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第九話「使徒、その名はエーリカ」①

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 第九話「使徒、その名はエーリカ」①

 ---Enemy's Side Eye's---

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「……おいっ! お嬢っ! エーリカっ! お前、いい加減に戻ってこい! なんか、西方の陣地がトンデモねぇことになってるぞ!」

 

 乱暴に揺さぶられた上に、更に耳元で怒鳴られて、やむなくエーリカと呼ばれた女は集中を解くと「飛天の眼」と呼ばれる遠隔視の術式を解除する。

 

「うっさいわねぇ……この猪突猛進馬鹿っ! 私も「見て」たから知ってるっての……つまんない事で術式の邪魔しないでよ! せっかく面白いところだったのに……」

 

「つまんない事って……いいから見てくれ! ありゃ「ゲヘナの嵐」じゃねぇのか……猛り狂う神の放った炎の嵐、古代リガルド王朝の都を灰燼に変え、その国土全てに七日七晩消えない炎を撒き散らし続けたって伝説の……」

 

 ダイン将軍は、焦りの色を隠せずに、半ば強引にエーリカを天幕の外に引きずって行くと、古代リガルド王朝の碑文「滅火ほろびの7日間」の一節を流用する。

 

 古代リガルド王朝は……1000年ほど前、大陸の大半を征していたが、唐突に歴史の舞台から退場した。

 現在、その首都のあったところには忽然と砂漠が広がるだけで何もない……何があったかは未だに解っていない。

 

 そして、西方軍の陣地の西の端、バーツ王国の陣地のあったあたりには、炎を撒き散らす巨大な竜巻のようなものが見えた。

 

「あれは、火と風の重ねがけによる戦略級魔法ね……言ってみれば「ゲヘナの嵐」の劣化小型版ってとこ。今度の魔王軍は半端じゃ無いわね……これで四大元素それぞれ四人の戦略級魔術の使い手が揃ってるって事になるわ。けど、あれは単なるコケ脅し……一見派手だけど……あえて西方の退路を塞ぐような位置でフラフラしてる……追い立て役ってとこね。どうも連中、本気で西方軍を殲滅する気みたいね……。10万人をプチプチやってたらキリがないから、どこか一箇所にまとめてから片付ける……お掃除する時と一緒よね」

 

「はっ! 10万人をいかに効率よくお掃除するってか? やれやれ……魔王さん、どうやら本気で世界相手に戦争するつもりなんだろうなぁ……ホント……ひでぇな……。もう、何が出てきても驚かんぞ……俺は……。だから言ったんだ……千年魔王なんかに関わっちゃいけねぇって……ヘタに手を出した結果がこの有様だ」

 

「そうね……バーツの連中が手を出さなきゃ、今頃どっか無人の北の果てとかにでも浮上してたんじゃないかしら……? けど……魔王様は見ての通りちゃんと戦争の再開に備えてた……きっといつかはこの地に浮上して、リターンマッチを挑んできたはずよ。要はいつかは通らなきゃならなかった道……諦めなさい……これも天命というやつよ。私とあなたが使徒として目覚めた時点で、この日の訪れは約束されていたようなものよ……。それから、あの何とかって司祭……一応本物だったみたいで「天使堕落エンジェルフォール」を成功させてたわ……最下級の「兵士級」だったみたいだけど」

 

「おいおい……「天使」とはまた……そりゃまたどエラいのが出てきたな。あんなもん……人に制御出来るもんじゃないだろう……どうせ暴走って落ちだろ? 」

 

「ご名答……案の定、暴走しちゃったみたい……当然、執政と司祭は天使に食われてお亡くなりになられたわ。けど……魔王軍も戦略級魔法の使い手も含めて、総力を集めたみたいで、もうボッコボコ……天使があそこまでズタボロにされるところなんて初めて見たわ……。おまけに、最後にもうひとり戦略級の大魔術師が出てきて……凄かったわよ……。「天使堕落」の逆バージョン……天使を強制的に天に帰す「天使昇華ライジングフォース」……こんな馬鹿げた魔術……使い手がいた事自体もそうだけど、発想自体が信じられないわ……」

 

「天使は不滅不死の存在……普通にやりあったら、一時的に追い払うか、封印するのが関の山なんだがな。……天に自らお引き取りいただく……って訳か……たしかに、その方法なら、天使を完全に消滅させることが出来るな……」

 

「正確には、ズタボロにして再生する矢先から破壊されるなんて状態に追い込んだ上で、逃げ道として天の門を開けてやった。そんな感じ……向こうもさすがにほとんど総力戦だったみたいだから、多少戦力ダウンしたってのが、こちらとしては救いね」

 

「やれやれ……そんな奴らの相手をする為に呼びだされた天使に同情するぜ……。それとそんな人外頂上決戦に巻き込まれた連中もな……バーツの軍はもう壊滅だろうな……。よしっ! 決まりだ……連中の目がこっちに向く前に大至急撤退……逃げるぞ! そんな奴らまともに相手なんてしてられん。パーラミラにもそう伝えよう! 死にたくない奴は逃げろってな! うちの騎兵隊もフルプレートもランスも捨てさせて、胸甲だけのおでかけスタイルにさせてあるからな……逃げ足だけは早いぞ。それに、偵察や向こうの伝令の迎えに出した連中すらも戻ってこないからな……。間違いなく間になんかいて、ぜってーなんか企んでやがる……このままだと俺達も進退窮まっちまうんじゃねぇか?」

 

「そうね……あそこには敵が居るわよ……それも可愛い可愛い子猫ちゃん達が……うふふ。でもね、今の時点での撤退はやめといた方がいいわぁ……なんかヤバそうなのがこっちの退路に回りこんでるわよ。それに今、こっちが退くと西方の敗残兵が東方領域に雪崩れ込んでくるわ。そうなったら、連中何するか解らない……それにパーラミラ軍を見捨てて逃げたとなると、政治的にもかなり厄介ことになるわよ」

 

「くそ……西方の敗残兵共か。もはや、連中どうみても戦力外の烏合の衆だが……。白旗掲げて整然と逃げ込んでくるなら、まだしも……恐慌状態で国境線へ雪崩れ込むなんてのは、完全にアウトだ。数はまだ完全に向こうのほうが上だからな……そうなったら防ぎきれん……。参ったな……こりゃ、やはり退くに退けんか……。ホントにひっでぇ状況だな……唯一の救いは魔王軍がこっちを後回しにしてくれてるから、まだまともな攻撃を受けてないってところだけだな。なぁ……お嬢! なんか良い知恵ないか? 正直、お前さんが頼りだ……俺の頭じゃもう何も思いつかん」

  

「あら……せっかく、エーリカって名前で呼んでくれたのに……またお嬢呼ばわりぃ? けどまぁ、そんな風に素直に頼られて邪険になんて出来ないし……そうね……一応、西方にもいくつか秩序を保ってる隊は残ってるみたいよ。……こっちと何らかの交渉をしたいって意志はあるみたいだから、まずは西方との連絡を回復したいところね。さて、将軍……こちらにとって一番嫌な展開、向こうにとっての嫌な展開はどんな展開?」

 

「コッチにとっての最悪は……やっぱり、東西双方相撃って、泥沼になって戦力低下したところをトドメとばかりに魔王軍に襲われる……だな。向こうの立場としては、こっちが西方の兵力を抱え込むって展開は避けたいだろうな……実際は夢物語だがな」

 

「そういう事……向こうの狙いとしては、西方の敗残兵をこっちにけしかけるって感じ。……敵同士を喰い合いさせるなんて、美味しい展開だものね。現状、東西の連絡はまったく取れてないし、魔王軍はこちらには攻撃もかけてこない……今のところ、やられてるのは西方だけ……。西方はもう統率も取れてないし、兵隊たちは積年の東方への敵愾心もあってすっかり疑心暗鬼よ……。向こうの伝令や偵察も敵の姿も見えないのにかたっぱしから消えていってるのは同じだろうし。おまけに西方の敗残兵が徐々にこっちに下がってきてるから、パーラミラも相当警戒してる。……たぶん、弓兵隊あたりを展開させてると思うわ……元々あっちは西方を敵とみなしてたんだもの……当然よね」

 

「まずいな……東軍西軍の距離が縮んだとこで、双方へ矢でも射掛けられりゃ一発で大乱戦になるな。むしろ、それが狙いか! ったく……間に陣取ってる連中……要は奴らが一番の問題だな。よし、こうなったら、俺が出てその敵を排除する。その上で、俺が西軍に乗り込んで連中を説得する……エーリカ……すまんが指揮を頼んだ……久方ぶりに本気で暴れてくるとするか……」

 

 そう言って、立ち去ろうとする将軍をエーリカは、襟首をガッツリ掴んで制止する。

 

「ダメよぉ、将軍……あなたはここで大人しくしてて! だって、相手は子猫ちゃんなのよ……それにとっても繊細で傷つきやすい子なの。だから、貴方じゃ駄目……それに、貴方は女と子供に優しすぎるもの……きっと本気で戦えないままやられちゃうわ……」

 

「ああ? 俺が敵に容赦などするものか! どんな敵だろうが、始末してやる……奴らのせいでうちの偵察隊だけで20騎以上やられてる。このまま好きにさせてたら、俺達は破滅だ……相手が子供かなにかしらんが、オイタをした子供を躾けるのは大人の義務だ」

 

「そんな事言ってる時点で、舐めてかかって逆にボッコボコにされる貴方の未来の姿が目に見えるわよ……むしろ、絶対そうなる。けど、貴方のそんな所も……私、大好きなの……だから、今回は特別……私が代わりに行ってあげる……。だって、あんな可愛い子達見つけちゃったら……もう思い切りたっぷりと可愛がらないと収まりがつかないわ……。それと、そっちはそっちで向こうの大物がマークしてるみたいだけど……それはご自分で対応しなさいね」

 

「ああ、そうか……敵の伏兵もいたな……どの道、俺はここから動けんか。……やれやれ、女に頼らざるをえんとはなぁ……我ながら、甲斐性なしここに極まれりってとこか。解った……エーリカ、お前に任せる……好きに暴れてこい……お前が暴れりゃ、西方の敗残兵共もさすがに足を止めるだろうよ。それから、その子猫ちゃん達とやらは、必ず生きたまま俺のとこに引きずってこい……ケツでも引っ叩いて、泣くまで説教してやる」

 

「うふふ……殺せ、じゃないとこが貴方らしくて、ほんと甘い……。でも、実はそれが正解……殺しちゃったら、魔王様と全面戦争は避けられない。そんな展開、御免こうむる……ここは一戦交えて、ほどほどにこっちが勝って白旗でも上げてもらうってのが最善手なのよ……んじゃ、いってくるわねぇ……」

 

 その言葉を最後に、エーリカの姿は瞬時に掻き消える。

 しばらく、ひとりボリボリと頭を掻きながら、ダイン将軍は独り言を続ける。

 

「俺達としては……ぶっちゃけ魔王様とは是非和平を結びたい所なんだよな……。むしろ、この地に魔王様が居座ってくれれば、西方の脅威は一段落する……そうなりゃ、例の奴らへの対策も本腰入れられる。ただ、普通にこっちが白旗上げてもなぁ……俺達もそれなりに勝ち星あげねぇと交渉にならん。そうなるとまぁ……ここはひとつ俺も武勇って奴を見せつけんといかんな。……俺の責任も結構重大だな……そういう訳で、お二人さん……俺に用があるんだろ? いつでもいいぜ」

 

 ダイン将軍はブツクサと独り言を言うと、大天幕の入り口脇の誰もいない空間へ向き直る。

 すると、すうっと2人の人影が現れる。

 

「……さすがに、我ら程度の隠形では……見ぬかれていたか……流石だな……帝国の将……ダイン将軍だったか。では、ここはひとつ……我らも名乗りでも上げるとするか……。我が名は黄金……千年魔王様が剣、最強の一振りなり! いざ、尋常に勝負っ!」

 

「わたくしの名は鋼……同じく、千年魔王様の忠実なる下僕です。誠に申し訳ありませんが……我らの悲願の為……そして、魔王様の命により、貴方にはこの場で消えていただきます」

 

「黄金に鋼か……まったく、どっちも揃っていい女じゃねぇか……たまんねぇな。ご丁寧なご口上、拝聴させていただいた……誠にありがとう……では、俺も自己紹介だ。我が名はダイン……ダイン・クラウス・スーレイブ上級軍将! 我こそは帝国一の剣なりっ! ……なんてな。まったく……どうせワイズマンの野郎の差金だろう……わざわざ俺一人になるのを待ってたみたいだが。二人がかりってのも、野郎の指示だな? まぁ、野郎らしい話だ……相変わらず気の利く野郎だ。俺は二対一でも一向に構わん……だが、こっちにも事情があるんでな……死なねぇ程度には手加減してやるさ」

 

「我らとしても二人がかりなぞ、不本意なのだがな……だが、手加減などと言われるとさすがに癪に障る。手加減など無用っ! 全力で来るがいい! 我らが力……存分に見せつけてやろうぞ! 鋼っ! 行くぞっ!」

 

「はいっ! 姉様! では、お先に参りますっ!」

 

 まっさきに、突風のように鋼が動く……目の前に絶対防壁を展開しつつ、神速で迫る!

 そして、その背後から二体に分かたれた黄金が飛び上がる。

 

「幻術による分身などと思うなよ……「双陣乱舞・滅」ッ!」

 

「おいおい……次元屈曲防壁だと? それに金髪の方も……エーリカの言ってた実体のある分身ってやつかっ! くぁああっ! どっちもバケモンじゃねぇかっ! こんなん! まともにやってられっかっ!」

 

 悪態を吐くダイン将軍。

 

 そして、将軍の目前に、絶対防壁が迫ると同時に、左右から二体に分かたれた黄金の神速の剣が迫るっ!

 

さぁ…いよいよ、お嬢こと、エーリカ姫様の出陣です!

ダイン将軍も黄金、鋼の魔王軍最強の刺客相手に、ついにその秘めたる力を見せつける!

頂上決戦始まる!


ってとこで引き…お約束ですね。さぁ、面白くなってきましたね!


なお、VS天使戦は、解説エーリカ姫によるダイジェストにてお送りしました。


エーリカ姫様CV:雪野五月。

…理由はそのうち解ります。

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