第十七話「異世界大戦…その始まりの号砲」②
そして、帝国艦隊の生き残りの救助活動も終わり、艦隊の進撃は続く。
何度か、帝国艦隊の偵察艦隊――その実、行方不明状態の戦列艦グローリーブと護衛艦の捜索隊だったのだが――との遭遇。
カヤによる一方的な「対処」が何度か行われ……間もなく夕暮れ時……アリー達先遣隊の出撃時刻が近づいていた。
「……それでは! 我々先遣隊は間もなく出発です! アオイ様、カヤ様……ご武運をお祈りします!」
そう言って、アリー達先遣隊を乗せた飛行船が夕暮れの空へ飛び立っていった。
飛行船と言っても要するに大きな風船と同じようなもので、中身は水素ガス……火がつくと爆発するとかいう危なっかしい代物で、動力も飛竜が引っ張っていく事で実現していた。
生き物が引っ張るので、飛竜が力尽きるまでが航続距離の上に、着陸はガスを抜いて軟着陸させるので、基本的に片道キップの特攻兵器みたいなものだった……。
飛行船がありながら、東西双方軍事利用に消極的なのは、両者とも相応の悲劇を重ねた上で、実用には問題があると判断したからだった。
そもそも、この作戦自体……失うものの割には、帝都にボヤ騒ぎを起こすのが関の山で得るものがあまりに少ないということでお蔵入りになってしまった作戦なのだ。
この龍騎母艦にしても、作ったのは良いものの実戦で役に立ちそうもないからと、浮き桟橋状態になっていた船を本来の目的で使うことにしたと言う泥縄なもので……。
何と言うか……色々問題ありまくりの新兵器や未完成品を投入しまくった無理無茶無謀の三拍子揃った作戦だった。
作戦自体も、ドラゴニア号と艦隊を使って、ギリギリまで沿岸部まで近づいた上で、飛行船団を首都へ突入させると言うのが概要で、突入部隊もそうなのだが……。
退路を確保する役目となる西方艦隊も帝国海軍の全戦力を相手にする事になるのは必然で、全滅する可能性が高いそうだ。
それでもやるしか無い……何が何でも帝国と魔王軍に一矢報いる必要がある……それが西方の現実だった。
アオイ達からも帝都にこっそり忍び込んで唐突に暴れるって方法が提案されたのだが。
西方軍が帝国の首都に打撃を与えたという事実が重要ということで、その提案は却下されていた。
要するに、この作戦は政治的な作戦なのだ。
「私達は……勇者の名に恥じないだけの戦いぶりを見せつける……か」
アオイはそんな風に独り言を言う。
「アオイ先輩……アリーさんが心配……ですか?」
カヤはアオイの隣に並び立つと、その腕に自分の腕を絡ませながらそんな風に言った。
「……うん、この艦隊の人達や情報軍の他の人達も……ね」
数日間程度の航海だったのだけど。
誰もが皆アオイ達には好意的だった。
生還率なんて、絶望的な数値なのに、好き好んで志願した人達ばかりだとアオイも聞いていた。
何が彼らをそこまで駆り立てたのか。
その希望を一身に受けるのが自分たち……課せられた責任の重さに押しつぶされそうになる。
不意にアオイの背中が暖かくなる。
隣いたカヤがいつの間にかアオイの背後に回って、ギュッと抱きしめていた。
「アオイ先輩は……何も気にしなくていいです。わたくしがいます……わたくしが全て守りますから……だから、そんな顔……しないでください」
「そうだね……私達も、元の世界に戻らないといけないからね。アイツは……私達のことなんか待ってないかもしれないけど……独りになんて、させちゃいけないからね」
そう言って、アオイはカヤと向き直ると、抱きしめ返す。
……暮れなずむ夕日。
茜色に染まる海……。
しばし、お互いの温もりを分かち合った後。
どちらかともなく、離れる。
アオイの目は先程まで打って変わり、真剣な戦士の目になっていた。
カヤは……それを見て、妖艶に微笑む。
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このパートも三人称視点で新規書き下ろしです。
なんか区切りのいいトコを探したら、やたら短くなりました。
少し雰囲気変わりましたか?
アオイは勇者様なんですけどね……それなりの苦悩を抱えています。
彼女は本質的に善良なコなので……ある意味くろがねの同類と言えます。




