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第十六話「新しいちから」②

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第十六話「新しいちから」②

---Shirogane Eye's---

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 技術的な話なんて、正直私は全然興味なかったんだけど。

 

 ひとつだけ、とても興味を引くものがあった。

 

 それは、姫様に見せてもらった最新兵器だと称する長銃身フリントロック銃。


 私は……その銃に触れた瞬間に、私の宝物だった銃の事をはっきり思い出せた。

 

「エトワール」


 ……星を意味するその銘を打たれた銃は、仇敵英軍から鹵獲し、職人による改良を加えられた特注品。

 陛下を命がけで守り切った褒美と言うことで、陛下直々に賜った私の愛銃だった。

 

 以前はその形もおぼろげにしか記憶してなかったのだけど。

 今はもうはっきりと脳裏にその銃の姿が思い起こせるようになっていた。

 

 私の前の人生……その最期の瞬間まで共にあり、もう二度と手にすることもないと思っていたのだけど。


 それは、私の目の前に顕現していた。


「うわぁっ! しろがねっ! なにそれっ!」


 くろがねが素っ頓狂な声をあげる!


 錬成術……私には縁の無いくろがねの固有魔術とばかりに思っていたのだけど。

 実は、私は……とっくの昔にそれを使いこなしていた。


 きっかけ自体は「いつもの大剣とかってどこから出してるの?」と言うくろがねの素朴な疑問だった。


 確かに私は普段からあんな大きな剣持ち歩いている訳じゃない。

 銀の大剣を背中に背負ってるイメージをしながら、手にかけると何処からともなく現れる。


 理屈なんて、良く解らないまま当たり前のようにそうしていたのだけど。

 くろがねに見てもらったら、まさに錬成術のプロセスそのものだと言う。


 そこまで解れば、後は簡単だった。

 いつも銀の大剣ではなく、エトワールをイメージしながら、剣を抜くようにしてみたら、あっさり錬成できてしまった。


 ……こうして私の手に「エトワール」が戻ってきた。

 

「ほ、ホントに出てきたっ! くろがねっ! これだよっ! これっ! エトワールだっ! 嘘……本当にもう一度、これが……戻ってくるなんて……。」

 

 思わず、涙が溢れる。

 幾多の敵を葬り……共に戦場を駆け抜け、最期の瞬間まで戦った……私の生きた証。


 ……それが私の「エトワール」

 

 戦士たるもの……武器に必要以上にこだわるべきではないのだけど。

 これだけは、私にとっては別格だった。

 

 思わず、隣に来ていたくろがねの両手を握って、ブンブンと振り回し、それだけで飽き足らずくろがねの小さな身体を思い切り抱きしめる。

 

 やってる事はいつもと変わりないはずなのだけど、不意にくろがねが顔を真赤にすると、突然しゃがみ込む。

 

「あ、あれ……ごめん、痛かった? ちょっと我を忘れかけちゃって……力入りすぎた?」


 ちょっと乱暴すぎたかもと……思いながら、くろがねに声をかけて、手を貸す。

 勢い余って、くろがねが胸に飛び込んでくる形になったので、優しく抱きとめる。

 

「くろがね……大丈夫?」


 10cmくらいの距離にくろがねの顔。

 息がかかるほどの距離。

 

 くろがねは私の胸に顔をうずめると、何故か肩をプルプルと震わせる。

 なんだか知らないけど、ものすごーく恥ずかしがってるような……私、何かしたのかな?

 

「ご、ごめん……ちょっと今はしろがねの顔、見れないや……。意味分かんないだろうけど……ごめん、もうちょっとだけこうさせてて!」

 

 くろがねがそう言うので、とりあえずそのまま。

 全然意味が解らないので、黄玉さんや興味深そうに顛末を眺めていたエーリカ姫様に助けを求めるように見返すけど。

 

 二人も訳が解りませんと言いたげに、首を傾げていた。

 とにかく、よく解らないけど……くろがねは何かに気づいて、こんなになってしまったらしい。

 

 まぁ、いいかっ! こんなくろがねもなんか可愛いし。

 今夜は抱きまくらにでもして、色々聞いてやろうっと……。

 

 それから……。

 くろがねが落ち着くのを待ってから、私達はこの帝国科学院に併設された射爆場に来ていた。


 私も含めて、皆、このエトワールに興味津々だったので、試撃ちをしたいと言う私の要望を姫様は快く引き受けてくれた。

 

「そんな訳で、私達もしろがねちゃんのその銃……すんごく興味あるのよね。言われたモノは用意したから、とりあえず思う存分、その銃撃ってみて……うちのとどう違うのか? せっかくだから、うちの試作銃とかも撃ってもらってみていいからね」

 

 そんな調子で姫様が得意げな顔で言う。

 なんでも、帝国の銃火器はこの姫様が異世界の知識みたいなのを持ってきて、実現したらしかった。

 

 この帝国という国……くろがねの話だと、どうも私が生きていた時代よりも総合的には進んでいるそうで、マスケット銃も撃たせてもらった感じだと、私の国で言えば、選抜品クラスの出来栄えだった。


「20m以内なら必中、50mで8割……100mだと4割程度……これ以上はまぐれ当たりってとこかな」


 私がそう判定すると、むしろ驚かれてしまった。

 なんでも、帝国軍の兵士にやらせた感じだとこの半分程度の命中率らしい。

 

 一番の腕利きは姫様だと言うので、見せてもらったけど……射撃姿勢とか構えが全然なってなかった。

 弾込めも手際悪いし……思わず、隣でビシバシ指導してしまったけど……ちょっと無礼だったかな。

 

「しろがね……なんか、いつもとキャラ違うよ?」


 くろがねに呆れられてしまった。

 

 けど、私は陛下の親衛隊の中でも精鋭中の精鋭だったのだ……こんなへっぴり腰みてらんない。

 射撃姿勢とかについても……自分でも思った以上に身体が覚えてるような感じだった。

 

 で……私の「エトワール」についてだけど。

 これについては、弾込めとかはマスケットとほとんど一緒。

 

 唯一の違いは、弾丸をグリースに漬けた布パッチに包む必要がある……これは包帯なんかでも代用できるので、技術者の人に用意してもらった。

 

 なんでこんなものが必要なのかというと、そのままだと弾丸と銃身との間に隙間が空いてしまって、弾丸に回転が付かず、ライフルの意味がなくなってしまうから。

 

 弾を込める際に少し力とコツがいるんだけど……慣れれば、一連の動作も10秒ちょっとで出来るようになる。

 前世で使ってた頃よりも、自分の背丈が低いせいでちょっと苦労したけど。

 まぁ、手慣れたものだから、問題なかった。

 

 ……とりあえず、マスケット同様、100mで試射する。

 

 さすがに、この距離は外さない。

 軽く10発10中、100%のスコアを叩き出す。

 

 この距離なら、ピンポイントショットも造作ない。

 相変わらず、いい銃だった。


「し、しろがね……あんた……何者?」


 くろがねが呆然としてる……姫様たち帝国の人たちはもっとみたいだけど。


 私は今でこそ、剣士の真似事のような事をしているのだけど……元々は狙撃兵だった。


 あの当時の戦争では、戦列歩兵が主流だったのだが。

 それとは別に隊列を組まず、バラバラに戦場に散って、同じ狙撃兵を相手にしたり、敵の指揮官を狙い撃つ散兵と呼ばれる兵種が存在していた。


 散兵はほぼ単独行動で、誰も彼もが精鋭と呼べるものたちばかりで、数で勝負の戦列歩兵と違いたった一人で戦況すらも覆すことすらもあった。


 それにしても……マスケットの弾丸って回転がかかってないから、基本的にまっすぐ飛ばない。

  

 帝国製はなかなか物はいいので、私の知るマスケットよりはマシなんだけど……。

 実戦でまともに当てられるのは、せいぜい50m程度なんだよね……騎兵相手だと結構、厳しい。

 

 けど、ライフル式のエトワールなら300mくらいまでなら、まず外さない。

 実際に、射爆場の敷地の角から角……約400mを試したけど、私にとっては余裕だった。

 

「確か……記憶してる限りだともっと遠く……5、600mくらいなら、当てられたと思った。さすがに、そこまでいくとピンポイントは無理だけどね」


 そう言ったら、もう姫様たちは茫然自失って感じだった。

 

 くろがねもエトワールをコピーしたいと言うので、快くコピーしてもらって早速撃ってもらった。


 くろがねもフリントロック式のライフル銃を初めて撃つと言ってた割には、射撃姿勢も堂に入ったもので、2-300m程度までは余裕といった様子だった。

 

 姫様たちとは違って、射撃姿勢は堂々たるもので、狙いも微動だにしない感じで明らかにベテランクラス。

 装填とかはさすがに、慣れてない感じだったけど……くろがね、言うだけあって大したもんだった。

 

 300mくらいからは、弾着まで1秒以上かかるので、風読みとか相手の回避行動とか、そう言った要素が絡んでくるので、命中率は格段に落ちる……火薬の量を少し間違えるだけでも、弾道が変わるので当たらない。

 さすがに、これは慣れが必要なので、苦戦しているようだった。

 

 くろがねはどうも、私が知るよりももっと後の時代の銃の使い手だったらしく、くろがねの知る銃はもっと使い勝手が良いらしい。


 なんでも、火薬と弾が一体になった実包とか弾薬とか言うのを使うらしく、装填も格段に楽で、複数の弾丸を込められるらしく、引き金を連続で引くだけで連発したり出来るらしい。

 

 ただ……私にとっては、銃ってこんなもんだから、これがどんな風に進化していったのか……正直、良く解らないし、使いこなせる気がまるでしなかった。

 

 いずれにせよ……この新たな力は、きっと皆を守る大いなる力になるはず。

 前の戦いでは、私は早々に退場させられちゃったけど……次は絶対に負けないから!

久々のしろがね視点です。

いまいち、いいトコなしのしろがねちゃんですけど。


実はこのコ、チート級スナイパーだったりします。

きっと対カヤちゃん戦ではいいトコ見せてくれますよ! しろがねちゃん、マジイケメン!


ちなみに、ベイカー銃ってのは、ナポレオン戦争で英国第95ライフル連隊が装備していたので有名です。

当時のマスケット銃と比較すると普通にチート銃だったみたいで、ワーテルローの決戦でも獅子奮迅の活躍をしてます。

本作に出てくる「エトワール」は、これをベースにしたチート魔改造銃なので、現代銃並みの性能だったりします。


余談ながら、英国第95ライフル連隊って、イギリスではものすごーく有名です。

「炎の英雄 シャープ」って言うイギリス側視点のナポレオン戦争題材のTVドラマになってるくらい…。


12/28 ちょっと短めに改変。

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