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第十一話「あらたなる使徒」④

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 第十一話「あらたなる使徒」④

 ---3rd Eye's---

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 ……そして、少し時間を遡って、もうひとつの場面。

 

「離せっ! 離してよっ! このっ! このっ! 変態っ!」

 

 しろがねの叫び声が夜の闇に響き渡る。

 

 しろがねを押し倒すように、その小さな身体に抱きついているのは……くすんだ金色の鎧を着込んだ男。

 そして、必死でもがくように暴れるしろがね。

 

 どうみても、未成年者略取、婦女暴行のワンシーンのように見えるのだが、これはそれなりの事情があった。

 

「だからっ! 今のお前さんが突っ込んでいったって、余計な死人が増えるだけっつってんだよ! 頼むから、大人しくしててくれっ!」

 

「だって、くろがねが……たった一人であんなのと戦ってるんだ! 私が……私がいかないとっ! 私はくろがねを助けるっ! あの娘を守るんだっ! だからっ! 離せっ!」

 

「だから、行ったら絶対死ぬって言ってんだろ! お前、さっきも無茶やって命拾いしたばっかだろう! あれは、本気でヤバイんだ……いいから、言うことを聞け。そもそも、今のお前は、捕虜つったろ! 虜囚って奴なんだ! 大人しくしやがれってのっ!」

 

 ……この二人の顛末については、補足が必要だろう。

 

 まず、エーリカの手によって、剣に自動飛行魔術がかけられ「空の散歩」を強制されたしろがねは、その状況の打破に自らの対魔術迎撃システム……マジック・キャンセラーに頼るという暴挙に走った。

 

 飛行魔術は、元々マジック・キャンセラーなどによる強制破壊などは考慮されておらず、それ自体は呆気なく解除された。

 けれども、その時のしろがねの高度は上空約3000m……当然、飛行魔術が破壊された以上、落ちるしか無い……そんな、当然の結果を招いてしまった。

 

 もちろん、破格の防御力を誇る金属系マテリアたる彼女ならば、墜落の衝撃に耐える手段はいくつかあるはずであったが。

 そんな富士山から垂直ダイブするような経験があるはずもなく、途中で恐怖のあまり気絶……極めて危険な状態に陥ってしまった。

 

 だが、そんなしろがねの危機にただ一人気付き、動いたのがこの男……。

 

「至天のゼロ」ことダイン将軍だった。

 

 彼はその時、黄金と鋼と言う魔王軍最強の戦士達と交戦中だったが。

 気絶したまま、墜落してくるしろがねに気付くと、それまでロクに反撃もせずに、ただ逃げ回るだけだった戦いを終わらせることにした。

 

 まぁ……結果だけ言うと、二人の衣服だけを切り裂き、裸にひん剥いた。

 

 如何に強いと言えど、彼女達にも人並みの羞恥心と言うものがあり、その上……自分達の鉄壁の防御をあっけなく打ち砕き、さらに肌に傷一つ付けずに衣服だけ切り裂くという芸当を見せつけられ……完全に心を折られ戦意喪失状態となってしまった。

 

 ……やってる事は極めて凄い……けど、何と言うか……そのもたらした結果の光景は……すけべシーン以外の何物でもなかった。


 とは言え……彼は魔王軍最強戦力たる二人を殺さずに傷すら負わせずに無力化させることに成功したのも事実だった訳で……。

 

 そう、彼は女子供を決して傷付けないと言う信念を持つ紳士なのだ!

 

 そのやり方や戦利品と称して、下着を持ち去ると言う行為には「変態」とか「お下劣」とか、付けざるを得ないのだが。

 

 そして、ダイン将軍は……そのまま、天高く飛び上がると、今まさに地面に叩きつけられんとしていたしろがねを見事、空中でキャッチし助け上げると、こう告げた。

 

「空から落ちてきた子猫ちゃんを拾っちまうとは、今日はツイてるな……もう大丈夫だ……怖かったろう?」

 

 着地の衝撃で自分もボロボロになりながら、しろがねには傷一つ付けること無くニヒルに笑いかけたこの男……ここだけ見ればまさに男の中の男、ヒーローオブヒーローだったッ!

 

 ……片手に、下着なんか握りしめてなければ、完璧だったのだが……。

 やっぱり、この男……色々と残念だった。

 

 ……と言うのが、つい先程の出来事。

 

 しろがねも命を助けられたと言う事実と最強と信じて疑っていなかった姉二人の敗北を知ると、自分を帝国の捕虜とすると宣言するこの男に逆らえなくなってしまった。

 

 一応、逃げ出そうとはしたのだけど……あっさり取り押さえられ「暴れると、お前も剥くぞ」と言うセクハラ以外何物でもない脅し文句の前に、小動物のように震えながら、大人しくせざるを得なかった。

 

 先程までは、大人しくダインと一緒に、エーリカとくろがねの戦いを観戦してたのだが。

 エーリカの異形の武器と、それに攻撃されたものの存在を抹消すると言う恐るべき武器だという事を知ると、半狂乱になった。

 

 そういった訳で、振り出しに戻ると言った調子で、助けに向かおうと暴れるしろがね、取り押さえるダイン……と言うのが今の状況の構図。

 

 決して、この後しろがねが裸に剥かれて、陵辱されるとかそんな展開にはならない。

 繰り返しになるが、ダイン将軍はこう見えて、女子供にひたすら優しい紳士なのだ。

 

 けれど、ボゴンと顔をまともに蹴られて、ダイン将軍の顔にピクピクと青筋が浮かぶ。

 

「……やっぱ、お前、剥かねぇとダメだな……」

 

 笑いながら青筋を立てて、両手を構えて、指をワキワキさせるダイン。

 訂正……やっぱり、紳士の前に変態とつけるべきかもしれないし、乙女の危機なのかもしれない。

 

 ビクッとして、プルプルと首を横に振り、大人しく正座するしろがね。

 その様子に、満足したようにダインもあぐらをかいて座り込むと懐から葉巻を取り出し、一服する。

 

「よぉし、いい子だ……しろがねちゃん……大人の言うことは素直に聞かないとな。大人しくしてるなら、帝国の捕虜取扱の規定に基づき、丁寧に扱う……ふん縛ったり牢屋なんかに入れたりしないし、美味い飯も食わせてやる。大人しくしないなら、裸にひん剥いて大人しくさせる……いいな? 解ったら返事っ!」

 

「わ、わかりました……でも、おねがいです……えっちな事はしないでください。たぶん、私……泣いてしまいます」

 

 そう言いながら、すでに涙目、涙声のしろがね。

 いつもの武人然とした強気の態度はどこへやら、心なしか幼児退行気味でもある。

 けれど、そんなしろがねの様子にダインは露骨に狼狽する。

 

「あ、ああ……そ、その……泣くな……あとで甘いもんでも食わせてやるから……な? そ、それと、えっちな事とか人聞きの悪いこと言うなっ! 俺は女子供は傷つけん……これは信念だからな……絶対に曲げん! だから、そんな事をするつもりは一切ない……そもそも、子供をそう言う目で見るような外道は許せん! 剥くとか言ったのは、ただの脅しだ……本気に取るな。マジであの場に行かれると命の保証が出来ねぇんだよ……目の前で子供に死なれるのはゴメンだ」

 

 そう言って、ダインはしろがねの頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でる。

 実際、自らを顧みず命がけで危ないところを助けてくれた命の恩人で、明らかに言わなくてもいいような事を言ってのけるこの男。

 本当に自分を心配してくれている事が解り、しろがねも少しは警戒心を解く。

 

 けれども、そんな話をしていると、状況が動いたらしく、エーリカと相対していたくろがねの姿が突如変貌する。

 すらっとした背丈に、黒い帽子と黒いコート……赤いマフラーが目を引く。

 

 見たこともない……まるで別人のような姿。

 

 けど、そのマフラーから覗く横顔は紛れもなく、くろがねの面影があった。

 そして、彼女は目の前の黒い影からゆっくりと異形の刀を引きずり出していく。

 

「おいおい……あの姿は……「黒の節制」じゃねぇか……そうか、あのくろがねってチビが奴のオリジンだったって事か……。エーリカのヤツ……とんでもねぇのを目覚めさしちまった……どうすんだよ……これ」

 

 ダイン将軍が呆然と独り言のようにそんな事を言った。

 彼はあのくろがねの異形の姿に心当たりがあるようだった。

 

「「黒の節制」って……何? くろがねはどうしちゃったの?」

 

「「黒の節制」って奴は……要するに俺達の敵みたいなもんなんだが……。俺達、使徒同士の戦場にフラッと現れて、敵味方問わず、片っ端から切り倒す……そのクセ、命は取らねぇって、妙な奴なんだ。……クッソ強い上におっそろしく多彩な攻撃を仕掛けてきやがる……まぁ、バケモンの一人だな。まぁ……結果的に混沌とした戦争が奴に引っ掻き回されて、むしろ情勢が整っちまったり、もうやってられねぇってなって、終わっちまったりしたのも事実だからな……戦争の破壊者……調停者……なんて、呼び名もある。そうさなぁ……要はくろがねって奴は、今回の戦いをきっかけに使徒になった。今後、あの娘がどんな運命を辿るのかしらんが……最終的にあの姿になるんだろうよ……。あれは言わば、結果がその始まりの瞬間に訪れた……訳が解らんだろうが……これはそう言う状況だ」

 

 ダインの説明を聞いても、しろがねには解ったような解らないような……そんな感じだった。

 卵が先か鶏が先か、みたいなもんか……と、そんなトンチンカンな感想を抱いたが……あながち間違ってもいなかった。

 

 そして……殺さずと言う話を聞いて……ああ、くろがねはどこまで行ってもくろがねなんだなぁ……とよく解らないなりに妙に納得してしまった。

 

「ねぇ、ダイン将軍……くろがねは……どうなっちゃうの? あの戦いは……止められないの?」

 

「さぁな……だが……あの二人の戦いは今の時点じゃ止められねぇ……どっちも引くに引けないからな。エーリカはこの場はなんとしても勝たなきゃならんからな……さもなくば、交渉のテーブルに魔王様を引きずり出せん。そして、くろがねも仲間を戦わせて死なせない為に一人だけで戦う道を選んだ……もうどっちも退けねぇだろう。だが、エーリカは俺の女だからな……ヤバくなったら、俺は割って入る。くろがねちゃんも……しろがねの妹なら、ここで死なせる訳にはいかねぇよな……だから、その場合もこの俺がなんとかする。そういう事だから、俺を信じろ……まぁ……やばくなる前に止めても意味がねぇし、今、俺が割って入るのは筋が違うだろ。だから……とりあえず、やらせるだけやらせる」


「……止められるなら、さっさと止めればいいじゃないか。実際、私達だって敵同士なのに戦ってないじゃないか……」


「いいか? 戦争ってのは始めるのは簡単だが、終わらせるのはいつも難しいんだ……上手くやんねぇと泥沼だ。そんな訳で、お前はヘタに動くな……せっかくだから、誰も死なせずにこの場を収めて、お前さんの親分様ととっくりと話し合いを始めようや。なんなら、飯でも食いながらってのもいい……実は俺はこう見えて、飯を作るのも得意なんだ……。野郎の手料理でも食いながら、平和裏に話し合う……きっとお互いにとって悪くない未来が開けるぜ」

 

 そう言って、朗らかに笑うダイン。

 そんな彼の横顔を見ながら、しろがねは……不意にいつか見た皇帝陛下の横顔を思い出す。

 

 陛下……皇帝陛下。

 

 ……守りたかった……けど、守れなかった……陛下。

 

(ああ、またこの記憶だ……この人は陛下と同じ匂いのする人なんだ……。全てを守り、世界を変えようとしたあのお方と)

 

 ぼんやりと、その横顔を見つめていたら、「なんだよ? 命を救われて惚れたとか言うなよ? 気持ちは解らんでもないが、もう5年、いや10年は経たねぇと俺に惚れる資格はねぇぞ。」なんて言われて、ふくれっ面で横を向く。

 

(いい男ってのはたぶん、こういう奴のことを言うんだろうな……エーリカってあのお姫様……ちょっと羨ましい。それに……色々残念な感じだったけど、あのお姫様もたぶんいい人だ……どっちも……死なないで欲しいな)

 

 しろがねも祈るような気持ちで、ふたりの決戦を固唾を呑んで見守った。

 

ダイン将軍…個人的に結構好きなキャラです。

たぶん、作中最強キャラなんですが…ご覧のようにジェントルメェンです。


CVは大塚明夫って言ってましたけど、思ったより軽い感じになってしまったんで、

CV:平田広明とかかもしれません…この人も渋い演技の人です。


有名なところだと、グラブルのラカムの人っていえば解るかと思います。

改めて声聞くと、むしろこっちだよなぁ…うん。

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