第十九話「帝都炎上」③
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第十九話「帝都炎上」③
---3rd Eye's---
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「……ふふっ、先輩……そろそろ、悪の帝国の首都上空ですね。敵の迎撃……ワイバーンだかなんだかが上がってきてるので、これ以上高度は落とせないそうです。なので、高度1000mからの自由落下ダイブってのが一番いいでしょうね。先輩……いえ、勇者様なら問題ないですよね?」
隣で軽くとんでもない事を口走る相棒の声に、アオイは思わず頭を抱える。
「……あのさ、カヤちゃん……さらっと酷いこと言うね。けど、ドラゴンに咥えられて、100mくらいから叩き落とされても平気だったから、大丈夫だと思う。確かにパラシュートとかでゆったり降りてたら、着地地点に団体さんが待ち伏せとか……。上から見てる感じだとそんな感じ……やっぱり月明かりが邪魔だったねぇ……先行して地上降下した隊はまともに戦えてない……せいぜい戦力分散させたくらいかな。 爆撃も駄目だね……せいぜい火事を起こしたくらいで、すぐ消し止められちゃってるみたい……。そうなると、まっすぐ爆弾みたいに投下ってのが面倒無いのは解るけどねぇ……。厳しいとは予想してたけど、なんかもうグダグダ……酷いなこれ」
「仕方ありませんよ……相手の対応が思った以上に的確ですからね。もっと、右往左往してグダグダになると思ったのに……混乱してたのは最初だけ……。爆撃や工作員の破壊活動であちこち炎上してたのに、割りと速攻消し止められちゃったし、市民もパニック起こしてないし……。月明かりの中を騎兵が街中走り回ってて、降下部隊が合流する前に各個撃破とか……なんなんでしょうね。飛行船団も高度を落とした船がワイバーンとか、バリスタの攻撃で何隻か落とされてるみたいですよ。この調子だと全部落とされそうなので、さっさと降りましょう……下で合流しましょうね」
「うわぁ……帝国軍って地味にスゴくない? これ……この世界の史上初の空爆なんだよね? なんでこいつらそんなのに対応出来てるの? ここまで来るとキモい! はっきり言って、敵に回したくない国だけど……だからこそ、私達がここまで来た……そういう事だからね。とりあえず、降りたら集まってきた敵を蹴散らして合流。向こうの大戦力が出て来たら、適当に相手して、頃合見て二人で撤退……これでいいね?」
「そうです……敵の首都に被害を与えながら、敵の大戦力をぶっ潰す……これが目的ですからね。帝国お抱えの使徒ってのが二人いるから、そいつらと噂の魔王軍……これも数名ほどいるみたいです。どいつもこいつも強敵ばかりみたいですけど、そいつらと可能なら一戦交えたいところですわ。けど……アオイ様とわたくしの最強コンビ相手にどこまで戦えるのかしら?」
「カヤちゃん……慢心は良くないよ? 相手はたった17人で10万の軍勢を打ち破るような連中だよ。アリーさん達の報告だと、魔王軍の戦闘要員が4人はいるってさ……ブラックロックとか呼ばれてる猛者も来てるって……まいったね……こりゃ」
「ふふっ……またまたぁ……本当はワクワクしてるんですよね? わたくし達これまで雑魚の相手ばかりでしたからね……ここらで、思い切り戦いたいですわ……。」
「解る? やっぱ、相手が強いとなると燃えるわ……バックアップはカヤちゃんに任せるよ。……引き際の見極めはカヤちゃんに任せた……じゃあ、おっさきー!」
アオイはそう言うと、飛行船のカーゴルームから、無造作に空中へ飛び出し、眼下の町並みへと垂直に落ちていく。
燃えるような赤い鎧をその身に纏い赤い髪をなびかせながら、腕を組んだまま何の工夫もなくただ落ちていくその姿は傍目には飛び降り自殺にしか見えないのだが……アオイは笑っていた。
「それでは……ここまで送っていただきありがとうございました。皆様のご武運をお祈りいたしますわ……御機嫌ようっ!」
続いて、カヤも飛行船のクルーに別れを告げると、同じように飛び降りる。
「総員! 敬礼っ!」
クルーたちは直立不動で揃った敬礼を見せると、カヤを見送る……クルー達もカヤとは今生の別れとなる事を承知していた……クルー達も情報軍の軍人なのだ……もとより覚悟の上だった。
飛行船の船長は、カヤの降下を見送るとクルーたちに向き直る。
「諸君、勇者様達を帝都へ送り届けると言う任務はたった今、完遂したっ! 我らは最後の仕事をするとしよう! 総員、覚悟は良いな……本船はこれより、帝国皇城へ吶喊する! 西方諸国連合に栄光あれっ!」
「祖国の栄光の為に! 帝国に鉄槌をっ!」
クルー達全員も唱和する。
あの強大な帝国艦隊をあっさり叩き潰した勇者達ならば……帝国に一矢報いてくれるのは間違いなかった。
飛行船のクルー達は、そんな確信と共に進路を皇城へと向けた……。
一方、カヤは……深い紺色のセーラー服のような服装で、真っ白な髪をたなびかせながら、こちらは自由落下というより、不自然にゆっくりとふわりふわりと鳥の羽のように落ちていく。
彼女の少し上には、ダマになった糸のようなものが浮いており、即席のパラシュート代わりにしているようだった。
「あのひときわ大きなお城みたいなのが……敵の本拠地なんですかね……。巣穴を叩けば、それなりのが出てくるでしょう……それっ! 朝ですよー! おきなさーい! なんてね」
彼女が右手の人差指を帝城に向けて、小さく掛け声をかけると、彼女の指先から光条が放たれる。
そして、それは10条ほどに分かれ、不自然な軌道を取りながら、皇城に着弾し爆発する。
更に、地上にも同じように光条を次から次へと放つ。
たちまちのうちに、地上は最初の爆撃など比較にならない程、至る所が爆発炎上し始める。
カヤが投射した光条は分裂し、全部で200発近くにも及んだ……一発あたりの威力も半径30mが半壊するほど!
避難民が集まっていた教会が倒壊し、消火活動を行っていた治安部隊の小隊が直撃を受け消し飛ぶ!
他にも至る所で、次々と爆炎が吹き荒れ、兵馬、民間人、建物……無差別にあらゆる物をなぎ倒す……この僅かな時間で行われた攻撃だけで、地上の被害は凄まじいものとなる。
さらに、地上でひときわ大きな爆発と共に巨大な火柱が立つ!
「アオイ先輩……早速ハイパー化しちゃったんですか……早くないですか? となると、あそこに強いのが……おっと」
カヤがそうつぶやき、急降下すると先程まで彼女がいた空間で盛大な爆炎が広がる。
さらに、彼女はすいっと身体を傾ける。
ヒュンと、擦過音……ワンテンポ遅れて銃声。
「最初のは魔術……ですかね……。それに今のは銃撃? この世界に銃なんてなかったはずですけど……。音があとから来たとなると、音速超え……地上からの長距離狙撃……夜間で、この距離で当ててくる?」
カヤは続けて、皇城に更なる砲撃を仕掛けようとしたのだけど……追撃の一弾の方が早かった!
今度は直撃……カヤの身体が大きく吹き飛び、地上へと落下していった。
空から舞い降りる連邦の白い悪魔!
まさに、そんな感じです。
カヤ様のほうがよほど、魔王様っぽいです。
いきなりやられてますけど。(笑)
カヤちゃんの本気は、こんなもんじゃない。
カヤちゃんパラシュートは、要は巨大なたんぽぽの綿毛みたいなもんです。
これと風魔法を組み合わせることで、空だって飛べちゃいます。
なんとなく、メルヘンチック。




