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第二十二話「たたかいの後に」②

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第二十二話「たたかいの後に」②

---3rd Eye's---

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「鋼さん、ごめんなさいね……もう完全に私達の不手際……言い訳も出来ない。こっちも正直、くろがねちゃん達のおかげで命拾いしたようなものだから、何も言い返せないわ……」

 

「それについては、気にせずとも良いと言ったろ? それにしても……東方各国の首都で、朝早く一斉に「帝国首都炎上、帝国一の将ダイン将軍も第三皇女エーリカ姫も奮戦虚しく戦死! 魔王軍も敗退!」……なんて書かれたビラがばら撒かれたってのは本当の話なのか? パーラミラの蒼玉から、そんな報告があったんだが……。まだ、被害の全容すら明らかになっていないのに、敵も随分手際が良いな」


 現時刻は、あの空襲から一夜明け、まもなく夕刻になるところだった。

 空襲直後の混乱で、被害計上もままならなかったのだが……。

 

 ようやっと概要ながら取りまとめが出来たと言うことで、ワイズマン達魔王軍関係者も呼ばれた上で、東方最高軍事会議が開かれ、その場で公表された被害の凄まじさに誰もが言葉を失っていた。


「こと情報戦に関しては、完全に向こうが一枚上手なのよね……。向こうの諜報網については、こっちは全く把握できてない……特にグノー連邦の情報軍は、陸海に続く第三の軍なんて言われるほどの規模でね……そいつらが今回の襲撃の主力だったみたい。うちの諜報局なんて、連中に比べたら子供騙しよ……防諜体制を強化すべきとは、前々から言われてたんだけどね……」

 

「確かに……前回の陸軍の奴らと比べると、本当に同じ陣営の軍なのかと疑わしくなるくらいだ。戦力の集中運用と言いキモを抑えた情報戦略と言い……こちらの予想を軽く超えてきやがった。全滅前提の作戦なんて、邪道以外の何物でもない……もはや狂気の沙汰だ……」

 

 ワイズマンが憎々しげに吐き捨てるようにそう呟く。

 

「向こうの情報軍って、陸軍とは仲が悪くてね……これまで裏方に徹してて、あまり表に出てこなかったの。けど、人海戦術での力押ししか能がない陸軍とは訳が違う……今回の件で、情報軍の発言力が上がるのは確実。ビラの件も夜明けを待たずに盛大にばら撒かれた上に、実行犯は子供とか浮浪者とからしくて……全然駄目。空襲成功を確信してたか……成否関係なく、ビラまき作戦だけでも実行する手筈だったか……そんなとこね。……って言うか、ダインと私が戦死……とか、人を勝手に殺すじゃねぇって感じ! ふっざけんなっ!」

 

 そう言って、エーリカは壁をドカドカと蹴飛ばす。

 壁にヒビが入り、天井から埃やら何やらがパラパラと降ってくると、幕僚たちが心配そうに天井を見上げる。

 

 それを見て、ワイズマンも苦笑する……確かに、こいつは殺したって死にやしない。

 これだけ元気なら、下手な慰めの言葉など無用だった。

 

「おまけに、同盟国の大使や駐在武官にも犠牲者出しちゃったから、同盟国からの問い合わせや抗議が殺到中。これから、同盟国の取りまとめが大変よ……まずは、私の死亡説を誤報だって伝えるところからよ! けど、代理人とか使うと影武者とか言われるから、私直々に出向かないといけなくて……超めんどいっ! 朝からもう5人位の要人と面会したのよ! やってらんねーっ! 姉上も兄上も政には関わろうとしないから、ぜーんぶ私がやってんのよ! こうなったら、あいつらにも仕事させてやるっ!」


 死亡説ひとつで、エーリカを事実上拘束する……。

 宣伝戦と言うやつも、なかなかどうして馬鹿に出来ない効果があるのだな……とワイズマンは妙な事で感心する。


「どうどう、エーリカ……落ち着け……君がそんな調子では配下が動揺する。こう言うときは冷静に成すべき事に優先順位を付けて、一つ一つ対処していくのが肝要だ」


「はぁ……ワイズマン、あんたの冷静さが羨ましいわ……。それにしても、魔王軍に戦死者とか出なかったのが唯一の救いね。けど……くろがねちゃんにはホント、申し訳ないことしちゃった……。近いうちに私が直接魔王城まで出向いて、正式に魔王様に頭を下げるから、それで勘弁して……。けど、今日明日とかは無理……今ここで、北の軍勢が動いたら、本格的にヤバイ。ダインの奴、しばらく使えそうもないから、もう私しか対応できないのよ……」


 皇帝陛下や皇太子と言った帝国の重要人物達は無事なのだが……この国の皇族は君臨すれど統治せずを地で行っているので、アテにはならなさそうだった。

 会った印象も温厚そうな文化人と言った雰囲気ばかりで、このような状況ではあまり役には立ちそうもなかったが……。

 皇帝と皇族が帝都を巡回して無事な姿を見せただけで、帝都の民衆の気分が大いに盛り上がったようだった。


 事実上、軍部を実質取りまとめていたのは、エーリカとダイン将軍。

 他にも将軍格はぞろぞろといるのだが……ワイズマンの見立てだと、凡庸な者ばかりだった。


 兵も士官も一級品なのに、肝心な将が凡庸と言うのも良く解らないが、そんな状況だったからこそ、武力に於いて比肩する者がいないエーリカ達が台頭する事になったのかも知れなかった。


「ふむ……状況は解った……こちらからも救援部隊を出しているからな。……いざとなれば、そいつらにも戦の手助けくらいさせるから、その辺は頼ってもらっても構わん。ところで、バーツ王国の件はどうなっている? 我々としてはそっちが本命なのだが……影響はどの程度出そうなんだ?」


「バーツ王国攻略戦は……市民軍が王都を完全包囲するところまで行ってて、王都の市民や軍の残党を抱き込んで、内乱を起こす直前だったんだけどね……。バーツの隣国の西方ダルワール公国が挙兵したらしく、今朝の時点で援軍が出撃したって……。魔王領駐留軍からの報告があったわ……どうも、今回の空襲に合わせて同時進行してたみたい。駐留軍に迎撃を命じたから……次の戦いはあっちになりそう。増援を送りたいところなんだけど、何より北の軍勢にも備えないといけないし……。敵が空挺戦術を実用化したとなると、各地の要所の守りを固めないと。……こりゃもう予備役も総動員で、総力戦体制に移行しないとどうしょうもないわ……はっきり言って、頭痛いどころじゃないわね……」

 

 そう言って、エーリカは頭を抱えるとため息を吐く。

 北方の軍勢だけでも厳しい状況で、西方が息を吹き返し全面戦争を仕掛けてきたとなると、必然的に二正面作戦を強いられる事となる。

 

 如何に帝国が強大だと言え、帝都の空襲による混乱もあり、極めて厳しい状況となるのは目に見えていた……。

 

 それにしても……たった二人の敵の存在が、東方優位の情勢をあっさりひっくり返してしまった……つくづく、あの勇者という存在が恨めしかった……。

 

 前回の回廊の戦いでの西方の討伐軍は……補給の軽視やなし崩し的な戦力の逐一投入と言った愚策を連発、こちらが一方的に情報戦で優位に立てる程度には脇が甘いと言う印象だったのだが……。

 

 今回は、帝国の急所を的確に突いてきた上に、情報戦では完封負けと言う有様。

 勇者という超級戦力の活用としては、この上なく効果的だった。

 

 まるで、敵の上層部がごっそり入れ替わってしまったような印象だったが……グノー連邦の情報軍が西方の主導権を握ることで、もはや別物となった……そう認識してよかった。

 

「バーツ王国の件は……我々も他人事じゃないからな。玻璃達に、王都攻略を強行させるしかないな……しかし、帝国は今後どう動くつもりなんだ? 帝国の義勇軍が付いてると言っても数千騎程度……それにバーツの市民軍なんて、いくら数を集めようが正規軍の増援なんて来たら、為す術ないだろう。魔王領に駐留してる軍勢と言っても、確か一万程度だったはず……それでどうにかなる相手なのか? それに、西方との条約はどうなったんだ? 双方不干渉って話じゃなかったのか?」

 

「そうね……通常軍同士の戦いなら、うちの軍の練度と装備の方が上だから二倍くらいまでなら、支えられる。ダルワールの戦力は、二万程度らしいから守りに徹するなら、勝負にはなるわ。西方の駐在武官は昨日付けで各種条約の破棄、宣戦布告の文書を送りつけて昼前には皇都から退去してみたいなのよね。だから、外交的には文句の言いようがない。そもそも、外交の窓口だった駐在武官達が引き上げたって事は話し合いの余地はないと宣言されたようなもの……。おまけに、こっちの文官の不手際があったらしく、上層部にまでその情報が届いてなかったのよ……。はっきり言って大失態なんだけどね。責任でも感じたのか責任者が行方不明になっちゃったから、真相はもう闇の中……」

 

 その責任者とやら……今頃、西方で報奨金片手に豪遊してるんじゃないのか?

 ……と、諜報畑の人間と似たようなマインドを持つワイズマンは思うのだが……とりあえず、黙っておく。

 

 昨日の段階で宣戦布告などの文書は届けられるはずだったのだろうが……作為的に上層部へその情報が届かないように工作し、奇襲を完璧なものとした。

 おそらく、そんな所なのだろうが……呆れるような手際だった。

 

 どのみち、宣戦布告やら条約なんて紳士協定に過ぎない……外交なんて、こんなもの。

 追い詰められた西方が窮鼠猫を噛んだ……これはそう言う状況だった。

 その鼠が猫を食い殺すくらいの大物だった……それが問題だった。


 魔王軍の戦士たちに対抗できる戦力が西方には存在しない。

 それが東方と魔王軍にとっては、圧倒的なアドバンテージだったのだが。

 

 くろがねとしろがね、おまけにエーリカまでいて、まんまと取り逃がし、あのダイン将軍までも敗れ去った。

 

 唯一、しろがねは……カヤと互角以上に戦い……いい線まで追い詰めたようのだが……。

 三敗一分けの戦果ではもう完敗だった。

 

 くろがねに至っては、何か複雑な事情があるようで、完全に向こうの勇者達にマークされてしまった。

 今後は、うかつにくろがねを動かすと、彼女の行く先々で勇者たちの襲撃の可能性が出てくる。

 

 それはそれで……厄介な勇者達を引き寄せてくれるから、むしろやりやすいとも言えるのだが。

 あれに対抗可能な武力の持ち主となると、魔王軍でも限られてくる。

 

 特に、カヤと名乗った敵が恐ろしく厄介な相手だった。

 くろがねですら、容易く無力化されたあの糸……力押しや技術でどうにか出来るものではなかった。

 武器の格としては、恐らく「禁鞭」や「黒の節制」に匹敵する神代の武具とかそう言う類だろう。


 どちらかと言うと、玻璃や黒曜のようなタイプの方が相性良さそうなのだが……。

 今度は、あの勇者……アオイが問題になって来る……ダインの同類となると、もはや対抗できるとすれば、魔王軍でも鋼や黄金、金剛クラスが複数でかからないと太刀打ちできない。


 しろがねは……カヤとも互角だったが……勇者とは交戦していないのでなんとも言えない上に、くろがねの側を離れたがらないので、二人はセットで使うしかなかった。

 

 何より、あの様子では、魔王城に直接殴り込みを掛けてくる可能性もある。

 ……次に何処に現れるか、予想も付かない強豪……それまで西方にとっては自分達がそう言う存在だったのだが。


 いざ敵に回すと、恐ろしく厄介……ワイズマンとしても、頭の痛い話だった。

 

(さて……どうしたものかな。我々としても、相当上手く立ち回らないと……帝国と運命を共にすると言うのも考えものだ。まずは……バーツ戦……玻璃達が上手くやってくれる事を祈るしか無いか……まったく……難しい状況になったものだな……)



はい、政治フェイズですね。


姫様、実は結構苦労人です…たまに荒ぶりますが、配下の人も慣れたもんです。

雪野五月さんの荒ぶりボイスが聞こえてくるようなら、正解です。(笑)


この小説…基本的に政治フェイズ、日常フェイズ、戦闘フェイズ。

みたいな調子に分かれてます。

ストーリー的には割りとシンプルで、色んなキャラクターがそれぞれの思惑で動いて激突する…そんなコンセプトなので、あらすじたてすると恐ろしくシンプルです。

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