第十七話「異世界大戦…その始まりの号砲」①
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第十七話「異世界大戦……その始まりの号砲」①
---3rd Eye's---
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その時、カヤは上空500mほどの位置に滞空していた。
眼下に広がるのは、果てしなく広がるように見える海。
けれど、これはあくまで内海だと言うのだから驚きだった。
前方に見えるのは、4隻ほどの船。
一隻だけ、他の艦の倍以上の大きさがある。
背後には、30隻あまりの船団が見える。
前方の4隻は、船団を捕捉したようでまっすぐ進路を取っている。
このままだと、ぶつかるのだけど……きっと戦うつもりなのだろう。
「大きさは100m級ってとこですかね。けど、この世界の技術水準から考えるといわゆる戦列艦クラス。
逃げずに向かってくる強気な様子からして、帝国海軍の中核戦力クラスなのかもしれませんね。けど……そのまま皆様のところに行かせる訳には参りません……ここは沈んでもらいましょうか」
そう言って、カヤは10m分ほど糸を出すと軽く糸の端を握る。
そうすると、糸が光を放ちだし、細切れに分かれていく。
「行きなさい! 戒めの糸! 我が敵を殲滅するのです!」
彼女の声に答えるように、糸は光条となって、真っ直ぐに帝国艦隊へ向かっていく。
やがて、続け様に着弾。
何発かそれて海の上に落ちたようだったが、戦列艦に2発ほど被弾。
護衛艦と思わしき他の3隻のうち2隻に直撃!
爆風が晴れると、護衛艦の2隻は跡形もなくバラバラになっており、戦列艦も甲板上の構造物のほとんどが原型を留めず、松明のように炎上中だった。
「あら……失敗しちゃいましたね。10発中4発しか当たらないとか……やはり、動いてる目標への糸の同時制御は難しいですね。では、お次は精密射撃で仕上げますか……」
そう言って、カヤは今度は一発ずつ糸を放つ。
まず、護衛艦が直撃を受け、吹き飛ぶ。
続いて、飛来した二発の光条が戦列艦を直撃すると先程より大きな爆発が起こる。
爆炎が晴れると、そこにはもう残骸が残るだけだった。
……かくして、帝国軍艦隊はわずか数分の交戦で、何に襲われたのかすら理解する間もなく壊滅した。
「アリーさん、帝国軍艦隊……全滅したみたいだ……見てみる?」
そう言って、アオイは龍騎母艦ドラゴニア号の甲板の先端部で傍らに立つアリーに双眼鏡を手渡す。
カヤの「爆炎糸」
これは、彼女の使う戒めの糸の応用方法の一つで、魔力を通した上で切断すると時間置いて爆発すると言う性質を応用した……要は投射爆弾のようなものだった。
その危害半径は、1mくらいのもので30m……80mmクラスの迫撃砲並。
伸ばせば伸ばすほど、その威力は強力になり、10mも伸ばすと半径100mが吹き飛ぶ戦艦の艦砲射撃並みの威力になる。
おまけにその弾体は髪の毛程度の細いもの。
迎撃はまず不可能……おまけにカヤの意志である程度弾道をコントロールできるので、ホーミングしてくる
人間サイズの物が数キロ先から放ってくる迎撃不可の誘導弾のようなものなのだ。
はっきり言って、近代軍のイージス艦ですら、容易く撃沈されてしまう……そのくらいには強力だった。
呆然とするアリーの元に、西方海軍のクルーが戦果報告にやってくる。
「アオイ様……報告です……。カヤ様の攻撃で……帝国艦隊、一等戦列艦グローリーブ号、及びフリゲート艦のツァイスとドライツェン、フェンサーが爆沈。えっと……敵艦隊全滅との報告が偵察の竜騎兵からはいりました……し、信じられない戦果です……」
アリーはもはや信じられないと言った様子で呆然としている。
「そうか……さすがカヤちゃんだね。帝国艦隊もさっさと逃げれば良いのに、敢えて立ち向かってくるとか……。実に勇敢だったけど……空から、爆撃されるなんて思いもしなかったんだろうね……気の毒に……」
そう言って、アオイは瞑目する。
やがて、上空からカヤが降りてくる。
その頭上の黒い霞のように見えるものは、大量の戒めの糸が絡まった塊だった。
要は巨大なタンポポの綿毛のようなもので、これと風の魔法を組み合わせる事で彼女は飛行能力を手にしていた。
「カヤちゃん、お疲れ様。初戦はこっちのワンサイドゲームと言ったところだね。」
「はぁ……正直、つまらない仕事でしたわ。アリーさん……この程度の相手では一方的すぎて、勝負になりませんね。移動目標への攻撃はもっと精度を重視すべき……反省点としてはそれくらいです」
ドラゴニア号の甲板に降り立ったカヤがつまらなそうにそう告げた。
「そ、そんな事言わないでくださいよっ! あんな艦隊とまともにやりあってたら、こっちも確実に5-6隻は戦闘不能になってたとこです……。それに……他の皆さんを見てください……帝国艦隊の強さは皆、肌で知ってますからね……。一等戦列艦なんて、東方海軍にたった5隻しかいない超重要戦力なんですよっ! それがこうもあっけなく沈んで、艦隊も全滅……こんな圧倒的な勝利……聞いたこともありません! もう、皆……声も出ないって感じなんですよ……」
気がつくと、ドラゴニア号の甲板に居た兵士達がカヤとアオイを遠巻きに囲むように佇んでいた。
彼らのアオイ達を見る目はもうキラキラしていて、英雄を見る目のようだった。
戦列艦を含む帝国艦隊に捕捉されたと言う報告を受け、つい先程まで彼らは皆、青ざめていたのだ。
それもそのはずで、この世界の海戦は、魔術の撃ち合いや投石機で火炎弾を放り込む。
体当たり攻撃や接舷しての白兵戦とか、そんな調子。
なので、根本的に攻撃力が不足しており、戦闘艦が撃沈するようなことは滅多になかった。
それに戦列艦クラスともなれば、ちょっとやそっとでは沈まない。
だから、数において十倍近い状況にもかかわらず、帝国軍艦隊は逃げずに戦いを挑むという選択をしたのだった。
結果的に、その判断は大間違いで……彼らは全滅の憂き目をみたのだが。
下手に正面から艦隊戦とかやって要らない損害を受けるよりは良いということで……。
アオイもカヤに任せたのだけど、その時点でオーバーキル確定。
「カヤちゃん、せっかくだから、皆に手でも振ってあげなよ……。それと笑顔、笑顔!」
アオイががそう言うと、カヤも周囲を見渡して、可愛らしく笑顔を作ると皆に手を振る。
一斉に喝采が返って来て、わらわらと兵隊たちが集まってくる。
カヤもどうやらすっかりその気になったらしく、ドヤ顔で胸を張る。
基本的に、彼女は素直で乗せられやすい性格をしている……。
スイッチが入ると凶悪だけど、身内と認めた相手にはとことん優しい。
そのせいなのか、ガンフロではPK軍団の女王みたいな感じになっていた……。
本質的には、内向的で家庭的な女子高校生なのだ。
冷酷そうに見えるのも、身内以外は心底どうでもいいと思っているから……それ故になのだ。
「アリーさん、艦隊の皆には私達の帰りの足になってもらうんだから、本格的にがんばってもらうのは私達が出撃してからになる……。前哨戦くらいは、楽したってバチは当たらないよ。……それと敵艦隊の生き残りの人達もちゃんと助けてあげて欲しいんだけどね……出来れば」
最後の方は、小さな声でうつむき加減で申し訳なさそうに告げるアオイ。
カヤによる一方的な爆撃で帝国艦隊が呆気なく壊滅する様子は、アオイも双眼鏡で一部始終を見ていた。
だからこそ、夥しい数の犠牲者が今の戦いで出たことに気づいていた。
けど、アオイはカヤを責めるような事は決して口にはしない。
「そ、それはもちろんです! すでに、巡洋艦を一隻先行させて、救出作業を行わせています。一応、戦時協定がありますからね……敵だからって、見捨てる訳には参りません。生き延びた者は捕虜として取り扱います……戦いは終わったのですから。アオイ様……おかげで我々は一人の戦死者も出さずに初戦を乗り切れました……。感謝を……させてください」
アリーもこの規模の艦隊が全隻沈むと言う事で、どれだけの犠牲者が出たのか……。
仮にも軍人の端くれなので大凡の見当は付いていた。
けれど、彼女も勇者の力の一端を知るものの一人。
己が力を過信して、死地に飛び込んできたのは帝国艦隊なのだ。
アリーもこの勇者アオイと言う人物について、ずいぶん解ってきていた。
ブレイブルを全滅させてしまった事を心底悔みながらも、明るく振る舞う。
今だって、自分がやった訳でもない敵の死に同情をしていた。
誰よりも強く強大で……心優しい戦士。
そんなアオイの少しでも力になりたい……アリーはそんな風に思った。
「うん、それなら良いんだ……。アリーさん達西方も敵は皆殺しとか……そんな姿勢じゃないってのなら、安心したよ。お互い憎み合って、殺し合うとか、それはもう最悪の戦争だからね……。そうじゃないってのが解って、ちょっと嬉しい。ところで……アリーさん……私達と帝都に潜入するって話だけど、大丈夫なの? アリーさん弱っちいのに最前線とか、無茶じゃないかな?」
アオイが心配そうにそう返す。
アリーとしては、心配してもらえるだけで十分嬉しかった。
「アオイ様……私なんかの心配してもらって、ありがとうございますっ! 私は……先遣潜入隊の指揮官として、アオイ様達の降下前に帝都に潜入……。情報収集の任に就いた後、アオイ様や降下部隊の帝都脱出支援に当たる予定です。私が剣を取るような事態に陥るとすれば、アオイ様達が敗走した場合ですかね。その場合は、命に替えてもアオイ様たちの生還を最優先と致します」
それはアリーの本心だった。
実は情報軍の上層部からはアリーは替えの効かない人材と認識されており、最前線に出さず後方待機の方針だったのだけど。
アリー本人がアオイ達と共に、作戦参加を強く希望し、現場でアオイ達をコントロール出来る可能性があるのもアリーだけと言う事もあり、結局上層部も折れたのだった。
やがて、艦隊は……カヤに撃沈された帝国艦隊のいた海域にたどり着く。
あたり一面の船の残がいと、所々に生き残りの帝国兵の姿が見えていて、連邦の巡洋艦――フリゲートより一回り大きい中型艦――がロープやら浮き輪やらを投げ込んで、救出作業を続けていた。
生き残りは、全員捕虜として運荷挺に乗せて、数珠繋ぎにして巡洋艦で曳航し、西方へ連行する予定だった。
「これは……生き残った方が少ない感じだね。これが……戦争なんだね。」
アオイが伏目がちにそう呟く。
「そうですね……これが戦争なんです。けど、普通に戦ってても結局、お互い同じくらい死んでたはずですよ。だから、アオイ様やカヤ様が気にするような事じゃありません。お二人はあくまで我々の助っ人ですからね」
そう言って、アリーが笑いかけるとアオイも苦笑する。
「やれやれ……アリーさんって見た目の割に頼もしいね」
「ふふ……伊達に二級上佐なんてやってませんよ。あ、それと……これ、アオイ様預かっておいてくださいね」
そう言ってアリーは、数通の封筒を差し出す。
「アリーさん、これは?」
戸惑いを隠せずにアオイもそれを受け取る。
「さすがに、最前線に行きますからね。私も無事帰れる保証なんてありません、要するに遺書……。私の家族への最後の手紙ってとこです……あ、中読んだりとかしないでくださいね。もちろん、無事に生き延びたら、必要ないので返してくださいね」
「解った……でも、なんで私に?」
「アオイ様の強さは私、一番良く知ってますから。確実に生き延びそうな人に託す……ダメですかね。」
そう言って、アリーは微笑む。
アオイも真面目な顔をすると、その封筒を受取る。
「解った……けど、約束して……自分から、命を捨てるような真似だけはしないで欲しい。そして、必ず戻ると……もし、合流できたら君を必ず守り抜く……誓うよ」
「ちょっ! アオイ様やめてくださいよ! けど、もし生き残れたら……一晩私に付き合うってのはどうです?」
アリーはそう言うといたずらっぽく笑う。
彼女としては、相当思い切った一言で言ってから、しまった言っちゃったとか思ってたりもするのだけど。
「ああ、そうだね……お互い無事に戻れたら、飲み明かそうか」
そう言って朗らかに笑うアオイ。
(大人の女が男の人に一晩付き合え……なんて言うのは、抱いてって言ってるようなものなんだけどなぁ……)
そんな風に思いながら、アリーは苦笑する。
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どうもこの話がブラバポイントのひとつになっているようなので、内容を全面的に改定しました。
ほぼ書き下ろしです。
長さはあまり変わってませんけどね。(汗)




