表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/94

第三話「訪問者」①

 --------------------------------------------------

 第三話「訪問者」①

 ---3rd Eye's---

 --------------------------------------------------

 

 無限に続くかのような闇の世界。

 一瞬とも無限とも思えるような時間の流れ……この空間で正気を保てる者はそういないだろう。

 

 ここは、次元の狭間と呼ばれる空間。

 

 いつでもどこでもない……無でありながら、すべてを内包している世の理の通用しない世界。

 

 そんな中、彼はただひたすらに目的の場所を探し求めて、彷徨っていた。

 どこまでも深く、どこまでも長く……果てしない旅路を行く。

 

 どれくらいの間、彼は旅を続けていたのだろうか。

 そんな果てのない次元の狭間の旅も、やがて終わりを告げる時が来たようだった。

 

 闇の中で巨大な泡に包まれ、こつ然と浮かぶ巨大な城が闇夜の中の灯台のように浮かび上がる。

 

 ……そこが彼の目的地だった。

 

 空間をただよっていた光の霞のようなものがうっすらと人型に集まるとその城の正面へすぅっと入り込んでいった。

 

 そして……。

 実際の時間としてはほんの数日……体感的には100年以上にも及んだ長きに渡る旅を終え、目を開けた彼が見たものは……。

 

 くろがねの言葉を借りるならば、女子小中学生のコスプレ集会だった……。

 

 色とりどりのカラフルな髪の色、メイド服っぽいそれぞれ違う意匠の可愛らしい服の女の子達。

 

 皆、突然の来訪者に驚きを隠せない様子。

 彼が思わず天井を見上げると、記憶にあるステンドグラス……かつて訪問した魔王城で間違いない。

 ……つまり、無事に目的地に辿り着いたことは確実だった。

 

 以前に彼がこの城に来た時は、正面の壁にこの城の主たる千年魔王様の肖像画がデカデカと飾られていて、照明も薄暗くフルプレートの衛兵がずらりと並び、禍々しいオブジェクトが林立する……そんな感じだったのだが……。

 

 ここはまるで立食パーティーの会場か何かみたいな感じで、壁紙や装飾も明るい色の綺羅びやかなもので、いくつもの光の塊がふわふわと浮かび、眩しいほどの輝きで辺りを明るく照らしていた。

 

 もちろん、肖像画も甲冑もおどろおどろしい謎のオブジェクトも無い。


 代わりに、綺麗な花の飾られた花瓶やら観葉植物……そして、美味しそうな料理やお菓子、飲物が乗ったテーブルやワゴンがあちこちに設置されていて……。

 そして、可愛らしいメイド服を着たどうみても小中学生のような小さな女の子たちがざっとつかみで30人ほど。

 

 一瞬理解が追いつかず、おまけに長い長い時空の旅を終えた直後の酩酊感に、思わず立ちくらみを覚えて膝をつく。

 すると、周囲を囲む小さいのの一人が彼の元に駆け寄ると、手を貸してくれるつもりなのかおずおずと小さな手を差し伸べる。

 

 その顔を見る……日本人形を彷彿させる切りそろえた前髪の長い黒髪の少女。

 先端部を赤いリボンでまとめた髪がふわりと揺れる……なにより、目を引いたのはその瞳……はっきりとした強い意志を感じさせた。

 

「大丈夫?」と言いたげにじっと見詰めるので、思わず「やぁ、ありがとう」……と返すが、言ってしまってから失敗したと気づく。


 ……魔王様達の使う言語は普通に話せるはずなのに、その日本人風の雰囲気と、体感上100年もの孤独を過ごしていたのも相まって、とっさに地の日本語が出てしまった。

 

 しかし、そんな彼の言葉に一瞬彼女はひどく驚いたような顔をする。

 意外な反応だった……知らない言葉を聞いたというより、知ってる言葉を思わぬところで聞いて驚いた……そんな感じだった。

 

 この娘に興味が湧いて、話しかけようとしたところで、彼女の背後からものすごい勢いで白い小さいのが走ってくると、彼女を守るようにズザーッと半ば強引に間に割り込む。

 

 そして引き離すように彼女を押しのけながら、後ろに下がると、すかさず他の娘がささっと動いて、守りを固めてしまう。

 彼女達のその一連の動きは要人警護のSP顔負けのもので……その練度の高さが垣間見えた。

 

 代わりに前に出てくるのは、この中でも一際目立つ大柄の少女。

 と言っても比較的大きいと言うだけで160cmと言った所……けれど、他がちっちゃいのばかりなので、色々大きいのが否が応でも目につく。

 

 見た目は、先ほどのちっこい日本人形風の娘が成長したらこんな感じと言った雰囲気。

 白と黒の巫女さんのような服装で薙刀とか似合いそうな切れ長の瞳の美人さんだった。

 

 ただ、その目つきは冷たく据わっていて……何か物凄く怒っているのがひと目で分かる。

 

(マズイ……警戒されたか……下手打ったな……こりゃ)

 

 とにかく……ここはひとつ挨拶をせねばなるまい。

 用意していたカンペをちら見して、彼はこの時のために準備していた挨拶を述べる。

 

「初めまして……可愛らしいお嬢様がた。私は使徒ワイズマン……老練なる賢者の称号を持つもの……。この城の主……千年魔王様に謁見させていただきたく、外界より次元の壁を超えて馳せ参じ奉りました。私と魔王様はかつての戦友……共に戦場を駆けた仲故、魔王様へ私の名前をお伝えいただければ話は早いと思います。よろしければ、魔王様へお取次ぎをお願いしたく存じ上げます」

 

 両手を広げて、そう言って軽く微笑んで跪く……洗練された優雅な動作だった。

 

 敵意と害意がないこと。

 それを伝えるにはまぁ悪くない挨拶だった。

 

 ワイズマンが顔を上げると……あたりは水を打ったように静まり返っている。

 

 少々予想外の反応……言葉が通じていないか何かヘマったのだろうかと考える。

 

 けれども、この男……ワイズマンは自分がさらりとNGワードを口走った事に気づいてないかった。

 次元の壁を超える……これは、彼女達にとっては何人たりとも絶対に超えられない防衛ラインを超えたと言う意味で、ありえない……いや、あってはならない事だったのだ。

 

 本来、この城は外界へ浮上しない限り、絶対の安全地帯で外部からの侵入者などありえないはずなのだ。

 それをあっさり実現するような人物……この時点ですでに要警戒、脅威レベルは魔王様に比肩しうる超級と認定……。

 

 おまけに、面識があると言いながら、目の前にいる魔王様に気付いている様子もない。

 胡散臭い……極めつけレベルの怪しい人物だった。

 

 黒のインパネスと言う牧師のような姿で、武器などは一切所持していないようで、見た目も二十代後半と言った感じの黒髪メガネの優男と言った調子。

 

 一応、非武装で危害を加える様子もない上に、礼儀正しく、魔王様と面識があるとも言っている。

 現れた時の様子からも、どこか人気のない場所から忍び込もうと思えば出来たと思うのだが、わざわざ正面玄関から来訪。

 礼節というものか解っており、むしろ、客人として扱うのが妥当……そう誰もが思うのだけど。

 

 いかんせん、魔王様本人が動かないのだ。

 余裕たっぷりの態度は崩さないものの、何を考えているのか、客人に向かって、何ら言葉ひとつかける様子もなく興味深げに眺めているだけだった。

 

 魔王様……実際はこの状況を楽しんでいらっしゃるだけだった。

 

 けれども、皆にとっては、こんな怪人物の来訪なんて、想定外も想定外……一体どうしろっての? と言った状態。

 おまけに強いのか弱いのかすらわからない上に、魔王様の動きが読めず、どうするべきかもわからない。

 

 この時点での魔王軍のちびっ子メイド軍団の緊張はまさに頂点に達しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ