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第二十三話「鋼鉄の騎士」②

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第二十三話「鋼鉄の騎士」②

---Kurogane Eye's---

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 ……ひとまず。

 わたし、しろがね、黒曜。

「魔王軍第二特務遊撃隊」……なんて、命名された即席パーティーが結成。


 その上、魔王様直々のお見送りとなった。


「やれやれ……どうせ止めても聞かんのじゃろう? 盛大に見送ってやるから、せいぜい貴様の好きなように暴れてこい。しかし……手ぶらでそのまま行かすのも何じゃからのう……。例の戦車とやら……話はわしも聞かせてもらったぞい。要はお前の魔力が足りないと言う事ではないか……なら、わしが手伝ってやるから、この場で錬成してみせろ」

 

 ……実は、先の帝国科学院で戦車を見せてもらった時。

 スクラップ戦車を元にコピー錬成が出来そうだと言うことが解った。

 

 実際、試してみて、かなり良いところまで行ったのだけど。

 最終工程でとんでもない量の魔力を消費する事が解り、断念……と言うか不発に終わったのだ。

 

 なにせ必要とされた魔力は、今の私の最大魔力保有量の3倍位……。


 初回の錬成って、二回目以降の10倍位の魔力を持っていかれる。

 わたしもはっきり言って、魔力の保有量は桁違いに高いらしいのだけど……。

 

 それでも全然足りない……もはや、限界突破どころの騒ぎじゃなく……事実上不可能……そう思ってたのだけど……。

 

「へ? この場で……それに魔王様が手伝ってくれるって……?」


 言い終わる前に、背中に魔王様の手が当てられる。

 すると、わたしの体内に内包されたコアストーンが活性化して、溢れんばかりの魔力が循環する。

 

 今のわたしの魔力は上限値を遥かに超えて、推定10倍まで跳ね上がっていた!


「なんですかーこれっ! 魔王様っ!」


 保持限界を超えた魔力がただ漏れ状態で、何と言うか……超なんとか人みたいになってるわたし。

 

「わしはお主の創造主じゃぞ? あくまで一時的ではあるが、魔力の限界突破程度は容易いもんじゃ。これで魔力の問題はクリアされたであろう? はようやらんと、魔力が溢れっぱなしじゃから、元の木阿弥じゃ……さっさとやってみせい」


 そう言って、魔王様が微笑む。

 スーパーモードになったわたしは返事代わりに頷くと、錬成魔術の術式構成、そして仕上げの詠唱を始める。

 

 あの時、戦車に触った時に流れ込んできた本来の姿のイメージ、内部構造を改めて思い出す。

 頭のなかに3DCADみたいにイメージが固まっていく……。

 

 物体錬成イメージ固定よし! 元素固定式……発動!

 

「黒き鉄よ……我が下僕として、我が心の命ずるままに、そのあるべく形を成して……現界せよ!」


 経験したことのない多大な魔力が消費され、10m近い巨大な錬成触媒と呼ばれる霧状の固まりが現れる。

 

 ここまで来たら、後は大丈夫……錬成触媒の具現化状態を維持。

 

 魔力を散らさないように慎重に……大丈夫、このレベルの巨大な魔力の制御は「黒の節制」になった時に経験してる。

 

 そして……それは、角ばった形を成し、徐々にその姿を成していく。

 

 霧が晴れて、現れたのは大戦末期のドイツ軍を支えた突撃砲と呼ばれる無砲塔の戦車だった。


『形式番号Sd.Kfz.138/2 38式軽駆逐戦車ヘッツァー』


 全長6.27m全幅2.65m全高2.10m 重量15.75t……名前の通り軽戦車の一種。

 

 戦車と言えばどれも武骨なデザインなのだけど、この戦車はコンパクトでどこか可愛らしいデザインで戦車マニアにも人気のある戦車のひとつだった。


 正面装甲は60mm程度、側面は20mm……防御力は大したものではないのだけど。

 主砲の75mm PaK39 L/48は1000m先から85mmの装甲を貫通できるほどの強力な物。


 至近距離なら、100mmを超える重装甲ですら紙のように撃ち抜ける!

 

 ティーガーやパンターのようなドイツ軍を代表する戦車と比べたら、強力とはいい難いのだけど。

 それでも、この世界ではオーパーツ級の超兵器と言っても過言じゃなかった。

 

 魔王様の助けを借りることで、ついにこんなものを錬成できてしまった!

 

 しかも、つい今しがたロールアウトしたばかりのような新品!

 

 色は……確か茶色っぽかったはずなんだけど、なんか真っ黒?

 

 しろがねのエトワールもそうだったけど、どうも私が錬成すると黒っぽくなるみたい。

 くろがねだから、黒だから? よくわかんなーいっ!

 

 それにしても、実際に錬成するまで確信はなかったのだけど。

 わたしの錬成魔術は……残がいからでもその在りし頃の姿を再現してコピー出来てしまった。

 

 ホント、どうなってるんだろね……これ。

 

「これは、なかなか頼もしい代物じゃのう……ゴーレムともちと違うな。くろがね、これはどういう代物なんじゃ?」


「うーん、中に乗って、操縦……要するに人が動かすんですけどね……戦車って、どう動かすんだろ?」


 魔王様に言われて初めて、自分が戦車の動かし方なんて知らない事に気づく。

 

 そりゃあ、そうだよね……確かにガンフロでも戦車とかあったけど、動かし方なんて知らんよ?

 当然、免許なんて持ってないし……助手席でドライブとか憧れだったけど。


 ……レースゲームならやった事あるけど、コントローラーなんてついて無いよね。

 

 とか思ってたら、なんか突然エンジンが掛かった!

 

 慌てて、車体上部のハッチを開けて中に乗り込むと、戦闘室内に変なコードみたいなのが大量に這い回ってて、そのコードの先は、ドライバーズシートに鎮座した黒い謎の球体だった。

 

 これ……帝国にあったスクラップの中でも見たんだけど。

 黒焦げでぶっ壊れてた上に、よく解らなかった奴だった……どうも、そんなものまで一緒にコピーしちゃったらしかった。


「ふむ、なんとも興味深いのう……くろがね、この玉っころとお主、魔力ラインで繋がっておるようじゃぞ。要は、お主の身体の一部みたいなもんじゃ……試しに命令でもしてみると良いのではないか?」

 

 興味津々と言った様子で戦闘室に入ってきた魔王様。

 

 この戦車……軽戦車に大口径砲を無理やり載せたもんで、中の狭さに定評あるんだけど、わたしも魔王様もちっこいのであんま問題ない。

 これに大の大人が三人も乗ると……中で御飯食べるのも一苦労だろうな……。

 

 とりあえず、言われたように命令っと……。

 

「前進」

 

 ……と呟くとガコガコとトランスミッションの稼働音がしてゆっくりと前に動き出す。


「えっと加速……?」

 

 と言うと、ぐわっとスピードアップ!

 と言っても整地されてない地面だから、この感じだと自転車並……時速20kmくらいかな?

 良く解かんないけど……。

 

「ボ、ボイスコマンド方式? なのかな!」

 

 そう言いながら、外が見えない上に結構スピードが出てるような感じがして……。

 そろそろ止まったほうが……と思った瞬間、急ブレーキ!

 

 どうも声に出す必要もないらしい……文字通り、思った通りに動くみたい……。

 

 目を閉じるとペリスコープ越しの周囲の様子が見える……。

 

 屋根の上に居たしろがねと黒曜の姿が見える。

 いきなり動き出したんで、二人共びっくりしてるようだった。

 

 スゴいな……これ、まるでヘッツァーがわたしの身体になったような感じ!

 

 戦闘室の上に設置されたリモコン式の機関銃も自由に動かせる……。

 

「あー、なんか解ってきたよ……わたし」

 

 何と言うか……「黒の節制」の秘密が垣間見えた気がした。

 

「黒の節制」って、銃火器類はおろか、戦車やら戦艦、ジェット戦闘機なんてものまで錬成できる……文字通り兵器の女王みたいな感じなんだけど。

 

 戦闘機はともかく戦車や戦艦なんて、一人じゃ絶対動かせない。


 このヘッツァーだって三人乗り。

 砲だって、装填手と砲手の最低二人……その上ドライバーも必要。

 

 砲弾の装填はどうするのだろうとか思ってたら、わたしの意志に応えるように、コードみたいなのがうねうねと戦闘室内に並んでいた砲弾に巻き付いて、器用に装填する。

 

 目をつむると、今度は砲手の照準器の視界がそのまま自分の目で見ているような感じになる。

 

 つまり、この謎ボールがわたしと戦車の中継ユニットとなる事で、ゲームのコントローラーで操縦するような感じで、一人でも動かせるという事だった!

 

 わたしが戦車で、戦車がわたしで……。

 

 とにかく、わたし! 大幅パワーアップ!!

 

 それに戦車の上に載ってる近接戦用火器……「MG42」って汎用機関銃なんだけど。

 

 これ単体でも運用可能で、たぶんわたしなら片手に持って、弾幕バラ撒くのだって出来る……この時点でこの世界だともう一騎当千。

 

 実際、そんな事やったら、大虐殺になっちゃうからやらないけどさ。

 

 それに案の定、車内の武器ケースに「MP40」サブマシンガンやドイツの傑作小銃「Kar98k」が並んでた。

 

 どれも新品! 予備弾薬も9mmパラベラムならいくらでも作れるし、7.92x57mmモーゼル弾もMG42と共通。

 案の定こっちもバラバラと錬成できちゃった。

 

 75mm砲の砲弾もちょっと魔力を使うみたいだけど、あっさりコピー成功。


 つまり、弾薬もほぼ無限……わたし、すげぇっ!

 

 これです! これを待ってました!

 

「Kar98K」なんて、コンパクトな割に命中精度が極めて高く狙撃銃としても使われたくらいの名銃!

 

 あのモシン・ナガンと並んで、二次大戦の傑作銃の一つに数えられる逸品!

 

 これだけの装備があれば、余程の相手でも相当優位に立てる!

 

 それにわたしの腕なら、足だけ撃って無力化とか余裕。


 まぁ、普通ライフル弾なんかで足撃たれたら、後遺症残ったりするけど……。


 姫様相手にぶっつけ本番人体実験やった感じだと、あんま問題なかったみたいだから、愛情込めてバキッと治してあげればパーフェクト!

 

 おまけに、この謎ボールも触った感じだと、これ単体のコピーも可能なようだった。

 

 んん? 戦車本体より、この謎ボールの方が重要なような気がするよ?

 たぶん、私の予想が正しければ、このボール使えば戦艦クラスですら、わたしの意のままに動かせると思う。

 

 と言うか……北の軍勢の戦車もこの謎ボールが操縦してるって事な訳で……。


 うわぁ……もはや、現代科学をも超越したオーバーテクノロジーをゲットしてしまったよっ!!

 

 と言うか「黒の節制」のわたし……兵器錬成のキモとなる技術もパクってたって事なのか……。

 そりゃあ、ダイン将軍が言ってたみたいに、パクられ元のなんとかチャリオッツと仲が悪い訳だよ。


 そのクセ、出会ったら問答無用で喧嘩売って、ボッコボコにする。

 

 ……我が事ながらひどい話だった。

 

「ふむ……要するに……この球体は、お主の思考や感覚と連動している訳じゃな。基本はお主と同じゴーレムの一種のようじゃのう。それに、どうも独自の意識のようなものも持っておるようでな……それ故自律行動も可能なようじゃな。つまり、お主が何もせんでも命令さえ与えておけば、こいつは勝手に戦える……そう言うモノのようじゃ。何処の誰が作ったのかは知らんが、なかなか大したもんじゃのう……。」

 

「へぇ……そうなると、お話とかも出来たりしないですかね?」


「ふむ……それも面白そうじゃな。恐らく、この意識体のベースは桜達と同じく人造魂魄と同じようなものだと思うのじゃ。そう言う事なら……こいつを現界固定してやろう。」

 

 そう言って、魔王様が玉っころに触ると、ボワッとした光に包まれる。

 よく見るとこの玉っころスリットみたいなのがあって、赤い光がくるくる回ってる。

 やがて、赤い点がこっちを向くように二つならんで止まって、ピコピコと点滅する。

 

 な、なんか……顔みたい! ちょっと可愛いかも知んない。


 錬成物って、本来時間が経つと消えちゃうんだけど……。

 魔王様によると、これで戦車本体が消えても、この玉っころだけは現界したままで、いつまでも残るようになったらしい。


 おまけに、人工魂魄というものは、周囲の環境や情報を常に集め続け進化するものなのだそうで……。

 そのうち言葉を話したり、意思の疎通も出来るようになるらしかった。

 

「ってことは……このコ……わたしの終生専属ドライバーみたいなもんなんじゃ……」


「そうじゃのう……お前にとっては、忠実な下僕……いや、仲間と言っても良いかもしれんな」


「そっか、そっか……仲間かー。んじゃ、名前付けないと……よし、ハチゴロウmkⅡ(マークツー)にしよう!」


 謎ボールあらため、ハチゴロウmkⅡ君にそう話しかけると、赤い光がパチパチと点滅する。

 

 あ、なんか……通じてるっぽい!

 

 ちなみに名前の由来は、病院の中庭にいたニャンコその2。

 オデコに八の字模様のあるミケ猫ちゃんのあだ名。

 そのままだとなんだから、「mkⅡ」を付けた……なんだかカッコイイ。


 こうして、わたしに新しい仲間が誕生した!

 

 

『くろがねパーティに、ハチゴロウmkⅡが仲間に加わりました!』


 「ハチゴロウmkⅡ」

 職業:万能ドライバー

 

 軽駆逐戦車「ヘッツァー」が錬成可能になりました!

 短機関銃「MP40」が錬成可能になりました!

 騎兵銃「Kar98kカラビナーキュウハチクルツ」が錬成可能になりました!

 汎用機関銃「MG42」が錬成可能になりました!

 弾薬「7.92x57mmモーゼル弾」が錬成可能になりました!

 

 てれーっててー♪

ついに、くろがねちゃん。

ヘッツァーをゲットだぜ!!(笑)

このまま兵器錬成の女王の道を突き進むのだ!


そして、次回タイトルは…。


第二十四話「カヤ様のホットケーキパーティ」①


カヤ様回です…お楽しみに?

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