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第十四話「帝都」②

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第十四話「帝都」②

---3rd Eye's---

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 魔王軍との戦いの終結後。

 帝国軍にとって、最大の懸念点となっていたのは、東方軍に投降した西方軍の5万人近い大量の捕虜の扱いだった。


 ご存じのように、彼らは投降したものの、それ以前に補給断絶で餓死者すらも出ていた有様だった為、まさに食いっぱぐれ状態だったのだ。


 当然、東方の派遣軍の人数を超えるような捕虜の食い扶持など、直ちに確保できるはずもなく、急遽人道的配慮と言うことで、帝国本国から捕虜用の糧食の緊急大量輸送が行われたのだが……。

 

 その大規模輸送隊が湖のところでつっかえてしまい非常に困った状況になってしまった。

 一応、急造の渡し船を使うことで、物資の輸送はできてはいたのだが、効率が悪く絶対的な輸送量不足は否めなかった。


 そこで、せっかく講和を結べたのだからと、ダメ元でエーリカが魔王軍でもっとも水の元素魔法に長けている蒼玉に、湖を何とか出来ないかと頼み込んでみたら、湖を一気に全面氷結させるというびっくり手法であっさり解決してしまった。

 

 ガッチガチに凍っていれば、多少滑るのさえ気をつければ、馬車も人も問題なく渡れる。

 その上、難航していた架橋工事も足場が出来たことで一気に進展と言うことで、現地の皆様からは大好評!


 周囲の気温が一気に冷え込んで、工事関係者や輸送隊は防寒具必須となってしまったけど、その程度は些細な問題。

 

 ついでながら、彼女がこの湖を作り出した張本人だという事を自分で白状してしまい……。

 ワイズマンに、せめて架橋工事が終わるまでの間、氷結状態の維持をすべくこの地に居残りを命じられた。


 本人は、帝都観光と色々と美味しいものを食べまくり……とかなんとか目論んでいたので、難色を示していたのだけど。


 「この人逃しちゃ駄目ぇっ!」状態となった帝国工兵隊の面々が「蒼玉様をもてなす会」的なものを連日開いてくれると言うことで、なんだかんだで人のいい蒼玉さんは折れた……。

 

 と言うか、青の女神様とか持ち上げられて、すっかりその気になってしまった。


 ……これは後日談になるのだが。


 この湖は水の女神が降り立ち、手ずから蘇らせた湖と言うこととなり……。


 美しい湖と巨大な橋、そして女神御殿と呼ばれる立派な神殿の醸し出す神秘的な情景を売りにした緑溢れる一大観光地となり、まさに後世に残るものとなる。


 これは、その第一歩と言えた。


「まぁ……さすがにあれは、少々やり過ぎだったからな……戦争と言えど、やっていい事と悪い事くらいはある……蒼玉のは……間違いなく後者だな。ただ、本人もあそこまで酷い事になってるとは思ってなかったみたいで、一応、反省はしていたようだし……この件はあれで手打ちと言う事にしといてくれるとありがたい。それにしても、あの工兵隊の連中……えらく熱心な感じで蒼玉のやつを引き留めようとして、女神扱いだの、神殿やら女神像を建てるとかなんとか言ってたが……。あんな大飯喰らいの大魔神……そんな御大層なもんじゃないだろうに持ち上げすぎると、調子に乗って後々めんどくさい事になるんだがねぇ……」

 

 ワイズマンが呆れたように呟く。

 けれど、エーリカ姫は真面目な顔をして返す。

 

「何言ってんのかしらね……あの青いのとは、私だって絶対戦いたくないわ。彼女、水の元素魔法の使い手としては、世界最高峰だと思うわよ……。うちの魔術院の連中……湖の件聞いて泡拭いて倒れちゃったらしいし。あれが本気になったら、一国程度軽く崩壊しちゃう……一般人から見たら神様と変わりないわ。敵に回して地獄を見るくらいなら、怒らせないように貢物でご機嫌を取る……人が神様へする対応としては妥当なものよ。それに、あんな綺麗ドコロ……うちの工兵隊連中はすっかりファンクラブ気分よ……まったく男ってのはバカばっか」

 

「……パーラミラは、ベル将軍や共和国議会の連中もゾロゾロと向かってて、あの娘を国賓待遇にして歓待するって話だぞ。何より、年中行事のバーツとの小競り合いで国全体が疲弊してたのも事実だったからな……その脅威が実質上、取り除かれたんだ。あの娘がやらかした事なんかより、得たものの方が大きいってんで、もう国中、大騒ぎであちこちお祭り騒ぎさ。あの湖もそのまま残して、観光地にするって話だ……平和的で結構な話だと思うぞ」


 エーリカの蒼玉評に続き、ダインがさも面白そうにそう続けた。


 それと……魔王城跡地に浮上する事となった魔王城についてなのだが……。

 東方同盟、及びその盟主たる帝国は、正式に「魔王独立領」と言う名称でその地の領有を認めてしまった。


 更に捕虜の返還を盾に、西方諸国連合から大幅な譲歩を勝ち取り「魔王領安全保障軍」と称する軍勢をバーツ王国との国境線に進出駐留させ、西方へ睨みを利かせる事で、事実上このトゥーラン回廊を東方の勢力圏下に置いてしまった。


 魔王軍についても、東方は全面的に魔王軍との戦争を回避する方針で、魔王軍への攻撃は東方への攻撃と見なすと言う安全保障宣言に加え、魔王軍の面々についても、東方各地域での自由な行動を許可する東方同盟自由通行権と言うものをもれなく付与してもらえた。


 もちろん、安全保障云々となると付き物の東方同盟の係争に魔王軍関係者が参戦する義務があるかどうかについては、状況次第で各々の自由な意志と良識ある判断に任せるというある意味アバウトかつ、何やら含みのある条約となった。


 要は、魔王領は東方が積極的に防衛し、その見返りは求めない。

 また魔王軍の娘達が東方同盟を自由に闊歩していても、一切咎めないどころか国民と同様に扱う、自分の国とでも思ってくれて構わない。

 

 ……その代わり、東方同盟各国でもし何かあって、手を貸せそうな場面に遭遇したら、何か手伝ってくれちゃったりしたら助かるなぁ……と要約するとだいたいこんな感じ。


 東方同盟……帝国としては、要するにあの一戦で魔王軍のヤバさを思い知ったので、もう全力で仲良くしたいと言うことだった。

 

 ヤバい相手とは、喧嘩するより取り込んで仲良くするに限る……帝国が400年以上もの歴史を誇るのは、こういう柔軟な発想とソフトな対応を実現する……ある意味、聡明さを備えた国でもあったからだった。


 またもう一つの魔王軍の戦争相手……西方諸国連合については……。

 まずバーツ王国については、元々先の戦いで魔王軍に最優先で攻撃された事や無計画な天使降臨とそれに続く、天使と魔王軍の総力戦の巻き添えをまともに食らった結果……。


 バーツ王国魔王討伐軍3万中生き残ったのは5千と言う惨状で、国軍の大半を失い自業自得と言え、自国内の略奪の影響もあり、王国内各地で反乱が発生し国家滅亡一歩手前の状態だった。


 もはや、西方諸国連合の支援が頼みの綱という状態だったのだが、それも魔王軍の攻撃対象にされたくないと言う理由で、トカゲの尻尾切りとばかりに切り捨てられてしまった。


 現在、魔王軍からは玻璃を筆頭にバーツ王国討伐隊が密かに編成され、反乱軍への協力という形を取り、最後に残った国王とその近衛、教皇とその取り巻きとの戦いが始まろうとしていたのだが……この事は、くろがねは知らない。


 争いを厭い、争う意志とその手段を力づくで粉砕し調停する「黒の節制」のオリジンたる彼女が、この事を知ったら、何をしでかすか解らない……そうワイズマンは判断した。


 なにせ、バーツ王国については、完全に真っ黒な敵対勢力の巣窟なのだ。

 向こうの大物、執政と司祭は仕留めたものの、黒幕はまだ存命だ……魔王軍の総力を以ってでも殲滅すべき明確な敵だった。

 

 そんな状況で、如何に戦力として強力とは言え、くろがねを関わらせると、結末が全く読めない……不確定要素は外すべき……それが魔王様とワイズマンとでお互い一致する所だった。


 そんな中、ちょうどいいタイミングで、帝国の皇帝陛下へ講和の最終承認を得る為に、代表団を帝都に招待させて欲しいという提案が帝国側からあり……。

 ワイズマンはくろがねとしろがね、それと紅玉、黄玉、蒼玉の五人を引き連れ、帝都に向かうことになった。

 なにげに、魔王軍最強クラスのメンバーなのだが……紅玉達はワイズマンのお供と言うことで、むしろ率先して志願……帝国に行くなら、是非と言うことでくろがねも志願。


 しろがねは、くろがねの行く所、当然同行……こんな調子で決まった。


 かくして、バーツ王国については、もはや情勢的には失陥は免れない……そんな情勢となってしまった。

 西方諸国連合にとっては、はっきり言ってかなり痛いのだが……。

 

 義勇軍を含めて、遠征軍6万中2万を失い4万が捕虜となると言う記録的な大損害を喫した直後で、手助けなどとても出来ないというのが現実だったのだ。

 

 おまけに、最終的に捕虜の返還交渉で、バーツ王国の騒乱について、東方、西方共に干渉しないと言う切り捨てを強要されるような条約を強いられてしまった……。


 この条約を結んだ背景としては、やはり「魔王様はバーツを敵対勢力と見なし滅ぼすと宣言した」と言う魔王様直々のお言葉が極めて有効なカードとなった。


 その上で……「そちらさんも大変だよねぇ……何をきっかけにバーツと同一視されるか解らないからね。君子危うきに近寄らずって言葉知ってる? ここはお互い黙って成り行きを見守らないかい?」


 ……と真綿で包んだ脅し文句を告げられた事で、西方側の外交官達は絶望と共に、恐怖のどん底に突き落とされた。


 魔王様に恩を売って、その威を笠に着る……悪どい外交手段であったが、一応それは事実であり、国同士の外交なんてそんなもの。

 ……ハッタリ上等、機を見て隙を見て、使えるものはなんでも使って、自国側に有利な条件を引き出す……そこら辺、東方の外交官達も百戦錬磨のプロであり、抜け目は無かった。


 かくして、魔王様と東方同盟のタッグ相手に全面戦争……などという恐ろしい状況を全力で回避すべく、西方はバーツ王国を容赦なく切り捨てた。

 

 この選択は……将来的には西方諸国連合を崩壊させかねない危険な選択ではあったが……今滅ぼされるよりはマシ……そういう事だった。

なんか第二部再開。

こそっと始めた割に、PVの伸びが激しかったり、ブックマークが増えてたりと、意外な結果でした。

うーん、なんだろこれ…それなりに期待とかされてるのでしょか。


それとタイトル、また変えるかもです。

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