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第十一話「あらたなる使徒」①

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 第十一話「あらたなる使徒」①

 ---??? Eye's---

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 ……どこかの病院の風景、見覚えのある夫婦が赤ちゃんを抱いていた。

 

(お父さん、お母さん……! すごく若い……そうなると、その赤ちゃんは……わたし?)

 

 それは……前世のわたしの誕生の……その瞬間の光景だった。

 

 もう居なくなる事が決まってしまったわたしと向き合うのが辛くて、二人はわたしを居ないものとしてしまった。


 けど……わたしが生まれた時はこんなにも嬉しそうだったのか。

 

(……ごめんね……ふたりとも……)

 

 改めて、先立ってしまった親不幸を謝りたくなる……それはもう叶わないのだけど。

 

 そして、早送りのように……わたしの前世の光景が再現されていく。

 

 幼稚園、小学校……この辺まではわたしも元気だった……お転婆すぎて、むしろ女の子らしくしろとか怒られてたっけ。


 けど、わたしは愛されていた……当たり前のような幸せな毎日……。

 

 わたしの視点は、その時々のわたしではなかった。

 ……わたしはわたしの生きた時間を、その隣でじっと見ている何かと共に見ていた。

 

 中学の時……体育の授業中に突然倒れたわたしは、念のためにと言うことで病院に運ばれた。

 最初はただの重めの貧血だと思っていたけど、検査の結果……わたしは白血病と診断された。

 

 そこから先は、病院の風景ばかりが続く、闘病生活の日々。

 少しづつ弱っていく身体……痛みと苦しみに耐え……徐々に迫りくる死の恐怖に怯える毎日。

 

 中学はかろうじて、卒業できた……この頃は、たまには学校にだって行けてたから……。

 それに治る見込みは十分あると言われてたから、無理を言って高校へも行かせてもらうことが出来た。

 

 けど、憧れだった高校生活は……結局、ほとんど出席すらできなかった。

 ……頑張って行っても、熱を出したり、倒れたりで、そのまま病院行きとか……そんな調子。

 

 高校の卒業式。

 

 ……結局、卒業式にも出れなかったわたしの為に、校長先生と担任と在校生代表の生徒数人が卒業証書を手渡しに病室まで来てくれた。

 

 結局、数える程度しか行けなかった高校生活はこんな形で終わってしまった。

 

 ほとんど出席できなかったのだから、本当は単位もなにもなかったのだけど。

 すでに余命宣告され、高校の卒業式は迎えられないと言われていたわたしの為……特別な計らいと言う奴だった。

 

 校長先生も担任も……ほとんど話をした事も無い人達ばかりだったけど、その善意に……わたしは素直に泣いた。

 

 病院の先生や看護師さん、隣の病室のお爺ちゃん、同じ病棟の小さな女の子。

 皆が……卒業おめでとうって言ってくれた。

 

 けど、お父さんもお母さんも……そこにはいなかった。

 でも……二人がわたしを遠ざけた理由も解ってたから、わたしはそれを受け入れた。

 

 それから、わたしの弟が生まれたって……風の便りに聞いた。

 会ってみたいなぁ……と思いながら……結局それは叶わなかった……。

 

 一度だけ連絡があって、会わせようと言われたけど……わたしが断った。

 本当は会いたかったけど、会っても未練になっただけだし、弟にも悲しい思いをさせただけだったろう。

 

 わたしは初めから居なかった……そう思ってもらえば、きっと悲しくもないから。

 

 あの時、一緒に卒業を祝ってくれた隣の病室のお爺ちゃんは……まるで孫のようにわたしを可愛がってくれたけど。

 ある日、忽然と病室から居なくなった……。

 

 同じ白血病で入院してた小さな女の子も、同じようにある日突然、姿を消した。

 他にもそんな風に突然消えてしまう人がたまにいた。

 

 どうなったのかは、誰もが言葉を濁していたけど、なんとなく理解できた。

 ……そこは死と隣り合わせだったから。

 

 ……多分あそこは日本という平和な国で一番「死」に近い場所だった。

 

 余命宣告され、その告げられた命数を使い切ってからも、しぶとくも生き延びていたわたしは、「死」と言うものを強く意識するようになった。

 

 わたしが生きながらえているのは、もはや奇跡……そんな風に言われた。

 

 けど、別にそれは病気が治るとかそんなんじゃなくて、ただの延長戦。

 

 神様がくれたロスタイム。

 

 ……終わりはやがて訪れる……悲しくも何の意味もない奇跡だった。

 

 VRオンラインゲームにハマったのも、その呆気ない死を繰り返すことで、死の恐怖から逃れようとしていたのかもしれないけど……。

 

 もうひとつの世界での日々は、わたしの大事なもうひとつの日常だった。

 

 もう帰れない……なつかしい戦場と大好きだった仲間たち。

 

 皆、あれからどうしただろうか。

 

 ろくにお別れも言えないままだったのだけど。

 あのいつも隣りにいてくれた年下の彼のことを思うと、心が痛む。

 

 向こうに置いてきてしまった……小さなわたしの恋心。

 

 パニック症の発作を繰り返すようになったのも同じ頃から……繰り返される死の恐怖。

 

 そして……月日は流れ、場面はわたしの最期の時へ。

 

 季節外れの大雪の中……蒼白な顔で、今にも倒れ込みそうな足取りで、赤いマフラーを巻いただけの患者着のまま病院を抜け出すわたし。

 

 死期を悟り、最後の力を振り絞っての悪あがき……けど、それはただの自殺と変わらない行いだった。

 

 やがて、1キロも歩かないうちに、道の真ん中で倒れ込み……。

 生きることに渇望しながら……泣きながら、わたしは……解けてしまったマフラーへ手を伸ばし……。

 

 あの時、雪景色の中……青空を見失ったわたしは、ボロボロの身体でどこを目指そうとしていたのだろう。

 

 ああ、思い出した。

 

 そう……わたしは、おうちに帰りたかったんだ。

 

 お父さん、お母さんにひと目会って「ありがとう」ってお礼を言って……。

 

「大好きでした」……そう伝えたかった。

 

 弟だって、本当は一度だけでいいから、会って抱きしめたかったんだよ……。

 まだ全然赤ちゃんだったろうけど……きっとどこかわたしに似てて、自分の子供ってこんなのかな……とか思ったりして……。

 

 ……お姉ちゃんがいたこと、忘れないでって……伝えたかった。

 

 そして「お父さんとお母さんをよろしく」って……。

 

 ……最後に皆に「サヨナラ」と告げて……わたしは逝きたかった。

 

 けど、叶わなかった……わたしはひとり、冷たい雪の中……眠るように逝った。

 誰にも看取られずに、言葉一つも残せずに、誰からも忘れられながら……。

 

 ……それが19年の……わたし……黒木加奈子としての人生。

 

 欲望を抑えて、ひかえめにつつしみ深く……いつしかそれがわたしの信条となっていた。

 だからこそ、わたしは色んな事を我慢して、ワガママも泣き言も言わなかった。

 

 けどさ、本当は……わたしにだって、いっぱいやりたい事もあったんだよ?

 

 身体のことなんて、何も気にせずに……友達がいて、学校帰りに楽しく遊んで、好きなだけ美味しいものをいっぱい食べて……そんな当たり前の生活をしたかった。

 

 お父さん、お母さんがいて……生意気な歳が離れた弟がいて……。

 ただいまって言ったら、おかえりって返ってくる……そんな当たり前の温かいおうち……帰りたかったよ……。

 

 優しくて素敵な彼氏なんかがいたら、きっと最高だっただろうな……。

 

 クリスマスの夜にどこか素敵なホテルかなんかで一夜を過ごしてさ……。

 優しく抱きしめてもらって……女の子から女になる……そんな女の子として当たり前の夢……叶えたかった。

 あの時……ほんの少しだけ勇気があればなぁ……。

 

 ああ、わたしって、ほんっとに未練たらたらだったんだなぁ……そんな風に思う。

 

 そりゃあ、死んでも死にきれない……成仏なんか出来るわけないよね……。

 

 そして、その風景がフェードアウトしていく。

 

 黒木加奈子の人生はここで終わってしまったから……この後、本当なら続きなんてない。

 

 その先は何もない……人は皆、死に……無へと帰る……それが定め。

 わたしの思いも未練も……何もかも。

 

 ……けど、続きがあった。

 

 暗闇に浮かび何かを手にした魔王様とその目の前に浮かぶ淡く光る霞のようなもの。

 

「……生を渇望し、次元の狭間を彷徨える魂よ……汝は生きたいか? それともこのまま無に帰るか?」

 

「生きたい」とわたしは答える。

 

「生を望むか……だが、その生は我が下僕として、未来永劫解き放たれぬものかも知れんぞ? 姿を変えて、永久に戦い続ける亡者としての生になるやも知れん……それでも、構わぬのか? 我は神でも悪魔でもない……魔王と呼ばれるもの……憐れみや慈悲などではなく、己が打算と利己の為にお前の魂を利用するつもりじゃ。このまま無に帰したとしても、それは輪廻の輪に帰すだけの話じゃ……それが摂理……それもまた悪くはないだろう」

 

「生きたい」とわたしはもう一度、繰り返す。

 

「よかろうっ! ならば、わしは汝の願いを叶えよう……汝はこれより、我が娘が一人じゃ……。名はこの黒き鉄……くろがねを銘とするがよい……人の世の武力の象徴たる、硬く決して朽ち果てぬ、この黒鉄を依代とし、そして、我が剣の一振りとなれっ!」

 

 再び……風景が変わる……ここからはくろがねとしての時間だった。

 

 姿形は随分と変わってしまったけど……そこには、わたしが望むものほとんど全てががあった。

 

 魔王様へ忠誠を誓い。

 しろがねと出会い、仲間と出会い……忙しくも平和な日々。

 

 小さくても、良く動く怪我一つしない頑丈で健康な身体。

 

 家族のように、常に一緒にいてくれるしろがねや優しいお姉様達。

 そして、魔王城の仲間達……魔王様は……まるでわたし達のお父さんであり、お母さんでもあるかのようだった。

 

 ここには、わたしが欲しかったものが当たり前のようにあった。

 

 この場所をわたしは心から愛していた。

 

 訓練の光景……激しく打ち合う剣と剣……傍から見たわたしは……なんか普通に強かった……なにこれ?

 

 神かがった様な見切りからの受け流し、鉄壁の防御であらゆる攻撃を凌ぎ切る黒鉄の魔人と言える存在がそこにいた。

 

 しろがねの加速を使った渾身の連撃すら見切って受け切っている。

 

 けど、しろがねが力尽き隙を見せて、そこって思った瞬間に、剣を手放して試合放棄してるし……。

 鋼お姉様や黄金お姉様相手にした時も大体同じ様な感じ……。

 

 何やってたんだろ……わたしは……。

 弱い弱いと卑下してて……こんな舐めたマネやってて、しろがねはよくあんな風にわたしに笑えたものだ……。

 

 傍から見たわたしは、全然弱くなんか無かった……むしろ、強かった。

 

 守りが完璧なら、あとは攻め手のスキをついてカウンターを決めるだけ。

 ……そのカウンターを決める代わりに、わたしは戦いを放棄していたのだけど。

 

 そんな戦いの勝者なんて、傍から見てれば明らかだった。

 

 弱いと思っていたのはわたしだけ。

 たぶん、それは……わたし自身の心が弱かったから……弱いと思って、戦いから逃げたかったのだ。

 

 けど、それ以前に……わたしは……誰かを傷付けるのが、嫌なのだ……もちろん、人を殺すのだって嫌。

 だって、死んじゃったら終わりなんだよ? どうしょうもなく甘いんだけど、それがわたし。

 

 そして、そんなわたしの内心の思いをよそに、取り憑かれたように戦争の準備に明け暮れる毎日。

 

 続いて戦場へ……そして、つい先程までの光景が早送りで送られていく。

 

 ……やがて、場面は今の光景へとつながり、重なっていく……。

 

 そして、その視線は……わたしの視界と重なった。

ひとまず、私は多くを語りません。


BGM:エメラルドドラゴン「戦いの後に」

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29253415


このシーンのBGMとしては、これかなーとか思ったり。


12/06

リンク先のニコ動…地味に視聴回数が増えてますが。

実際、リンク辿って聞いてる方がいるようですね。

尚、マイリスト1とかなってるのは、作者だったり。(笑)

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