第十二話「ラストダンス」①
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第十二話「ラストダンス」①
---Kurogane Eye's---
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「黒の節制」
……それがわたしの使徒としての名だった。
「節制」……タロットカードの大オルカナ……14番目のカード。
調節、節制、安定、倹約、堅実、適応、順応。
こんな感じの言葉を司る……なんか結構、わたしに当てはまってるような気がするなぁ……。
逆位置になると不安定、混沌、暴走、過信、傲慢、感情的、悲観的……なんてネガティブなワードが出てくるけど。
コスチュームのローマ数字はこのタロットカードの番号らしい……何と言うかこんなところ、すごくわたしらしい。
わたしがこれから様々な経験や戦いを通して、最終的にこうなるのだろうか?
まぁ……背丈も結構あって、スラリと細身でなかなかカッコいいと思うのだけど……。
おムネさんが……控えめ過ぎなAカップさんなのは、どういう事なのかな? なんかこれ違くね?
この質問については、もうひとりのわたしは何も返してくれない……たぶん、ぐっさり刺さったんだと思う……限りなく自爆。
と言うか……わたしの魂には貧者の呪いでもかかってるのだろうか……嘘だと言ってよっ! わたしっ!
それにしても、この「黒の節制」の身体……本来のわたし……くろがねの身体に比べても、超ハイスペックだった。
魔力やパワー、スピードなんかは文字通り桁が違う……。
おまけに、攻撃手段とかも、もうアホみたいに大量にあるっぽい。
錬成可能な兵器群のイメージがちらっと見えたけど、なんか戦車とか戦艦みたいなのが見えた……まじですか? それ。
けど……やっぱり、鉄をベース鉱石にしたマテリア体……つまりわたしと一緒だって事は解る。
攻撃手段は白兵物理が基本で、絶対防御を含む、多彩なシールドによる重防御、強力無比なマジック・キャンセラー。
魔法はなし、唯一使える固有魔術が錬成術ってスキル構成は一緒……あとは「加速」を含む、強化系……武器強化なんかも出来るっぽい。
言われてみれば、どこまでもわたしの上位互換……なんか納得。
うん、これは紛れもなくわたし。
なんでも、武器の方の「黒の節制」を扱うには、わたしの元の姿ではまだスペック的に全然足りないって事で、オリジナルたるわたしの助っ人に来てくれたのが、このもう一人のわたし……そんな感じらしい。
けど、わたしはつい今しがた使徒になったばかり……。
それなのに、それの完全仕様みたいなのがすでに存在していて、この場にやってくるのはどういう事なんだろう?
一応、説明を受けたけど……始まりがあって、結果がある……始まりの起点と結果とが因果によって結ばれて、結果たる自分が起点たるわたしに手を貸せた……みたいな調子。
あの……訳、解かんないです……。
混沌と化した戦場の調停者。
……それが「黒の節制」が自分自身に課した役割で……誰一人として殺さず、戦う意志とその手段を徹底的に撃ち砕く……その信念の元、幾多の戦場を駆け続ける存在。
……まるっきり、さっきのわたしの誓いを受け継いだような感じ……そうか……やっぱり、そうなるのか……と思ったけど。
わたし自身がこれからどのような運命を辿るのかは、まだ誰にも解らない。
わたしの……くろがねの物語は現在進行形なのだ。
……もう一人のわたしは当然解ってるようだけど、あえて聞かないし答えてくれないのは解ってる。
ネタバレなんて、要らないんだからっ!
もう一人のわたしとしては、このエーリカとの戦いは自らの役に則ったもので、すべて代わりに引き受け、この戦いを調停しようとも言われたのだけど。
わたしは、わたしの自身の力で乗り越えるつもりだった……借りるのはあくまでエーリカの「禁鞭」に対抗できる「黒の節制」とそれを扱うためのこの姿だけ。
そうなると、多彩な兵器錬成能力と言う「黒の節制」のキモとも言える能力が、今のわたし準拠になってしまうのだけど。
それは別に構わなかった……慣れない武器を使っても勝てるような相手じゃないから。
「黒の節制」に任せるってのは、言ってみれば、RPGなんかで良くある勝ち負けが決まってるイベント戦闘みたいなもんかもしれない。
この「黒の節制」はとんでもなく強い……恐らく、エーリカ姫様すらも凌駕する最強クラスの戦士だ。
けれど……このエーリカ姫様との戦いの決着は……そんな形じゃ決着してはいけないものだと思う。
わたしは、エーリカ姫様と今のわたし自身で全力で戦って勝ちたい。
もし、仮にこの戦いでわたしが死んだらどうなるのか……もう一人のわたしに聞いてみたけど、すでに「黒の節制」の始まりという起点は出来上がっているので、ここでわたしが死んでも「黒の節制」と言う結果には何の影響も無いということだった。
要するに、この場でわたしが死を迎えても「黒の節制」として第三の生が始まることが確定している……そういう事なのだ。
なら、心置きなく戦える……わたしが死んだら「黒の節制」の存在自体がなかったことになるとか、そんなんだったら、さすがに申し訳ない。
……もう一人の自分との対話を終えて、わたしはすっと目を開ける。
現実での時間はほとんど経ってないようで、姫様は相変わらず、禁鞭を構えたまま、先ほどと変わらずにいた。
「見届けさせてもらったわ……新たなる使徒の誕生……という事ね」
「はい……お待たせしました……わたしがお相手します。エーリカ姫様、使徒同士……最後の一騎討ち……ラストダンスと参りましょう」
「一応、確認させてもらうわ。その姿……あなたは「黒の節制」? それとも「くろがねちゃん」? どちら様なのかしら?」
「くろがねの方ですよ……「黒の節制」のカッコだけ一時的にレンタルさせてもらっちゃいました。……大人の身体なんて、久しぶりなんですけどね。けど、そうしないとこの刀……扱えないみたいなんで……本当は「黒の節制」そのものが、姫様のお相手をするみたいだったんですけど……。わたしがワガママ言って、こんな感じになりました……だって、この戦いはわたし達だけのものだから。もう一人のわたしと言えども、丸投げとかありえないでしょ?」
「そっか……くろがねちゃん……解ってるわね……ほんといい子だわ……。それにしても、あなたの事、どっかで見たような気がしてたんだけど……まさか、あの「黒の節制」のオリジンだったとは……。あなたが私達と同じステージに立つってことを期待してたけど……これはちょっと予想外だった……。新たなる未知の使徒誕生ってなるかと思ってたけど、強敵の一人の誕生の瞬間に立ち会えたって訳ね……。なら、手加減は無用ね……相手にとって不足なし! いつでも、かかってらっしゃい!」
どうも姫様は、今のわたし……「黒の節制」のことを知っているようだった。
まぁ、細かい事は後回し……今は全てを費やして戦おう……姫様と。
「じゃあ……行きます! あなたのその禁鞭と戦いを続けるその意志……我が「黒の節制」の名に於いて……折りますっ!」
黒の節制の一振りを抜き、刃先を姫様に向ける。
「上等ッ! やれるもんなら、やってみなさい! 神話の時代の神の兵器……その暴威を目に焼き付けるのね!」
お待たせしました。
「黒の節制」いよいよ出陣!
改めて、読み返すとVSエーリカ姫戦、長過ぎますね…ジャンプ漫画じゃあるまいし…。
ちなみに、明日も15時更新です。




