第十九話「帝都炎上」①
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第十九話「帝都炎上」①
---Kurogane Eye's---
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それから……。
促されるままにバルコニーへ連れられて、姫様と向かい合わせに座る。
飲み物が出されたので、ありがたくいただく……。
甘くてシュワシュワしてて、何とも不思議な味のする飲み物だった。
と言うか……炭酸飲料だこれ……こんなものまであるんだね……。
そして、姫様、物凄くご機嫌そう。
「お疲れ様ぁ……くろがねちゃん、それにしろがねちゃんも。さっきのダンス、すごく好評だったわよ。」
「あはは……ありがとうございます。思わずノリノリで踊っちゃいました!」
「実は、あなた達って結構警戒されてたり、どう扱っていいか解らないって戸惑う声も多かったんだけど。さっきのあれ見て、普通に可愛らしい女の子じゃないかって、皆思ってくれたみたいなのよね」
まぁ……そうだよね。
わたし達って普通にパッと出の謎武装集団って感じだもんね。
けど、少しは見方が変わったのなら、嬉しいな。
「それと……ワイズマンから聞いたけど。あなた達……例の敵と戦ってくれるそうね……。ワイズマンが言うには、勝算ありって話だったけど、どんな悪巧みをしてるのかな? ねぇ……くろがねちゃん、こっそりでいいから教えて?」
「えっと、まずは敵の戦車を分捕りに行こうかなって……。さっき敵の戦車見せてもらった時に、ドイツ軍の小火器が意味もなく積まれてた形跡見つけちゃいましたから。わたし的には、カモがネギ背負ってきたような感じだったりして! なんか、敵も……なんとかチャリオッツとか言うわたし達のお仲間らしいんですけどね。ワイズマン様も引っ掻き回すだけのお邪魔虫だから、やっちまえって言われてるんでやっちゃいます!」
そう言って、わたしはにこやかに笑いかけた。
「……詳しくはくろがねちゃんに聞けとか言われてたけど、想像以上ね! なんとかチャリオッツって……「混沌の戦車」の事かな……。そっか、アイツだったんだ……まさか、そっち側の使徒が敵だったとはね……。けど、納得……要は私達がいるから帝国を敵視してるって事か……そりゃ、問答無用な訳……だわ」
「やっぱ知ってたんですね……どんな感じのやつなんです?」
「「混沌の戦車」……大量の無人兵器を使って、無制限に戦禍をバラ撒くエゲツねぇ野郎だ。確かにあのやり口はあいつのやり口まんまだな……正直、その可能性は考えなくも無かったが。この世界固有の最後の使徒……魔王様と連携しないなんて、普通はあり得んのよ……。そっちの陣営もなんだかややこしい事になってるのかもしれねぇなぁ……」
それまで黙って、姫様の背後に立っていたダインさんが答えてくれた。
「うーん……。わたし陣営とかなんとか、良く解かんないんですよ。魔王様もワイズマンも、わたしの好きにして構わないって言ってくれてるんで……。正直、ものすご~く気に食わないんで、いっぺんぶっ飛ばさないと気が済まないと言うか、なんと言うか」
「ははっ! そいつはいい……くろがねちゃんらしいな。けどまぁ、実際そいつは「黒の節制」とは犬猿の仲でな……。いつもアイツらが出食わすと、俺らそっちのけで大戦争おっ始めやがるのが常って調子なんだ。黒の節制も無人兵器やアイツに関してだけは、手加減無用だったみたいだからな。おかげさんで、正直、俺らはあいつとはまともに戦った事がほとんどない……」
ああ、やっぱりそうなんだ。
わたしが気に食わない以上、黒の節制も当然ってとこだろうし。
なら、この戦いはまったくもって、わたし的には正当な戦い。
無人兵器なら、誰も死なない……むしろ片っ端からぶっ潰すくらいの勢いで構わない。
(よしっ! 今度の戦いは何の気兼ねも要らない! こうなったら、好きなだけ暴れてやる!)
そう思いを新たに、夜空を見上げる。
月の光、満天の星……眼下に広がるのは街の明かり。
わたしのいた日本の夜景とあまり変わらない……こうやって改めて見ると、帝都はスゴいところだった。
ふと、違和感を感じて、月を見ると、月明かりがアーモンド型の影に遮られるところだった。
飛行船? 確かに実用化されているという話だったが……夜間飛行でもしているのだろうか?
「姫様、ダイン様……帝国って、こんな時間に飛行船飛ばしたりするの? それも無灯火なんて、無茶するね」
つや消しの黒一色らしく物凄く見づらい……目を離すと見失いそうだった。
……夜間飛行で夜間迷彩となると偵察用? よく見ると鳥みたいな飛竜もいて、飛行船を引っ張っているようだった。
それに、よく目を凝らすと、1隻や2隻じゃない……10隻ほどの編隊がこちらへ向かっているようだった。
無灯火であれだけの数を密集させて飛ばすとなると、接触とかの事故の方が問題になるはずなのだけど。
と言うか、どう考えてもおかしいでしょっ!
「なにそれ? 確かに飛行船はあるけど……夜に飛ばすとか無謀な事しないはずよ? 普通に事故るでしょ……」
「科学院や軍からもそんな報告は聞いてないぞ? って、あれか……なんだあの数……」
揃って、訝しげな反応。
この二人が知らないとなると……もう結論は出たようなもの。
「おふたりとも……多分アレは敵です……夜間爆撃、もしくは空挺降下……現時点ではどちらとも言えないです。あんなのがいるなんて聞いてませんけど……どうなんです? ご丁寧に黒塗りで無灯火……単機なら偵察かもしれませんけど、あの規模だと奇襲する気満々ですよ? それに……対空迎撃戦なんて、帝国軍ってどうなんですかね?」
わたしがそう言うと、二人共血相を変える。
「ちょっ! 帝都に殴り込みって……それに飛行船とか、最前線でも出てこなかったのに、いきなり?! うちだって、爆発事故とか危なっかしくて、軍事転用なんて無謀って話になったのに……!」
「くそったれ! 帝都まで攻め込んでくるとか、冗談じゃねぇぞっ! おいっ! 大至急、帝都全域に戒厳令を出せ! 民間人と非戦闘員はなるべき頑丈な建物に集まって、引き篭もってろってな! 魔術院には、戦闘魔術師の総動員、騎士団も当直の連中をかき集めろ! 非番の連中も非常招集で総員出頭! 街灯も全部消せ! 治安部隊も根こそぎ総動員だ! 陛下と皇族、それと賓客連中は皇城最深部にお連れしろ! 急げ!」
ダインさんが怒鳴るように矢継ぎ早に指示を出すと、周囲の衛兵や軍人たちが弾かれたように動き出す。
さすがに決断が早い上に指示も的確だった。
問題は間に合うかどうか……あの位置と速度だと15分程度で上空に到達する……真上に来られてから、大慌てとなるより、多少はマシだったろうけど……この程度の時間では、初動体制を整えるのがやっとだろう。
わたしは、飛行船団の飛来を固唾を呑んで見守り、傍らのしろがねの手を握る。
(大丈夫……全然、怖くないよ……わたしだって、戦える!)
さて…ついに来ちゃいましたね…。
帝都の平和な夜を打ち砕く、天空からの敵!
様々な人々の思いが重なり、ぶつかり合う戦場で、くろがねは何を見るのか?!
それと…第一章の見直しやガンフロの執筆&推敲とかも並行してる関係で、
デイリー更新がキツくなってきたので、ここらで二日に一度ペースにします。
第一章の見直し作業で、一話を分割したり、削除したりしてるので、ブックマーク頂いてる方へ更新通知が行ったりするかもしれませんけど…。
ひとまず、次回更新は12/01のお昼前後アップ予定となってますので、予めご了承ください。




