第二十話「戦姫VS戦鬼」②
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第二十話「戦姫VS戦鬼」②
---3rd Eye's---
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一陣の風が吹いた……。
エーリカは突如、硬直したようにその動きを止めると、レーザーの投射を中断し崩れるように横倒しに倒れた。
続いて、足場にしていた建物が突如、斜めに切り裂かれるとそのまま倒壊する。
「あら……真っ二つにするつもりでしたのに……足一本で済ますなんて、いい勘してますわね……。あの……非人道的とか笑わせないでくれません? わたくし達は戦争をやってるんですよ。市街地に軍が展開……これって見方を変えれば市民を盾を取ってるとも言えますわ。どちらが非人道的なのだか……要するに戦争に綺麗も汚いもありません……そう思いませんか? わたくし達をここまで送り届けてくれた方々も皆、捨て身で美しく散っていきました。その方々の命懸けの思いと願い……そして覚悟を……わたくし達は無駄に出来ませんからね。それに、わたくし達がその気になれば、この帝都を丸ごと消し飛ばす事だって可能なんですよ? ……それをしないだけ、まだ人道的だと思いますけどね……」
カヤの淡々とした声。
彼女の姿は、どういう訳かエーリカの背後にあった。
その姿は、先程のセーラー服のような姿から、一変し黒いボンテージファッション風の姿と黒いマントと言ういでたちに成り代わっていた。
そのマントは、カヤの糸を布状に編み込むことで、如何なる攻撃をも防ぐ無敵の装甲のようなものだった。
彼女は、このマントを展開することで、エーリカのレーザー攻撃を凌ぎきっていた。
そして、今の服装……デザイン的には改造スクール水着みたいな感じなのだけど、これも同じ材質で出来ていた。
色が黒い上に、刺々しいデザインの手甲やブーツっぽいものを装備しているので、どちらかと言うと戦隊モノの悪の組織の女幹部のような姿だった。
一方、エーリカは今の一撃で左足の膝から先を失っていた。
当然ながら、再生魔法の力で再生は始まっていたのだけど、一時的に行動不能になる程度には深手だった。
「な、なにが……それにどうして、あなたがそこにいるの?」
呆然と見返すエーリカに対して、カヤは柔らかな微笑みを返す。
「驚きましたよ……魔術師タイプだと思ってたら、光学兵器なんて……。それに初手から最大火力とか……いい判断ですよね。 せっかくの服が台無しになっちゃいましたわ……。一応、直撃しましたけど……ちゃんと防具を揃えてきてたので、ばっちり防ぎました……それだけ」
あっさり言うな……とエーリカは思うのだけど。
事実、一切の手加減はなかった上に、タイミングも完璧だった。
彼女の防護の前には、エーリカの最大攻撃魔術ですら及ばなかった……そう言う事だった。
そうなると、もはや物理系直接攻撃しかないのだけど……この足ではどうにもならなかった。
(もう少し……慎重に様子を見ながら、戦うべきだった……)
エーリカは、自分の判断ミスを悔やんだ。
「それより逆に質問です。エーリカ姫様でしたっけ? 貴女は首だけになったらどうなるんですか? なんか足……じわじわと生えて来てるみたいなんですけど……ちょっとキモいですね。そうなるとやっぱり、首だけになっても身体が生えてくるんですかね……。それとも胴体から頭が生えてくるんでしょうか? まぁ、試せば解ると思うんですけど……。不死身の再生持ちなんて、さすがにゲームでもお目にかかった事無いんで、どうなるのか興味あるんですよ。どうせ簡単には殺せそうもないし、他の方のお相手もしたいので、さくっとやっちゃって構いませんよね?」
そう言って、無邪気に微笑むカヤを見て、エーリカは久しく忘れていた感情……恐怖を思い起こしていた。
(何こいつ……マトモじゃない! くろがねちゃんなんて、全然可愛い……。人を殺すことなんて、アリを潰す程度の感覚しか無いんだ……。それに……ゲームって言った? こいつも転生者とか召喚者とかそう言う手合?)
現状取るべく策はとにかく距離を離して、回復しつつ増援を待つ……なのだが、エーリカの必殺の一撃を回避し、背後に回るまで気づかせなかった隠蔽術。
幻術とかの類の可能性も考えられたが、この少女は魔術を発動させた気配がなかった。
そもそも、レーザーの直撃の瞬間ははっきり見えたのだ……にも関わらず、それすらものともしなかったようだった。
それに、攻撃の気配すらなく建物を両断し、諸共にエーリカの足を奪った謎の攻撃。
エーリカとて、無防備だった訳ではなく、全周タイプのシールドくらい使っていたのだ。
とっさに身体が動いたおかげで両断されずに済んだのだが。
どんな強力な攻撃でも、シールドが破壊されるまで、コンマ数秒の時間稼ぎくらいは出来る……。
そのコンマ数秒があれば、致命的な……行動不能になるようなダメージは避けられる。
そのはずだったのだけれど、今の攻撃はシールドと身体がほぼ同時に斬られていた。
視認すらできなかった……何をされたかすら解らない。
極めて強力な守りと未知の攻撃……。
これらを解明しないと、ただ距離を離しても、その次の瞬間にやられるのは目に見えていた。
単独で挑んだのがそもそもの間違い……エーリカもそう認めざるを得なかった。
「……貴女達……何者? 使徒じゃない……それは解る。使徒なら、大方の面々は把握してるからね……それに今の攻撃……どんな仕掛けがあるのかしら?」
「はぁ……? 使徒って何なんですかね……わたくし、良く解らないんですよね。この身体も言わば、借り物みたいなものですし……。この国にも、使徒ってのが二人ほどいるって聞いてますよ。不死の化物だって話を聞いてましたけど、エーリカ姫様はハズレ枠なんですかね……。この程度じゃ、正直拍子抜けです……。死なないのが取り柄ってのなら、寸刻みでバラバラにして土にでも埋めちゃうとか、わたくしの糸でがんじがらめにしちゃえば、いくらなんでもどうにもならないと思うんですけど、試してもいいですか?」
エーリカもこの言葉にはギリギリと歯噛みする。
完全に舐められていた……。
こうなったら、切り札の禁鞭を使うしか無い……そう考えるも思いとどまる。
あれをこんな帝都のど真ん中で使うとか、正気の沙汰ではない。
けど、無駄話で時間稼ぎは出来ていた……足の再生もかなり進んでいるし、どうやら、くろがねとしろがねの二人が近くまで来ているらしい。
「そうね……こっちが舐めてたわ。あと……使徒についてはひとつだけ訂正させてもらうわ……。ここにはもうひとりいるのよ! それも私以上の使い手がねっ!」
そう言ってエーリカは目の前で爆裂魔法を発動する。
当然ながら、自分も巻き込まれ吹き飛ばされるが、相手も吹き飛ぶ。
そして、視界の端に虹色の繭状の塊がこちらに向かって、砲弾のように放物線を描きながら飛んで来るのが見えた。
カヤは、素早く繭に向かって、中空で腕を振り下ろす仕草を見せるが、繭の表面に二筋のスジが走っただけで、その勢いは止まらない。
「ええっ! なんですか! それっ! わたくしの糸で切れないなんてっ!」
そんな事を言いながら、今度は光条を放ち、大きく後ろへ下がる。
その長さは5m以上の長大なもの……エーリカも危険と判断して、その場に重層シールドを展開する。
直後、光条が繭に直撃すると、危害半径100mにも及ぶ大爆発!
辺り一面が爆炎に包まれ、周囲の建物が次々と倒壊する。
けれども、そんな凄まじい爆炎の中から、黒い小さな人影が飛び出すっ!
えーとまぁ、アレですね。
この小説は、ある意味ベタとお約束の集大成をちょっとばかり斜め上にした小説でございます。
フラグを立てたら、まっしぐら! お約束や王道を突っ走ります。
なので、この結果は当然なのです。
エーリカ姫よわっ! とか言っちゃだめよ? 相性が悪すぎるのです。




