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第十三話「終幕」

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 第十三話「終幕」

 ---3rd Eye's---

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 その光景は……まさに荘厳と言える光景だった。

 立ち上る朝日に照らされて、金色の異形の騎士が立っていた。

 

 そして、その両腕でしっかりと黒衣の少女を抱き上げていて、足元には禁鞭の四本分の先端部が踏みにじられていた……それはしばし蠢くと蒸気のようなものに包まれて消滅する。

 

 幾重のもの薄い板を縦に積み重ねたような異形の鎧の隙間が開くとプシューッと言う音が漏れる。

 

 まるで、壊れ物でも扱うように優しく黒衣の少女……くろがねを下ろし立たせると、軽くその頭を撫でてから、地面に落ちていた帽子を拾うと埃を払ってかぶり直させる。

 

 そして、隣で尻餅をついて座り込んでいたもう一人の女に手を差し伸べる。

 その女……エーリカも困ったような嬉しいような複雑な顔で、その手をとり立ち上がる。

 異形の騎士はそのままエーリカの腰を抱き寄せ、大音声を発する。

 

「……この場に立ち会った者たちよっ! 聞けっ! 帝国第三皇女エーリカ姫と、魔王軍総指揮官くろがね嬢の一騎討ちは……双方共倒れの結末に終わった。だが、俺は目の前で女が死ぬのは耐えられん性分でな……だから、非礼を承知で、割って入った! どっちもいい女だ……いい女が死ぬのは世界の損失……この結末によもや異論はあるまいっ! この勝負……この俺、ティエルギス帝国派遣軍司令官……ダイン・クラウス・スーレイ上級軍将の名に於いて、預からせてもらう。そして、我ら東方同盟軍は、魔王軍総大将の助命の功と引き換えに、千年魔王閣下と講和の話し合いを申し込みたい! 加えて、生き残った西方諸国連合軍の諸君に告げる! 我々、東方同盟へ直ちに降伏せよ!! なぁに、全員で白旗でも掲げてくれりゃそれで済む……これ以上の戦いは誰にとっても無意味だ……。なぁ、おめぇら腹減ってんだろ? とりあえず、飯くらい食わせてやるから、もうやめようぜ」

 

 それだけ言うと、異形の騎士の姿がくすんだ金色の鎧の中年男……ダイン将軍の姿へ成り代わる。

 

 まるで打ち合わせでもしていたかのように……西方軍から一斉に白旗が上がり、それを見た東方軍の軍勢からも大歓声が上がる。

 

 遠くから、白い服の少女……しろがねが走ってきて、ダインの首に抱きつく。

 勢い余って、半回転ほどしろがね諸共回りながら、ダインはエーリカを離し、しろがねの両脇を抱きかかえ、くろがねと向き直させるとその背中を叩く。

 

「チビ助……なにやってやがる……こっちじゃねぇだろ……お前はそっちにいってやれっ!」

 

 呆然とその光景を眺めていたくろがねに、背中を押されたしろがねが飛びつく。

「黒の節制」の姿のままで身長差があった為、そのまま押し倒されるような格好になって、ふたりともくんずほぐれつと言った調子でひっくり返る。

 

 周囲の草原からも続々と魔王軍のメンバーがぞろぞろと姿を見せる。

 

「ワイズマン様からの指令です……総員、戦闘終了! 全員集合の上、別命あるまで待機との事ですわ。そちらのダイン将軍閣下……魔王様も停戦に合意するとの事です……! つまり、この戦いはおしまいって事ですわ。皆様、お疲れ様でした……早いとこ帰って、お風呂とお着替え……そして、ご飯にしましょっ!」

 

 紅玉がそんな調子で、満面の笑みとともに戦闘の終結を宣言すると、蒼玉が「ご飯なら、お任せですよー! わたしもお腹空いちゃいましたぁ。」と呑気に返す。

 

「まぁ……とりあえず、お風呂が最優先かな……あんたらと違って、あたしら皆、顔まで真っ黒けだもん」

 

 目元をゴシゴシ擦りながら現れた玻璃の言葉に、全員が同感と言って笑い合う。

 

 くろがねとしろがねのふたりも、お互いの黒ずんだ顔を見て笑う。

 くろがねもしろがねが抱き付いた拍子に変身が解けて、もとの姿に戻っていた。

 

 そんな二人の元へエーリカが歩み寄ると、そのまま右手を差し出す。

 

 くろがねが応えるように手を伸ばし、その手を握り返したところで、ブラジャー代わりにしていたボロ布が解けそうになった。

 けれど、背後からくろがねに抱きつくような形になっていたしろがねがとっさにその両手でもって、大事なところをガードする。

 

「ふにゃあああああっ!」

 

 くろがねの絶叫が木霊する。

 その様子を目の前で見ていた姫様がくろがねの手を握ったまま、コロコロと楽しそうに笑った。

 

 ダイン将軍もそっぽを向きながらも堪え切れなかったのかクックックと笑う。

 恥じらう乙女への心遣いを忘れない……こんな時でも、彼は紳士だった……のだが。

 

 ボロ布をワンピースのように身体に纏った黄金がどこからともなく走り込んでくると「死ねっ! 女の敵っ!」とかなんとか言いながら、ダインの後頭部に飛び蹴りを入れる。

 

 続いて、同じくボロ布姿の鋼が「下着返してくださいっ!」と叫びつつ、腰の入ったアッパーカットを綺麗に決める。

 

 ダイン将軍、きりもみしながら宙を舞い、頭から地面へズベシャッと落ちる。

 

 しろがねが姫様の側に寄ると、何やら耳打ちをする。

 姫様、頭を抱えながら、キッと顔を上げると、ダインを指差しながら、腰に手を当てて高らかに宣言する。

 

「この私が許すっ! もう好きなだけ、やっちまえっ!」

 

 こくりと頷き、理不尽ではなく正当なる暴力を開始する黄金と鋼。

 フルボッコにされながらも、なにやら幸せそうな笑みを浮かべるダイン将軍は、やっぱり本物なのかもしれなかった……。

 

 かくして、後に「トゥーラン回廊の決戦」と呼ばれる戦いは、その勝利者も曖昧なまま、ここに終結した。

 

 ……戦いは終わった。

 

 ついでに、オチもついて、この場はひとまず、めでたしめでたし。

 

 

 

 そして、場面は……魔王城司令室へと移り変わる。

 

 ……立ち上がって二人の決戦を見守っていたワイズマンは、現場の紅玉へ戦闘終了の命令を出すと、どっかりと司令席に腰を下ろす。

 

 心底安堵したような表情を浮かべながら。

 

「……やれやれ、危うくどうなることかと思いましたが……なんとまぁ……こんな結末になりましたか。魔王様……ああ言ってますが……どうされます? まぁ、落とし所としちゃ悪くないですね……こっちはまだまだ余力ありますが。総大将同士の一騎討ちはドロー……しかしながら、どちらも揃って死ぬところをヤツが身体を張って、救ってくれた。借りとしちゃ、なかなか高くつきそうな借りですな……。まぁ、うちの黄金も鋼もあいつに負けてますし、しろがねもどうも捕虜の身という事らしいです……。野郎に美味しいところ総取りされたようで、気分悪いですが……この辺で手を打ちますか。」

 

 魔王様へ向き直り、生真面目な顔で進言するワイズマン。

 

「助命の功と引き換えとは、いけしゃあしゃあとよく言ったもんじゃ……。だが、そう言われるとこちらも無下にできん。それにしても、西方の者共を降伏させるとは考えよったな。ああなると、連中の生殺与奪の権利は奴ら東方軍のものという事になる。わしらとしては、東方軍と話し合いをする以上、奴らには手を出せんし、東方は東方で西方との交渉カードを手に入れたという事になるからのう……まったくもって、食えない男じゃな……。西方の連中も図ったように一斉に白旗なんぞ上げよったからな。……恐らく、どさくさに紛れて、降伏勧告の使者でも送り込んでおったのだろう……。まったく、これではわしらは良いように利用されたようではないか……だが、この結果は悪くない……むしろ、上出来じゃ……。そうなると、わしもこうしてはおれんのう……ワイズマン……あとの事は任せた。外の連中には、魔王城跡地の地均しをするように伝えておいてくれ」

 

 それだけ言うと、魔王様は席を立つと大きく伸びをする。

 

「ふむ……地均しですか? で、どちらへ行かれるので?」

 

「決まっておろう……魔王城を再浮上させる……その準備をするのじゃ。野原のど真ん中で、交渉のテーブルなぞいささか趣に欠ける。何よりわし抜きで講和の話し合いなぞ、さすがにそれはないじゃろう? 城内の者たちにも、客人を迎える準備を……それにあやつらも出迎えて労ってやらんとな。さて……わしらも忙しくなるぞ……ワイズマンよ。」

 

「祭りが終わったあとの後始末こそ、我々の出番ですからな。桜、くろがね達の出迎えの準備を……。まぁ、風呂の支度と全員分の飯と着替えってとこかな……細かいことは任せる。魔王様のお手伝いは梅と桃……お前たち二人が行け。それと交代要員の芍薬達を呼び出して、客人を出迎える準備を……詳細はそっちで仕切って構わんと伝えろ……。くれぐれも魔王様に恥をかかせるような事になるなよ……他にも手が空いてる要員をガンガンここに集めろ。それから……」

 

 テキパキとワイズマンが指示をだすのを見届けると、魔王様はひとり司令室をあとにする。

 

「まったく、よもや怨敵と思っていた奴らと講和の話し合いをするときが来るとはな……。実に面白くなってきよった……くろがねが使徒として目覚めた事で……他のものもそれに続くことじゃろう……。それにしても、この結末は……わしが見た未来図の中で最良のもっとも確率が少ないと見ておった結末じゃ。いやはや、愉快愉快……長々と生き延びてみるものじゃのう……楽しくて仕方がない。どうじゃ我の目を通して……見ておるんじゃろう? 貴様のお望み通り楽しい展開になってきたじゃろう? フハハハハッ!」

 

 魔王様の心底楽しそうな声が誰もいない廊下に木霊する。

 

 それから、一時間もしないうちに、400年ぶりに千年魔王の居城はその本来の場所に居を構えることなった。

 

 魔王の帰還……その一幕であった。

 

 そして、この世界に投じられたこの巨石がこの時代に大きな波紋を起こす。

 その波紋はどこまで広がり、どのような影響を及ぼすか……誰にも予想付かなかった。

 

 それは必然でもあり、ある種の停滞感に満ちていたこの時代にとっては、一つの福音となるのかもしれなかった。

 

 そして……彼女たちの物語は始まったばかりだった……。

 

 ---第一部 魔王の帰還編 完 ----

ここまで、読んでいただいた皆様。

お疲れ様でした。


ラストシーンはなんともあっさりしてる感じですけど…。

実際、これただの緒戦ですからね!


初期版では、3行で終わった話がこうなっちゃいました!

だいたい姫様が悪いです。


なので、今回は第一部完ってだけです。


くろがね達の冒険は、第二部に続きます。

ただ、その前に一旦連載はおやすみします。


感想とかもらえると嬉しいんですけどね。

読み返すと結構作りが雑だったり、テンポ悪かったり色々問題ありまくりなのは承知!


それでは、第二部でまた会いましょう!

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