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第十六話「新しいちから」①

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第十六話「新しいちから」①

---Kurogane Eye's---

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 帝国科学院……わたし達はエーリカ姫と共に、この科学院の長ケルビン教授に案内されて、館内見学をしていた。


 ここは、博物館のような観光施設も兼ねているようで、最先端技術の展示も行われていた。

 その展示品を見る限り、帝国の文明レベルは、思ったより高度だった。


 夜、町中を照らすガス灯なんてのも普通に使われてたし、上下水道も完備。

 写真機とかもあったりするし、望遠鏡とかも普通にあった。

 レンズの加工精度も非常に高く、質の良いガラスを作れる高度な技術を持った職人が揃っているようだった。


 蒸気機関がすでに実用化されていて、鉱山の採掘や金属加工などに使われていて、蒸気機関車や鉄道の建設計画も進んでいるらしい。

 

 産業革命真っ盛り……石油の利用も始まっており、ガス灯なんかもその副産物。


 今のところ、暖房や灯火用程度のようだけど、内燃機関の原型のようなものが開発されているようなので、自動車などが走り出すのも恐らく時間の問題だった。

 他にも熱気球や飛行船みたいなのがあって、飛びトカゲってワイバーンみたいなのが引いてたり、魔法で風を起こして飛ばすらしい。


 電気関連の技術は、発電機よりも先に、何故か電池が出来てしまったようで、大量に並べて大電力を取り出そうとしてたりとなんか迷走してる感じ。


 けど、モーターの原型らしきものが出来ていたので……これ発電機にたどり着いてるようなもんなんじゃないかなと思ったり……。


 大体18-19世紀くらいの技術力なんだけど、妙に突き進んでる部分もあったり、迷走してたりと、この辺さすが異世界って感じだった。

 

 ただ、魔法なんて便利なものがあるのだから、もう少し魔法と科学が入り交じった文明になっていても不思議じゃないのに、科学技術自体ははわたし達の世界と同じような進化行程を辿っているようだった。

 

 けれど、飛行機や電信なども全く別の国の発明者がお互い知らずに同時期に同じような物を開発していたと言う話もあり、技術の進歩ってのはそんなもんなのかもしれない。

 要は下敷きになる技術レベルが同等で、似たような環境となると半ば必然的に同じようなものが自然発生するのかも……。


 ちなみに、魔術については、帝国は魔術よりも万人に恩恵のある科学技術を偏重する傾向があり、徐々に科学技術にその役目を奪われ、落ち目気味との事だった。

 

 これは、例えば……火をおこすのに魔法を使うより、ライター使った方が早いし誰でも出来る。

 どちらが優れているかと言われたら、ライターの方が便利に決まってる。

 

 そんな風に元々魔術頼みだった事が、科学技術の発展と共に道具さえあれば誰でも出来るようになる。


 そりゃあ、魔術なんて一種の職人芸……廃れるのも当然。

 まぁ、どっちにせよわたしには関係ない話なんだけどねっ!


 逆に西方は科学技術への忌避感のようなものがあって、魔術に傾倒する傾向があって、魔術技術については西方の方が高度という事だった。

 

 実際、軍隊にも専門の魔術兵団があり、戦術レベルの戦闘魔術などは東方でも大きな脅威として認識されているようだった。

 

 もっとも、先の戦争じゃ、魔術兵団ってまっさきに紅玉さん達にやられちゃったけど……。

 あれは、どう考えても相手が悪い。

 

 彼女たちに対抗できる存在なんて……姫様ですら、4人揃ったら瞬殺されるとか言ってたし……。

 

 あれ、もしかして……わたしらくらいなのかな?

 

 実際、紅玉さんとか相手だと向こうが大魔術を発動する前にキャンセラーが勝手に潰してくれるので、近づいてベシっと殴りに行くだけだし、魔法への抵抗力も尋常じゃなく高いらしく、実は結構余裕だったりする。


 面倒くさいのは……大質量の物理攻撃を可能とする蒼玉さんと黄玉さん……蒼玉さんなんて、訓練室を水でいっぱいにするとかやらかしてくれて、危うく二人揃って溺れかけたくらい……。

 あの人、加減ってもんが下手くそだからねぇ……。

 

 けど、玻璃ちゃんとかに言わせると、あの娘達、バカ多い魔力に物を言わせて、大魔術の連打とかされると手に負えないって話。

 

 わたしって、対魔術&物理特化な訳で……これは相性問題って奴なんじゃないかなっと。


 それにしても、帝国の軍勢の装備や偵察で見て回った感じから、文明レベルは、中世レベル程度だとタカをくくっていたのだけど……。

 

 この帝国の首都、帝都についてはものすごく文明が発達していた。

 これ中世じゃなくて、もう近代レベルだよ……スゴいなっ帝国っ!

 

 わたしが偵察で歩き回ったあたりは、はっきり言って辺境のど田舎みたいなとこだったみたいだし、実際そんな感じらしかった。


 それに、軍事技術については、さほど力を入れている訳ではなく……西方に対抗できる程度の技術とかそんな調子で……。


 なにより帝国の軍事ドクトリンとして、機動力重視で騎兵偏重の軍勢って事もあり、どうやらある種の技術的な限界にぶつかっているらしかった。

 

 確かにお馬さんに乗って戦ってる以上、お馬さんが戦車みたいに頑丈になったり、空飛んだりでもしない限り、限界ってものがあるよね。

 

 わたし達の世界でも騎兵って結局、戦車や装甲車に置き換わっちゃった訳だし……。


 竜騎兵なんてのも西方、東方、どちらにもあるんだけど、飛び道具が貧弱な上にとにかく数が少ないので、戦力的にはかなり微妙……なので、もっぱら偵察や連絡用くらい……。


 ただ、そんな帝国が軍事技術開発に本腰を入れた結果どうなったかというと……。

 これまで、この世界に存在しなかったフリントロック拳銃をあっさり実用化し、火薬をも自己調達してしまう程の進歩を見せつけてくれた……。

 

 しかも、蒸気機関を実用化しているこの工業力なら、マスケット辺りなら、ものすごい勢いで大量生産して、全軍配備とかも簡単にやってのけるだろう……その程度の条件は整っている。


 けれども、それは同時に新しい戦争の形をこの世界にもたらす事になるだろう。

 それは良いことなのか悪いことなのか解らないけど……わたし的には素晴らしいことだと思う。


 ついでに、世界地図なんかも見せてもらったけど、O字型の大陸とパラパラと点在する大きいんだか小さいんだか良く解らない島々。

 右下の方にお城のマークがあって、そこが帝都の場所らしい。


 大陸自体は、五千キロ四方くらいあるようなので、オーストラリア大陸を大きくしたくらい……。


 確かに大陸規模で、端から端まで歩いたら一年近くかかるくらいの広さなのだけど……世界地図と呼ぶには少々スケールが小さい。


 そうなると他にもっと大きい大陸とかあっても何ら不思議じゃない。


 これ以外の地域については、外洋航海技術があまり発達していないので、未知の領域らしいのだけど。

 異文明の船の残がいや漂着物が流れ着くことがあるので、何らかの文明がある……その程度の事しか解っていないらしい。


 と言うか、何この不自然な地形の大陸? なにがどうなって、こんな事になったんだろう。

 やっぱ、異世界……おもしろいなぁ。


 ちなみに、わたし達の魔王城って、どの辺? って聞いたら、O字の下の方……山岳地帯と森林地帯の間の抜け道みたいなとこだった。


 他、まともに東西で繋がってるのは、内海と外海の海岸線付近くらい……。

 で、このOの字の上下だけが繋がってると。


 まんま、銀英伝みたいな感じ……我らが魔王城はさしずめイゼルローン要塞ってとこか。


 はっきり言って、わたしでもあの地域がどれだけ危険な火薬庫みたいな場所なのか、良く解ってしまった。


 魔王様はどうして、こんな世界の火薬庫に居城を構えたんだろう……?


 冷戦時代の日本列島や朝鮮半島どころの騒ぎじゃない。

 そりゃあ、こんな場所抑えちゃったら、世界中が敵にだってなる。


(……何か考えがあったのかな? 年中無休で戦争やってていい加減ムカついたとか……?)


 ちなみに、もう一方の北の大平原地帯は、ほとんど年中雪が残ってるような土地。

 おまけに、魔獣の巣窟で、ブラックドラゴンなんてのが闊歩する危険地域らしい。


 当然、こんなところを舞台に戦争なんてやってらんない。

 極寒の雪上戦なんて誰もやりたくないし、ドラゴンなんかに襲われちゃ戦争どころじゃない……そんな訳でこっちは誰も近づかないらしい。


 実は、魔王城のこっそり浮上地点もこの辺の予定だったって、しろがねが小声で教えてくれた。

 なるほど、確かに誰にも迷惑かけないし見つかりっこないよね……こんなとこなら。


 ついでに、ブラックドラゴンなんて、物騒な名前が出たので、どんな奴なのか聞いてみた。

 ケルビン教授は、ブラックドラゴンの写真を見せながら、熱心にその脅威を訴えようとしていたのだが……。


「あ、黄玉知ってますこれっ! 飛竜ですよね? 地上に浮上した時、これがやって来ると全員、ステーキ襲来って、大喜びだったんですわよ。おまけに、爪とか鱗は良い素材になりましたからね……やってこないまま戻る事になっちゃうと、もう皆、がっかりでしたわ」


「そうだねぇ! かったいし、火とか吐くけど、翼に穴でも開けて地面に引きずり落とせば、もう楽勝! 飛竜のお肉パーティ最高だったよね! くろがねにも機会があったら、食べさせたい……すっごい美味しいんだから!」


 こんな黄玉としろがねの一言でフリーズした。


 ああ……そう言えば、皆そんな話してたっけ。

 と言うか、このごっつい見た目……どう見てもドラゴンさんですよ? 飛竜ちゃいますがな。


 それが豪華食材扱いとか、モンハンだって真っ青です……ほんと、うちの娘達ってヤバいわぁ……。


「きょ、教授……とりあえず、この程度の事で驚いてたら、この娘達の相手なんてやってらないわ。そか、ブラックドラゴンって、食べると美味しいのね……私も今度ドラゴンハンティングでも行ってみようかしら……」


 姫様のなんとも言えない感想だった。

 まぁ……姫様なら、ソロでドラゴンと一騎打ちくらいやってのけるだろう。


 そんときは、わたしもお供しよう……きっと楽しい!

 と言うか……わたしもドラゴン程度相手に出来なきゃ、この先話にならないだろう。


 帝国とは和平が成立したし、敵対勢力の西方もすっかり大人しくなり、わたし達の居場所も確保した……姫様との戦いで、わたしもそれなりに力を手にしたのだけど。


 このまま平穏無事に済むとはとても思えなかった……。 

 何よりも、未来のわたし……「黒の節制」……あの領域は遙か遠かった。


 なんだか、すっかり魔王軍最強なんて、持ち上げられてるわたしだけど。

 実際は、最強なんて程遠い……わたしが負けるようなシチェーションなんていくらでも思いつく。


 魔王軍の皆も……自分達が思ったよりも強かったって事でなんだか強気になっちゃったみたいだし……帝国も街の雰囲気とか軍の人とかも、ちょっと浮かれ過ぎだと思う。


 慢心は滅びの道の第一歩なんだ……油断しちゃ駄目だよ?


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