第十話「「女帝」の本気」②
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第十話「「女帝」の本気」②
---Kurogane Eye's---
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「ねぇ……エーリカ姫様……ひとつだけ聞いていい? ……わたしって弱い?」
敵にこんなことを聞くのはなんだけど、わたしなりの素朴な疑問。
「あら……ちゃんと名前で呼んでくれる気になったの? ありがとぉ。まぁ、私に比べたらまだまだってとこね……けど……なかなか、いい才能持ってるわよ……今後が楽しみな成長株ってとこね。なにせ身体スペック的には、使徒クラス……何なのよ……その馬鹿みたいな魔力に、超強力なマジック・キャンセラーは……。こちとら本職は魔術師なのに、手持ちのどの魔法も効きそうもないから、身体強化にガン振りして、物理で殴るなんて野蛮な真似やってんのよ」
レベルを上げて物理で殴ればいい……どこかのクソゲー評みたいな言われようだった。
なんかこの人……すっごく親近感が湧くっていうか……同族臭がするなぁ。
「そっか……雑魚キャラ扱いってワケじゃないなら、ちょっとはやれそうな気がする。なら、もう遠慮無く、わたしも物理で思い切り殴るね……どっちみちわたし、それしかないし……色々試すけど、別に構わないよね?」
「あら……ちょっとはやる気になった? いいわよぉ……やり過ぎなくらいでも、どうせこっちは簡単に死にゃしないから、ガンガンいらっしゃい!」
確かにお姫様の言うとおり……相手の生死とか考慮してたら、こっちが負ける……殺さずになんてのは、圧倒的強者だから言える事。
この姫様なんて、むしろどうやったら殺せるのかとか……そう言うレベルの相手。
手加減無用で、全力全開出し惜しみなしで立ち向かって、それでも勝てる気がしない……。
ひょっとしたら、勢い余って死なせてしまうかもしれないけど……その時は、その時になってから、後悔すればいい。
今、勝てなきゃ、後悔も嘆く事もできないから。
……目を瞑って、錬成イメージ開始。
さっきまでの普通の剣じゃ、軽くて脆いからダメ……もっと重たくて、頑丈な奴がいる。
あ、あれにしよう……ガンフロで仲間のお姉さんが使ってたヤツ。
両手がズシッと重くなる……湾曲した鉈のような剣が錬成できた……グルカナイフってヤツ。
先端部が重くなってて、刃も分厚い……長さも程よくていい感じ。
刀身の色は真っ黒……余計な装飾なんかも何もなくて、無骨を絵に描いたような感じ……うん、まさにこれだっ!
なんだか、自然と気合が入って、ゾクゾクっとする。
戦友の武器を使って戦うとか、まるで一緒に戦ってもらってるような感じで、燃えるじゃないのっ!
あの誰よりも勇敢で、先陣を切って白刃を振るう死亡率ナンバーワンの彼女の勇姿を思い出す。
「力を借ります! 死をも恐れぬその勇気をわたしにもっ!」
遠い世界の戦友……もう永遠に会うことはないだろうけど……。
彼女が隣で戦ってくれている……そんな気がした。
これって勝利フラグ! ちょっとこれは、負ける気がしないよっ!
一旦距離を離すべく、大バックジャンプ!
着地後、姿勢を低くして、グルカナイフを地面に引きずりながら、左右に蛇行しつつ突撃する。
まずは第一撃、両手の刃を背後に回すと一気に身体をぐるりと左回転させ、振りかざす!
自分の背中にナイフを隠し軌道を読みにくくさせてみた。
更に上段狙いと見せかけて、一気に軌道を変えて、足元狙い。
けど、これはただの前フリ……左手のナイフが地面を叩くとズシンと重い音を立てて、土煙を上げる。
地面を蹴って、身体を浮かすとナイフを軸にグルリと半回転……遠心力を乗せた右手のナイフでなぎ払う。
土煙と予想外に伸びてきたリーチに躱し切れなかったのだろう……姫様は剣でその一撃を受け止めると、バックステップで下がる。
よしっ! ぶっつけ本番、新武器での思いつき剣撃だけど、相手も初見……こうなったら、やるだけやってやる!
戦い方は……同じく二刀流の玻璃ちゃん流でっ!
「玻璃ちゃん! 君の技を借りるよっ!」
更にくるくると回りながら、左、更に右……一撃……また一撃と回転しながら連撃を加える……。
ドスン、バキンと結構、派手な音がして、一発一発の重みが増してるようで、さっきと違ってヨタ付きながら防戦一方の姫。
なんか知らないけど、このグルカナイフ……重さが変わるような気がする……重心が移動でもしてるような感じだった。
(そう言えば、そんな事言ってたけど……本当にガンフロのお姉さんの武器……持ってきちゃったの?)
とにかく、押してるっ! たまに姫様も反撃で剣を振ろうとするけど、こっちの連撃のほうが早い!
こっちは、徐々に回転数が上がっていく、もはや竜巻のような連続打撃!
何気にこの回りながらの連撃、玻璃ちゃんの技のパクリ……「輪舞曲」って名前の技。
戦友の武器を拝借して、ライバルの技を借りて……なんだかパクリ魔だね……わたし。
もっとも、玻璃ちゃんの場合、更に剣が見えなくて、甘えんぼ袖で変幻自在のリーチ……わたしを圧倒するスピード……だもんなぁ。
こっちは結局守りを頼りに連撃を受け止め、耐えしのいだってだけだから、技術的には完敗。
……なんだけど、なんだかんだでこっちが勝ち越してる。
スピードファイターの玻璃ちゃんの打撃力不足ってのもあったけど、この技……実は攻略法がわかってる。
上中下段とランダムに打ち分けながら、回転方向も変えて、時折地面を打ち、土煙で視界を撹乱……けれど、姫の顔に焦りはない。
冷静にこちらの太刀筋を見て、躱し、受けながら……その瞬間をじっと待っている。
こちらの連撃の速度ももう限界……これから先はもう落ちる一方。
さすがに息が切れてきたし、汗が滴り落ちキラキラと辺りに舞い散る!
これは演技とかじゃなく、わりとガチで。
けど……それでなきゃ意味がない……更に連撃を叩き込む!
意図的にそうした訳じゃないけど、左足が滑って、一瞬たたらを踏む。
ここで敢えて、左のナイフを石に打ち付けて、バランスを崩してわざと隙を作る。
……これ、誘いなんだけど、かかるかな?
案の定、神速の突きが来るっ!
(来たっ! これを待っていた!)
左足で地面を蹴って、重心を右足に乗せてまっすぐ片足立ちする……。
突きは見えないほどの速度だけど、さっき見たからそのタイミングは見切ってる。
「ここっ!」
正確に同じタイミングで肘を振り下ろし、膝を振り上げる!!
次の瞬間! ゴシャン……鈍い金属音と共に姫様の突きが止まり、同時にシールド干渉爆発による盛大な爆炎に包まれる!
「うそっ! 今のタイミングで受け止めたっ?!」
カウンターを仕掛け最後の踏み込みを強制停止させられた姫様の眼が驚愕で見開かれるっ!
爆風の名残の煙が晴れて……わたしの身体を貫かんとしていた剣先がわたしの肘と膝の間で飴みたいに曲がっているのを見て、姫様の口がポカーンと開かれる。
そう、わたしは左腕の肘と左足の膝にシールドを多層展開した上で、その突きを挟み込んで止めたのだっ!
「相手の身体に当てるのは嫌だけど、武器を潰せばわたしの勝ちだよね?」
そんな発想を元に、以前から地道に開発していたわたしの必殺技!!
武器破壊カウンター、その名も『龍ノ顎』!!
「龍ノ顎」と書いて、ドラゴンファングとルビが入る! まさに殺さずの必殺技!!
(ヘシ折る気だったけど、曲がっただけとは頑丈な剣め……次は壊すっ!)
そして、そのまま、姫の無防備な左半身めがけて、右手のグルカナイフを下から振り上げる。
とっさに姫は左手の掌でナイフを直に受け止め、そのまま受け流し、その勢いでわたしの「龍ノ顎」を振り払い、距離を空ける。
……この人、真剣白刃取り出来るんだった……惜しいっ!
「それもう「真剣掴み取り」だからっ! でたらめな事しないでよっ!」
さすがに、あんな絶好の隙から、こんなチートじみた真似されたら、立つ瀬がない……思わず、抗議の叫びを上げる。
「あはは、なにそれ? 現金つかみ取りみたいっ! 今のは「掌握」……なんて呼んでたけど、そっちに変えようかしら。ちなみに、手のひらにシールド展開して、剣の勢いに合わせて軌道を逸らすって技だから、受け止めてる訳じゃないのよ」
なにそれ? 本当に何でもありだし……余裕だなぁ……この姫様。
けど、姫様もなんだか掌をパタパタ振って、息を吹きかけてた……態度は余裕だけど、ちょっとは痛かったらしい。
けれど、改めてぐんにゃりと曲がった剣を見て、涙目になってる。
……なんか表情豊かって言うか、いちいちオーバーリアクションなんだよね。
この姫様……きっといい芸人になれるよ。
「うそーん! 私の龍神丸がこんなになっちゃった……ちょっと! 今のは何よっ! これ……魔剣よ? 竜の鱗から削り出し、100日間に及ぶ儀式魔術の末打ち据えた半端じゃない剣なのよっ! 折れない欠けない曲がらないが取り柄なのに、それをこんなへし曲げるとか意味分かんないわよっ! ああ~っ! もう駄目じゃん……これ」
……あのクッソ硬い剣……名前があったのか……でも、なんで龍神丸? 西洋剣だよね? それ。
けど、聞かれたのならば、技の名前を答えねばなるまい……とくと聞けっ! こんにゃろーっ!
「今のは……敵の牙をも噛み食いちぎる武器破壊カウンター! 殺さずの奥義! その名も『龍ノ顎』ッ! 我が顎に噛み砕けぬものなし! ふふっ……曲がったのが剣で良かったね……」
ドンッとグルカナイフを向けながら、技名を告げる。
ついでに、さっきの姫様の口上、なんかカッコよかったんで、いただきましたっ!
それにしても、今の攻防……結構、高度だったなぁ……なんか楽しかった……久々にゾクゾクしちゃった。
ガンフロの達人バトルを思い出しちゃうなぁ……えへへっ。
さっきまで、正直なところ逃げ腰だったけど、今のでなんかエンジンかかってきた!
よし、やろう! 徹底的に! こうなったら勝ちに行くぞっ! おーっ!
さて、くろがねちゃんもパワーアップです…彼女のタチの悪さが本領発揮って感じです。
アクセス数も跳ね上がって、普段の倍くらいPV伸びてます。
グルカナイフの設定は「彼氏彼女のガンフロントライン」からの派生なんで後付設定なんですが。
レアリティはSR級と言う結構なシロモノです。
元々先にこっちでくろがねちゃんが使い始めて、それを元ネタに向こうに本来の使い手が出てきて、詳細が決まり、こっちに反映されたという卵と鶏どっちが先状態の設定だったりします。
ワケガワカラナイヨ。
こう言う別個の物語のリンクってなんか好きなんですよね。
スターシステムとか好きですよ。
マブラブは涙目でしたけどね。
…そんな私は君望では「涼宮 遙」推し…ええ、被害甚大でした。




