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第二話「魔王様とわたし」①

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 第二話「魔王様とわたし」①

 ---Kurogane Eye's---

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 魔王城の玄関ホール……。

 そこはいつになく賑わっていた。


 ゲームなんかだと最初の歓迎……中ボスとか居るような場所なんだけど、当然そんなもん居るわきゃない。

 その代わり、統一感のないメイド服がぞろぞろと20人ほど……。


 ざっと見た感じだと、主要な戦闘要員の半数以上が集まってるようだった……一部は夜当番だったのか姿が見えない。

 ……ちなみに、魔王城の中は窓自体が光ったり暗くなったりすることで一応昼夜があり、大体12時間交代で動いている……。


 それに魔王城の……操艦? 操館? そんな感じの要員や食事当番とか洗濯掃除とか……非戦闘要員も多数いて、それぞれの部署に張り付いてるから、ここに居るのは、わたし達のように浮上後の城外任務を控えてるのとか……魔王様の周辺警護担当とかの、要は戦闘要員が中心。


 総員起こしで全員集合とかやったらたぶん5-60人くらいにはなると思う。


 ……正直、話した事や見た事ない娘達も結構いる……所詮はわたしは下っ端なので、詳しい人数とか良く解らない。


 それにしても、この集団……相変わらず何と言うか、ちょっとばかりおかしい。

 この中に普通の成人男性でも混じっていれば一目瞭然なのだけど、総じて皆、ちっちゃい。

 大体、130ー40cmくらいが平均で、大きくても160cm台……それも数人だけ。


 わたしとしろがねに至っては、最小クラスで120cm台……要はみんな、ちっちゃくてコンパクトな女の子達なのだ。


 一般的な成人がこの風景を見ればきっとこう思うだろう。


「小中学生限定のコスプレ集会か何かかな……。」と。


 そして、中心に一際ちんまいのがいる。

 いや、こう言っては失礼だった……背の低いお方がいらっしゃる……これでよし。


 紫色のくるくる巻き毛の上品な感じの髪型で、黒と深紫の豪奢なドレス姿。

 背丈は私よりも少し小さいくらいで110cm程度と極めて小柄。


 けれども、彼女こそがこの魔王城の主……そして、我らが主「千年魔王様」その人だった!


「「我らが創造主にして、偉大なる魔王様……おはようございます! 白銀及び黒鉄……両名、ここに参りましたっ!」」


 しろがねと声をハモらせて、揃った仕草で両手を組んで胸の前にやり、祈るようなポーズですっと跪く。

 しろがねに、散々っぱら練習させられたので、このご挨拶はもはや完璧。


 まるで神様に祈るようなポーズだけど、ロスタイムだけくれて、結局人の死に際に何もしてくれなかった神様よりも、目の前にいる第二の生を与えてくれた創造主様を崇めて何が悪い……あの瞬間、わたしにとっての神様は死んだ……ニーチェだってそう言ってた!


 ……ニーチェって誰だかよく知んないけどさ。


「おお、しろがねにくろがねか! なんじゃ、お主ら……揃って遅刻ではないか……。浮上後任務を控えとる奴は、浮上シーケンス前にここに集合するよう言っておったのに……。まぁ、大方……くろがねが寝坊した挙句、寝ぐせボーンでしろがねがあたふた整えとったんじゃろ? なんとも目に浮かぶようじゃ……わはははは!」


 図星でございます。

 魔王様……本日の寝癖はかなりの難敵でございました。


「ええまぁ、仰るとおりで……あはは……」


 白銀が苦笑しながらそう返す。


「な、なんか、申し訳ありませんっ! アホ毛が、アホ毛が手強かったんですぅっ!」


 言いながら、なんとなく気になったのでアホ毛を抑えると、自己主張するようにピョインと跳ね上がる。


 こ、こいつ……ここに来てまだ……ぐぬぬ……。


「気にするでない……いつぞやのように、もさもさボーンな髪型で出てこられたら、今度こそわしが笑い死にするのでのう。まぁ、そのアホ毛も……似合っておるではないか……くくくっ、いやスマン……」


 うん、まぁ……ちょっと前にやらかして、大笑いされたからね。

 今日のアホ毛もきっとツボだと思ったけど、意外と好評。


 まぁ、わたしは、反省できるコだからね……一応。

 同じような失敗は二度、三度くらいはあるけど、そうそう何度もやらかさない。


「そんな事より、ちょうど良かった……お主ら二人には、先に言っておいたとおり、今回浮上後の先遣偵察に出てもらう予定じゃ。しろがね……くろがねの仕上がり具合はどんなもんじゃ? 少しは使えるようになったかの?」


「ええっと、くろがねですか……。」


 そう言って、わたしの方をちら見するしろがね。


 ……わたし達の重要な役目。

 それは外敵と戦う事……わたし達は何より第一に魔王様の剣であり盾となる……その為の存在であり、愛玩用とかそんなのでは決してない。


 しろがねはさっきも言ったように、この魔王城ナンバー3の強豪。

 わたしにも彼女に比肩するか、そのアシストとしての役割が期待されている。


 なにせ、この魔王城の中はともかく、外の世界は基本的に世界のすべてが敵……みたいな情勢らしいのだ。

 魔王様はかれこれ400年も前に、外界の世界中の軍勢を相手取り戦い……敗北したのだとと言う。


 家臣や仲間、配下の魔物も何もかも失い……秘術を以って、最後に残った居城諸共、次元の狭間に逃げ延び、そして今に至る。

 そして、わたし達という新たな配下を手に入れ、外界へ再び戻り戦争を再開する……その日に備えている。


 だからこそ、わたし達にはそれぞれひとりひとりに一騎当千の強大な戦闘能力が付与されていて、来るべき外界の軍勢との戦いに備えて、皆、お互いに日々切磋琢磨し、戦闘訓練を欠かさず行っている。


 ちなみに、わたしの戦闘訓練指導官はしろがね……まぁ、これは同一スペックで武闘派ナンバー3&世話やきたくて仕方がないって事で必然的にこうなった。


 とはいえ、過大評価とかされても困るから、ここは正直にお願い致しますね……しろがね姉様っ!


「まず……4大元素魔術の適性は私達、金属系マテリアの例に漏れずほぼ皆無ですね。例の鉄の錬成も色々試してるみたいですけど、今のところ実用レベルにはほど遠いようで……これは仕方がないです。錬成自体が私も使えないですから、教えようが無いし、他の者の使うものとも少し違うようでして……。それに剣術も……さっぱり上達しません……普通に打ち合う程度なら、問題無いですが。押されて、鍔迫り合いくらいの間合いに入ると一気にへっぴり腰になってしまって……戦意はともかく、慎重さ……悪く言えば臆病さが裏目に出てる感じです」


 安定のボロカス評価です。

 まぁ、こんなもんですからね……わたしって奴は……。


「とまぁここまでは散々ですけど、反射神経とかパワーは元々私と同レベルなんで、力押しでそこそこ戦えてたりします。なにより自分の身を守る事……防御や回避については一級品です。要するに素で普通に強い上に守りが堅牢なんで、宝石系の連中なんかだと、私達の対魔術防御もあって普通に力負けします。単純な戦闘力比較だと……おそらく、うちのトップ10に入るんじゃないかって思いますね」


 あれ? しろがね、何言い出してんの? さっきまでのボロカス評価でなんで、トップ10とか言う変な単語が出てんの?

 おかしくね? それ。


 なにせ、わたしときたら剣をとっての戦闘? そう言うのが全然ダメなのだ。


 へっぴり腰で「とやぁ!」とかやっても、しろがねなんかには掠りもしないし、しまいには頭を抱えて、目を瞑ってしゃがんで降参……いっつもそんな調子。


 防御や回避が上手いってのは……どうなんだろう。

 例のガンシューティングネトゲにハマってたので、それのせいかなって気がしないでもない。


 なにせ、そのゲーム……バーチャルリアリティ技術をフルに使った銃撃戦主体のゲームで、もう一人の自分になって戦場に立つってそんなコンセプトのゲームだったのだ。


 わたし的には、身体を動かす疑似体験が出来ればいいなぁ……程度の感覚だったのだけど、その戦場の日々にすっかり虜になった。


 で……そのゲームなんだけど、これが一発当たれば即死、戦闘不能とか当たり前……なんて超シビアな奴。

 まぁ……とにかく死ぬ、コロコロ死ぬ。

 装備とかめっちゃ良くしてても、戦闘開始後五秒でサヨウナラなんて、ザラ。


 死んでも、真っ暗なデスペナルティエリア送りになって、しばらく戦闘エリアから退場させられるってだけで、別に痛いとかもなかったんだけどね。


 必然的に如何にして敵に見つからないとか、遮蔽物なんかを有効に使ったり、投影面積を最小にして弾に当たりにくくするかとか、そう言うプレイヤースキルが求められた。


 なにせ、VRをフル活用、生身の五感を駆使したリアル戦場と言うのが売りなのだ……ターゲットマーカーとかガンシューティングでお馴染みなものすら出てこない。


 己の眼で敵を探り、耳に聞こえる音や気配で察する。

 硝煙の匂いを嗅ぎ、肌で殺気を感じる。

 狙われた瞬間……相手の視線から弾道見切って回避とか……それくらいやらないとあっさり死ぬから、その程度のことはやってた。

 ……VRのクセに、リアルの武道の達人のように殺気や視線を感知とか、わたし達上位プレイヤーにとっては常識で必須スキルだったと言う……冷静に考えると色々おかしいんだけど……。


 上級プレイヤー同士の戦いは先読みやフェイント、超人回避の応酬みたいな様相でとにかくアツかった。


 で……その経験が生きてるらしく、相手の目を見て、手の内を先読みしていけば、結構避けれるってことに気付いた。

 実際、ここでの戦闘訓練や模擬戦でも、離れた間合いで魔法とか遠距離攻撃を避けまくるのだけは上手くなった。


 それに、この身体……ナリは小さい割にやたらパワフルで、3mくらいの高さまで飛び上がったりとか、瞬間時速60kmくらいで走ったりとか、普通に出来るってのも大きいと思う……最初の頃はむしろ加減に苦労したよ。


 ……ジャンプして、頭から天井に突き刺さったり……とかさ……ギャグマンガみたいだよね。


 ただまぁ……接近戦とか? その辺はゲームでもいわゆる遠距離スナイパーとかそんなのばっかりやってて、基本、近づかれたら「死」……そんな感じだったので、ゲーム知識はまったく役に立ってない。


 確かにゲームでもCQC……つまり、ナイフや素手での近接戦……そんな要素もあったんだけど。

 わたしの場合、如何にそんな状況にならないようにするかとか、接近された状態から距離を離すために振り切って、逃げまわるとかそんな事ばかりに注力してた……一応、逃げ足の速さはちょっと自信あり。


 そもそも、何と言ってもわたしは……自他ともに認めるビビリなのですよぉ。

 目の前でナイフやらゲンコツが飛んで来るなんて、VRでも怖くて涙目状態だったんだから、それが生身で……なんてなったら、もうどうしょうもない。


 で、実際問題……わたしってば、基本そんな調子なので……結局、遠距離ではまともな攻撃手段がなく、近距離だとへっぴり腰&ビビリで全然ダメ……と言うことで、戦闘に関しては囮とか楯くらいにはなるんじゃないかなーってのが自分なりの評価。


 一応、最近……通称「くろがねタックル」……なんて、要は目を瞑ってドーンと体当たりってのを覚えて、少しは勝率あがったけど。

 しろがね相手だと、普通に受け止められて、抱っこされたまま、頭をポコリとやられて終了。

 っていうか、しろがねが強すぎるんだよっ!


 前に読んだことのある転生モノの小説や漫画……みたいに、現代知識やチートスキルで無双とか……少なくともそんな風に都合よくはいかなかった……と言うか周りがスゴすぎるんだよね……頼もしいことに。


 ちなみに、しろがねは自分自身の時間の流れを加速する固有魔術を使える……某アニメで外道魔術師が使ってたのと同じようなヤツ。


 倍速どころか、3倍、4倍速で動ける……まさにチートスキル。

 時速240kmのダッシュとか意味わかんないです。


 せめて、しろがねみたいに固有のチート魔法とか使えたら、良かったんだけどなぁ……。

 それか何かいい飛び道具くらいあれば……そもそも、この世界……飛び道具っても弓とかそんなんしかないらしい。

 文明レベルが色々ショボすぎるんだよね……。


 で……まぁ、必然的にしろがねと同じように剣でチャンバラってなったのだけど。

 言ってしまえば、力押ししか芸のないヘタレ近接……くろがね無双には程遠いってのが現実。


 銃火器とかあれば、まだ少しは戦いの役には立てると思うのだけど。

 まず、魔王様も含めて銃火器を作れるような者が誰もいない。


 外の世界でもそもそも火薬というものが存在しないようで、日本で言うと鉄砲伝来前とかそんな調子。

 外界の軍勢も、大砲も鉄砲もなくて、フルプレートの騎士サマが我が世の春みたいな感じで各地で暴れまわってるらしい。


 たぶん、その騎士様を相手にすることがあるだろうからと、魔王様謹製の騎兵型ゴーレムと戦ったけど、ドカドカと迫ってくる騎兵……あれホント超怖い。

 まぁ……結局ヘタレモード発動で背中向けて逃げてしゃがみこんだ所を文字通りお馬に蹴られて負け……と思ったら、向こうがぶっ壊れちゃったらしくて、一応勝ち。


 なんじゃそら?

 我ながらヘタレてるなぁ……。

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