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第二十三話「鋼鉄の騎士」①

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第二十三話「鋼鉄の騎士」①

---Kurogane Eye's---

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 遠い昔の夢を見た。

 

 あのVR世界で戦ってた頃の夢。

 

「……次はリアルで会う……か。うん、僕も楽しみだよ……じゃあ、また明日。」


 そう言って、笑いかけてくれたあのコ。


 彼とわたしが最後に交わした言葉がそれだった。

 けれども、何気ない日常は、その言葉を最後に永遠に手の届かないものになってしまった。


 あの日……なけなしの勇気を出して、初めて会う約束をして……いつも通り、また明日って返して……。


 わたしはその約束を守れなかった。

 

 わたしが向こうに残してきた想い……もう取り返しも付かないのだけど。

 時と世界を渡る術があるのであれば、全てを引き換えにしても……。


 戻りたい……あの日、あの頃、あの時に。




 ……眩しい太陽の光に目を覚ますと……そこは見慣れた魔王城のわたしの部屋だった。

 

「くろがね……起きた? 大丈夫?」


 そんな事を言いながら、顔を寄せてきたのは、なんだか久しぶりに会う黒曜だった。

 しろがねは……と思いながら見渡すと、部屋の隅っこでエトワールを抱きかかえながら、座り込んでぐっすりとお休み中。

 

 黒曜あたりが掛けてくれたのか、肩から毛布が無造作にかけてあった……。

 

「黒曜? ……って言うかわたし、なんで魔王城に?」


 何が起きたのか……思い起こしてみる。

 

「ああ……西方の兵士が目の前で自爆して……血まみれになって気が遠くなっちゃったんだっけ……」


 ……あの人は「――追わせるわけにはいかないから、一緒に死んでくれ」……そう言っていた。

 

 あの弱そうなお姉さんとアオイさん達を逃がすための決死の自爆攻撃。


 自らの命と引き換えにしてでも、わたしを殺そうとしたあの気迫。

 降り掛かった返り血の奇妙な温かさ……。

 

 あれが本物の殺意……本物の戦場で人が死ぬ瞬間。

 

 わたしが手を下さなくとも、人は死ぬ……。


 わたしと言う存在は……もはや、戦場に立つだけで人の生死を左右する……そういう場所に立っているのだと自覚する。


 あの瞬間、何か仕掛けてくる事は解ったのだけど……。

 わたしが出来たのは、自分の身を守ること……身体保護を強化した程度だった……。


 マジック・キャンセラーで自爆魔法を強制停止させる事だって出来たはずなのに、何も出来なかった。

 為す術無く自分のせいで、目の前で人が死ぬ……あの瞬間を思い起こすと、気が遠くなりそうになる……。


「くろがね……無理……しない」


 黒曜に支えられて、意識が現実に引き戻される。

 何と言うか……わたしって、豆腐メンタルって奴だったのね……。


 なんかもう、自信なくしちゃうわ……。

 

「ごめん……黒曜、ありがと……けど、なんでここにいるの?」


「玻璃……くろがね……狙われてる……そう言って……私、戻った。くろがね……無事で……嬉しい」


 ぼそぼそ、途切れ途切れな感じの黒曜語……まぁ、言いたいことは大体解る。

 良く解かんないけど……玻璃ちゃんがわたしのガード役って事で回してくれたってとこなのかな。

 向こうも大変だろうに……何と言うか持つべきものは友達ってところか。

 

 確かに……カーヤさんは、わたしを恨んでて殺すとか言ってたし、あの手の搦め手タイプは黒曜とかの方が与し易いかもしれない……。


 わたしは……なんだかんだで真正面から戦うタイプなのかも……考えてみれば、ガンフロでもアイツにも振り回されっぱなしだった気がする。

  

 それにあいつ……気配消しの達人なんだよね……。

 そこにいるのに、いる気配が全然感じられない……まるで幽霊みたいな奴。


 おまけに、普通の人ならここで躊躇ったり止まるだろうって事も平気でやる。

 詳しくは知らないけど、リアルであの子のストーカーみたいな感じで、夜這いまで仕掛けてきたって……なにそれ?

 やってた事もメチャクチャだったし……人の話なんて全然聞かないし……。


 自制とか節制って言葉に、アレほど縁がない奴も珍しい……もう小一時間くらい説教してやりたいくらい。 


 けどなんで、あんな極めつけに面倒くさいヤンデレ女が、この世界にいるの? 訳解かんない!

 しかも、なんなのよ……あのチート武器! 文字通り、キチに刃物ってやつじゃん!

 

 それにしても黒曜達は、別の任務って聞いてたんだけど……そっちはどうしたんだろ?

 

「ごめん……黒曜、思わず寝てた! って、くろがねっ! 大丈夫? 丸々二日くらい寝てたから、もう心配で……!」


 色々考え事にふけっていたら、しろがねが飛び起きて、隣までやってくる。

 そんなに寝てたのか……もうダメダメじゃん……わたし。

 

「しろがねっ! 心配かけてゴメン! わ、わたしなら大丈夫だから……他の皆は?」


「他の皆は、帝都の復旧と怪我人の救護とかで、ほとんど出払ってる。主要メンバーだと、この三人と黄金姉様と翠玉さんくらいしか残ってないんだ……。けど、魔王様も金剛さんとかもいるから、まず問題ないだろうけどね」

 

 しろがねの言葉を聞いて、恐らく劇的に変わってしまったであろう情勢を思って、暗い気持ちになる。

 

 ……しろがねと黒曜から今の状況を詳しく聞くと……情勢は案の定、かなり悪化していた。

 

 魔王領に駐留していた帝国軍一万は、バーツ領内へ侵入した西方のダルワール公国軍二万と交戦中。

 今のところ、互角のようなのだが……更に西方の増援部隊が迫りつつあると言う。

 

 東方側もパーラミラ軍と帝国の合同部隊が増援として来援中なのだが……帝国側の帝都襲撃に伴う混乱もあり、増援は間に合いそうもない様子だった。

 

 おまけに、例の北の軍勢も戦力集結の兆候があるとの事で、帝国軍は二正面作戦を余儀なくされている状態。

 

 頼みの綱の銃火器開発も……帝都の科学院も爆撃の被害を受けており、見通しが立たない状態になっていると言う。

 銃火器の配備状況も一個中隊ほどの規模でマスケット銃を試験運用中の銃士隊が編成されているだけ。

 おまけに、まだまだ全然訓練中の段階で戦力にはなりそうもなかった。

 

 そして、玻璃ちゃんも今頃、バーツ王国で決戦の最中だと言う……。

 

 悪夢のようなあの帝都の戦い……。


 本来ならば虚仮威し程度の戦力だったのに……たった二人の超級戦力の持ち主の存在が壊滅的な被害をもたらした。

 

 その結果、たった一夜で何もかもがひっくり返ってしまった。


 わたしは……あの場にいたのに、結局しろがねの邪魔をしてしまっただけで、何もできなかった。

 たぶん、あの様子だとしろがねだけでカヤさんに勝ってたと思う。


 アイツ相手にして無傷で打ち破るなんて、しろがねも凄いんだけど……。

  

 なんにせよ、少なくともこんな所で惰眠を貪っている場合じゃないのは明らかだった。

 

「くろがね……とりあえず、今はここで大人しくしてろって、ワイズマン様からの伝言。私達はあの場で出来る限りのことをしたと思う……結果的に、帝都を守りきることは出来なかったけど……。あんな風に空から敵が降ってくるなんて……私だって、あんな戦法聞いたこともない。むしろ、あの程度で済んだだけマシだったんじゃないかな……。あの二人の好きさせていたら、姫様も殺されてたかもしれないし、もっと酷いことになってた。それから、「よくがんばった……お疲れ様」……だってさ。そんな訳で……くろがねが責任感じたりする必要なんてない……解るっしょ?」

 

 ……わたしの思考を読んだようなしろがねの一言。

 そのまま笑顔で抱きつかれてしまうとわたしとしては、何も言えない。

 

 しばし、静かな優しい時間が流れていく。

 

「うん……解るよ……解るんだけどね。」


 しろがねを抱き返しながら、わたしは呟く。

 

「だって……せっかく、わたしはこの世界で生まれ変わって……。姫様と戦って、戦い抜いて……わたし達の居場所を確保したんだよ?」


「そうだね……私もこんな風に日の当たる場所で暮らせる日が来るなんて、思ってなかったよ。だからこそ……私はこの場所を守るために戦う……。もちろん、それにはくろがねも、魔王軍の皆も含まれてる……私は今も昔もずっとそうして来たんだ」

 

 しろがねはブレないなぁ……あのカヤさん相手に一歩も引かず、逆に追い詰めちゃったみたいだし。

 やっぱ頼もしい……まじで惚れちゃうよ? わたし。


 けど敵……西方やアオイさんやカーヤさんにも、それなりの事情があるのは解る。

 西方の立場だと……もうなりふり構わず、ああする必要があったのだろう。

 

 アオイさん達も……彼女達は、立場上西方の陣営に属してたってだけ。

 彼女達にも戦う理由があって、あの戦いに参戦したってだけの話。

 帝国や帝都の人達に恨みとかあった訳じゃないと思う。


 戦争ってのはそんなものだから。

 

 けどなんで、わたしがあんな風に言われなきゃいけないのか……全然解かんないんだけどさ!

 

 だからって、このまま戦乱が広がり……死ななくても良いような人達がバタバタと死んでいく。

 それを見過ごすなんて、やっぱ嫌なんだよね。

 

 争いを、戦いを駆逐する。

 ……それがわたし「黒の節制」の役目……そう決めたのだから。

 

「くろがね……言いたいことがあるなら、聞くよ? 私は何があってもくろがねの味方だから。」


 しろがねの言葉になんだか、勇気づけられる。

 あのカーヤさんの恨みに満ちた言葉に……向こうの世界の未練を思い出してしまって……。

 

 色々想像して……わたしなんて、初めから居なければよかったのかも……なんて風に思い始めてもいたんだけど。


 けど、あれはどうしょうもなかった!

 と言うか……わたしだって、もっと長生きしたかったに決まってるでしょっ!

 

 それなのになんで、逆恨みされなきゃいけないのさ? 肝心な事だって全然聞けてない!


 ……どのみち、あの二人とはもう一度会って、話を付けなきゃならない。

 なんなら、徹底的に拳で語り合うでもいいさ! 肉体言語とか乙女のする事じゃないけどさ!

 

 だから、わたしは……この世界でやれるだけの事をするだけだった。

 

「うん……しろがね……わたしはまだ出来る限りの事すらやれてない……」


 そう言って、ベッドから立ち上がる。

 

 問題は山積み……だからって、手をこまねいてちゃ何の解決にもならない。

 

「やれやれ……やっぱり、そうなるんだ。そうなると、どこから手をつける気なのかな? それに助っ人がいるでしょ」

 

「わ、私……手伝うっ! くろがね……離ればなれ……寂しい」


 しろがねはともかく、黒曜はどうしちゃったんだろ?

 なんか知らないけど、スゴく必死な感じで、腕に縋り付いてくる。

 

 確かに、それなりに仲良しだったけど。

 なんで、そんな行かないであなた……みたいな感じになっちゃったの?


 よく解かんないですけど……黒耀ちゃん?

 

「わ、解った……じゃあ、黒曜もよろしくって事で! んじゃ、二人共悪いけど……あちこち、引きずり回すかもしれないけど……覚悟しといてねっ!」


 そう言って、わたしは二人に笑いかけた。

サブタイトルは、古のSLG「鋼鉄の騎士」から取りました。

次回、びっくりどっきりメカ登場っ!


そういや…この世界って名前ないんだよな…大陸の名前も形がO型ってだけだし…。

FireAlpaca使えるようになったから、世界地図の一つでも描こうかな…。

(むしろ、そういう事を先にやれっ!(笑))


ちなみに、黒曜はくろがねラブ勢のひとりです。(笑)

キャラのイメージ的には花騎士の「ワレモコウ」を黒くしたような感じです。

あ、こいつもSD絵作れるな。


第一部以来あまり出番なかったんですが、今後は彼女も仲間です。

ポジション的にはしろがねの対抗馬ってとこです。(笑)


それにしても、あれだけあったストックがなんかすっかり心許ないよ?

お絵描きばっかやってたせいなんだけど、これじゃ本末転倒。


今日は、続き書いてお絵描きは気分転換…かな。

ノルマ、一日1万テキスト!(笑)

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