第二十話「戦姫VS戦鬼」⑤
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第二十話「戦姫VS戦鬼」⑤
---3rd Eye's---
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敵がくろがねを足止めした上で、目標を自分に変えたことをしろがねも認識する。
敵は姿を隠そうともせずに、まっすぐにしろがねに向かって来ていた!
(捕捉された! やはり、当然そうくるか……けど、この展開はむしろ望む所っ!)
エトワールに、かつての記憶を頼りに錬成した銀の24インチ銃剣を装着し、しろがねも迎撃態勢を整える。
弾丸の再装填はしない……どうせ間に合わないし、この敵に正面から銃撃しても恐らく無意味だった。
銃弾を見切るとか非常識な真似を平然とこなす上に、あのマントの防弾性能は半端じゃなかった……先程も一発撃ったのだけど、あのマントで防がれてしまった。
どういう材質なのか、銃弾が貫通しなかった。
いずれにせよ……姫様やくろがねが容易くあしらわれた時点で、容易ならざる敵だというのは理解できた。
けれど……しろがねは……地獄のような戦場を幾度も掻い潜った戦闘のプロだった。
プロはいついかなる時も、機械のように戦い……勝つ……だからこそ、無駄な口上なんかしない。
無言で、向かってくるカヤ目掛けて走り込み、銃剣を振りかざすと問答無用で連続した突きを放つ。
残像しか見えないほどの高速の突きなのだけど、カヤは素手で捌き、払いのける。
素手で槍を払いのけるなど、尋常な真似ではないのだが……カヤは、しろがねの突きをすべて見きって、巧妙に身体に当たる攻撃だけを払いのける。
けれど、しろがねの表情に変化はない……膂力については、こちらが圧倒的に上。
元より金属ベースマテリアの身体能力は人のそれを圧倒的に上回る。
スピードについては……互角と言うよりも、向こうは恐るべき精度の先読みでしろがねの攻撃を捌いている。
けれど、しろがねもまだまだ切り札たる加速を使っていない……この攻撃はせいぜい、挨拶代わりと言ったところ。
一瞬の隙をついて、カヤは前に出ると、その手をエトワールに伸ばそうとする。
(掴まれたらヤバイ……ならばっ!)
しろがねは不意にエトワールを回転させながら手放すと、しゃがみ込んで空中でキャッチすると銃床側から突き上げるようなカウンター!
エトワールを引き込む事を起点に、投技を仕掛けようと踏み込んでいたカヤもこれには反応出来ず、すれ違いざまにまともに腹に一撃を食らう。
さすがのカヤもこれはたまらずに、うめき声と共に膝をつく!
追撃を避けるために、カヤは振り返りもせずに背後に向かって、腕を振りかざす……すでに、しろがねは退避行動に移っており、振り返りざまに糸の斬撃をエトワールの銃身で受ける!
挨拶代わりの応酬は、まずはしろがねが先取と言ったところだった。
「い、今のは……さすがに堪えましたわ……。貴女……プロの殺し屋とか軍人……ですわね……何のためらいもなく殺しに来た……。今だって、まだまだ手札を伏せたまま……ですよね? さっきの姫様とかくろがねさんなんかより、余程手強いですわ……。その銃もわたくしの糸を受け止めるなんて普通じゃない……」
腹を抑え、息を整えながら、なお不敵な態度を崩さないカヤ。
「敵とおしゃべりとか素人なのかい……君は? 私達は戦争やってるんだろ……少し黙れ」
淡々とそう言って、再び銃剣で斬りかかるしろがね。
カヤもしろがねの鬼気迫る様子に冷や汗を流す。
(スゴい……この娘……本物だ! Sクラスの元軍人とか言ってたやつよりもスゴい! この殺意……気迫、どれほどの地獄を見たら、こんなになるんだろ! やっばい……濡れるわ……これっ!)
防戦一方ながら、舌なめずりをして笑みを浮かべるカヤ。
ひたすら無表情で、バヨネットによる突き、払いを繰り返すしろがね。
更に瞬間的に加速を発動……その速度にさしものカヤも避けきれず、手足や顔に銃剣がかすめ、赤い血が滲み出す。
(なに? この斬撃は……速度が不自然に変化する……接近戦は危険!)
不自然な速度変化の正体を見切らないと、近接戦は危険……そう判断したカヤは、距離を大きく離すと腕を袈裟懸けの要領で振り上げる!
同時に5つの光条が放たれる! それは、しろがねに向かって放物線を描いて飛んでくる……。
左右正面、手前、背後に着弾するコース……確実に爆発に巻き込むコースだった!
だが、しろがねは冷静にその弾道を見極めると、銃口を突き出し突進し、手前に着弾するはずだった光条を銃口で受け止めるとすぐさまエトワールを半回転させる!
一瞬遅れて、篭った爆発音と共にエトワールの銃口から爆炎が吹き出し、ロケット弾のようにカヤ目掛けて飛んでいく!
これには、さすがのカヤも驚愕の表情を浮かべ、高速で飛来するエトワールを回避する!
その隙を逃さず、地面を這うような動きで、一気に距離を詰めたしろがねは、瞬時に錬成した大剣による逆袈裟斬りを一気に決める!
カヤもマントを使って、その斬撃を受け止めるが……所詮は布切れ、斬撃は防げても重剣による打撃力までは止められない……。
まともに、脇腹に入り、バキバキと肋骨の砕ける音が響く。
しかしながら、カヤも一撃を喰らい血を吐きながらも、大剣に糸を絡ませる……その糸は複雑に絡み合いながら、大剣を伝ってしろがねに迫る!
しろがねも前と違い躊躇いなく剣を離し、距離を取るとすかさず弾丸装填済みのエトワールを錬成し、容赦なく撃つっ!
次々と武装錬成し、躊躇わず使い捨てにする……錬成術の戦闘応用とも言うべき戦闘スタイルをしろがねはすでにモノにしていた!
今度こそ、まともに直撃! ヘッドショットを狙ったのだけど、とっさに手で受け止めると言う芸当を見せつける……けれど、至近距離の弾丸の衝撃は止めきれず、自らの腕で顔面を強打した形となったカヤの身体は大きく吹き飛び……屋根から転げ落ちる!
(手応えはあった! 今ので肋を数本持っていったはず……けど、まだ終わってない!)
追撃のチャンス……と思うところだが、しろがねは即座に追撃するような真似はしない。
敵に深手を与え、追い詰めた瞬間こそ危ない……彼女は数々の実戦でその事を思い知っている。
だからこそ、しろがねは別の方向から建物から飛び降りると、油断なく再装填しつつ、建物の外周沿いに回り込んで、カヤを追撃する……。
そして、しろがねが伏せるのと同時に、建物の壁に無数の切れ込みが入る!
周囲の建物がバラバラと倒壊していく……カヤの糸による全周無差別攻撃だった!
(やっぱり仕掛けてきた……けど、こんな大雑把な攻撃に頼らざるをえないと言うこと!)
しろがねに迷いはない……敵は確実に殲滅する。
降り注ぐ瓦礫の山をモノともせず、しろがねはカヤを視界に入れると膝射姿勢で狙いを定める。
「……言い残すことがあれば、聞くよ……名前くらい名乗る時間くらいはあげるよ」
今のタイミングでの空斬糸による全周攻撃すら見切るしろがねの戦闘センスに、カヤはもはや尊敬の念を禁じえなかった……間違いなく、カヤが今まで出会った敵の中で最強の敵……それがしろがねだった。
(なんて、娘なんでしょう……このわたくしが……こうも容易く追い詰められてしまうなんて……)
弾を受け止めた左手は痺れたようになっていて、しばらく使い物になりそうもない……。
撃たれて吹き飛ばされた時にぶつけた額が割れて、だらりと血が流れる。
大剣をまともに食らった脇腹も酷く痛んで、呼吸すらままならない。
……けれど、それすらも心地よかった。
VR戦場では味わえなかった感覚……命の奪い合い! 本物の戦闘とでも言うべきものがここにあった!
「ふふふっ! この痛み……恐怖……すべて本物……ああ、本当の殺し合いって最っ高ですね! わたくしは……カヤ……シノザキ・カヤです……貴女のお名前は? 貴女のキルポイント……いえ、殺した人数を教えて欲しいわ……その手で一体何人葬ったのでしょう?」
「私かい? かつては、ラ・ヴェエイユ・ガーズの名も無き兵が一人。今は千年魔王様の剣が一振り……銘はしろがね。戦場で屠った敵の数なんて覚えていないさ……もういいかな?」
そう言って、しろがねは油断なくエトワールを構えると、静かに引き金に手をかける。
しろがねのエトワールは本来秒速300m程度と音速以下の弾速でしかないのだが。
しろがねの加速魔術は、エトワールの放つ弾丸にも作用する。
4倍速の弾速……その弾速は現代銃すら凌駕する秒速1,000mを軽く超えるとてつもない速度。
さしものカヤでも、初見では防ぐことも避けることも出来ない。
それに……あの深手ではもはや動くこともままならない……そんな様子が見て取れた。
しろがねとカヤの距離はわずか20m足らず……しろがねにとっては、ピンポイント必中の距離。
しろがねには、確信があった……勝負はすでに決していた。
しろがねVSカヤ様戦!
しろがねの本気の前に、さしものカヤ様もピンチッ!
超スピードバトルの結果はしろがねの完封勝ち…となるか?!
それに、ダイン将軍と勇者アオイの戦いの行方は?
くろがねとエーリカ姫も噛ませのままじゃ、終われないっ!
帝都決戦…まだまだつづきます!




