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第十二話「ラストダンス」②

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 第十二話「ラストダンス」②

 ---Kurogane Eye's---

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 姫様が禁鞭を振りかざす!

 

 六本の鞭がそれぞれ二つに分かれ、更に倍々に増えていく!

 あっという間に100本以上もの鞭が現れ、それぞれが虫の触覚みたいにカクカクと動く。

 

 そして、暴風雨のように、一斉に襲い掛かってくる……一発当たれば、アウトの猛ラッシュ!

 

 最初に襲い掛かってきたのは20本ほど、いきなりの全方向オールレンジアタック!!

 凄まじいほどの速度……けど、見えるっ! 周囲の風景がゆっくりとスローモーションになる。

 

 違う……周りが遅いんじゃなくて、自分が早くなってるんだ!

 これって、しろがねの加速? こんな風になるんだ……と言うか、なんで使えるの?

 

 今は四倍速の世界……最大十六倍速までいけるんで、適時倍率を変化させて、敵に対応させない事が肝要……と、もうひとりのわたしからのチュートリアル的な説明。

 

 恒常的に使うのではなく、瞬間的にフル加速して、攻撃を見切ったりそんな感じに使うらしい。

 シューティングゲームのボムとかでそんなんあったなぁ……。

 

 まっすぐに突き進んで、最初の一本を切り捨てる……鞭の先端に斬りかかると、それは刀の纏う闇に文字通り食われる。

 

「黒の節制」……触れるものを消し去る闇の刃を刀身とする恐るべき刀だった。

 

 さらに、左から飛んでくる鞭の先端を左手に錬成したフリントロック拳銃の銃弾で逸らす!

 単発式だから、すぐさま投げ捨てて、もう一丁錬成し、更にもう一発。

 

 破壊はできないようだけど、軌道を逸らすくらいは出来るみたい、

 ……けど、明らかにフリントロックの威力じゃないし、錬成速度が尋常じゃない!

 出てこいと思った瞬間に、もう手の中にある……そんな感じ。

 

 おまけに、錬成物自体に強化の魔術がかかるようになっているらしい、さすがっ! うん、十分! これならイケるっ!

 

 二つ! 三つ! 四つ! 続けざまに、正面から迫ってきた禁鞭の枝を片っ端から刀で切り落とす。

 

 先端を切り落とされ枯れるように力を失っていく枝を足場に、その上を駆け上る。

 根っこの部分を見つけ、叩き切ると、そこから繋がっていた10本あまりが砂のようになって、消え失せる。

 

 側面からさらに4つ! 瞬間的なフルアクセルで軌道を見切り、3つまでは躱せた!

 衝撃! ……脇から伸びてきた最後の一発が直撃し、ふっとばされる。

 

 一発でももらうとマズい……そう思ってたのだけど、なんか無事……みると、腰に差していた、もう一本の「黒の節制」が防いでくれたらしい……。

 

 見ると、黒いシールドが勝手に展開されていた……いわゆる攻性防御の類らしく、禁鞭のほうが先端部を失いサラサラと崩れていった。

 

 自動防御……なるほど、神の武器にも対抗できる武器と言うのはこういう事か……。

 たぶん、わたしも姫様ももう普通の魔法なんて通じないだろうし、禁鞭自体も普通の剣だと、こんなスパスパ斬れないだろう。

 

 膝立ちになった所へ更に追撃! フリントロックで迎撃し、近づいてきた枝をバッサバッサと切り落とす。

 結構な数を迎撃したのもあって、ひとまず攻撃が落ち着く。

 

 禁鞭……確か聞仲って仙人の武器だったかな……封神演義だっけ。

 わたしが知ってるのは漫画になってたヤツで……電子書籍の復刻版を読んだけど、結構面白かった……ベタだけど、わたしは楊ゼン様推しでしたが、何か?

 

 それにしても……さすがに、凶悪なラッシュだった……くろがねのままだったら、5秒と持たなかっただろう。

 

 立ち上がったところで、6本くらいが絡み合い、突きが来る!

 とっさに「黒の節制」の攻性シールドで受け止めるけど、さすがにふっとばされる。

 

 着地した所へ更に連続でガスガスと追撃が来るのを、連続バク転で避ける。

 ああもう、考えてる暇もありゃしない……。

 

 両手に刀を構えて、十文字の構え……そのまま、刀を中空に振るうと黒い斬撃が広がりながら、暴風雨の中心地……姫様の居る方へ飛んでいく。

 

 幾重にも禁鞭が重なり、斬撃を防ごうとしたようだったが、容赦なく切り裂きまとめて薙ぎ払っていく。

 黒の節制の必殺技のひとつらしい……なんか考える間もなく、身体が動いた。

 

 『颶風重文字ぐふうじゅうもんじ

 

 もう一人のわたしが……技の名前を告げる。

 

 ああ、この技のネーミングセンスといい、必殺技にいちいち名前付けるのってすごくわたしだ。

 今の口調……きっとスゴいドヤ顔してると思う……。

 

 「重」と「十」をかけてるって事ね! 上手いっ!

 

 この技、交差した三日月状の斬撃が飛んで行くのだけど……その速度がやったら遅い……走って追いつけそうなほど。

 そのクセ、切れ味は抜群でおっそろしく重い攻撃らしく禁鞭がどんどんなぎ倒されていく。

 

 人を斬るというより、大きな物体やこんな感じで、立ちはだかるものを薙ぎ払って突破口を切り開く技って感じ。

 圧倒的多数相手に、極力殺さず戦うための技なのかもしれない……こんだけ遅いと逃げるのも余裕だけど、この重たい斬撃、防ぐのは難しい。

 

 はっきり言って、力技。


 ……多分、戦艦や高層ビルだって真っ二つだ……と言うか、これ防御不能技のような気がする。

 徐々に小さくなっていってはいるので、永遠に飛び続けるなんてことはなさそうだけど。

 絶対防御でも、そのまんまゴリゴリ押し退けてどこまでも運ばれていきそう……タチ悪っ!

 

 なるほど、こんなのネリネリと迫ってきたら、もう道を開けるしか無い。

 なんとも凶悪な技のくせに甘いんだか、優しいんだか……つくづく、自分の延長線上なのだとつい笑ってしまう。

 

 とにかく、突破口は開かれた……斬撃を追いながら、左右から襲い来る禁鞭の枝を払い落としつつ突き進む。

 姫様の姿が視界に入る……けれど、あと数mまで近づいたところで、嫌な予感がして立ち止まる。

 

 地面から隙間なく壁のように、禁鞭が飛び出す! すかさず一閃っ!!

 雨後の筍のように、一斉に生えてきた禁鞭の枝をまとめて、薙ぎ払った!

 

「今のでもダメかぁ……やっぱり「黒の節制」……相変わらず凄まじい戦闘力ね。最強と言われる使徒の一人なのよね……あなたって……。なにせ、あの「至天のゼロ」が圧倒される程だもの……。錬成がくろがねちゃん準拠ってハンデがあって、やっと互角ってとこか。禁鞭使ってるのに、ここまで追い込まれちゃうなんて……正直、お手上げ……でも、負けないっ! うらぁっ!」

 

 そう言いながら、両手拳銃を錬成して姫様が撃ってくる。

 身体を大きく右へ傾ける……耳元をヒュンと言う風を切り裂く音。

 

 そのままの勢いで、右手を地面に着いて、側転しながら左手に拳銃を錬成しショット!

 

 姫様もこちらを見据えながら、顔の前に拳銃をかざす……弾丸が銃身に当たり、跳ね返る……返す刀で一発撃ってくる! こちらも同じように拳銃で弾丸を受け止める。

 

「くろがねちゃん……今のは、私にも見えたわよ! この間合じゃ禁鞭も頼りにならない! でも、楽しくてしょうがないっ!! 一緒に弾けましょうっ!」

 

 さっきまで、人のことをデタラメ呼ばわりしてたのに、自分もしっかり弾丸見切ってるじゃないの。

 やっぱ、強いなぁ……敵に合わせて、戦闘中にパワーアップとか勘弁してほしい。


 ……って、わたしも人のことは言えないか。

 

 こんな前装式フリントロック拳銃で、弾を再装填とかやってられないから、撃って空になった拳銃は容赦なく投げ捨て、再錬成。

 

 向こうも、こっちを見習ってるのか、同じように空の拳銃を投げ捨て、錬成する。

 うーん、この応酬感……確かに楽しい……もっと、もっと続けたいっ!

 

 ドカドカ撃ち合いながら、お互い間合いが詰まり、拳銃同士をぶつけ合っての近接戦。

 お互い何度も拳銃を飛ばされるけど、その度再錬成! 錬成速度もほぼ互角!

 

 もはやゼロ距離、お互い……打ち、払い、蹴る、掴み合いの応酬!

 姫様のこめかみに銃を突きつけ、勝ったと思ったら、膝蹴りを貰って、間合いが離れる。

 

 一本にまとめた禁鞭によるなぎ払いが来る……「黒の節制」を抜いて受け止めるも重いっ!

 自分から倒れ込んで、かろうじて躱す……鼻先を禁鞭が通り過ぎていった。

 

 バゥンッ! 銃撃の音!

 

 ……そのまま手を着いて逆立ちになると、足を開いて大きく回転させる。

 軽い衝撃! 足で銃弾をはたき落とした!

 こちらも反撃とばかりに撃ち返し、片腕の力だけで飛び上がる。

 

 空中へ浮いたわたしを格好の的とばかりに、禁鞭が襲いかかる……数は8!

 

 同時錬成8連、空中にばら撒かれた拳銃を魔力線でつなぎ、同時発射! 銃声が重なって、一つの音に聞こえるほどの精密同時射撃っ!

 

 銃弾で軌道を逸らされた禁鞭は尽くかすめるように、わたしが着地すると同時に地面に突き刺さる

 

「すっごい! お見事っ! 今のをあんな風に避けるなんてっ! でも、これでっ! った!」

 

 牢獄のように、禁鞭の枝に囲まれたわたしにさらなる姫の追撃、掌底が迫る!!

 オーラを纏ったさっきの爆裂掌底って技だっ!

 

「龍ノ顎」で迎撃? いや、同じ技が通じるような気がしない……近接戦ならあれやってみよう。

 ガンフロでライバルのひとりに食らったあの技を……。

 

 迫りくる姫様……動きを止めた上での防御無効技!

 このままだと……回避もままならないし、防御も出来ない……となれば!

 

 ここは、カウンター一択っ!

 

 けれど、悟られぬために「黒の節制」を横一文字に構える。

 

 姫様の技はさっき見た……インパクトの瞬間に起爆させるタイプの技だから、間合いを外されると、一瞬タイミングが狂うはず……そこが狙い目っ!

 

 こちらも一歩踏み出しながら、敢えて左肩に掌底をもらう。

 踏み込んだ右足を軸に身体を半回転させ密着させ、そのまま姫様の手を取ると、その身体を引き込みながら、最後の一歩を踏み込もうとしていた足を払うっ!

 

 踏み込みの瞬間、足を払われる形となった姫様の身体が前のめりに大きく回転し、そのまま地面へ叩きつけられる!

 

 技が暴発したらしく、姫様の姿が爆炎に包まれる!

 

 敢えて、踏み込み間合いを外した上で、わざと攻撃を受け、その威力と相手自身の突進力を利用して、投げ飛ばすカウンター技っ!

 

 『禍津渦まがつうず

 

 確か、そんな名前……柔道みたいなヌルいスポーツの技じゃなく、古武術のガチ殺し技。

 渦潮の如く相手を絡め取るとかなんとかって、あんにゃろーは言ってた。

 

 オリジナルは、頭から地面へ突っ込むような感じになるんだけど。

 姫様自分から飛ぶことで、受け身取って被害を抑えた感じ……さすが。

 

 ただ完全なカウンターとなったその技の威力は凄まじく……姫様の爆裂掌底の暴発もあって、地面がすり鉢状にえぐれるほど……そして、派手に二度三度とバウンドして、姫様の動きが止まる。

 

 そのまま「黒の節制」を逆手に構えて、屈んで溜めを作りながら、拳銃による牽制射を見舞う。

 

 姫様も今のは必殺のタイミングだったのだろう……そこへまさかの『禍津渦』を食らったのだ。

 あれは当てたと思った瞬間に訳も解らず、顔から地面へ行くか……宙を舞うような感じになる……食らった方の心理的衝撃はデカい……投技なんて地味とか思ったら大間違いだ。

 

 如何に強化された身体と言えど、姫様の負ったダメージは少なくなかったようで、かろうじて膝立ちの体勢になり、拳銃で銃弾を受け止めるも、拳銃が手から弾かれる!

 

 だけど、まだ決まってない! 姫様もその体勢から反撃を仕掛ける……禁鞭を振りかざすと4本の先端部が左右と上二本、四方向から回り込むように一斉に伸びてくる。

 

 それは悪手! ……姫様の手にはもう武器がなく、膝立ちの体勢ではすぐには動けない。

 ……つまり、こちらにとって絶好の隙っ!

 

 その隙を逃さず、地面を蹴って、黒の節制を振りかざし飛躍っ!!

 

 けど、その瞬間、しまったと後悔する……タイミングとしては確かに最高だった。

 だが……禁鞭の軌道とその速度を見誤った……禁鞭の軌道自体が一拍置いて、一旦背後に回り込んでから、左右と後背を突くコースだった。 

 

 姫様が防壁を展開する!

 

 ……おそらく、わたしの一撃は姫様の防壁を引き裂き、その首を切り裂く……けど、姫様の一撃もこちらを貫く。

 

 つまり、このままだと相討ち確実……けど、もう止まれない……わたしも……姫様も!!

 

 わたしが寸止めしても、姫様の一撃は止まらない……どうやら、あれは自動攻撃の類……姫様ももう止めることは出来ないだろう。

 

 「黒の節制」の攻性シールドも恐らく無理だ……先程からの様子だと、止められるのは刀一本で一本分だけ……。

 攻撃をキャンセルして迎撃に回して、一本くらいは気合で回避できるかもしれないけど、時間差で来ているので一本は確実にもらう……最大加速でもこの空中にいる状態では、回避は無理だろう。

 

 もはやわたしの命運は決まった……けど、ここで止めるのは、姫様へ失礼だろうし、勢いが付いてるので、もう止められない。

 お互い使っているのは、使徒をも殺す必殺の武器……恐らく致命傷は即座に死へと繋がるだろう。

 

 刹那、姫様と目が合う……。

 何もかも悟ったように、気にするなと言いたげに微笑む……それを見て、わたしも微笑み返す。

 

 お互いすでに結果は承知の上……と言う事だった。

 

 この結果は……もう受け入れよう……実にいい戦いだった……最高の一時だった。

 

 こんな最期なら……わたしは満足だった。

 

 わたし達の最期の瞬間が訪れる。

 

 背後から迫る「禁鞭」、姫様はもう目の前……振り抜かれる「黒の節制」……あとコンマ数秒で、その瞬間が訪れる……。

 

 覚悟を決めた次の瞬間、目の前が金色の光に包まれた。

次回、第一部最終回!


追伸

アップは10/19 15時予定です。


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