第十五話「訳アリ勇者様の異世界戦記」③
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第十五話「訳アリ勇者様の異世界戦記」③
---3rd Eye's---
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「あ、あの……カヤさん、私は……穏便に対応させていただきますから……ね? 私……軍人ですけど、剣とか話にならないんで……この辺は良くご存知だとは思いますが。けど、私……お二人の為だったら、なんでもやっちゃいます! と、とにかく話を聞いていただけないでしょうか!」
そう恐る恐ると言った調子でアリーが返すと、カヤは満足げな笑みを浮かべる。
「アリーさんって軍人のクセに……押し付けがましさとか全然ない。そのヘタレた感じ……素なんですよね。なんか、アリーさんって……つい、いじめたくなっちゃいますの。正直、嫌いじゃないですよ。けど、わたくし達もこの街に、それなりに溶け込んでるんですよね……。わたくし……こんな風に素敵な旦那様をゲットして、夜毎可愛がってもらえる……そんな生活を夢見てたんです。だから、今が十分幸せなんです。それをぶち壊しに来たんであれば、アリーさん達全員ぶち殺しますけどね……そんな事はないですよね?」
そう言って、凶悪な笑みを浮かべるカヤ。
その笑みを見たアリーは、硬直し、じわーっと涙目になる……何と言うか、いつものパターンだったのだけど。
蛇に睨まれた蛙とはまさに、こんな感じと言った様相だった。
「まぁまぁ、カヤちゃんここは穏便にしようよ。アリーさんは私らにとっては、流れ者の私達に、街の色んな仕事を回してくれた恩人でもあるんだからね。私達がこれまで平穏に生活できたのは、アリーさん達が影ながら色々立ち回ってくれたからだと思うんだ。それと、私らの夜の生活とか言わないでよ……こっちが恥ずかしい。……心配せずとも夜になったら、いつもどおり色々堪能してもらうからさ」
そう言って、アオイはカヤを抱き寄せると、その胸元に手を這わす。
見事なまでのバカップルぶりだったが、この二人はそう言う関係。
アリーとしては、その辺解っちゃいるのだけど……。
(あーもうっ! カヤちゃん、うらやましいっ!!)
と……心の叫びをあげる。
実は、アリーさん……勇者アオイさんに結構おネツだったりする。
二人と知り合った経緯自体も監視追跡中に魔獣に襲われて、ピンチの所を救ってもらってしまったと言った調子だった上に、何度か北方調査に同行してもらって、助けてもらったことも数え切れないほど。
アオイにだったら身体を使って、ハニートラップとかむしろ率先してやりたいくらいだった。
実際、着替えを見られたり、お風呂でばったりとか逆ラッキースケベ的な状況もあったりなんかしたのだけど。
全部、事故であり、アリーさん自体、結構純情なので、それをきっかけに大人の関係……とかにはなれてない……。
なにより、カヤ様と言う怖ーい奥様がいらっしゃるので、大人しくしてるのだ……。
とにかく見ていると、いたたまれない気分になってくるので、アリーは居心地が悪そうに目線を逸らした。
「で……如何でしょうか? 我々としては、あなた方に我らの宿敵魔王とそれに与する帝国の打倒の助力をお願いしたいのです。報酬としては、あなた方の元の世界への帰還と、当面は西方領域での活動の自由、金銭や軍事的にもあらゆる支援をお約束します。監視については……私が外れると他の部署がしゃしゃり出てきたり、かえって面倒になりそうなので、このまま……お側に居させていただきたいと思うのですが……」
アリーも相応の立場なので、譲歩ラインも確認済みだったが。
西方としては、勇者の支援には軍事的には一個師団程度なら、犠牲前提で用意する覚悟であるし、金銭的支援も国家予算規模で用意するとか、もうメチャクチャだった。
秘匿技術の新兵器なども惜しみなく投入すると言う話だし、その意気込みが解るようだった。
「もうなんでもしますから、勇者様助けて!」と言うのが西方の本音なのだけど、そこまで下手に出るわけにはいかなかった。
そして、彼女達の元の世界への帰還方法についても、西方の魔術技術の総力を尽くし研究中で、かろうじて回収できたブレイブル王国の勇者召喚システムの解析結果から、ある程度目処がたっていると報告を受けていた。
これは、勇者へ西方が提供出来る切り札的な交渉カードなのだから、西方も本気も本気、超本気で頑張った!
やっぱり駄目でした……なんて事になったら、全てが台無しになる所だったのだけど。
つい先日、ようやっと解析が終わり、召喚システムの再現に成功し、ようやっと見込みが立った所で……それを受けて交渉の余地が出来たと判断されたのだった。
「そうだね……お願いと言うのがミソだね。命令とか義務だとか言われちゃったら、こっちも考えたけどさ。うん、悪くないね……そう言う姿勢。アリーさんも力づくじゃなくて、まずは私らと友達になるってとこから入ってきたのは良いよね。その分だと、もっと偉い人とか強面がごっそり来たって不思議じゃないのに、アリーさん一人で交渉に臨んでるし……。実際、アリーさんとは友達のつもりだったし、友達のお願いってなると無下には出来ない。正直、コレは一本取られたね……」
それを聞いて、アリーは小躍りしたい気分だった。
もし、この光景をアリーの上官が見ていたら、きっとその場で二階級特進くらい決意したかもしれない。
「あ、あの……一応言っときますけど。任務とか以前にお二人は、私も友達気分でしたよ……知り合ったきっかけだって、私が助けられちゃいましたからね……あれは任務とかそう言うの抜きでマジピンチでした。本当にあの時は、殉職覚悟だったんですからね……アオイ様に一目惚れしそうになったくらい! アオイ様はすっごい素敵な方ですし、カヤ様も……一緒にご飯作ったり、背中流しあったりした仲じゃないですか! あ、当然私、お二人の付き人として戦地にだって、トコトン同行するつもりですからっ! なんと言いますか……このアリー……あなた達の為なら、死ねます!」
アリーさん、力いっぱい力説する。
本音とか入りまくりのグダグダっぷりだったけど、それはそれで本気な感じが満ちていて、アオイ達にとっては悪いものじゃなかった。
「あはは……私、アリーさんのそう言う所好きだわ……。実際、私もこの世界でこんな強力な力を与えられたのはいいけど、ドラゴンとか魔獣退治とかばっかりで、物足りなかったんだよね……。で、具体的には何をすればいいのかな? こっちの世界情勢は私らも把握してるよ。帝国との正面切っての戦争は向こうにスカされた上に、引き際見誤って魔王軍のせいでボロ負け……。今のところ、帝国と正面切って戦うだけの戦力が無いってのが実情なんでしょ。しかも、帝国には魔王様なんてバックが付いちゃった……今攻められたら、ワンサイドゲームだよね。だから、私としてはそちらさんに手を貸すのは、問題ない……帝国も魔王も手に負えないみたいだし、そう言うのって、なんか気に食わない。そうなると、一つ私らの派手なデビュー戦を飾りたいとかそんな感じ? 魔王軍の戦士の一人二人とか、帝国の守護者……使徒とか言うんだっけ? その辺軽くノシちゃってさ……西方舐めんなって、見せつける。 んな感じでどうだろう? その辺……何か良い感じの派手な演出とか思いつかない?」
思った以上のアオイの回答に、アリーは心からの笑顔を見せる。
何と言うか、アオイ達がここまで情勢を理解していて、乗り気だったのは、嬉しい誤算だった。
「そういうことであれば、実にちょうどいい作戦案があります……」
そう言って、アリーは二人に西方が現在企てている帝国と魔王様、同時に心理的衝撃を与える秘密作戦を提案する。
そして、アオイ達はそれを快く快諾した。
かくして、西方諸国連合には、勇者アオイとその相棒カヤと言う超強力な助っ人が付くこととなった。
「アオイ先輩……良かったんですか? 正直、向こうの都合のいいように乗せられたって感じなんですけど。わたくしは、何処か人里離れたところで、先輩と二人、イチャラブな夫婦生活でも送れれば良かったんですよ?」
ご機嫌そのものと言った様子でアリーが帰っていくのを見届けると、カヤはそう切り出した。
カヤの言葉にアオイも少し考えながらも、安心しろとでも言いたげに微笑む。
「それも悪くないんだけどね……せっかく、異世界なんてのに来てさ。こんな強い力を与えられたんだから……平凡な生活よりも、強い奴らと本気で戦いたい。ガンフロでも、私等ってPKギルドで無差別攻撃やって、まるで悪役みたいだったけどさ。その分、相手も必死で本気で戦って……あれ、すっごく楽しかったじゃない……。正直、魔王軍と西方が戦争したって話聞いて、私も参戦したかったって思っちゃったんだよね……。なんか、物凄いのがぞろぞろ出てきたらしいじゃない。噂の帝国のお姫様とかもスゴいけど、それと互角に戦ったって言う黒い小さな戦士ってのにも興味ある。カヤちゃんはどう? そんな連中と戦ってみたくない?」
「わたくしも先輩とご同類……ですからね……。必死になって立ち向かってくる敵を蹂躙するあの瞬間のトキメキ……最高ですわ。気持ちは解りますよ……それに先輩の背中を守るのはわたくしの役目です。先輩の行く所……わたくしはどこまでお供します……だって、愛してますから……」
そう言ってカヤはアオイに抱きつくと、二人は熱い抱擁を交わしあった。
このあと、二人がどうしたのかは語るには及ばない……このあとメチャクチャ……以下略。
いずれにせよ……かくして、世界最凶の勇者が解き放たれた。
魔王軍と帝国軍と言う……向かう所敵なしと言った最強タッグにすら対抗しうる存在。
彼らが密かに牙を剥こうとしていることを、魔王様もくろがねもまだ知らなかった。
そんな訳で、勇者様の戦いが始まりました!
敵は魔王軍! なにより、くろがねとは元の世界で色々因縁のあった娘達です。
西方もただのやられ役の雰囲気でしたけど。
諜報戦では一枚上手だったりと、案外侮れません。
なお、作者的にはアリーさん結構好きですw
次回は、くろがね目線に戻ります。




