表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/94

第九話「使徒、その名はエーリカ」③

 --------------------------------------------------

 第九話「使徒、その名はエーリカ」③

 ---Kurogane Eye's---

 --------------------------------------------------

 

「あら……もう帰っちゃうの? ここで帰られると、お姉さん達の予定が狂っちゃうの。もう少し遊んでいきましょ……子猫ちゃん達……」

 

 予想外の声に反応が遅れてしまう……わたしだって、こんな敵地のど真ん中にいる以上、警戒は十分していた。

 ……けれど、その気配はまるで地面から突然湧いたように現れていた。

 

 この時点で十分危険……きっと空間転移とかそんな類。

 

 結論、敵は高位の魔術師……極めて危険な相手。

 

 ここに来て、そんなのが出てくるなんてっ!

 めそめそ泣いてるとか、バカな真似してる場合じゃないっ!

 

 しろがねが加速を使いわたしの背後に回り込んできて、剣を構える。

 さすが反応が早い……頼もしい相棒。

 

 大丈夫っ! わたし達二人ならどんな相手にだって勝てる!

 

 わたしも涙を拭うと、即座に両手に剣を構えて、しろがねとお互いの背中をぴったりと合わせて、全周警戒の構えを取る。

 

 どこだ? ……どこにいる? 気配があったのは、声が聞こえた一瞬だけで、すぐ消えた。

 わたしの警戒センサーを掻い潜るなんて……どんな敵なの?

 

 わたし達は夜目だって効くのに、辺りを見渡しても敵の姿が捉えられないっ!

 

 心臓が早鐘のように鳴り響く……先ほどのパニック症の事が頭をよぎる……だめっ! 今、この場であれだけは……。

 

(……考えちゃ駄目……あれは精神的なもの……この身体は前のとはワケが違う……落ち着けっ!)

 

 ズシャッ! ガシャガシャ……。

 

 えっと……? なんかコケたような音が聞こえたんだけど?

 

「……まさか……ねぇ?」

 

 音が聞こえたのは、有刺鉄線を仕掛けていた辺りだった。

 

 まさかまさか! そんなのに引っ掛かるって……嘘だよね?

 

「ちょっと、なによこれっ! あっちこっち絡まって! イタタタッ! 刺さってる刺さってる! ちょっ! お尻に刺さった! パンツが破けるっ! 待って待って! 私、ピーンチッ! ちょっと、あんた達っ! 見てないでコレなんとかしてよっ!」

 

 なにやら、大騒ぎする声。

 ガッシャンガッシャンと派手な音を立てる有刺鉄線。

 

 目を凝らして見るとなんか知らないけど、暗闇の中、有刺鉄線に引っかかって、もがいてる若い女がいた。

 

(……もしかして、こいつ……なの?)

 

 張り詰めた緊張感が一気にぶっとんで、肩の力が抜ける。

 

 と言うか……どうしよう……これ……。

 どう見ても敵……それもかなり強い……と思うんだけど。

 

「……まさかの出落ち?」

 

 いやいやいや! 色々と残念臭がすごいんだけど……。

 このままほっとく? いやいや、かっこよく出てきたつもりっぽかったし……わたし達にどうしろっての?

 

(あ、なんか助け求めてるように、すっごいこっち見てる……。)

 

 もはや、有刺鉄線でがんじがらめになってる金髪のお姉さん。

 しろがねを見ると、なんとも言えない顔でやっぱり、こっちを見ている。

 

 こ、これは……わたしがなんとかしないといけない流れ?

 

「し、しろがね……ここは空気を読んで……練成解除……した方が……いいのかな?」

 

 しろがねもなんとも言えない顔で、こくこくと頷く。

 そうだよね……ここは空気を読まなきゃね……きっとこのままじゃ、話が進まない。

 

 錬成解除し有刺鉄線が消滅すると、なんかパァッと嬉しそう満面の笑みを浮かべると、その女はパンパンとあちこちに付いた泥や埃をはたきながらすっくと立ち上がり、腰に手を当てて偉そうにふんぞり返る。

 

「なんでも……言ってみるもんね。一応、礼を言っとくわね……どうもありがと……とりあえず、仕切り直しよ……!」

 

 それだけ言うと、優雅な動作で、ふわっさとその豪奢な金色の髪をかき上げる。

 

「ふふふ……こんばんわ……子猫ちゃん……いい夜ね。私はエーリカ……あなた達の事……ずっと見てたわ……思った通りの優しい子達でお姉さん、感激っ!」

 

 残念女こと……エーリカとやらが、何事もなかったかのようにいけしゃあしゃあとのたまう。

 って言うか……本当になんなの? この出落ち女は……。

 

「あんたは一体何者なの? それにずっと見てたってどういう事? そもそも、どっから湧いたのよっ!」

 

 しろがねがわたしとエーリカの間に割り込むと叫ぶ。

 

 出落ちの件は……触れない……しろがねってば、空気を読めるコ。

 

「そうね……立場だけ言うと、ティエルギス帝国の第三皇女。つまり、お姫様よ……けど、お忍びだからこの場にいるのは内緒なの。「飛天の眼」って言う魔術であなた達の事をずっと見てたのよ……ホント、可愛かったわぁ。特にさっき……そっちの黒猫ちゃんが怖いおじさんに襲われそうになっちゃって、白猫ちゃんが颯爽と助けだしたシーンなんて、もう最高だったわ……お姉さん、ドキドキハラハラしながら見てたのよっ!」

 

 ティエルギス帝国。

 ……ああ、そうだったそんな名前の敵対勢力の一つだ……例のフルプレート騎兵軍団を擁するところだ。

 

「お、お姫様って……なんで、そんなのが一人でこんなところに来てるの? い、一応、言っときますけど……わたし達はあなた方の敵です! さっきは成り行きで助けちゃいましたけど……。魔王様より、敵は皆殺しにと命じられている以上、容赦はしませんからねっ!」

 

 そう言って、わたしも気を取り直して、剣を構える。

 

「あらあら……意外と勇敢なのね……まぁ、確かに敵同士と言えば、そうなんだけどね。でも容赦しないって勇ましく言ってるけど……黒猫ちゃん、あなたズバリ処女でしょっ!」

 

 ビシィっと指をさしながら、とんでもないことを口走るエーリカ。

 

 ……隣で、しろがねがずっこけた。

 わたしも思わず、構えていた剣をボロボロと取りこぼす……。

 

(こ、この女っ! 言うに事欠いて、何、ド直球な事を口走ってるのよっ!)

 

 思わず顔が真っ赤になり、慌てて両手でほっぺたを押さえる。

 

 ……うきゃぁっ! なんかほっぺどころか、耳まで熱いっ!

 

 そ、そりゃあ……まぁね……前世でも、そう言う経験、結局なかったしさ。

 ええっ! わたし、最期まで清い身のままでしたよ?

 

 相手なんかいなかったしさ……あ、でも時間さえもっとあったら、そんな展開だってさ……ああ、もうっ!

 そんなのとりあえず、置いといてっ!

 

 と言うか……こんなちびっ子ボディで、そ、そんな……あれやこれやとか……えっち的な? そんな経験あったら逆にヤバいでしょ。

 

「そ、そこのおばさん……あのさ、言っていいことと悪いことがあるでしょっ! 何考えてんのよっ! デリカシーなさすぎっ! この変態っ!」

 

 思わず、カッとなって言い返す……思わず、おばさんって言っちゃったけど……そこまで年行ってないか……20代前半っぽいからお姉さんだね……うん、ごめんなさい。

 

「お、おばっ……おほん……黒猫ちゃん……あのさ、私のことはエーリカ姫様って呼びなさいね。それとヘンタイでもないから……ほら、そんなハイレグとかじゃないし、スリットちょっと過激かもだけど……。一応、ちゃんとパンツ履いてるんだからねっ! 見せよっか?」

 

 一瞬ピキッと青筋を立てたものの、冷静にそんな事を言うエーリカ姫様。

 

 そう言われて、改めて彼女のボディチェック。

 髪型は……いわゆるワンレンで豪奢な金髪、何と言うか悪女っぽい雰囲気なんだけど……。

 どこか緩くて上品な雰囲気もあって、なんだか良く解かんない。

 

 上はいわゆるチェニックと胸甲だけの軽騎兵スタイル。

 胸は……お色気アピールしまくっているくせになんか薄い……明らかに貧乳……。

 

 鎧には立派なお胸がついてるけど、さっき横から鎧の隙間がめっちゃスッカスカなのが見えた……お仲間?

 でも、これをツッコむとこっちもダメージを受けそうだから、スルー。

 

 下は……銀の装飾入りブーツに、膝丈スカート……左右お腹の横まで伸びた深いスリット入り。

 腰周りには簡単な腰当てみたいな鎧が付いてる……鎧の下に隠れてるけど、腰の脇に細い紐っぽいのが見えるから、本人が主張するように「はいてない」訳じゃなく、紐パン?

 

 なんて言ってると、ほんとに見せる気なのかスカートの前部分をバサーっと上げようとする。

 

「ストーップっ! 解ったから、見せなくていいからっ!」

 

 しろがねが顔を真赤にして叫ぶ……どうも、しろがねもペース狂わされっぱなしらしい。

 いつものクールさが当社比、3割くらいまでダウン中……負けんなっ! しろがねっ!

 

「あら……女の子同士なんだし、別にパンツくらい見せたっていいのに……。とにかく口の聞き方には気をつける事ね……子猫ちゃん達」

 

「うっさい! って言うか……人のことその……ごにょごにょ……女……とかなんとか、そんなの、むしろあったりまえでしょっ!」

 

 これで精一杯……コイツみたいに直球はさすがに……無理。

 けれど、がんばって抗議をする。

 

 ちなみに、顔は真っ赤……耳まで熱い……もうヤダ。

 

 すると、何やら自分の台詞でも反芻してたのか、何やら考えこんで、掌をぽんとグーで叩く。

 

「あ……そう言う意味で捉えちゃったか……ゴメンね。あはは……そうよね……その身体で色々経験あったら、むしろ引くわよ。いやはや、こりゃまた失敬、失敬! もし、そう言うのに興味あるなら、経験豊富なこの私が色々語ってあげるわよ……。なんだかんだで興味津々のお年頃なんでしょ? うふふ……」

 

 なにやら、ヘラヘラと笑いながら、勝手に納得されて謝られてしまう。

 と言うか、一応わたし……敵なんですけど? なんで女子会エロトーク的な話の流れになってるんだろ。

 

 ま、まぁ……確かに興味なんか……全然ないって事も……無いんだけどさ……うん。

 

 けど、この人……言ってることもやってる事ももう全然、訳がわからないよ。

 

「んーまぁ、私が言いたいのは……黒猫ちゃんは人を殺せない娘で、まだ誰も殺せてないって意味なのよ。お姉さんにはお見通しなの……殺そうとして、出来なくてパニック起こしちゃって、逆に食べられちゃうとこだったわね。きっとすっごい葛藤したんでしょうね……殺さなきゃっ! ああっ! でも、殺せないの。お姉ちゃん、たすけてーっ! って! いいわねーそう言うの初々しくって……もちろん、あっち方面も含めて、初体験は大事だからね! うふふっ、やっぱ可愛いわぁ……。けどね……私にいわせてもらえば……」

 

 人の気も知らないで、何をっ! 思わず頭にカッと血が上る。

 エーリカは楽しそうに笑いながら、何やら講釈を続けるつもりだったようだが……。

 わたしより早く、しろがねが獲物を抜くと物凄い速さで斬りかかっていた。

 

「お前っ! ……それ以上は言うな……もう黙れっ! さもなくば……!」

 

 しろがねの動きは抜いた瞬間すらも解らない、神速と言える程のものだったが、その疾風のごとき一撃をエーリカは容易く受け止めた。

 

「あらら……意外、本人よりもお姉ちゃんの白猫ちゃんがキレちゃったか……さもなくば……なぁにかしら?」

 

 妖艶と言える微笑みを浮かべ、どこからともなく取り出した剣でしろがねの剣を止めながら、余裕を崩さないエーリカ。

 鍔迫り合いの状態でしろがねは押しきろうとしているにも関わらず、その剣はビクともしない。

 

 岩をも動かすわたし達、金属系マテリアドールのパワーをまともに受け止めるなんてっ!

 あの剣だって、何で出来てるの? 普通、曲がるか折れるかするよっ! 


 しかも、しろがねは両手で構えてるのに、あの女は片手で余裕って感じ。

 

 その色々と残念な様子と不真面目な態度にすっかり侮っていたが、この女……やっぱり普通じゃなかった!

 

 しろがねもその事実に気付き、焦りを隠せない様子。

 ひとまず、しろがねが押さえている間に、敵との交戦開始の連絡を今更ながらしようとするのだけど……本部と通信が出来ない事に気付く。

 

 イヤリングを外すとヒビが入っていて、壊れていた……たぶん、あの女の仕業……いつのまに……どうやって……?

 

「さて……一応、これで予定通りね……ちょっとドジってやらかしちゃったけど、仕切り直しとしては上出来って感じ! さぁ……ここはひとつ、人外同士、ド派手に殺し合いましょう! ……見て見てっ! 観客も大勢来たみたいよ! ここはひとつ、パァッとライトアップいってみましょうっ! 私、真っ暗闇でコソコソ戦うとか趣味じゃないのっ!」

 

 エーリカがしろがねを蹴り飛ばすと、しろがねが呆気無く宙を舞いすっ飛んでいく。

 

 続いて、エーリカが腕を空に広げると、大きな光の玉が4つ空へと打ち上がる。

 

 たちまち辺りは昼間のような明るさに包まれる!

 

 そして、そのまま光球に派手に照らされながら、エーリカはゆっくりと空へと舞い上がる。

 見ると、西の方からもうすぐ近くまで敗残兵が押し寄せていて、東からもそれを迎え撃つべく軍勢が展開していた。

 

 まさに一触即発……なのだけれど、唐突に始まったこのびっくり姫のワンマンショーに、呆然として誰もが固まっていた。

 

ついにボスキャラ登場!


と、なるはずだったんですけどねぇ…まさかの出落ちです。(笑)


シリアス…息してません。


本当、ここまでミステリアスで、カッコよかったんですけどね…この姫様。

どうしてこうなった? そりゃあCV雪野五月だってハマり役ですよ。


物語を作る時、シチェーションとかキャラ設定を元にある種のシミュレーションを重ねていくんですが。

真っ暗…そこらじゅうに鉄条網…まぁ、そうなりますわな。


これが俗にいう、キャラ暴走&やらかしってやつです。

我々作者にとっては、日常茶飯事です。


あと、本日は色々忙しいので、早朝アップです。

あと連休なんだしねって事で本日深夜0時前後と、明日の午後にアップ予定です。


本日16時の定時アップはありませんので、あしからず。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ