボスとなるであろう難敵。


 その戦闘力は、未知数です。


 それに加えて、あの二人……他にも魔王軍には未知の強敵がいると思って良いでしょう。

 さすがにそこまで来ると正直、分が悪い賭けのような気がします。


 結論、君子危うきに近寄らず。

 魔王軍と帝国軍……魔王軍のお膝元で、相手にするのは得策ではありません。


「いえ、先輩……バーツについてはもうほっときましょう。どうせ陸軍主体なんだから、アリーさん達情報軍もバーツの戦の勝ち負けはどうでもいいって思ってるんですよね? 情報軍の本命はどこなんです?」

 

 わたくしの言葉にアリーさんもクリスさんも驚いたようにお互い顔を見合わせています。

 

「そうですわね……。バーツの救援作戦は元々ダルワール公国の強い希望と軍事的勝利を欲する陸軍が主導して、我々の作戦に便乗する形で提案、実施されましたからね。情報軍としては、救援作戦自体あまり積極的に関与しない方針です。なにせ、勝った所で、魔王領がある以上帝国へ進軍するなんて不可能ですからね」


 アリーさんの説明に納得がいきます。

 結局は緩衝地帯の問題……ダルワール公国が今度は自分達が最前線になるのが嫌だから、救援するのは当たり前。

 今までは帝国との密約があったから、それも出来なかったのですが。

 密約も何もかも破棄しちゃった以上、必然的にそうなる……という事です。


「我々としては、現状もっとも憂慮しているのは、北の軍勢……北方旅団です。あの軍勢は、「貴様らと敵対する理由はない」とのメッセージを送って来たきり、こちらは眼中にない様子ではあるのですが。何をしてくるか全く読めない以上、警戒すべき対象です。可能なら何らかの交渉を持ちたいところではあるのですが……。相手は帝国の一個軍を軽く粉砕するような強力な戦力なので、どう対応すべきかこちらも判断に悩んでいるのが実情です。実は、お二人を自由にした事や我々がここに配属されたのも、北方旅団を意識してのことらしいです」

 

 クリスさんの話で、だいぶ状況が理解出来ました。


 確かに第三勢力なんて、はっきり言って邪魔なだけ。

 

 敵なら敵、味方なら味方とはっきりしない存在なんて、不要です。

 となると、わたくし達の成すべき事は決まりです。

 

「情勢は理解できましたわ……。そうすると、わたくし達の成すべき事としては、バーツとかそんなのほっといて、その北の軍勢を味方に付ける、もしくは地上から消し去る事だと思います。アリーさん、アオイ先輩如何でしょうか?」

 

 そう言って、アオイ先輩に微笑みかけると先輩は我が意を得たりと言った様子。

 

「うん、面白いね。確かに訳の解らない連中なんて、いっそ消えてもらった方が遥かにマシだ。バーツの情勢は魔王軍次第だけど……。私達が出向いて、魔王軍が本気で向かってきたら、正直どうなるか解らない。配下のあの二人ですら、カヤちゃんを追い詰めるほどなんだ……その大ボスの魔王ともなると……。アリーさん達には、魔王についての情報ってないの?」

 

「魔王については……魔王城の外に出てきたのは一回だけ。帝国との和平交渉の際に、その姿が確認されています……伝承に伝わる容貌と随分かけ離れていたようですが……。魔王の戦闘力については、過去のお伽話程度と前置きしておきますが……。この世界の守護者だった勇者……つまりアオイ様が魔王に討たれたと言う話が伝わっています。他にも帝国の首都の半分を焼き尽くしたと言う話もあれば、当時の連合軍40万の兵すらも打ち破ったと言う話もあります。いずれにせよ……簡単に勝てるような相手ではないでしょうね」

 

 クリスさんの話……お伽話と前置きするくらいなので、話半分程度と思うのですが……話半分だとしても十分脅威です。

 きっとその気になれば、世界を滅ぼすことすら可能……そんな存在なのでしょう。

  

「……勇者が魔王に討たれたと言う話は本当だと思う。私がこの身体の主導権を取った時に、本来の勇者の記憶が私の中に流れ込んできたんだけど。黒い魔神みたいなのに、ボロッボロにやられてた……あれが本気の魔王だとすれば……」

 

 アオイ先輩の言葉に、さすがにわたくしも含めて全員押し黙ってしまいます。

 あれほど強大な勇者が討たれる状況……。


 正直、想像もつかなかったのですが……魔王と戦い敗れたとなれば、納得も出来る話です。

 

 魔王に対抗する使徒が出てこなかったら、この世界は多分終わっていたのかもしれません。

 改めて、敵の強大さに打ち震える思いです。

 

「そうなりますと……やはり、帝国と魔王軍が組んでいる……この状況をなんとかしないといけませんね」

 

 はっきり言って、敵のカードが強力すぎるのです。

 魔王軍の兵や帝国の守護者に対抗できるのは、わたくし達だけ。

 

 せめて、もう一枚か二枚、連中に対抗可能なワイルドカードがあればもっと楽なのですが……。

 

「そうだね……ただそうなると、帝国を叩くには南からだと魔王軍を先に倒さないと攻めようがない。けど、魔王軍と帝国の連合に正面からぶつかるのは愚策。だから、北回りのルートでその北方旅団と力を合わせるか、ご退場いただいた上で、二正面作戦に持ち込む。魔王軍と言っても、配下のひとりひとりなら私達で対抗可能だからね。勝てる可能性があるとすれば、これだね」

 

 わたくしの考えをアオイ先輩がまとめてくれちゃいました。

 

「けど、アオイ様……北方旅団は銃火器と呼ばれる強力な飛び道具を多数装備している上に、戦車と呼ばれる強力な怪物も従えているそうですよ。そんなのに勝てるのですか?」

 

 戦車に銃火器。

 何ともおもしそうな単語が出てきました。

 

 なるほど、近代兵装を装備した軍勢……そんな所なんですね。

 

 実際、その北方旅団も帝国単独なら一個軍を打ち破るくらいの戦力のようですが……。

 それはあくまで通常戦力を相手にした場合。

 中世レベルの騎兵相手に近代軍なら、10倍の兵力差があっても余裕で勝てます。


 けれど、わたくし達や魔王軍の兵にとっては、銃火器も戦車も勝てない相手ではない。

 

 ……そうなると、ほっとくと北方旅団は魔王軍の手の者によって殲滅されてしまう可能性が高いです。

 

 けれど、その展開はさすがに面白くありません。


 なにより、加奈子の持っていた拳銃。

 あれはルガーP08……二次大戦中のドイツ製の拳銃です。

 

 あんなものがこの世界にある事自体が驚きだったのですが。

 その出処が北方旅団だとすれば……辻褄が合います。


 加奈子の能力も……自在に武器を出したり消したりしていた様子から、兵器のコピー召喚とかそんな能力のように思えました。


 そうなると、北方旅団が殲滅されると加奈子も帝国も共に戦力が強大化して、手に負えなくなると言うことです。

 

 それだけは阻止しないといけません。


 やはり、ここはわたくし達が動いて、同盟を結ぶか……最悪、わたくし達の手で殲滅し兵器鹵獲し、こちらの力にする。


 グノーの技術力でどこまで近代火器のコピーが出来るか解りませんが。

 帝国や魔王軍に渡るよりはマシです。

 

 ……まったく、楽しくなってきましたね。

 

 それから……。


 クリスさん達ロザリオ隊とわたくし達、それに情報軍のお偉いさんで、北方旅団との交渉に当たるということで話をまとめていると、買い出し部隊が山のような材料を荷車に積んで戻ってきたので、待望のホットケーキパーティを開催いたしました。

 

 雑多な人種大集合みたいになったロザリオ隊の兵隊さん達にホットケーキを振る舞いながら、和気藹々(わきあいあい)と言った雰囲気。

 

 周囲に漂う甘く香ばしい香り。

 やっぱり、甘いものって最高ですわ……。

 

 さすがに100人分ともなると、焼くのも大変です。

 アオイ様も手伝ってくれましたし、クリスさん達も見よう見まねで手伝ってくれたおかげで、わたくしも楽が出来ています。

 

 何より、糧食班の方達が巨大鉄板みたいなのを持ち出してくれたので、次々焼けます。

 さすが、軍隊のお食事係……災害なんかの時もきっと大活躍するんでしょうね。

  

 家の近くの広場を勝手に占拠してそんな事をやっていると、街の人達が匂いに釣られてやってきて、物欲しそうにしていたので、せっかくなので振る舞っちゃいました。

 

 わたくしも、この混沌とした街は住み心地もよく大好きなんです……。

 

 それに、自分の作ったものを嬉しそうに食べる姿を見ると、幸せな気分になります。

 わたくしも見知らぬ人達の事なんかどうでもいいですけど、さすがに半年も住んでいると、顔見知り程度にはなります。

 

 アオイ様と良く外食していた近所の料理屋のご主人も騒ぎを聞きつけてやってきて、物凄く気に入ったらしいのでレシピや作り方も教えちゃいました。

 

 ついでに、焼き係も一人ゲット!

 

 この世界には甘味が足りてません……これをきっかけにスイーツがもっといっぱい溢れるならもっと素敵。

 せっかく、お砂糖が特産物なのですから……スイーツも名物にしちゃえばいいのに……。

 

 食材も結構得体のしれないものが多くて、どうしても保守的になりがちだから、ここは現地の人達に期待したいところですね!

 

 やがて、その場にいた全員に行き渡ったのを見て、わたくしも自分の分を焼き上げます。

 それも特大のやつを……町の人達からも材料の差し入れがあったので、まだまだたくさん焼けそうですが……さすがに疲れました。

 

 小さな子どもがお代わりを欲しそうにしていたので、一緒に焼いてあげたら……「お姉ちゃん、ありがとう!」……なんて、可愛らしいじゃありませんか。

 

「もっともっと、グチャグチャになぁれ……ふふっ。」


 わたくしは……ホットケーキを焼きながらそっと呟きます。

 

「お姉ちゃん……何言ってるの?」


 わくわくした顔で焼きあがるホットケーキを見つめていた子供が不思議そうに聞いてきます。


「うふふ……美味しくなるおまじないです。」

 

 わたくし、とっても上機嫌。

 

 ホットケーキの甘い香りも素敵ですけど。

 わたくし達のほんの一蹴りをきっかけに、際限なく混沌が広がっていく様……本当に楽しいんですもの……。


 敵は強大……けれど、帝国も揺らいでいるし、魔王軍もどうも腰が引けているようにしか思えません。

 なら、付け入る隙だってあります。

 

 だったら、もっともっと、かき回してあげましょう……このホットケーキミックスみたいに。

 そして、この素晴らしい世界をこんがり焼き上げて、最後に美味しく召し上がってしまいましょう。

 

「もっとグチャグチャになぁれ! お姉ちゃん、これであってる?」


 無邪気な子供の言葉に微笑みで返します。

 

 混沌とした世界……明日どうなるか解らないからこそ、今日が輝く。


 この素晴らしき世界に祝福を……。

2017/01/02


全面改訂しました。


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