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第八話「鉄条網に消えた涙」③

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 第八話「鉄条網に消えた涙」③

 ---Kurogane Eye's---

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 ドンと言う重たい音のあとに、パンッと言う何かが弾けるような軽い音。

 朦々たる土煙で視界が埋まり……そして、サァッと言う雨が降ったような音がした。

 

 そして、煙が晴れると10mほど離れた場所に、半分地面に埋まりながら、大きく肩で息をついて、片手を付く白い小さな人影……しろがねだった!

 

 わたしは慌てて立ち上がろうとして、有刺鉄線に引っ張られてまた座り込んでしまう……。

 こんなもの自分で錬成したのだから、練成解除すれば済む事だとやっと気づき、解除すると有刺鉄線は跡形もなく消滅する。


 いつのまにか呼吸も戻って、息苦しさも消えていた。

 

 今度こそと立ち上がるけど、中腰になったところでふらりと力が抜けてしまう。

 けど、しろがねが駆け寄ってきて、倒れる前に抱き止めてくれる。

 

「ごめん……くろがね……。こんな事になってたなんて……気付くのが遅れた。本当にごめんね……私が油断してた……もう大丈夫だから……大丈夫だから……」

 

 涙声でわたしを抱きしめるしろがね。

 

 しろがねは悪く無い……戦場でくだらない葛藤をした挙句に、我を忘れて恐慌にかられたわたしが悪いのだ。

 

 冷静になって考えると、今のは……パニック症の症状だった。

 あの息苦しさ……自分が自分でないような感覚……そして、あの言い知れない死の恐怖。

 

 入院してた時も何回かあれに襲われた……なんて事……ここに来て、あれが再発するなんて……。

 戦場でもたまに新兵が発症し……当然ながら、そんな有様では高い確率で戦死する……。

 

 わたしが無事だったのは、しろがねが無茶をして駆けつけてくれたからに過ぎなかった。

 

 もし、ひとりだったら……あの後どうなっていたのだろう……あの男はわたしを獲物程度に思っていたようだった。

 ……想像して、思わず吐き気がこみ上げてくる……実際、そんな光景をわたしは見てしまっていた。

 

 燃え上がる木造の家屋。

 面白半分で追い回され、矢に射抜かれる子供……無抵抗のまま、祈りながら斬られた老婆。


 目を背けたくなる光景……そして、陵辱の末……ゴミのように打ち捨てられる遺体となった少女。


 ……玻璃とふたり、西方の近辺偵察に赴いた時に見てしまった光景だった。


 その村は略奪と破壊の限りを尽くされた挙句に全て焼き払われていた。

 

 TV越しで海の向こうの話として、まるで他人事のように聞いたニュースの一幕。

 そんな事が現代でも行われているという話は聞いた……それに歴史上、侵略者に晒された国ではいくらでも起こっていた悲劇。


 それは自国の民にすら振るわれることも珍しくなかったらしい。

 

 けど、実際に間近で見たそれは人間の所業じゃなかった。

 戦争の狂気とかよく聞くけど……むしろ、戦場にいると人は狂っていくのかもしれない。

 

 ……わたしは心底思った。

 こんな獣……滅びてしまえと。

 そして、手を出せない立場に歯噛みした……絶対敵に容赦なんかしないと思っていた。

 

 今にも飛びかからんとする玻璃ちゃんを必死に抑えながら……すべてが終わり、わたし達に出来たことは……お墓を作って、ささやかなお祈りをささげた……その程度だった。

 

 玻璃ちゃんは言っていた。

 

「あの獣を殺すのは間違いなく正しいこと、だからあたしは奴らに容赦なんかしない!」

 

 ……そう言っていたのだ。 

 だからこそ……わたしもあの時、二人で誓ったのだ……正義の名の元に……わたしも決して、敵に容赦しないと。

 

 玻璃ちゃんは……やり遂げたようだった……あの蛮行を行った軍の司令官を始末するのは間違ってない。

 

 ……名も知らぬ人だけど、部下の蛮行を死を以って償う。

 それがトップに立つ者の責任のとり方だろう。

 

 けど、わたしは……誰ひとりとして殺せずに、躊躇したばかりにこの有様。

 ……もしあのままだったら、きっとわたしもあの少女のようになっていた。

 

 改めて……恐怖が蘇ってきて、しろがねに抱きつく。

 

 助けられた……しろがねに。

 

 あの弾丸のようなスピードと消耗具合からすると、四倍加速……フォースアクセルを迷わず使ったようだった。

 あれは制御が難しく、身体の負荷も尋常じゃない……しろがねだって、余程のことがない限り、使わないはずだった。

 

 けど、わたしを守るため……そのためならば、自らが傷付く事を、何一つ躊躇わない。

 ……それがしろがねなのだと、改めて思い知る。

 

「しろがね……ありがと……ありがとね。おかげでね……わたし、なんともないよ……しろがね……そっちこそ身体は?」

 

「うん、私は問題ないよ……だいじょう……」

 

 不意に……言葉を切って顔をしかめるしろがね。

 

 どうも左腕を痛めたらしく、手を上げようとして力なく下ろす。

 その有様をみて、思わず叫んでしまう。

 

「大丈夫じゃないじゃないっ! ……ばかっ! しろがねのばかっ! 後先考えずに無茶しちゃってっ! 何考えてんのよっ! しろがねのばかっ! ばかっ! ううっ……わたしの……わたしの……ばかぁ……」

 

 涙と嗚咽にもうそれ以上言葉にならなかった。

 あんなただの雑魚兵士相手に、何も出来ずパニックを起こしただけの自分の不甲斐なさ……。

 しろがねの胸に顔を埋めると思い切り泣く……悔しくて、悔しくて……。

 

 そんなわたしにそれ以上何も言わずに、しろがねは優しく抱きしめるとそっと頭を撫でてくれた……いつものように。

 

 もう……こんな情けないのは嫌だっ! 誰にも負けたくない……これから先、ずっとこんな風に守られるなんて、嫌だ。

 

 わたしを守る為に……これからも、しろがねはこんな風に傷付き続け、そして……それが当たり前のように……こんな風に笑うのだ。

 

 けど、自分のためにしろがねが傷付くなんて絶対嫌だ……。

 それにこんな調子では……いつかきっと自分の弱さがしろがねを……誰かを殺す。

 

 ……全てを守れる力が欲しい……わたしはそれを切に願った。

しろがねちゃん、オットコ前です。

イケメン女子です…そりゃくろがねだって惚れます。

女子校なんかでバレンタインにチョコ貰ったりするタイプです。


冒頭…なんだかエグそうな音だけ描写ですが…。

新幹線にダイブしたりするとこんな感じだそうです…ミンチよりひでぇよ。


しろがねの4倍速特攻…その速度は時速250km超っ! 普通の人間なんか余裕オーバーキルです。


ちなみに、くろがねちゃんのパニック症は諸説色々あるようで…心因説があったり、脳の神経伝達物質異常だったりと…彼女の場合、転生後にまで持ち越してしまっているので、心因性って事にしといてください。


次回、Enemy's Sideです…忙しい小説だこと。

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