第二十話「戦姫VS戦鬼」③
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第二十話「戦姫VS戦鬼」③
---3rd Eye's---
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爆炎を背に宙を舞うくろがね!
……交差された彼女の両手には黒塗りの拳銃が握られている。
くろがねは、カヤの姿を目にすると問答無用とばかりに猛烈な勢いで連射する!
ドカドカと猛烈な連射! 周囲に薬莢が撒き散らされ、キンキンと金属音を響かせる!
けれど、その銃弾はカヤに掠りもしなかった。
彼女は不敵に笑うと、あろう事か最後の一発を無造作に掴み取り、しげしげと眺める。
「あら……よく見たら、9mmパラベラムじゃないですか……これ。Si vis pacem, para bellum……汝平和を欲さば、戦への備えをせよ……心に響く素晴らしい箴言ですよね……。それにその銃はルガーP08……ですね。なんで、そんな素敵なものを貴女のようなおチビさんがもってらっしゃるんでしょう?」
そう言うと、カヤは弾丸を投げ捨てながら、微笑みを浮かべる。
「……そっちこそ、何者よ……ひと目見て、銃の名前を当てるわ、銃弾を全弾回避するとか……。今の避け方……明らかに弾見えてるよね……あなた、この世界の人間じゃないでしょ……。あと、おチビさんとか言うな……わたしには、くろがねって名前がある!」
そう言い返すと、鋭く目を細めながら、全弾撃ち尽くしたルガーを投げ捨て、一丁だけ再錬成し油断なく構えるくろがね。
「くろがねさんですか……敵の名前なんて、どうでも良いのですけどね……。おっしゃる通り、わたくし達は異世界人……に当たると思います。正直、雑魚に名乗るとか趣味じゃないので、わたくしの名乗りはそちらのお手並みを拝見させていただいてからですね……。銃については……銃を手に殺し合う……そんなお遊びを嗜んでおりまして……。少しは詳しいのですよ……だから、そんな殺る気の無い気の抜けた銃弾……当たると思わないでくださいね。これで2対1……いえ……」
カヤは一旦言葉を区切ると、小首を傾げるような仕草をする。
そして、その傍らを銃声とともに銃弾が通り過ぎる。
「3対1……と言う訳ですか……さすがに、これはしんどいですわ。そこのお姫様の方は、大体力量がしれましたのでもう用済みです……。あっさりぶち殺すのも可哀想なんで、そこで観戦しててください」
カヤがそう言うと、エーリカ姫の両足にグルグルと髪の毛のようなものが巻き付き、首の周りにも一周ぐるりと巻き付く。
「なっ! なにすんのよっ! けど、こんなものっ! い、いたたっ!」
もがいて、力任せにその糸を引きちぎろうとしたエーリカだったが、苦痛に顔をしかめる。
足を動かすと、首に巻き付いた糸が締まるようになっているらしく、糸がその首に食い込んでいた。
「ダメッ! 動かないでっ!」
叫びにも似たカヤの声にエーリカも思わず、言われるがまま、動きを止める。
冷酷な言葉と裏腹に彼女はエーリカを死なせたくない……そう思っているようだった……。
「とにかく……そのままじっと大人しくしてた方がいいですわ……。その糸、ドラゴンだって動けなくさせる程度には強固ですから。あなた方のような化物に戒めを与えるため……そんな目的で作られた武器らしいですわ。下手に暴れると、本当に首が落ちますよ……この国のお姫様なんですよね? なら……立場ってものがあるでしょうから、ご自愛くださいな……。そこのくろがねさんは、もう少し楽しませていただけそうですね……。それにもう一人の方も……スナイパーってホント厄介ですよね……一体どこにいるのやら……」
一方のくろがねは、正直驚きを隠せなかった。
今の一連の攻防……くろがねが正面から絶対防御を展開しながら突撃し、気を引いてから、しろがねのアウトレンジ狙撃で仕留める……そう言う心づもりだったのだ。
ルガーの連打はあくまで不意打ちによる目眩まし……その上でしろがねによる死角からの長距離狙撃。
二段構えの必殺の布陣だったのに、あっさり回避されてしまった。
しろがねの現在地は、市街地の建物の屋根伝いに約500m程度の距離を維持しつつ、常に移動しているはず……銃手として覚醒したしろがねならば、気取られるはずは無いと思っていたのだけど……。
「姫様……ここはわたし達が引き受けます……その縛め解けそうにないなら、せめて防御シールドを展開できるだけ展開してまきこまれないように……。ダインさんを救援したい所ですけど……こいつ、ヤバイ……」
そう言って、くろがねはグルカナイフを錬成し、片手にルガー、もう片手にナイフを構える。
……カヤが遠距離タイプと踏んだ上でのインファイトスタイルだった。
「あら……なかなか面白そうなスタイルですわね……それ。接近戦は苦手……とか思われたのでしょうか……いいですわ……ひとつ、お手並み拝見と参りますっ!」
そう言うとカヤは手近に転がっていた帝国兵の剣を取ると、くろがねへ突撃してくる。
一足飛びの踏み込みに、神速の突き!
くろがねも予想外のその踏み込みの速さに対応が遅れ、かろうじてグルカナイフでいなし、ルガーでほぼゼロ距離射撃っ!
「あまいっ!」
次の瞬間、ルガーが掴み取られると、銃弾はあらぬ方向に逸れる。
それどころか、絶妙な力加減であっけなくくろがねの手からルガーが奪われる!
更に突きの連撃……くろがねも受けるのがやっとの有様だった。
けれど、その突きの威力は思ったほどでもない。
「くっ! こんな軽い剣撃で、わたしを仕留められると思うなっ!」
そう言って、踏み込んで力任せの一刀っ!
とっさに受太刀をしたカヤの剣はあっけなくヘシ折れ、そのままくろがねの剣はカヤの首元に迫るっ!
けれども、次の瞬間くろがねの視界がぐるりと回転っ!
次の瞬間、視界いっぱいに地面が広がる!
……その時になって、ようやっとくろがねも自分が頭から地面にぶつかりそうになっていることに気づき、シールドを展開し、首を丸めて肩から地面に前回り受け身の要領で着地する。
小柄かつ軽量の身体だったから、良かったようなものの……普通の体格だったら、額を割られて意識を刈り取られたか、最悪即死の可能性すらあった。
相手を前に引き込みながら、身体を反転させて自分の足に相手を引っ掛けて投げる……技としては柔道で言うところの「体落」が近いものに当たるが、今の技は相手を頭から落とす完全に殺し技だった。
そして、くろがねのグルカナイフもいつのまにか、カヤの手にあった……。
「こんなもので斬られたら、さすがに痛いじゃ済まないじゃないですか……まったく……乱暴な方ですね……。けど、今ので良く受け身取れましたね……やはり、小さい方相手はやりにくいですわ……。図体だけの兵隊さんなんて、あっさり脳漿ぶち巻いて、即死しちゃいましたのに……。けど、これでチェックメイト……ご自分の銃に撃たれるのって、どんな気分ですか? ここはひとつ、気の利いた命乞いのセリフでもお聞かせいただけないかしら?」
グルカナイフを投げ捨てながら、カヤはルガーを構えると、くろがねの額に狙いをつける!
けれど、くろがねの表情に焦りはない……それどころか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
次の瞬間、ルガーに何かが当たり、カヤの手からルガーが吹き飛び、銃声が轟く!
カヤも素早い動作で地面に伏せるとそのまま、手をつき飛び上がると重力を無視したような動きで、一気に建物の壁際まですっ飛んでいくと着地する。
狙撃されたら、その場に留まらず、即座にスナイパーからの射線を切る……銃撃戦の手練……そうとしか思えない動きだった。
「しろがねっ! ナイスフォローっ!」
地面に落ちたルガーを回収し、牽制射を見舞いながら、くろがねも一気に距離を開ける。
その隙にカヤはしろがねの狙撃してきた方向へ指先から光条を放つ! それは建物の壁を貫通し、しろがねの潜伏地点の方向へと飛翔する!
さて、最新話をお届けします。
…姫様、やっぱりかませでした…お後がよろしいようで。
それにしても、この創作という作業…実は案外、孤独な作業だったりします。
本当に、これで大丈夫なのかな…と恐る恐る書き進めていく。
他の同業者の方々も多かれ少なかれ似たようなもんのようです。
PV推移やブックマークは、その細やかな道標…と言ったところですかね。
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よろしくお願いします。
※Si Vis Pacem, Para Bellumの一節にルビ振りました。
ラテン語の読みなんて、解るほうが少ないでしょ。
箴言ってのは、旧約聖書に載ってる格言の事を意味するみたいです。
カヤちゃん、現実世界では優等生だったのでこう言う雑学的知識は豊富です。




