第二十話「戦姫VS戦鬼」①
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第二十話「戦姫VS戦鬼」①
---3rd Eye's---
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銃撃に撃ち落とされたカヤは、しばらく呆然と地面に寝転がりながら、空を見上げていた。
銃弾を避けるなど、カヤにとっては本来、容易いはずだったのに、二撃目は明らかに弾道がネジ曲がって来た。
銃弾は山なりの弾道を取るのが当たり前なのだけど……横に逸れるとなると、第一に風の影響による偶然と考えられるのだけど……。
偶然にしては、こちらの回避行動に合わせたとしか思えない弾道だった。
風の変化とこちらの回避を先読みして当てる……不可能ではないかもしれないけれど、神業とかそう言う領域。
それか……おそらく魔術的な力も作用した可能性もある……魔弾の射手……面白い相手がいるものだと感心する。
身体にもらった銃弾は自力でえぐり出して、カヤの手の中にあった。
傷はもう跡形もない……この身体、はっきり言って非力なのだけど、回復力はえらく高いのでこの程度の傷はダメージにもならない。
手足がちぎれたりした場合はどうなるか解らないけど……痛いのは嫌いだから、試したこともない。
弾丸の形は球形……円錐型の銃弾とは違い古い時代の火縄銃とかマスケットとかそんな類の銃の弾……。
こんなもので、あの距離を当てるとか、意味が解らない。
神業レベルの技量の1kmスナイパー……この世界にそんな相手が居るというのは正直、誤算だった。
ただ、こうやって入り組んだ市街地に降り立ったのは、悪くない判断だった。
続けざまの狙撃が来ない様子から、敵の射線は振り切ったと考えてよかった。
あのまま、空中に居たら良い的だっただろう。
カウンタースナイプ戦なら、幾度となくこなしたから、なんとでもなる……大雑把でかまわないので、居場所さえ補足してしてしまえば、あとは集中爆撃で仕留めてしまえば良いのだから。
けど、アオイに油断するなと言われていた矢先にいきなり一発もらってるようでは、また怒られてしまう。
夜のご褒美のお預けを食らうのは、悲しい……。
その点がカヤにとっては気がかりだった。
敵については……落ちてくるなり、軽騎兵が数十人単位で襲い掛かってきたのだけど。
カヤにとっては物の数ではなく、糸の一振りであっけなくバラバラになってその辺に転がっていた。
名付けるとしたら、「空斬糸」とかそんな感じだろうけど、カヤは技の名前を付けたりなんかしない。
殺すなら、無言で音もなく……瞬時に仕留める。
相手は恐らく、何が起きたかすら解らなかっただろう。
アオイは……現在、敵の最大戦力と思わしき、金色の騎士と戦っているらしかった。
アオイにしては、珍しくあまり余裕がないようだったが……心底楽しそうだったので、カヤとしてはアオイの邪魔をする敵を足止めする……それが役目だと自覚していた。
「で……わたくしのお相手は、貴女様ということでよろしいのでしょうか?」
埃を払いながら起き上がると、民家の屋根の上の誰もいない空間へ向かって声をかける。
「あら……さすがに気付いたのね……ご名答、人の国で随分好き勝手やってくれちゃって……相応の報いを受ける覚悟はあるって事でいいのよね? お嬢ちゃん」
そんな声と共に現れたのは銀の胸甲を纏った金髪の女性……エーリカ姫だった。
「そんな本気にならないでいただきたいですわ……ピンポンダッシュって知ってます? 人様の家の玄関をノックして、そのまま逃げるんですって……けど、いたずらと侮っちゃ駄目ですよ。それだけでも、どんな人が住んでるかとか、どんな性格かとか色んな事が解りますからね。わたくし達の目的はまさにそんな感じ……帝国の首都の守りがどんな様子なのか……わたくし達とどの程度戦えるのか……戦って敵の力量を計る……威力偵察ってとこです。それと気分の問題ってとこですかね……帝国の首都が燃えちゃったとなると、周りはどう思いますかね。帝国の戦艦も大した事なかったですけど、雑魚キャラも秒殺出来る程度……。いよいよ、ボスキャラの登場ってとこですかね……楽しくなってきましたわ……うふふっ」
カヤはそう言うと、コロコロと笑う。
その態度にエーリカも引きつった表情を浮かべるが、ここで手を出すほど短絡的でもなかった。
「けど、この国……住民も軍もなかなか優秀ですね……グッド、実にグッドですよ。空襲なんて初めての経験でしょうに……住民はパニックにならず大人しく引き篭もって、軍は対空迎撃とか無駄なことせずに火消しに専念。先程、わたくしに挑んだ方々も第一陣が殲滅されると怪我人連れて引き上げていきましたからね。引き際としては、お見事でした……勝てない相手には挑まない……賢明ですね。それに……アオイ先輩が苦戦するような相手がいるなんてその時点で驚き。……きっと貴女もさぞお強いんでしょうね。部下も連れず未知の敵に単身相対するとか……要は部下を連れても無駄死にするから一人で来てるって事。自信もあるし、戦力としても雑魚兵とか比較にならないレベル……なんですよね?」
ギリギリと歯噛みしながら、エーリカは拳を固く握りしめる。
この女の言い草は酷く癇に障った……あまりに強く握りすぎた為、掌に爪が食い込んでじわりと血が滲む。
「ねぇ……貴女、少々おしゃべりが過ぎるんじゃない? 確かに部下は全員下がらせてる……理由は貴女の言うとおり。一般兵じゃ、無駄死にするだけだからね……けど、戦えるのが私一人だとおもってるのかしら? 帝国舐めてるのかしら? 一度、死んで見る?」
努めて、冷静に……そう自分に言い聞かせながら、エーリカは静かに言葉を返す。
熱くなったら、負け……この手の相手に冷静さを欠いては、勝利は覚束ない。
「あら……なかなかの気迫……これはやりがいがありそうですね。それにしても……1kmの距離を狙撃するスナイパーやそれを可能にする兵器……。この世界には銃は無いって聞いてたのに、ライフル銃なんて用意してるなんて、感心しましたわ。しかも、撃つ直前までこのわたくしに気配を気取らせないなんて素晴らしい相手です……。こう言う攻略難易度の高い敵をわたくし達は探していましたの」
彼女の言葉に、エーリカは内心驚愕していた。
彼女はほんの僅かな交戦で帝国側の情報を正確に把握していた……その上、皇城に残してきたくろがね達の存在もその最新鋭と言える兵器についても気取られている。
降下してきた敵兵の装備から、敵は西方だと言うのはほぼ確定だったが……。
エーリカ達は向こうにそんな余力は無いと判断していたのだ。
それだけに、このような帝都強襲など……予想の遥か斜め上だったが、こんな超級戦力がいたからこそ、起死回生の一手を打ってきた……恐らくそういう事だった。
銃の件は……しろがね辺りの支援だというのはエーリカにも見当付いたが、わざわざ教えてやる必要もなかった。
けれど、エーリカも確信する。
この敵はこの場で殲滅すべきだった……逃したら、今回の戦いの戦訓を元に本腰を入れた襲撃を仕掛けてくる。
当然、次はもっと被害が出る。
こんな空挺戦術なんて方法を使われたら、いつ何処が襲撃されるか解ったものじゃない……。
帝国領内にも人造湖や硝石鉱山、炭鉱など重要な施設はいくらでもある。
科学院あたりをやられたら、帝国の技術開発に致命的な打撃を受けるのは想像に難くない。
現状、それらが敵に襲撃される可能性は、全く考慮されておらず、無防備なのだ……そこを空から少数精鋭に狙われると帝国と言えど手の打ちようがなかった……。
さらに、北の軍勢と連携されて、もっと大規模な空襲……もう考えるだけでゾッとする。
そして、もう一人の敵……。
あのダインと互角どころかダインからは絶対にくるなと警告までされているのだ。
どの程度、戦えているかは解らないが、ダインからは通信すらも拒否されている状況。
つまり、話をする余裕すらない……苦戦中という事だった。
「ピンポンダッシュとは言ってくれるわね……。あんたらの攻撃でどれだけ犠牲が出たか解ってるのかしら? こんな人口密集地で無差別攻撃なんて……非人道的にも程があるわっ! けど、一応名乗りくらいしてあげる……我こそは帝国第三皇女エーリカ! 帝国の守護者たる私の前でこの蛮行! もはや、無事に帰れるなんて、思うんじゃないよっ!」
そう言うとエーリカは予め準備してあった魔術を無詠唱で解き放つ。
直後、カヤを取り囲むように背後、左右で一斉に連続して爆発。
当然ながら、相手は回避する……けれど、前に出るか上に飛ぶかしか道はない。
敵が空中へ逃れる様がエーリカにもはっきりと見えた!
「もらったッ!」
エーリカは勝利の確信と共に、半径2mはあるような巨大な魔法陣を空中に描く!
そして、その魔法陣から極太のレーザーのような光条が放たれるッ!
「極光ッ! オーロラテンペストッ!」
文字通り光の速度の攻撃……回避する余裕などある訳が無い……それに、空中へ逃れてくれたのも、市街地への被害も出ない……実に理想的な展開だった。
「オーロラテンペスト」……エーリカの持つ最大最強クラスの魔術。
要するに、大口径レーザー攻撃……その火力は、戦車ですら一撃で蒸発させた程の絶大なモノッ!
くろがね相手では、魔術自体が発動前に潰される上に、あの絶対防御の前には、これですらほどんど効果がない事は解っていたので、使わなかっただけ。
本来の姫様の戦い方は無詠唱の高速発動魔術による連続火力投射……。
要は、高火力によるゴリ押しと言うのが本来のスタイルなのだ。
爆炎により、逃げ場をなくした上での必殺の極大レーザー。
如何なる敵であろうが殲滅出来る! 防ぐ方法などあるはずがなかった。
(ちょっと、やりすぎちゃったかな……これじゃ跡形も残らないかも……けど、まぁ……いいか)
エーリカは、その瞬間、己が勝利を微塵にも疑っていなかった!
さぁ、第一章のラスボス、エーリカ姫VSカヤ様の一戦が始まりました!
サブタイトルは、佐藤大輔氏の名著「皇国の守護者」の一節からのパクリです。(ドヤ顔)
あと…色々開き直って、タイトル変えてみました。
「転生したら、ちびロリ娘! 色々パクって物理最強、兵器錬成の女王目指します!」
なんか、ポンコツ臭漂うタイトルですが…なにこれ? って感じで目を引けばいいなーと。




