第二話「魔王様とわたし」②
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第二話「魔王様とわたし」②
---Kurogane Eye's---
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弓なんかも……試しにやらせてもらったら、あさっての方向に飛んでく有様。
実は弓ってものっそい熟練が必要。
たぶん、一年くらい年中無休でやらないと、モノにならない。
……おまけに弓の威力だと、皆強力な防護シールドみたいなのが標準装備なので、素だとまったく歯がたたない。
仲間達にも弓の使い手は居るんだけど、彼女達は弓自体に魔力を乗せて、防御シールドを撃ちぬいたり、ホーミングさせたりと色々多芸っぷりを見せてくれた……。
魔法が使えないわたしにはハードルが高すぎる……と言うことでアーチャー道は早々に諦めた!
やっぱり、銃っ! 銃ですよ! 先生っ! わたしに銃を撃たせろーっ!
あえて自慢と前置きさせてもらうけど、わたしも銃についてゲームを通じて興味を持って色々調べたし、多分ガンマニアとか言われても否定出来ない程度には知識を溜め込んだもので……連鎖的にミリタリーな方面に無駄に詳しくなってしまった。
あれね! Wikipediaでリンク、リンクで、気が付くと当初と関係ない記事見てたってあんな調子……。
暇人だなぁって思われるかもしれないけど、実際病人ってすごく暇なの……。
ご飯食べて、たまに検査とか言って血を抜かれたり、朝晩体温と血圧測ったりとかそれくらい……後は、基本大人しく寝ててって感じ。
……我が愛しのタブレットちゃんには、VRクライアント機として、漫画、小説の電子ブックリーダーとして、そして、Web端末として、大いに役に立ってもらった。
あれは……数少ない遺品になってしまったと思うけど、指紋認証プロテクトかけといて良かった。
アレのSSDには……あんなモノやこんなモノが保存されているので、死後確実に抹消される様に手は打っといた。
そりゃあ……わたしだって人並みに……その……えっちぃ事とか興味くらいはあった訳で……色々とBとかLなゴニョゴニョ……とかね?
それはともかく、ゲームにガンコレクションルームなんて機能があったので、バーチャルで好きなだけ古今東西の銃火器を弄り倒せたので、構造とか原理についてもかなり理解している。
けれど、銃をイチから作れるかといえば、銃の歴史の初歩レベルの火縄銃とかでもとても無理。
バーチャルな世界でなら、わたしの主力武器だったAK47とかモシンナガンの分解整備とか体験してるし、拳銃をバラバラの部品から組み上げたり、グリップを手に馴染むように削るとか、ウェイト調整でバランス改善とか、カスタマイズとかメンテナンスはお任せですよ。
けど……銃の知識があって構造も知っているから、じゃあ銃を作れるかってなると、んなわけ無い。
それとこれとは、基本まったく別の話。
テレビや車の原理や構造を知ってるからといって、イチから作れるかと言えば、そんな事はまずあり得ないでしょ。
……それと一緒だと思えば、わかり易いんじゃないかなぁ。
もっとも、わたしの場合、鉄で出来たものをイメージした形で作り出すと言う錬成と言う特殊能力があって、ひょっとしたらこれでっ! とか希望をいだいたのだけど。
今のところ、イメージしたものの形をした鉄塊……つまり、文鎮程度の役にしか立たないものしか錬成できなかった。
銃についても……歪な形をしたモデルガンの出来損ない……みたいなのなら作れたんだけど……やっぱ文鎮。
おまけに錬成したものは、手放してしまうとすぐに蒸発するように消滅してしまうので、まったく何の役に立たない。
そもそも、火薬もないのに銃だけ作れてもどうしょうもない。
話を聞いた感じだと、こんな風にイメージした物質の錬成が出来るなんてのは、一応何人かはいるみたいなんだけど、手探りの部分が大きくて、まともに使いこなせている人が誰も居ないようなのだ。
魔王様に聞いても錬金術という錬成魔術に関する文献はあるから、頑張って読んで学べと言われてしまった。
誰か先生とかお師匠様みたいなのが居ればなぁ……と数少ない錬成術の使い手、黄玉さんと溜息を付き合ったりしたもんだ。
一応少しづつだけど、錬成した物の形がそれっぽくなっては来てるので、どうも使えば使うほど洗練される……つまり経験値によるレベルアップとか、そういうものらしい。
だから、色々研鑽を重ねれば、便利になっていく面白い能力だと思うけど、今のところ全然切れない剣が作れる程度で、チート能力にはほど遠い……まぁ、そんなもんでしょ。
現状としては……洗濯とかお料理、お掃除要員とかそんなのが適切で……お留守番要員かなぁってのが正直なところなので、しろがねの高評価はちょっと盛りすぎだと思う。
お姉ちゃんだからって、身内贔屓はやめて欲しい……魔王様にもわたしのヘタレっぷりをちゃんと解ってもらわないと。
「しろがね……なにそれ、盛りすぎだってば……魔王様もわたしのヘタレっぷり知ってますよね? 訓練でボッコボコにされて、わたし何回泣きながら帰ったと思ってるんです? もうダメダメダメのダメダメイドの自覚ありまくりなんですから、過大評価とか勘弁してくださいっ!」
思わず、そう声をあげる。
うん……恥ずかしながら、涙目どころがグシュグシュと泣きながら、トボトボと部屋に戻って引きこもる……なんてのを何度もやらかしてる。
こんなが過大評価の挙句に実戦とか死ねと言われてる等しい。
わたし、二度も死にたくないよぉ……。
「いやいや、盛ってないのよ……これが。なにせ、日々この私が直々に訓練してるし、くろがねが色々努力してるのも知ってる。そのうえでの評価……これでも私はくろがねを高く評価してるのよ……もうちょっと自信持っていいって、いつも言ってるじゃない。なので、ここは黙ってるように……魔王様、続きいいですか?」
鷹揚に頷く魔王様。
しょうがないので、わたしも黙る。
「実際、琥珀や翡翠あたりだと……あのコ達、良くも悪くも遠近両用の万能タイプの典型なんですけど。遠距離攻撃はまともに当たらないし、例え当たっても物ともしない。接近戦挑むと打ち合いの時点でパワー負けして、練習用武器じゃ壊れされて全然歯がたたないって言ってました。まぁ、この辺はどっちかと言うと私達金属系マテリアならではってとこなんですけどね」
あー、琥珀ちゃんね……あの娘、二刀流で早いんだけど、攻撃が軽いから結構わたしでも勝てるんだよね。
てか、何……この路上の怪物KV2みたいな言われよう……話だけ聞くと重装甲重パワーのヘビー級モンスターじゃないの。
「そうじゃなぁ……お主等、金属系マテリアは……わしの娘達のなかでもかなりクセがあると言うか、尖った奴ばかりじゃからのう。おかげで黒鉄が色々苦労しとるのはよく知っとるわい……白銀もよくやってくれとる」
「ありがとうざいます! さすが、よく見てらっしゃるんですね。魔王様。それとたぶん、これ……本人気づいてないと思うんですけど。くろがねって、目をつぶってる間限定みたいな感じで、やたら強力なシールドを生成するみたいで、そうなるとそもそも攻撃してもムダ……みたいな感じになります。戦闘中いっぱいいっぱいになると、目を瞑ってしゃがみこんじゃうんですけど……ああなると、全力で攻撃してもビクともしないんで、本人が解除してくれるまでは周りは本気で何も出来ません。それに最近、それを展開しながら突っ込んでくるって大技を覚えたみたいで……私も防御全開でかろうじて受け止められるような有様でして……。くろがねのそのシールドって虹色の六角形が連なったような感じで、明らかに普通のと別物なんですけど……魔王様……なんか知ってます?」
「なにそれ……? って言うかわたし、そんなの全然知らないんだけど!」
何と言うか、しろがね……何言ってんの? 的なトンデモ能力の話がいきなり出てきた。
わたし達の防御手段……これには大雑把に分けて二種類ある。
身体保護の物理保護膜……これは身体を膜のように覆う全体防御タイプのシールドで、戦闘モードに切り替えた時や、身体への衝撃などに反応して自動発動する。
コレのお陰で何もないとこでコケまくるわたしのようなドジっ娘でも、ヒザ小僧の生キズとかアザとは縁が無くなった。
ただ……強度はそんなでもないので、これに頼るようだとほぼ終わってる……訓練でもこれが破られるとその時点で終了。
もう一つは、防御シールド。
コレは透明なラップみたいな感じで、自分の意思で展開、設置する。
自分の手に貼り付けて、盾みたいに使ったり、空中に設置して遮蔽物にも使える。
形や大きさや強度もある程度調整可能で、狭く硬くしたりも出来るし、大きく薄くってのも出来る。
個人的には、30cm四方くらいにして、そこそこの硬さと小回りを優先している。
壊れる時はガラスみたいにパリーンって割れるのは……いわゆる様式美……だよね。
私の場合、この防御シールドの扱いがそこそこ巧みで、おまけに基本の防御力が高いみたいで、鉄壁の防御とか言われてる。
まぁ、守りには自信あるからね……ビビリ故にっ! けど、目を瞑って、バリアーとかは知らないよっ!
確かに、訓練中に何度かもういやーって感じになって、目を閉じてしゃがみこんでしまった事があったけど。
追撃しないのは戦意をなくしたとみなした上での武士のお情け……じゃなかったの?
「ほほぅ……ソレはひょっとすると「絶対防御」かもしれんなぁ……。鋼、お主の意見を聞きたい……わしの娘達のなかで、アレを使いこなせるのはお前くらいじゃろ?」
魔王様がそういうと、魔王様の後ろに控えていた一際背の高い……ひとことで言えば、大きくなったわたし……みたいな感じの鋼お姉様が前に出る。
白と黒のモノトーン巫女服みたいな感じの清楚な雰囲気の服装で黒髪ロングで赤い目。
これぞ和風美女って感じの綺麗な人。
鋼お姉様……魔王軍の武闘派ツートップと言われる強者のひとり。
防御力ならダントツナンバーワンと言われるほどの方で、わたしの同系統上位互換にあたる……つまりお姉様。
なんか、たまに日本の古語……大和言葉らしきものが素でポロッと出ることがあるので、わたしは日本の平安時代とかの人だったんじゃないかなぁと思ってるんだけど、そのへん本人もよく解ってないみたいなので、あまり深くはつっこんでない。
とにかく、わたしにとってはしろがねと同じく特別な人……ちなみに、この赤いリボンをくれた当人でもある。
「そうですね……発動条件がちょっと微妙な感じだけど、六角形の組み合わせで視認できるシールドとなると、絶対防御の可能性が高いですね。黒鉄……目をつぶってる間、周りが静まり返っていたのではなくて?」
鋼姉様の言葉にうんうんと頷き返す。
確かに、いつもやたら静かになって、目を開けると音が戻ってくるとか、そんな感じ。
ちなみに、その六角形の組み合わせのバリアーみたいなのは見たことないし、たぶん永遠に見れないんじゃないかって気がする。
と言うか、目をつぶってる間だけ発動する無敵バリアーって……使いにくくね? ……普通に。
「なら、間違いなく「絶対防御」でしょうね……あれは音や振動すらも遮断しますからね。それも全周防御タイプですか……。くろがねは、わたくしの妹ですから……守りの極みたるこの技を無意識に使いこなしても、わたくしは驚きません。それと、絶対防御についてですけど……わたくしの知る限り、これを破れるような攻撃はありません……文字通り無敵の楯です。素晴らしいです……そう言う事なら、今後、きっちりと使いこなせるように使い手たるわたくしと特訓でもしましょう。この技は貴方と貴方の友の命を守る絶対なる楯となるのですから……是非使いこなして欲しいですわ」
そう言って、優雅に微笑むといい理由を見つけたとばかりをわたしを抱きしめる鋼お姉様。
けど、鋼お姉様……なにげに結構厳しいって白銀が言ってたよ?
特訓とか言って、間違いなく「地獄の」って前置詞が付くと思う。
「鋼お姉様……ありがとうございます! ぜひ、お願いします。」
と言っても、話の流れ的に断れるはずがないよね。
鋼姉様は軍隊で言えば将軍クラスの立場に位置する為、普段はわたしとあまり話をする機会もないのだけど、鋼姉様はプライベートでは、わたしを妹扱いしてくれている。
しろがねみたいに表立って、べったりって感じじゃないけど、結構可愛がってもらってる……。
部屋で二人っきりになったりすると、しろがね並にデレッデレになるし、なんかよくしろがねとわたしの争奪戦みたいな事やってる。
わたし、モテ期到来……って、そりゃちょっと違うか。
それにまぁ……これがわたしの将来の姿かと思うと、何と言うか……色々期待やあこがれみたいな感じもしてくる。
それにしても何と言うか……わたしは自分が思ってる以上に、ハイスペックらしいという事は解ってきた。
と言うか、無敵モード持ちって、普通にチートスキルでしょ! しかも、今まで気づかなかったって……誰か、ツッコミ入れてよッ!
「くろがね……わしは、お主には色々と期待しておるのじゃ。もっと自信を持って良いのだ……お主達金属マテリア属はわしの娘達の中でも最強のポテンシャルを持つのじゃからな。案の定、色々と面白いことになってきておるではないか……まったく楽しみな奴じゃのう……」
そう言って、私の頭を優しく撫でる魔王様……他の皆も、その光景を微笑ましげに見つめていた。
もしかして、わたしって意外と愛されてる?
ちょっと驚き……ヘタレの役たたずのモブキャラって思ってるのは卑下しすぎなのかな。
そんな風に改めて思う。
……そして。
こんな調子で皆集まってることだからと、何やら美味しそうなお料理やらお菓子の乗ったワゴンが出てきて、魔王様主催の魔王城再浮上記念パーティみたいなのが始まってしまった。
魔王軍……何て言うとゴゴゴッて擬音がいつも鳴ってて、物騒な化物集団ってイメージだったけど、我らが魔王軍は……こんな調子。
だって、ここにいる皆は……別の人生を生きていた普通の女の子達なんだもん……美味しい物は好きだし、可愛いのだって大好き。
魔王様だって、こんな風にお気楽風だし、陰気にこそこそ世界征服とか趣味じゃない。
地上に出たら外界の人たちと一悶着あるかもしれないけど、こっちも完全自給自足って訳にはいかないし、資材とか食料とか色々地上に出ないとどうにもならないものがたくさんあるから、定期的に地上に上がらないといけない。
今回は人が住んでない誰も近寄らないところを狙って浮上するって話だし、平穏無事に済むんじゃないかと思う。
それにしろがねの言ってた温泉もいーなー。
結構、旅番組とか見て、憧れてたのさ……わたしも夢気分したいなーって。
この時点では……そんな風に、皆気軽に思ってたんだけれど……。
この直後に、わたし達の運命を大きく揺さぶる出来事が起こるなんて、きっとその時は誰も思ってやしなかった。