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第二十一話「紅蓮の騎士」②

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第二十一話「紅蓮の騎士」②

---3rd Eye's---

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「じょ……冗談でしょ……あんた……ダインは……あの人はどうなったの!」


 にわかに信じられないような現実を突きつけられて、エーリカも狼狽を隠せなかった。


「ああ……タイプゼロの事? あいつ、しぶといのなんの……いくら殴っても全然壊れないから、地面を溶岩の海にして、放り込んできたよ……あの分じゃ、どうせ死にゃしないから、あとで地面から掘り返してあげれば? けど、こっちも納得の行く勝ち方じゃなかったからさ……あいつ……真剣勝負の最中に手加減なんかしやがって……。そんな訳で、敢えてトドメは刺さなかった……決着は次の機会って事でよろしく伝えといて……!」

 

 そう言って、ブイサインを決めるアオイ……死闘の直後、この張り詰めた空気すらまったく読んでない……なんとも軽い調子だった。

 

「ふ、ふざけんなっ! こっちがはい、そうですかって……おめおめと逃がすと思って?」

 

 激昂する姫様……当然の反応だった。

 けれど、表情こそ異形の甲冑に覆われて、窺い知れないもののアオイの態度はあっさりとしたものだった。

 

「んじゃ、どっちか全滅するまで続ける? こっちは戦果としてはもう十分……徹底抗戦とかされても、無駄に被害が広がって、そっちの犠牲が増えるだけだよ? けど、こっちも一緒に来た西方軍は全滅、カヤちゃんも3人がかりでボコボコにされたみたいだし……。さすがに、ちょっとムカついてるんだ……そっちがその気なら、いいよ……やろっか。3対2なら、まぁまぁのハンデってとこかな……カヤちゃん……もう一戦くらいやれる?」

 

「アオイ先輩……それよりも、そこの黒いチビ女……あの……加奈子だそうです……。あの女……死んだはずなのに、こんな所でのうのうと……」

 

 カヤの言葉を聞いたアオイはしばし、無言で考え込むような仕草を見せる。

 くろがねも、アオイの事は知っていた……いつもカーヤと共にいたレッドと言う名の拳士の事をカーヤはたまにそう呼んでいたから。

 

 割りと気さくで常識的な人物であった上に、今の軽い様子から少しは話せそうだと希望を持つ。

 けど、アオイの次の言葉に衝撃を受ける。

 

「……あっはっは……そりゃいいや……最高っ! 殺してやりたいって思ってた死人にこんなところで会えるなんて……カヤちゃん、予定変更。めんどくさいから、この皇都消し飛ばそう……ブレイブルみたいに、綺麗さっぱり。西方の皆も全滅しちゃったみたいだし……敵討ちって事で景気良くやっちゃおう。とりあえず、帝国ぶっつぶせば後はもう魔王軍だけ……魔王城も私達だけで殴り込んで、爆砕しちゃえば終わりだよ」

 

 その言葉に戦慄を覚えたのはエーリカだった。

 

 ブレイブルの顛末は、さすがに帝国にも伝わっていた。

 勇者と呼ばれる超兵器を起動しようとして失敗し、王都が消滅し滅亡した……そう認識されていた。

 

 帝国も密かに現地に諜報員を送り込んだのだが、そこから得られた情報から、エーリカは戦略核級の爆発があったと判断していた……そして、そのブレイブルの滅亡に目の前の真紅の騎士が関わっていたのだすれば……。

 

 この皇都程度……軽く蒸発させられる。

 ……なにより、最初にカヤも言っていたではないか……皇都を吹き飛ばさないだけ人道的だと……。

 そのことに気付いたエーリカはさすがに青ざめる。

 

「くろがねちゃん……それにしろがねちゃん。こいつの言うことはハッタリとかじゃない……多分本気よ……そして、こいつはそれが出来る……!」

 

「ねぇっ! アオイさん! それにカヤさんっ! 話を聞いてっ! なんでわたし……そんなに恨まれてるの? わたしだって……訳解かんないよっ! 教えて! あれから、どうなったのよっ!」

 

「……もう喋らない方がいいよ……カナ君……だっけかな。すまないね……理不尽な逆恨みなのは解ってるんだけど……それでも私は君を殺したい……。話し合いの余地なんて無い……そうだよね……カヤちゃん?」

 

 どこか苦悩するように、アオイはうつむき加減にそう返す。

 

「ええ……くろがねさん……わたくし達二人は……その程度には貴女という存在そのものを憎んでいるのです。貴女は……最初から居なければ良かったのです……あれから、どうなったかなんて……少し想像すれば解りませんか? 死者は悼むべきであって、憎んだってどうにもならない……そう思ってましたけど。こうやって、異界の果てで敵として出会ってしまったのなら……もう殺し合うしかありません。先輩……ここはアレやっちゃってください……」

 

「そうだね……どうも簡単には殺せないみたいだから、ここは私の最大級の技「ゲヘナバースト」を使わせてもらう。 なんでも「ゲヘナの嵐」とも言うらしいね……この世界のおとぎ話で語られる厄災。 自分が厄災呼ばわりされるのって、正直複雑なんだけどね……。いずれにせよ……核兵器級の爆炎の嵐で骨の髄まで焼き尽くされても、生き残れるのかな? そんな訳で、ここが君の旅の終着駅……悪いけど……ここで終わりにさせてもらうよ」

 

 それだけ言って、アオイが高らかに右腕を天に向ける。

 カヤはすかさずアオイに抱きつくと、アオイは彼女をそっと左腕で守るように抱きとめる。

 

「戒めの巫女の名に於いて……ツヴァイへンダーの最終兵器使用制限を解除します! そは煉獄、そは猛り狂う紅蓮の渦……いにしえの厄災「ゲヘナの嵐」よ……我らの求めに応じて、此処へ来たれっ!」

 

 カヤがそうコマンドワードを唱えると、周囲の空気がゆっくりと回転を始め、アオイの足元の地面がドロドロと溶け出始める。

 

 しろがねが銃弾を放つも、アオイに当たるより遥か前で銃弾が蒸発する。

 

「じょ、冗談でしょ……本物の「ゲヘナの嵐」なんて……ここで「滅火ほろびの7日間」が再現されるって事?! や、やめて……この帝都には10万人以上の人が住んでるのよ!」

 

 エーリカが叫びながら、近づこうとするも熱風に煽られ、立ち止まる。


 周囲の建物や地面が至る所で、自然発火を始める!

 

 発動前の余波だけで、この熱量!

 発動されたら、問答無用で全て蒸発する……伝説に謳われし「滅火の7日間」を地上にもたらした大厄災!


 エーリカもくろがねも、もはやどうする事も出来ず、ただ呆然と見守ることしか出来なかった。

 

 ……けれど。

 救いの手は意外なところから差し伸べられる事となる。

 

「アオイ様! カヤ様! お逃げください! この場は、わ、私達が引き受けますっ! い、命捨てるは今っ! さぁ! 魔王の手先共! 私は西方軍アリー二等上佐っ! こうなったら、もう全員まとめてかかってきなさぁいっ!」


 なんとも場違いな噛み噛みな声に、全員一斉に声の主を見る。

 

(……ものすごく弱そう)

 

 それがくろがね達の第一印象だった。


「……は、はい? な、何……この人……?」

 

 思わず、気の抜けた声で返すくろがね。

 

 剣を構えて黒い革鎧を着込んだ眼鏡の女性……どうも西方軍の士官の生き残りらしかった。

 

 なのだけど……膝もガクガクで腰も引けてて、まるで怯えた小動物のように全身でプルプル震えていて……。

 軽く小突いただけできっと倒れるんじゃないかって、くろがねも思わず心配してしまったくらいだった。

  

「ちょっ! アリーさん! なんでこんなところにっ!」


 予想外の人物の乱入に、さすがのアオイも頭を思わず抱える。

 つい頭に血が上ってしまったのだけど、アオイもアリーさんを吹き飛ばす訳にはいかず、「ゲヘナバースト」の発動を強制停止させる。


「ああっ! これじゃ……アリーさん思い切り、巻き込んじゃうじゃないかっ! アリーさん、君……何してくれちゃってるのさ! カヤちゃん! こうなったら、もうしょうがない……。ここはもう逃げの一手だ! アリーさんを連れて強行突破する! いいねっ!」

 

「まったく……アオイ先輩もここに来て、非情に徹しきれないなんて……けど、そう言うところ嫌いじゃないです。今回は、どうせ様子見程度なんだから、そうしましょう……わたくし達も、少し頭冷やした方がいいでしょう」

 

 カヤがそう言って苦笑すると、アリーへ向かって、糸を放つ。

 糸に捕まったアリーは訳も解らないまま空中を舞う。

 アオイはそのまま彼女を受け止め、小脇に抱える。

 

 右腕にアリー、左腕にカヤ……そんな状態のまま、猛ダッシュで駆け出す!

 

「そんな訳で! 決着はまた今度にしてやるっ! どいたどいたーっ!」

 

 アオイの進路にはくろがねもしろがねもいたのだけど、その勢いに思わず道を開けてしまう。

 

 通り過ぎてしまってから、ハッと我に返って追いかけようとしたのだけど。

 すかさず黒塗りの革鎧に黒い覆面の兵士が10人ほど現れて、くろがね達に襲い掛かってくる!

 

 一人に対して、5人がかりで高度に連携を取っている上に、剣の腕も並以上……。

 くろがねも、その巧みな攻撃を捌くのがやっと。

 そもそも彼女は敵と言えど、殺せない……どうしても、受け身に回ってしまう……。

 

 しろがねもバヨネットなし、弾丸切れの状態……エトワールも、もはや鈍器代わりにしか使えない。

 つまり、どちらも決め手に欠ける状態だった……。

 

 更に、くろがねと鍔迫り合いを演じていた敵兵の一人がにやりと笑う。

 

「すまないが……今、君らにアリー隊長達を追わせる訳には行かない……俺と一緒に死んでもらう!」

 

 それだけ言うと、その男の首から下げた水晶が光を増し、直後盛大に爆発する!

 くろがねも爆発自体のダメージは微々たるものだったのだが……その敵兵の返り血や肉片を全身に浴び、茫然自失の状態になり、その場に力なくへたり込む。

 

 その様子を見たしろがねは、これ以上は危険と判断して、四倍加速で瞬時に包囲を切り抜けると、そのままくろがねを抱きかかえて後退!

 

 そして、今更ながらに駆けつけた、帝国騎兵が西方の兵を取り囲むも……彼らは帝国騎兵に飛びつくと自爆、更に自爆!

 ……当然、現場は大混乱となり、もはや追撃どころではなくなってしまう。

 

 その決死の気迫の前には、エーリカ姫はもちろん、しろがねすらもアオイ達を見送るしかなかった。

 

 こうして帝都の戦いは……終わった。


さて、これにて帝都襲撃編は終了です。

次回は、戦後のそれぞれの陣営の後日談を挟んで、一旦二章を締めようかなーと思ってます。


そこから、ちょっと外伝調のゆるーい話でも混ぜようかなーとも思ってます。


この作品、いい加減30万テキストの大作になってしまって、読破にも9時間とかかかるようになってます。

アクセス傾向から数日ほどかけて読んでる方も多いようですんで、少しペースを緩めようかなとも思ったりして…。


それと目次を見た方は、お気づきでしょうけど、先日から設定資料なんて項目が増えてます。

とりあえず、主人公のくろがねのSD風イメージイラストをアップしてます。

絵なんて、10数年ぶりに描いたぜ。(笑)

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