第十五話「訳アリ勇者様の異世界戦記」②
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第十五話「訳アリ勇者様の異世界戦記」②
---3rd Eye's---
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戒めの巫女……カヤ。
彼女は明らかに異常者だった……。
短絡的で破滅的……戦闘力も極めて高く、ドラゴンすらも一撃で両断する正体不明の魔術を使いこなし……。
素手で完全武装の兵士を瞬殺する怪しげな体術を使う……言ってみれば歩く凶器なのだ。
おまけに、気配だけで敵の所在を把握する索敵能力と、気配を完全に殺せる隠蔽技能……。
暗殺者としても超一流なのは間違いなかった。
膂力とかは普通の人間と変わりないようなのだけど、ずば抜けた危機察知能力で弓矢や遠隔魔法と言った飛び道具なども通じない上に、数キロ単位の超遠距離攻撃すらやってのけるのだ……。
この辺は……陸軍の無謀な強行派が彼女を抑えるべく、独断で動いて、あっけなく血祭りに上げられると言う出来事があって、その際に実証されてしまったのだけど。
はっきり言って、アオイ以上に手に負えない相手だった……。
こんなのをブレイブルはそれまでの通例から無力と決めつけて、虫けらのように扱っていたのだ。
もう滅んだのは必然と言えよう……同情の余地なしだった。
彼女のいた世界については、アリーもアオイから断片的に聞いていたのだけど。
何と言うか……ものすご~く平和な世界としか思えず、カヤはそんな世界にいたとはとても思えない程、戦い慣れしていた……どう考えても異端者だったのではないかと、アリーはそう思っていた。
それでいて、カヤのアオイへの献身と、その忠義と愛情は同じ女性として感心してしまう程の尽くし振りだった。
なので、アオイが居る限り、彼女はそこまで恐ろしい存在でもなかった……。
それに口では割りと物騒なことを言うのだけど、それを実行した事はあんまりなかった。
アリーさんは、少なくともカヤに100回位ブチ殺します宣言をされているのだけど、今日までブチ殺された事はなかった。
……アオイに言わせると、そう言われる度に涙目ガクブルな小動物みたいになってしまうらしく、そんなアリーの反応を見て、楽しんでいるのだそうな。
直情的でドSなカヤと、その抑え役の比較的温厚なアオイ……普通は逆なんじゃないかと思うところだけど、この二人はそれで上手くバランスが取れていた。
それに、そう言う凶暴な一面に目をつぶって、普通に接している分には、彼女も普通の女の子とそう変わりないと言うことは、アリーも解っていた。
要は、扱い方の問題なのだ……猛獣だって、懐かせれば問題ない。
「さ、さすがカヤ様です……。おっしゃる通り、我が西方の特殊戦が近辺に全部で50名程分散配置されています。もっとも、私個人としては、意味が無いから不要だと再三進言はしたんですが……むりやり押し駆けられてしまいまして……。こちらも一枚岩ではありませんので、このような不手際が……すみません……やっぱバレバレですよね?」
そう言って、心底申し訳なさそうにペコペコ頭を下げるアリー。
「あら、認めちゃうんだ……でも、私ついカッとなって、皆殺しにしちゃったりするかもしれませんよ?」
「どうぞどうぞ! 気に食わないようなら、全員ぶち殺して回っても構いませんよ? 私は黙認しますし、命の保証はしないと警告はしたので、自己責任というやつです。初めから、あなた方は武力でどうこうできる相手ではないと、重々承知しております。だからこそ、私は一個人としてあなた方に近づかせていただきました……。監視が必要だったのは……国として野放しに出来なかった為と、ご理解いただきたいところです。身分を隠していたのは仕方がなかったとは言え、重ね重ね無礼をお詫びさせていただきます! けど、こうして話し合いの機会を作ってくれただけ、それなりに見込みはあると思っているのですが……。お気に召さないのであれば、日を改めますし、特殊戦の連中は直ちに撤収させます……」
そう言って、アリーは床に正座すると深々と頭を下げ、割りと必死な感じで言い訳を重ねる。
その様子を見て、アオイは朗らかに笑う。
「アリーさん……そう言うのは止めようよ……土下座とかそこまでされると困る。一応、アリーさんが軍関係者だったってのは……薄々勘づいてたよ。妙な話だと思ってたんだよね……なんで、野放しにされてるんだろうって……。けど、これまで他の軍関係者とかが干渉してこなかったのって、アリーさんが頑張ってくれてたって事なんだよね。どのみち普通の兵隊50人位じゃ、脅威にもならない……そっちが何もしないなら、こっちは別に構わない。アリーさんとは寝食を共にしたり、裸の付き合いとかもあった仲だしね。私は個人的に信頼できる人だと思ってるから、そっちが無茶しない限り、話くらい聞くさ。まぁ、とにかく……いつも通り仕事の依頼って事でもいいんだよね?」
アオイの言葉に、アリーも少しは砕けた表情を見せる。
実はその通りで、アリーたち以外の諜報関係者とか、強硬派とか色々干渉しようとしてきたのを、アリーとその上官達一派は必死で宥め、説得し……。
あの手この手で妨害工作を仕掛けながら、アオイ達の信頼関係の構築を最優先としてきたのだ……。
止められなかった例もあるのだけど……彼らはその生命を以って償った上に、あれが良い教訓になっていた。
だから、自分の働きをアオイに評価されている事に本当は涙がでるほど嬉しかったのだけど、そこまで弱みは見せられないので、ちょっと頑張ってみた。
アリーさん、詰めが甘いとか、何かとザルだったりと色々と難点があって、失敗とかポカばかりやらかしているのだけど。
要するに、軍人や諜報員としては、有能には程遠い人なのだ……。
もちろん、軍関係者だということも随分前からバレバレ……。
けれど、ある意味人間味あふれる人だから、逆に信頼されていたと言うのは、本人にはあまり自覚なかったが、事実でもあった。
「すみません……一応、身分的には情報軍のニ等上佐……将軍の二個下くらいの階級になってしまったので……。現場の部隊の隊長より階級は上なんですよね……。だから、後で上から文句言われるかもしれませんが、強権発動で強制的に引き上げさせることも可能です。ぶっちゃけここで下手打つと後も何もないですから……そちらの要望は、私の権限の及ぶ限り、出来るだけ対応します」
実はアリーさん。
この交渉に臨むにあたって、二階級特進とか受けてたりする。
アオイ達と関わりを持ち始めた当初は、二等上尉……だったのだけどど、月間ペースで階級がポコポコ上がっていって、いつの間にか二等少佐にまで出世していた。
おまけに、今回二階級特進を受けてしまったので、ニ等上佐へ昇進。
西方軍のこの二等上佐と言う階級、こちらで言う所だと中佐相当。
陸軍だったら大隊長……海軍だったら、艦長を務められる階級と言えば、彼女がトンデモ出世してしまった事は容易に理解できるだろう。
「アリーさん、ぶっちゃけ過ぎ……けど、私もここで暴れたりする気はないからね。私は別に弱い者いじめみたいな事はしたくないし……この街だって割りと気に入ってるんだ。それに、さっき言ってた交換条件で私達を元の世界に戻してくれるってのは、魅力的じゃあるからね。そもそも、私達がこの世界に召喚されたのだって……なんか意味があったんでしょ? 今の私……自分がどれだけの力を持っているのか……解ってはいるんだよ。こんな核兵器みたいなのが必要な状況……例の魔王軍ってのが相当問題になってるんだよね……。カヤちゃんはどう思うかな?」
そう言って、アオイはカヤに笑いかける。
「ホント、迷惑な話ですよね……。魔王軍だかなんだか知りませんけど、勝手に召喚とかして、人がおとなしく言う事聞いてるからって調子に乗って……。あの王様の脳天かち割ってやった時は、気分爽快でしたわ……」
そう言って、カヤは笑う。
それを聞いて、アリーも暗澹たる思いを禁じ得なかった。
ブレイブルの国王も彼女が言うように、素手で惨殺されたのだろう。
確か……手枷足枷付きで厳重に拘束されていたとか、そんな話を聞いたのだけど。
その程度では、彼女にとっては意味がないというのは容易に想像ついた。
強大な力を持つ勇者を拘束できる術を持つ一種の安全装置が「戒めの巫女」という存在。
戦闘力を持たない彼女を拘束し、強制的に言うことを聞かせれば、勇者の制御も出来る……それがブレイブルのやり方だったらしいのだが。
その戒めの巫女が、素手で完全武装の兵士を瞬殺する凶悪な戦闘力と、躊躇いなく殺人を犯せる異常者の精神を併せ持っていた時点であっさり破綻した。
ブレイブルの一件はそのような顛末だったのだろうとアリーは予想していた。
あの国の王達の愚鈍さとその勘違いっぷりは、グノー連邦側でも問題になっていたほどなのだが……アリーとしては彼らを反面教師として、立ち回る必要があった。
そんな訳で、勇者アオイとカヤ様編の序章その2です。
以前は、文字数7,000位行ってても、一話分で出してましたけど…。
他の人の作品見てると、2,000から4,000くらい…5,000超えるとちょっと長いってそんな感じみたいなので、結局勇者編の序章だけで10000文字超えちゃったので、3話分割と相成りました。
おかしい…何故、見直して加筆訂正しただけで、テキストが5割増しとかなるんだ…。
第二部も実は、余計な冗長な部分をごっそり削って再構成したり、色々やってて公開おそくなってました。




