第八話「鉄条網に消えた涙」②
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第八話「鉄条網に消えた涙」②
---Kurogane Eye's---
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振り返って、しろがねの様子を見ると、立ち上がって来た最後の一人を愛用の自分の身体より大きな大剣で切り捨てるところだった。
東軍からくる騎兵は装備も良くて、どいつもこいつも重装甲フルプレートみたいな感じなので、鉄条網にかかっても結構立ち上がってくる……なので、基本しろがねが相手してくれている。
向こうの騎士も決して弱くはないみたいなんだけど、しろがねは剣士としては超一流……1対1じゃまるっきり勝負にならないらしい。
しろがね、強いっ!
それから、倒れてたり動けなくなってる連中や馬を片っ端から遠くへぶん投げていた。
次が来た時に警戒されないようにってのと、そのままにしとくと死屍累々になって、一種の安全地帯が出来てしまうから……。
もちろん、鉄条網はあちこちに十重二十重に仕掛けてるから、少しくらいコース変更されたって、突破なんてさせやしないけど。
まぁ、いずれにせよ……あんな扱いされては、息があってもなくても同じ事。
しろがねは、敵に容赦なんかしない……あれは戦士としては正しい姿だった。
こっちはと言うと……一人はなんか首が変な方向に曲がってるからもう駄目っぽい。
もう一人は……多分気絶してるだけ、時々手足がピクピクと動いている。
これは戦争なんだし、魔王様も敵は皆殺しにしろと言ってたから、この運悪く生き残ってしまった敵兵の処理は……わたしがやらなきゃいけない……けど。
わたしは自分が死ぬ逝くときの感覚を覚えている……そして、死んだ後のことも。
自分の意識が、存在が……何もかもか崩れ去るように消えていく……後には何も残らない……それが「死」だった。
死後の世界も天国も地獄も何もない……無に帰るのだ……生きとし生けるものは。
だからこそ、自分の意志で他者に死を与える……その行為だけは、どうしても躊躇ってしまう。
もちろん、こんなものは自分の気分の問題にすぎないと言うのは解る。
実際、そこで死んでいる騎兵は、結果的に私が殺したようなものだ。
けれど……わたしにはなんら罪悪感も感慨も湧いてこない……なぜなら、わたし自身は手を下してないから。
この鉄条網と言う罠を仕掛けたのは確かにわたしだけども、それにかかって勝手に死んだだけの事……避ける手段だって、あったはずだ。
きっと、わたしが寝てたって、同じ結果になっただろう……おまけに、向こうはどう見ても殺る気だった。
剣を抜いて、馬に乗ってまっすぐ突っ込んできて、それが殺す気以外の何だと言うのだ。
殺されるくらいなら、殺す……撃たれる前に撃つ、戦場では当たり前……そうでなければ、死ぬ……ここはそう言う場所なのだから。
仮想現実と言えども、あの戦場でもそれは当たり前だった……行動不能になって、生き残ってしまったような相手には容赦なくトドメの一撃ってのが当たり前。
メディックなんかと合流されたら、復活されちゃうし、殺らないとキルスコアにならないから、その辺、容赦無用、お互い文句は言わないってのが暗黙のルール。
「ガンフロントライン」……通称ガンフロ。
元々兵士養成用のVRシュミレーターだった……なんて、物騒な噂があったくらいにはリアルな戦場を再現したゲームで、殺し殺されるのが日常という殺伐としたゲームだった。
わたしの仲間だった人達も率先して時間稼ぎの玉砕とかやってたし、使い捨ての特攻偵察なんてのもやってた。
わたしも殺されて敵にキルポイント渡すくらいならと、高層ビルからダイブしてVR自殺体験なんてことをした事もあったっけ。
……もっとも、そのあと、腰が抜けて動けなくなったんだけどね。
けど、銃弾飛び交う中、仲間が命懸けで拾いに来てくれたっけ……懐かしいなぁ……。
(そう言えば……あのコにちゃんとお別れを言えなかったな……)
ふと、いつもスポッターをしてくれてたその年下の仲間の事を思い出した。
(……でも、もう取り返しのつかない前世の話……忘れないとね……)
頭を振って、その記憶を追い払う……後悔はしてもしょうがない……後悔なんて行為に何の意味もない。
あれは……そう言う運命だったんだよね……きっと。
『ガンフロ上位プレイヤー陣は、戦場行っても余裕で生き残る』
そんな風に言われていたし、実際そんな気がする……ライバル連中は皆、そんな感じで誰もが歴戦の古参兵の風格を備えていた。
あれは、今から考えると、人の心を自然と作り変える……命を軽視し人を戦場に最適化させる……そんなギミックに満ちていた……多分、あの噂は真実だったのだと思う。
実際、わたしのキルスコアだって、最終的には万単位を記録していた……ギルド戦でトラップと狙撃を駆使して、一時間足らずの間に100人以上も殺していた事だってある。
リアルとの違いは、本当に人が死ぬか死なないかの違いだけ、やる事は変わらない。
だから、戦場も、人殺しも……もう手慣れたもの……わたしもそのつもりでいた。
けど、さっきからこの生き残り連中の始末はさっぱり出来てない……。
結局、わたしは目の前の人を自分の手で殺すのがダメなのだ……こんなの戦士として使い物にならない。
人を殺す覚悟もあったし、問題ないと思ってたのだけど……蓋を開けてみればこうだ……。
ああ、本当に……駄目だな……わたし。
これじゃあ……戦えないじゃないか……。
こんなのって、アニメや漫画ではよくある話だった……ロボットや宇宙人相手だと思っていたのに、実は同じ人間だった……とか、それまで何ら躊躇いなく倒してきた怪獣達の正体が人間だったとか……。
そんな理由でもう人を殺したくないとか言い始めて、戦いから逃げ出し葛藤する主人公……そんないわゆる鬱展開。
視聴者や読者はきっとこんな一言で片付けることだろう……「お前、さんざんぶっ殺してきたのに、今更何言ってんの?」って……。
実際、戦闘が始まってから、わたし達が構築した阻止線を越えようとした伝令や偵察隊はすでに40騎を超えた。
有刺鉄線と言う未知のトラップの前に、誰も彼もが為す術なく馬の足を取られ、地べたに叩きつけられ……ある者は馬の下敷きになり、ある者は頭から落ちて、訳もわからないまま命を落とし……。
運良く立ち上がれた者もしろがねに斬られ、かろうじて息のあったものも、結局ゴミのように投げ捨てられ地面に叩きつけられるという最期を遂げていた。
わたしが「後片付け」出来なかったものは、しろがねが当然のように片付けてくれていた。
……しろがねも多分解っているのか……気にするなと言いたげに、わたしの頭をなでて、わたしの代わりに「後片付け」をしてくれた。
けど、日本の法律に、この状況を当てはめると、誰かを殺すかもしれないと認識しながら、罠を仕掛け死者が出た時点で、いわゆる「未必の故意の殺人」……と言う事で殺人罪となる。
だから……すでに、わたしも立派な殺人者……つまり「さんざんぶっ殺している」のだ。
今更、殺したくない……なんて泣き言を言う資格なんて無い……解ってる……そんな事は……。
この戦争が始まる前はこんな気分になるなんて、思ってもなかった。
くろがね教官とか言われて、波璃ちゃんとか琥珀なんかと割りとガチなバトルして勝って、調子に乗ってた。
けど、いざ……戦場に立ったら、ヘタレてこんな新兵丸出しガクブル状態……なんともまぁ……口先倒れだった。
やっぱり、皆が言うようにわたしは強くない……全然だ。
……あの主人公達はどうやって、再び戦場に戻っていったんだっけ。
なんとなく、良くある展開だねこれ……とか斜に構えた事言って、流し見してたから、よく覚えてないけど。
誰もが皆、主人公にふさわしく、それぞれの理由で葛藤を乗り越えて戦場に舞い戻っていったのだろう……そうしないと話が終わってしまう。
ちゃんと見とけば良かったなぁって後悔する。
わたしも……彼等のようになれるかな?
いや、ならないといけないのだ! 今からだって、遅くない……わたしは……たぶん、この壁を超えなければならない。
……この先も魔王軍の戦士のひとりとして……戦うために。
そうだ……守られているばかりのお姫様なんて、わたしのやりたかった役どころじゃない。
わたしは……いつだって先陣を切るのだ……背中を守る仲間たちの為に……エースとして!
しろがねとだって、お互いの背中を守りあいながら戦える相棒だって、胸を張っていえるようになりたい!
そうなる為には……今、やるしかなかった。
決意と共に、ゆっくりと気を失っている兵士の前に立つと剣を錬成し、その大きな剣を振りかざす。
あとはこのまま振り下ろせば済む話……造作も無い……はずなのに……。
……わたしはその剣を振り下ろせずにいた。
(なんでっ! うごけ……わたしの身体っ! いつも通りに素振りする感じで、エイッ! って振り下ろすだけじゃないっ!)
しばし、そのまま躊躇っていると、不意に足首を掴まれる!
「ひ、ひぃっ!」
思わず、か細い情けない悲鳴を漏らしてしまう。
一瞬で身体から力が抜けて、剣を投げ捨て思わず尻もちを着く。
視線の高さが低くなることで、わたしはその男を間近に見ることになってしまった。
……ギラギラとした憎悪に駆られた血走った目……食いしばった乱杭歯、口の端からは、血混じりの唾が垂れていた。
思わず、恐怖にかられて後ろに逃れようとするが、自分の作った有刺鉄線に触れ、服が引っかかってしまい、それ以上下がれなくなってしまう。
それに何故か……酷く息苦しくなる……。
息を吸おうとするけど、口がパクパクと開いたり、閉じたりするだけで、一向に息が吸えなかった。
(うそっ! 息が出来てないっ! 死んじゃうっ! どうなってるの!)
身体を動かそうとするけど、暴れれば暴れるほど、有刺鉄線が絡みついて動きが取れなくなっていく。
(……なんで? 私はこんな縛め容易に引きちぎれるはずっ!)
それにどうして息が出来ないのか解らない……。
(苦しいっ! いやだ! なんで? わたしはこんなところでまた死ぬなんて、いやっ!)
死を間近にした恐怖がわたしを苛む……この感覚は……かつて、何度も経験した……。
そんなわたしの様子を見て、その醜く粗野な顔が奇妙な形に歪む……笑っていた。
「い、いやっ! いやっ! 離してぇっ!」
まるで他人のような叫び声が自分の口をついて出る。
声が出るってことは息が出来てる……少しだけ冷静になる。
けれど、足がまだ掴まれたままという事に気づいて、めちゃくちゃに足を動かし暴れると、足首を掴んでいた腕を蹴り飛ばす形となり、男の腕が奇妙な位置で折れ曲がり、絶叫が上がる。
足は自由になったものの、有刺鉄線に囚われた身体はその場に張り付けられ、自由に動けない。
ガシャガシャと揺するけど、ますます有刺鉄線が絡みついてきて、更に身動きが取れなくなる。
呼吸は相変わらず、苦しい……ヒィハァと変な音が聴こえると思ったら、自分の呼吸音だった。
男が折れた片腕をぶらりと揺らしながら、ゆっくりと立ち上がる……小さな身体の自分……それも腰を抜かして座り込んだままの状態だと、はるかに見上げるような巨大な体躯に見えた。
またしても、恐怖に駆られ、身動き一つできなくなる。
違う……固まったようになっている自分をもうひとりの自分が冷静に眺めている感覚。
そして、荒い息とともにその太い腕がゆっくりと伸びてくる……。
(誰か……助けてっ! しろがねぇっ!)
その直後……一陣の風が吹いた。
すみません…鬱展開の挙句のぶった切りな引きです。
結構、グロい描写だったり、えげつない事言ってますが…彼女達、戦争やってますからね。
玻璃ちゃんパートでもありましたけど、笑顔でチュドーンとかやってる裏では、こんなえげつない死が量産されているのです。
そして、くろがねちゃんピンチです…超ピンチです。
くろがねボディは鉄壁の防御ですけど、彼女の心は人間です…脆くか弱いのです。
けして、無敵のヒロインなんかじゃないのです。
あとガンフロ関係の設定は、この辺書いてる時点ではぼんやりとしか無かったんですけど…。
外伝書いてくうちに色々固まって来たので、こっちにも反映させました。
なるべく、違和感なく挟み込んだつもりですが…はい、後付です。
違和感あったらごめんなさい。
あと、加奈子ちゃんのいた日本も当然ながら、我々の住む日本とは別世界です。
実はなにげに戦争待ったなしなんて情勢になってるとか裏設定もあるんですが…本作とは関係ないっすね。
ガンフロの世界すっげー面白そうとか、興味持った方は…次回作を乞うご期待。
追伸。
時限投稿設定…忘れました…別に16時である理由なんて無いし。
追伸2。
新作タイトル変更に伴い一部記述を変更
「フロントラインソルジャーズ」…通称「フロソル」
↓
「ガンフロントラインソルジャーズ」…通称「ガンフロ」
なんともありがちなタイトルだったので、変えました。
ググっても出てこないので商標的にも問題なし!
本当はガンフロンティアにしたかったけど、なんかトチローとか出てきて、有名すぎたようなので、却下!




