第十八話「嵐の前の静けさと」③
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第十八話「嵐の前の静けさと」③
---Kurogane Eye's---
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攻めるなら、夜って事でさっさと出撃したかったのだけど。
宮中晩餐会なんてのにご招待されてるって事で、わたし達は晩餐会の会場にいた。
迷ったんだけど、別に敵は逃げやしないし、美味しいものが食べられると聞いて、その誘惑に負けた。
まぁ、いいよね? 戦ってばかりとかなんか違うしさ。
服装とかわたしの黒の節制のレプリカ仕様の服は、割とフォーマルでも通じる格好だったんだけど。
わたしのサイズに合わせた黒い綺麗なドレスなんかも用意してくれてて、髪型もアップヘアーにまとめてもらっちゃって、アクセサリーなんかもゴチャゴチャ着けてくれた。
鏡で見たら、なんかお姫様みたいな感じで素敵っ!
お化粧までしてもらったから、すっごくお姉さんっぽくて、思わず見惚れる。
うっわぁ……わたしって、こんな美少女だったんだ!
ハイヒールなんて、履いたことも無かったけど、背が5cmくらい高くなってなんか気分いい。
最初はバランス取るの難しかったけど、慣れれば問題ない。
ちなみに、着付けなんかは侍女の方々がやってくれたので、わたしはほとんど立ってるだけ。
ドレスやアクセサリーはなんでも姫様が選んでくれたらしい。
おまけに、今のわたしにはCカップくらいのお胸さんがある!
まぁ、パッドなんだけどね! それでもなんかちょっと嬉しい。
晩餐会と言っても、立食形式のバイキングって感じなんだけど、出て来るモノ、出て来るモノいちいち豪華!
食べ物なんかは、変な形の果物とかはあったけど、普通に美味しかったし、お肉とかお野菜も色が変とかそんな事もなく、形も味もわたしの知ってるものと似たような感じ。
そりゃあもう、片っ端からご相伴させていただき中。
しろがねとあれが美味しいこれが美味しいと、色々そっちのけで食べ歩き状態。
ちなみに、しろがねもドレス姿……向こうは青い空色のドレスでやっぱり可愛い。
なんだか、いっぱい人が来てるんだけど。
東方同盟各国の代表だったり、帝国軍の軍人さん……他に綺麗なおねーさんもいっぱい。
まぁ、その辺は紅玉さんやワイズマン様が相手してくれてる。
また紅玉さんが暴走しないかなとか思ったけど、その辺はわきまえてるようで、おとなしい感じ。
たまによく知らない人に挨拶とかされるんだけど、こっちは食べるのに夢中なんで、割と気がそぞろ。
だって、美味しいんだもんっ!
一応、テーブルマナーとか魔王様に教えてもらった事あるから、少しは解るんだけどね。
こんな豪華なお料理……魔王城でも食べたこと無いし……前世で入院してた時だって、食事制限とか何とかで、まともなご飯なんて食べられなかったんだからねっ!
だから、わたしは美味しいものを食べるととっても幸せ!
時間があれば帝都で屋台巡りとかもしてみたーいっ!
「いよぉ……くろがねちゃん、その様子だと楽しんでもらってるようで何よりだ」
三回目のおかわりのローストビーフっぽいのをハムハムやってたら、唐突に声を掛けられた。
ダイン将軍だった……燕尾服なんて着て、ちょっとニヒルな感じの笑顔。
そう言えば……この人、しろがねもだけど、わたしの命の恩人でもあるんだよね。
考えてみれば、ちゃんと俺も言えてないし……ゆっくりと話もしてないや。
慌てて、お皿を置いて、口の中のローストビーフをもぐもぐと咀嚼して飲み込む。
しろがねが口元をハンカチでさっと拭ってくれる。
あう、ソースが付いてたっぽい。みっともなっ!
「こんばんわ! 御機嫌いかがですか? ダイン将軍閣下」
そう言って、スカートの両端を摘んで、笑顔とともにペコリと挨拶。
よし、挨拶は完璧!
「ああ、ご機嫌だよ……くろがねちゃんも、そうしてるとどっかの国のお姫様みたいだな。まぁ、色気よりも食い気って感じだが……楽しんでもらってるなら、一向に構わんのだがな。どうだ? ここらで俺と一曲踊っていただけませんかな? お姫様」
そう言って、跪かれて手を取られて、軽くキス。
うっひゃあっ! なにこれ!
「あうあう……わ、わたし……社交ダンスとか全然解かんないですよっ!」
思わず、顔が熱くなる。
と言うか、この人……姫様の婚約者じゃないの? と思って見渡すと、すぐそばに姫様がやってきていて、相手してやってくれと言わんばかりに頷いている。
まぁ……その辺、気にしなくて良いのか……社交辞令って奴なんだろうし。
むしろ、ここで断ったりする方が将軍に恥をかかせるって事になるから、駄目なんだよね?
「俺がリードしてやるから、問題ない。まぁ、任せとけっての。お前さんの戦いぶりは見せてもらってるしな……あれだけ動けるなら、ダンスなんて余裕だろ?」
そんな事を言われながら、ちっちゃなわたしとおっきな将軍とでダンスが始まる。
身長差が60cmくらいあるので、結構無理がある感じだったけど、その辺上手く取り繕ってくれている。
異世界の社交ダンスとかどうなの? と思ったけど、音楽に乗せて男女が踊るってとこは一緒らしい。
時々、背中を抱かれてふわりふわりと浮かされて、踊ってるというよりも振り回されてる感じなんだけどね!
こんな風に男の人と密着して……なんて、こっちは始めてなんですけど!
ううっ、男慣れしてないとかバレバレっぽくて、恥ずかしいっ!
しろがねは? と思ったら、エーリカ姫様としろがねで、しろがねが男役って感じで隣で踊ってた。
なんで? とか思ったけど、結構上手い……なんか独自のダンスっぽくて、姫様のほうが戸惑ってる感じなんだけど……。
ちっちゃなしろがねに手を取られながら、ぎこちなく踊る姫様はなんか保育園の保母さんみたいで微笑ましかった。
「くろがねちゃんも、始めてにしちゃまぁまぁだな……けど、しろがねちゃんのアレはなんだ? エラく堂に入ってるし、見た事ないダンスだなぁ……エーリカの奴は……ははっ! 子守やってるみたいだな。彼女も……その転生者とかそんな感じなのかい? お前さんはエーリカと同郷って聞いたけど」
ダイン将軍がぼそっと呟くようにそんな感想を漏らす。
「私と姫様とは同じ国みたいです……微妙に違う感じもするけど、大体合ってる感じです。しろがねは……よく解かんないけど、わたしのいた世界の過去の時代のコっぽい。貴族とかそんな感じだったんじゃないかな……」
「そうか……まぁ、お互い色々あるさな」
「えっと、将軍は? なんかすっごいSFっぽいかっこしてたけど……何なのあれ?」
「将軍じゃなくて、ダインとかで呼び捨てでも構わんぜ……くろがねちゃん。けど、おじさんとか言うなよ? まだそこまで年食ってねぇしな。まぁ、俺のアレは……戦装束ってとこなんだが……説明めんどくせぇから、そのうち……な? どっちにせよ……お前さんと争うつもりはこっちにゃないから安心しろって……。もっとも「黒の節制」とは何度か戦ってる間柄なんだがな……ボッコボコに負けて、死にかけたりもしたぜ」
やっぱはぐらかされちゃったか……と言うか、何がどうなってああなったのか。
「黒の節制」の状態でも訳の解らないまま、気が付いたら抱き抱えられてたんだもんねぇ……。
たぶん、あの感じだとわたしだけ倒した上で、姫様だけを助けることも出来たんだと思うけど。
この人はわたし達二人をまとめて助けあげてくれた……。
「黒の節制」の件は……たぶん、どこか別の世界での事なんだろうけど。
知らないとは言え、半ば我が事なので、何とも申し訳なくなる。
「ダインさん……なんか、すみません」
「いやいや……その後、治療してくれた上に、膝枕付きで介抱なんてしてくれたからな……。あんときゃマジで惚れそうになったぜ……あいつは最高にイイ女だ……。当然ながら、そうなるとお前さんもいい女って事になるねぇ……先が楽しみだな。ははっ!」
楽しそうに笑うダインさん。
なんかいい女呼ばわりされてるよっ! わたし。
軽いノリの中年オヤジって感じだけど、今のは何と言うか……グッと来た。
それにしても、我ながらホント何してんだかね……。
と言うか、惚れるって何それっ!
と思った瞬間に、曲が終わってヒョイっとお姫様抱っこ。
どうもやたら注目を浴びてたらしく、周りから拍手。
は、恥ずかしいよぉ……下ろしてぇ……。
け、けど、お姫様抱っこって……女の子的には割と憧れっ! うん、ここは役得って事で堪能しましょ……。
「あはは……くろがね、お疲れさん。ちゃんと踊れてたじゃない……でも、身長差がありすぎて、ほとんど振り回されてた感じだったね。なんか、足全然着いてなかったよっ!」
拍手しながらしろがねが見上げる。
「ま、まぁ……そりゃ、しょうがないぜ。背丈の差があるもんだから、俺が屈むか、くろがねちゃんを抱えながら踊るかのどっちかになっちまう」
やっとお姫様抱っこから解放される。
すっごい軽々と扱われちゃったけど、強くてカッコイイ男の人に抱き上げられるとか、たまんないっす!
「まぁまぁ……んじゃ、おチビさん同士でやってみたら? しろがねちゃんのさっきの異郷のダンス、素敵だったわよ。ちゃんと見てみたいわ……あれなぁに?」
「私もなんとなく覚えてたのがソレなんですよ……男性パートだったんだね……。なら、くろがね姫……今度は私めと一曲踊っていただけませんか?」
そう言って、さっきのダインさんみたいに跪き、芝居がかったセリフを言うしろがね。
小さなわたしのナイト様……しろがね。
そっと手を差し出すと軽く口付け。
思わず胸が高鳴ってしまう。
そうして、しろがねとわたしの小さな女の子同士のダンスが始まった。
クラシック風の伴奏を聞きながら、異世界だけど音楽とかも似たような感じなんだなって思いながら、しろがねのリードにその身を任せる。
息もピッタリ……静かなメロディーに乗せて、お互い手を繋いで、時に抱き寄せられ、くるりと華麗に一回転。
ホント、上手だなぁ……それに次に何して欲しいかとか言われなくても解るこのコンビネーション。
時間が経つのもすっかり忘れて、ダンスに没頭してしまう。
けど、音楽も終わり、二人のダンスも終わる。
最後に腰を抱かれた体勢で、思い切り両手を広げておしまい。
終わるなり、盛大な拍手が返って来た。
お返しとばかりに、二人揃ってスカートの端を摘んで持ち上げながら、ペコリと頭を下げる。
「はぁ……思わずため息出ちゃったわ……二人ともすっごい素敵だったわ!」
そう言って、姫様が駆け寄ってきて、しろがねと二人まとめて抱き締められる。
「ご列席の皆様……今のは魔王軍のエース……しろがね嬢とくろがね嬢の異郷の演舞だそうだ。滅多に見れないものだぜ……盛大な拍手で以って、皆応えてやってくれ!」
ダインさんの呼びかけに応えるように更に拍手の音が盛り上がり、歓声が上がった。
くろがねパートです。
悲壮感漂うアリーさん達とは違って、こっちは呑気かつ平和なものです。
こちらは…ほんわりとした読後感でも…と言う感じの構成にしてます。
少しは可愛いヒロインっぽくなったかなぁ…強いヒロインって、可愛げなくなりがちなのが困りモノ。
地味に更新、宣伝乙!
彼氏彼女のガンフロントライン
外伝②「篠崎さんと杜若さんの休日」①
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