第八話「鉄条網に消えた涙」①
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第八話「鉄条網に消えた涙」①
---Kurogane Eye's---
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玻璃ちゃんの敵将討ち取ったりコールに引き続いて、黒曜から敵魔導兵団のボスの撃破報告が入る。
……ちなみにこの魔導兵団には玉四姉妹があたっていたのだけど、無理ゲー状態で兵団は文字通り消滅。
ボスとその取り巻きだけがかろうじて逃走……琥珀が追跡し、黒曜が伏撃をかけて仕留めたらしい。
紫と紅のコンビと翡翠と柘榴は、一番西のなんとか王国の司令部に殴りこみ中。
なんか「物凄いのが空から降りてきたぁっ!」とかなんとか柘榴が騒いでて……。
「いやぁあああっ! 変態っ! 変態っ! 変態ーっ!」……って、翡翠が金切り声をあげてたけど……何が起きてるのか、いまいち良く解らない。
どうも予想外に苦戦してるっぽいけど、玻璃ちゃん、瑠璃ちゃんコンビが例の合成魔法で強引に道を切り開きながら、敵中突破を敢行しつつ急行してるし、玉姉妹も続々と応援に駆けつけてる。
……それに黒曜たちも向かったようだし……。
おまけに、金剛さんも外に出て来たらしいから、もはや総力戦体制……何が出てきてるのか知らないけど、このメンバーが揃えば、なんとかなるでしょ。
あと玻璃ちゃん達……総司令部から撤退中に、竜騎兵ってのが二匹も出て来て、どっちも合成魔法で撃ち落としたらしい。
ドラゴンとか、またすげーのが出てきたと思ったけど、それを身も蓋もなく撃ち落としたって……。
もうなんでもありなのね……わたしって、なんか地味だよなぁ……ドラゴンとか出てきたら、どうすんのよー。
空飛ぶ相手なんて、割りとどうしょうもないよ? もう石でも投げるしか無いんじゃないかなぁ……。
銃火器でもあればなぁ……と言うか実際、VRゲームのイベント戦で運営がトチ狂ってドラゴン型レイドボスなんてのを出してきた事があって……。
わたしはそのドラゴンの目玉撃ち抜いて、叩き落とした事から「ドラゴン落とし」なんて非公式称号が付いてた。
まぁ、この世界でも長射程の銃さえ持たせてくれれば、それくらいやってのけれると思う。
……銃さえあればねっ! 無いからねっ! ちくしょう。
とかなんとか……ひとり、ぶーたれてるわたしは何してるのか……と言うと。
西方軍と東方軍の陣地同士の間に出来た双方の仲の悪さを象徴する1kmほどの空白地帯に、こっそり忍び込んで、穴掘ってうつ伏せになって、足をバタバタとさせている。
一応、配置なんかは予定通りで、やってることもちゃんとやってるんだけど。
なんで、こんな風にしてるのかというと……。
ワイズマン様から、現場指揮官用の戦況マップ確認用って事で渡されたタブレットまんまみたいな奴があるのだけど、これが暗闇の中で煌々と明るく光っちゃうようなものだったから、もう大変!
真っ暗闇の中、潜伏行動してるのに、こんな明るくてどうすんのよー! ワイズマン様のばかーっ!
とりあえず、穴をほって伏せった上でマントで穴を覆って……とまぁ、結構な苦労をしながら、このタブレットもどきを見ながら、戦況を確認しつつ、足だけジッタンバッタンと暴れさせてる。
……ちなみに、暴れてるのにはあんまり意味はない。
西方軍は数がとにかく多いけど、元々兵站ぐっだぐだで虫の息だったから、まともに反撃できないみたいで、もう勝手にパニック起こして右往左往してるだけ……もう、息してない感じ。
魔導兵団ってのが、結構強そうだったんだけど、あの玉四姉妹には勝てなかった……軽ーい感じでエイヤっと湖作るような娘達に、まともな人間の魔術師が勝てるはずがない……まぁ、オーバーキル。
こちらの雑兵、4つ足ゴーレム軍団も猛威を発揮してるようで、通ったあとは死屍累々……さすがに何体かやられたみたいだけど、お互い激突して自滅とか、攻城兵器にブチかまされたりとか、そんな感じらしい。
まぁ、時間が経つと土に帰るエコロジーな使い捨て兵器だから、ここはせいぜい頭数を減らすのに役に立ってもらおう。
と言うか、現物見せてもらって、戦闘テストに付き合わされたんだけど、見た目も動きもキモかった……思わず、テストなのに全力でぶっ飛ばしてぶっ壊しちゃった。
現状、翡翠に変態呼ばわりされてるなんとか王国のボスっぽいのが殺られてたまるかとパワーアップ変身、召喚獣的なもの並べて、ボス戦勃発中。
こちらも西方軍担当の総員が集結して総力戦開始っ! さぁ、盛り上がってまいりましたっ!
一方、わたし達が相対する東方軍は……敢えて、攻撃をかけていないってもあるけど、ものすご~くおとなしい。
西軍ほど数はいないのもあって、兵站はまだマシだったらしく一応息してる……陣形作って馬防柵? 尖らした丸太並べたやつを用意したりと、明らかに待ちの構え。
西軍の殲滅が終わるまで、そのまま、大人しくしてくれればありがたい。
……最初はしきりに偵察隊を出してきたけど、五組目くらいを迎撃してから、続きが出てこない。
偵察も諦めたか……ある程度の大部隊で一気に突破を図るつもりなのかもしれない。
ちなみに、黄金姉様と鋼姉様は敵の最有力部隊……ディア……なんとか帝国の重装騎兵隊の背後に回りこみつつあり、ワイズマン様からのゴーサインを待ってる状態。
伝令の騎兵や逃亡兵っぽいのが、西から何度も来てるけど、その辺も……まぁ、問題なく撃退できている。
「くろがね……伝令が西から2騎、東からも偵察なのか出迎えなのか……良く解らないけど5騎ほど出てきたみたい! ごめん、西の方の足止めをお願いっ!」
しろがねがマントの覆いをめくって、こちらに一声かけるとさっさと走り去ってしまう。
わたしもタブレットもどきを背中に背負った物入れに突っ込むと、のんびりと西から走ってくる騎兵の方へ向かって歩く。
……迫り来る松明を掲げた騎兵!
こちらの姿を認めたのか抜刀し、何やら喚いている。
たぶん、何者だ! とか、そこをどけ! 斬るぞ! とかそんな感じ。
けれど、こっちは余裕……騎兵の突撃程度なら正面からまともに食らっても、訓練の時の騎兵型ゴーレムと同じ結果になるだろう。
はっきり言って、あっちの方がまだ頑丈らしい。
「あと20メートルってとこかな……こっち、こっち!」
敢えて、アピールするようにピョコピョコ飛び跳ねると、俄然加速し始める……さぁ、ばっちこーい!
並んで迫り来る二騎の騎兵!! あと10メートルっ!
けど、次の瞬間……彼等は突然もんどり打ってすっ転んで揃って落馬し、地面に叩きつけられる。
馬は揃って、ジタバタともがいて、騎手のほうは一人はグッタリとなって動かず、もう一人は何かが足に引っかかって喚きながらもがいている。
ゆっくりと歩み寄り、もがいてる騎手の頭を軽く蹴飛ばすと、ぐったりと動かなくなる。
ふっふっふ……このへっぽこメイドくろがねだって、お役に立つのですよ?
今しがた騎兵がずっこけたとこには、わたしが錬成した罠が仕掛けてあったのだっ!
そう……それは、対騎兵用の秘密兵器「有刺鉄線」!! 鉄条網とも言うアレだ。
この有刺鉄線……日本でも自衛隊や米軍基地とか、機密情報を扱ってる企業のフェンスの上の方とか……結構、町中でも当たり前のように使われてるんだけど。
じみーに騎兵の時代にとどめを刺して、機関銃との組み合わせで歩兵の集団突撃すらも過去の物にしてしまった極悪な兵器のひとつでも、あったりするのですよ。
実際、本当に地味なんだけどね……。
何重にも重ねれば、車や戦車だって止める程度の阻止力がある上に、砲撃されても壊れない……地味に無茶苦茶厄介な兵器だったりする……侮れないよ?
この東方軍と西方軍……お互い離れた場所に陣取って、基本的に伝令とかでやり取りしてるみたいなんだけど……。
なんか知らないんだけど、いつも同じルートを使う……良く見れば地面が馬の蹄の跡でびっしり……みたいな感じになってるくらいには……。
そんな訳で、ルートはバレバレ……そこになんか罠でも仕掛ければ、相互連絡を遮断出来んじゃね? って話になって、ワイズマン様から「くろがね、有刺鉄線って知ってんだろ? あれ作れないか?」って聞かれてですねー。
試しに、あのトゲだらけの凶悪な針金をイメージしながら錬成してみたら、ビョロンビョロンと山盛りで出来てしまった。
原材料も鉄のみ、シンプルな構造だし、まだ元気だった頃……近所の空き地に張ってあったのに気付かずに、走りながら突っ込んで行って、あっちこっちザックザクに切ったと言う苦い思い出があったのも大きいような気がする。
ちなみに、錬成については、色々と錬成仲間も出来たので、コツとか教えてもらって、剣とか盾くらいなら、手ぶら状態から錬成できるようになった……。
要するに、錬成ってその物の姿や構造をきっちりイメージ出来るかどうかとか、印象深く記憶してるとか、そう言うのが重要らしい。
わたしの場合、お手本になるものがあれば、コピーも出来ちゃうみたいだし……地味に強いんじゃないかな……これ。
鉄で出来てるものなら、例えば包丁とかナイフみたいに、柄の部分とか少しくらい木とかで出来てる部分があっても、その部分も一緒に錬成できちゃう感じだし……。
もっとも、その木のように見える柄の材質は、模様と触感は木なんだけど、削ると鉄粉が出てくると言う謎材質だったりするのだけど。
玻璃ちゃんとかの使う錬成は、彼女の場合、水晶の柱やナイフとか……形がわりと限定されるし、材質も水晶限定って感じなので、汎用性はこっちのが優れてるような気がする……なんか、奥が深いっぽいぞ。
誰か……銃でも持ってないかなぁ……それか形詳しく覚えてるとかさ。
わたしも結構、覚えてるつもりだったんだけど、ディティールが怪しくて……現物でも無いとやっぱ無理みたい。
お手本さえあれば、それくらいガッツリコピー出来そうなんだけど……。
まぁ、無いものねだり。
やっぱ、銃くらいはさ……乙女の嗜みって事で欲しいよね!
凶悪なフルプレートの騎士様に、大剣かついで勇敢に立ち向かうとか、そう言うのは、我が愛しのナイト様……しろがねに任せようっ!
久々のくろがね視点です。
大規模戦場を個人の視点から見ると、こんなもんでしょうね。
まぁ、今回は長々独白して終わりな感じです。
西軍ボスVS魔王軍の戦いの描写もやってみてもよかったんですけどねー。
そこは物語の主軸じゃないので、カーットと相成りました…。




