第二十話「戦姫VS戦鬼」④
--------------------------------------------------
第二十話「戦姫VS戦鬼」④
---3rd Eye's---
--------------------------------------------------
一方、しろがね。
くろがねのピンチを察して放った狙撃でルガーを弾き飛ばしたまでは良かったが、反撃として放たれた……自分めがけて飛来する光条をじっと見つめていた。
それは10条ほどに分裂すると、更に分裂し合計30発ほどの光弾となり、放物線軌道を取りつつ、たちまちしろがねに迫る。
カウンタースナイプの確実なやり方……アメリカ軍の実例で一人のスナイパーを仕留めるために、自走砲での砲撃や、巡航ミサイルで建物ごと吹き飛ばすなんて戦術があったのだけど。
これはまさに、そんな感じだった……現代兵器で言うとクラスター爆弾などに近い攻撃。
乱暴なやり方だったが、手っ取り早い方法とは言えた。
カヤの索敵能力は、隠密戦のプロ達を人混みの中から正確に把握するほどのもの。
けれど、しろがねもさるもの……その索敵網をかいくぐり、闇夜の中……先程から確実に援護射撃を決めていた。
スナイパーは敵に居場所を気取られたら負け……元々しろがねは、隠蔽技術は苦手だったのだけど……銃手としての記憶を取り戻した彼女は、隠蔽スキルもまたくろがね並みのものを取り戻していた。
カヤクラスになると、殺気だけでも反応する、なので、実は先程からしろがねは一発の弾丸も撃たずに、殺気による牽制と言う方法で、影ながら支援を成功させてきた。
実際、くろがねがカヤに投げられた瞬間にも、しろがねは殺気による牽制を放ち、その技を中途半端なものとさせていたのだった。
そして、今の状況……光条はしろがねを取り囲むように炸裂することが予想出来た。
回避は……下手に動くと、爆風に巻き込まれる。
しろがねは、冷静に自分の至近距離に着弾するコースを取る光条を見極めると、エトワールを構え、加速を発動し、相対的に動きがゆっくりになった糸めがけて、一発の銃弾を放つ!
……スナイパーの潜むポイントへの集中爆撃……のはずだったが。
一発だけ、糸が空中で爆発し、周辺の糸が連鎖爆発するのを見て、カヤも訝しげな顔をする。
「暴発? そんな事はありえないのですが……」
カヤの言葉に、くろがねも今の空中爆発がしろがねの仕業だと思い至る。
「あははっ……しろがねっ! 糸を狙撃するとかどれだけなのよ……お見事っ! ねぇ……そろそろ、自己紹介くらいしてくれないかな? わたし達、雑魚じゃないでしょ……? 貴女も相当なもんだけど……いい加減、認めてくれてもいいじゃない?」
くろがねもその光条の正体が、髪の毛ほどの細い糸だと言うのは見切っていた。
それだけに、そんなものを狙撃で迎撃とか信じられないものを見た思い……思わず笑ってしまうほどだった。
(しろがねって、ガンフロ基準だと間違いなくSランだよね……あれじゃ、現代銃なんて足引っ張るだけかも……)
何と言うか……敵も味方もぶっ飛びすぎだった……。
「さすが……魔王軍のエース格とか言われてるだけはありますよね……。ブラックロックとシルバーナイト……ふふっ……クラスター爆撃をあんな方法で回避するとか……。認めざるを得ませんね……Sランク相当の猛者……これは、もう鳥肌モノですわっ! セオリーとしては、前衛なんてほっといて、スナイパーを先に落とすべきですね……。さっきから良い所で横槍入れてくるし……殺気だけのフェイントも邪魔くさくてしょうがないです……。どうも、あっちが本命みたいですね……くろがねさん、貴女は後回しとさせていただきます!」
そう言い残して、カヤが建物の屋根まで飛び上がる。
(Sランク? ガンフロじゃあるまいし……けど、さっきの投げ技……柔道の技みたいだったけど……あんなの……普通に食らったら死んじゃう……そんな技の使い手……まさか……ね)
くろがねも彼女の言葉にひっかかりを覚えながらも、後を追おうと飛び上がったが……途中で何かに足を引っ張られたように不自然に空中に止まるとそのまま地面に落ちる。
「な、何がどうなってんのよ……! ちっくしょーっ!」
無様に地面に墜落し、思わず悪態を吐きながら、くろがねは自分の足を見る。
……すると、髪の毛のようなモノが複雑に絡みついていることに気づく。
いつのまにか地面を這って、足に絡んでいたカヤの糸だった。
「くっそーっ! あいつ……遠距離重火力系かと思ったら、搦め手タイプとか、どれだけ厄介なのよっ!」
更に膝近くまで糸に捕まり、常時発動されていた各種強化魔術が解除され、魔力までジリジリ奪われていく状況に、くろがねは文字通りその場で地団駄を踏みながらも戦慄を覚えていた。
この武器は……対人用としては、もう反則と言っていい代物だった。
姫様のように、地面に縛り付けられてしまうと強固な守りも攻撃力も関係なかった。
超回復や不死身の身体も、動けなくされてしまえば意味がない……。
さらに、くろがねはこの糸が絡みつくと魔力を奪われる上に、常時発動型の魔術強化なども弱体化される事に気付いていた。
今のくろがねは……はっきり言って、見た目通りのお子様並みの力しか無い。
つまり、魔術師や魔法生物にとっては、一本でも絡みつかれるとそれだけで致命的。
振り回すことで、斬撃にも使えるようだし、張り巡らせれば凶悪なトラップにもなるだろう。
さらに、先程からのワイヤーアクションばりの不自然な挙動……あれも糸をワイヤー代わりに使うことで、実現しているようだった。
攻防走一体の万能兵器……それが「戒めの糸」と呼ばれる兵器の真髄であり、これを単なる対勇者用の拘束具と思い込んでいたブレイブルは、まさに愚かとしか言いようがなかった。
それにしても……使徒クラス三人がかりで、あっという間に二人が脱落……。
使徒同士の戦闘経験が何度もあるはずの姫様も初見であっけなくやられたようだった……。
くろがね的には(「強敵が仲間になると噛ませ化するか弱体化する」の法則通りじゃない……)とか思ってたりするのだけど。
自分も噛ませ同然に、あっさりあしらわれた上に足止めされてこの有様。
人のことは全然言えなかった……。
武器も厄介だったが、何より恐ろしく実戦慣れしている……剣を交えた感じだと、膂力は一般人並と大したものではなかったのだけど……反応速度や状況判断力が並外れていた。
帝国首都への殴り込みとか無茶をやらかす訳だった。
冗談抜きでこのままでは全員無力化される……彼女の言葉通りなら、全員無力化した時点で悠々ともう一人と合流して撤退の心づもりなのだろう。
トドメを刺しに来る様子がないのは……恐らく、簡単には殺せそうもないから……その程度の理由なのだろう。
けれども、くろがね達としては、全員無力化された上で取り逃がすなんてのは、もう問答無用の完敗だった……。
すでに皇都は、戦火にさらされ、カヤの爆撃で至る所が瓦礫の山……。
一般市民は避難済みだったとは言え、被害がゼロということはありえない。
ここに来るまでにあちこちで火の手が上がり、軍人や治安部隊の決死の消火作業や救出作業が行われているのをくろがねも目撃していた。
救いなのは、住民のパニックや暴動などが起きていない事。
むしろ、住民も消火や救出活動に率先して協力しており、要するに帝都の住民の民度が非常に高いという事だった。
けれど、後々問題になりそうなのは、国の象徴とも言える皇城がカヤの攻撃と続いての飛行船の特攻自爆で半壊状態になってしまった事。
城と言っても砲爆撃など初めから想定していない見た目重視のお飾りの城にすぎないのだ。
もとより、防御力など話にならないレベルなので、被害も酷いものだった。
西方の飛行船団や降下部隊はすでに壊滅し、同時に活動を開始し破壊活動を繰り広げていた潜伏部隊も撃破されたようなのだけど。
これはもう、内外に誤魔化しの効かない被害甚大と言うべき状況だった……。
その上、帝国の守護者たるエーリカ、更に魔王軍のエース格の敗北となれば……。
間違いなく西方は戦勝に活気づき、再び結束を強め……それにより、新たな戦乱が始まる。
おまけに、帝国の敗退はそのまま東方の結束に綻びを生む……東方とて一枚岩ではないのだから。
……くろがねも、その結論に至ると、暗澹たる思いは禁じ得なかった。
「姫様っ! ダインさんはどうなのっ! さっきから、向こう側が静かなんだけど! まさか、やられちゃってたりしないよねっ?」
力でも剣でも切れない糸相手にどうする事も出来ず、くろがねが叫ぶようにそんなことを言う。
くろがね達がここに来るまでは、爆発やら閃光やらで激しく戦っている様子だったのだけど……先程から、妙に静まり返っていた。
「解らないわ……アイツがそう簡単にやられるとは思えないんだけど……。くろがねちゃん、この糸……多分、普通にやっても切れない……けど、一つだけ方法がある。もう覚悟を決めるしかないわね……痛いかもしれないけど……自分の足を切りなさい! それしかないっ! 今なら、しろがねちゃんが引き受けてくれてるし、向こうも私達を無力化したと思ってるはず……。私達が動けるかどうかが、勝敗のカギ……くろがねちゃんが自由になったら、私の足もブッた切って……。くろがねちゃんの回復魔法なら、手足が切れた程度なら、なんとかなるでしょ! このままリタイアなんて、お互い許される立場じゃない……解るわね!」
姫様の言葉にくろがねも覚悟を決める……。
新しくグルカナイフを錬成すると、痛いのは嫌だなぁ……と思いながらも、それを振りかざし、自分の足めがけて振り下ろしたっ!
カヤ様VSしろがね先生の長距離戦…どっちもデタラメですな。
ちなみに、カウンタースナイプで巡航ミサイルやら自走砲で建物ごと吹っ飛ばすと言うのはアメさんの常套手段で、古くはベトナム戦争の頃なんかでも、スカイレイダー呼んで潜伏地点周辺を絨毯爆撃でドーン! とかやってたらしいです。
ついでに言うと、スナイパーが巡航ミサイルを迎撃した実例もやっぱりあって…。
アフガニスタンで、低空飛行中のトマホークが撃ち落とされた…と言う事例があるそうです。
…事実は小説より奇なり。
尚、エーリカ姫様エグいこと言ってますが。
具体的な描写は…まぁ、カットです。




