第七話「魔王軍襲来!」④
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第七話「魔王軍襲来!」④
---Hari Eye's---
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「玻璃ちゃん……あれヤバい……飛竜……竜騎兵ってヤツだ……しかも、通り過ぎざまに上に乗ってるやつと目が合った。たぶん、もう一回来る……ちょっと面倒くさい事になったかも」
珍しく緊張した様子の瑠璃ちゃんの言葉に、そう言えば偵察中にそんなのを見かけた事を思い出す。
飛竜……空を自由に飛び回る上に、鉄板みたいに硬い鱗で、火を吹いてくる……空飛んでる時点で、有効な攻撃手段が限られてるから、対抗できるのは強力な魔術師くらい。
あたしらも、北の大地で何度か交戦してる……マジック・キャンセラー持ってたり、色々面倒くさい相手。
四大元素の玉四姉妹の誰か一人でもいれば、はっきり言って余裕の相手なのだけど……ここにはいない。
けど、今のあたしらなら、十分やれる相手かもしれない。
「うっし、じゃあ……瑠璃ちゃん、例の合体技やろうよ! あれなら、上手くやれば飛竜だって、落とせるんじゃない?」
「おー! そいや、あれがあったねっ! てっきり飛竜と空中戦やらされるとか思って、正直めんどいって鬱になってた……」
周囲を一周して、こちらへの攻撃コースに乗った竜騎兵が正面から近づいてくる。
しかも、仲間がいたらしく二体に増えてるっ!
先程の騎兵たちもこの援軍の来援に調子に乗ったのか、こちらへの突撃の構えを見せる。
「いくよっ! 術式構成準備、構えっ! 掛け声を合わせるっ!」
「えー、瑠璃もあれ言わなきゃダメェ……?」
「ダメっ! ウダウダ言ってないで、急ぐ! ほらっ!」
瑠璃ちゃんと手をつなぎ、こっちは右手、瑠璃ちゃんは左手を前に出して、お互いの掌を合わせる。
お手々繋いでダンスでも踊り始めそうなポーズだけど、美少女二人なかなかどうして絵にはなる……可愛いは正義……それがうちの合言葉っ!
「ここは決め台詞を言うのがお約束っ! さっさと準備しなさいよっ!」
「はいよぉ……玻璃と一緒にされてから、こんなのばっか……正直、疲れたぁ……。」
瑠璃ちゃんが、術式構成を始めたのを確認すると、こちらも空中に2mほどの長さ、直径20cmほどの六角形の水晶柱を錬成する。
……続いて、その柱の中にポウッと光が灯るとニョキニョキとつららが生えていき、すっかり凶悪な見た目になった水晶柱がゆっくりと回転を始め、徐々に傾き始める。
「コース設定、飛竜と騎兵の間をすり抜ける感じ……角度よしっ! 速度設定よし! 魔力充填率120%!! 行けるっ!」
準備完了! いつでも発射オールライッツ!
敵はどっちもまだまだ距離がある……残念、こっちの準備が早かった。
「……君達、反省はあの世でお願い……ねっ!」
そう言って不敵に笑みを浮かべると、瑠璃ちゃんに合図を送る。
「「合力融合魔術っ! 『飛晶つらら吹雪』!!」」
二人同時に、声を合わせて叫びながら身体をひねると繋いだ手を伸ばし、二人同時に水晶柱の底を突き上げる。
ドンッと空中にとどまっていた水晶柱が飛んでいき、竜騎兵の少し下をくぐり抜けるコースに乗る。
竜騎兵は飛竜の爪でこちらを薙ぎ払うつもりなのか、大きく爪を開いて降下してくる。
もう一匹は、その後ろに着いて、二次攻撃の構え……なかなか念入りなんだけど、なんで火を吐かないのかな?
わざわざ地上まで降りてくるとか、空飛んでる意味なくね?
まぁ……とりあえず、落ちろっ!
「「散華!」」
二人同時に、全周一斉掃射のコマンドワードを叫ぶ!
すれ違う直前にその大量に生えたつららが周囲に向かって一斉にシャワーのようにばら撒かれる!
つらら一本一本が鉄板も容易に撃ちぬく程度の威力がある。
おまけにつららは射出された直後に即座に再生し、次々射出される……なるべく広範囲にまんべんなく降り注ぐ……結構調整に難儀した部分だ。
竜騎兵が一番弱い腹の部分を真下から撃ち抜かれ、グラリと傾くとそのまま墜落し天幕をなぎ払いながら、地面を転がっていく。
そして、突撃してきていた騎兵たちも、凄まじい勢いでばら撒かれるつらら弾の前に、バタバタと薙ぎ払われていく。
水晶柱が通りすぎた後は、たちまち死屍累々といった様子になっていった。
「なんだあれは!」「ば、ばかな! 竜騎兵が落されたっ!」「ひけっ! さがれ!」
切り札だった竜騎兵をあっさり落された上に、ジリジリと迫る死を撒き散らす水晶柱に敵兵は恐慌状態に陥っていた。
Uターンして逃げようとするのだが、後ろからは続々と増援がやって来てるようで、仲間同士でぶつかってグッダグダになっている様子。
そこへ容赦なく迫る死の雨……これは酷い……まさに地獄のような光景だった。
落とした竜騎兵に続いていたもう一匹は直撃こそ免れたようだったが……。
何発かもらったようで、血だらけになりながら真上に向かって急上昇……ポロッと何か落としたと思ったら、上に乗ってた兵隊のようだった。
「……ご主人様を落っことしたら駄目じゃん……」
あたしも瑠璃ちゃんも、対集団用の攻撃手段となると決め手に欠ける。
瑠璃ちゃんが相棒になると決まった時点で、こんな事もあろうかと、2人で密かに練習を重ねて完成させたのが、この合成魔術『飛晶つらら吹雪』!
初の実戦投入は、竜騎兵を容易く落とすと言う大戦果を挙げた。
あたしら水晶系マテリアの扱う魔術は水晶の錬成とその遠隔操作、幻術系魔術が中心って感じ、はっきり言ってものすご~く癖がある。
一方、瑠璃ちゃんは水系統の元素魔術の使い手でもある。
その使える魔術としては、音を消す霧とか、吸ったものをバタバタ殺す毒霧だの、毒矢や氷弾を飛ばすだの……毒系統や攻撃系にやたら偏っていたが……どうにもパンチ力には欠けるきらいがあった。
そんなあたしら二人が使える魔術の中で、あたしのは水晶柱を自在に飛ばす「飛晶」……瑠璃ちゃんのはつららを空中に出現させて弾丸のように飛ばす「つらら吹雪」……元ネタになってるのはこのふたつ。
このふたつ……まず「飛晶」は飛行コースの柔軟性と汎用性が取り柄なのだけど、攻撃用にはちと微妙……速度が圧倒的に足りない。
「つらら吹雪」も名前通り小さなつららを大量に構成し連続で射出する術で、あまり魔力を消費しない省燃費と弾幕の厚さが取り柄なのだけど、射程と威力に問題あり。
つららの弾数を減らす事で、実用的にはなったし、矢玉替わりに使うってのもありって感じで、吹雪どこ行った状態の術になってるとは、瑠璃ちゃんの弁。
コンセプトは、「飛晶に攻撃能力をもたせりゃいいんじゃない?」と言うシンプルなもの。
「つらら吹雪」も射程と速度を大幅にけずり、威力と発射弾数をとにかく重視。
水晶にチャージした魔力が続く限り、つらら弾をばら撒きながら、最初に指定したコースを飛び続ける……簡単にいえば、そんな感じ。
もちろん、完全リアルタイムの遠隔操作も可能。
実のところ、合成魔術なんてあたしらにしてみれば、発想の外だったんだけど。
ワイズマンから、自分達の身体を遠隔操作してもらう通称「操り人形モード」ってので、発案実演してもらったのが『飛晶つらら吹雪』のプロトタイプ。
「飛晶」に攻撃能力を持たせると言うコンセプトは同じで、単発の氷弾を正面にバンバン撃つタイプだったのだけど……それを元に2人でアレンジしてみた。
どっちも思ってもいなかったド派手な大技の登場に、超テンションアップ!
それにあたしら2人は相性が良かったようで、思ったよりも簡単に完成した……。
やっぱ自分で先に体験した技を後追いで覚えるってのは楽……って言うか反則だろこれ……。
ワイズマンって頭でっかちの謎人物って感じだったんだけど、先生とか師みたいに誰かを鍛えたり、強くさせることに関しては抜群に上手かった……正直、この一件で結構見直した……すげぇコイツって。
せっかくだからって、この場面で使ってみたが……思った以上に凶悪な代物だった。
こんなもん、対処っても水晶柱を破壊するか、逃げるしか無いだろ……。
もっとも、くろがね辺りには通じそうもないけど……あの鉄壁の守りはその程度には堅い。
と言うか……飛竜って、こんな脆かったけ? いくらなんでも、あっけなさ過ぎた。
「玻璃……思った以上にコレ……エグい」
瑠璃ちゃんがボソッてつぶやく。
もはや身も蓋もなく……敵兵は虐殺されていく……けど、先ほどのダストン総司令を殺した時のような切なさや感慨は無い。
ただ……自分達が創りだした兵器が自動的に撒き散らす死を淡々と見ているだけだ。
たぶん、これは正しくない……けど、殺らなきゃ殺られる……突破されれば、それなりに危険な相手だ。
だから、敵が無残に死んでいくのを見届ける……グダグダやってないで、さっさと逃げればいいのに……なんて、思いながら。
「確かに……ちょっと……これは……エグいね。でも、殺らなきゃ殺られる……だから、殺る……それも徹底的に! とりあえず、正面の敵はあの調子でこの辺ウロウロしながら、薙ぎ払ってくれるはずだから、もうほっといて、こっちは引き上げるよ! まったく、殿までやってくれるとは、ホント便利な魔術だねぇ。瑠璃ちゃん、引き続き頭上からのバックアップお願いっ! 玻璃瑠璃コンビ、撤収よっ!」
「よしきたっ! ガッテン承知の助」
ヘンテコな気の抜ける返事を残して、瑠璃ちゃんが空から先行。
瑠璃ちゃんが相方で良かった……ダウナーになりかけたこっちの気分や空気をいちいちぶち壊してくれる。
竜騎兵は……地上に落ちた奴は、まだ飛竜のほうが生きてるっぽいけど、穴だらけになって墜落して、羽根なんかもモゲかけてる……。
……さすがに、これはもう駄目だろう。
よく見ると、北の大地に居た奴よりも、装甲もうっすい……たぶん紙同然って奴だ。
全体的にヒョロくて細いし……なにこいつ? 多分火も吹かないし、魔法キャンセルとかもしてこないっぽい。
多分格で言うと、最弱レベルの雑魚飛竜だ……むしろ飛びトカゲとかその程度。
こんなのが切り札? この程度であたしら魔王軍に対抗出来ると考えてたとか……片腹痛いわっ!
あたしらにとっては、北の大地のそれなりに手強い黒い飛竜ですら、晩御飯のステーキ襲来っ! くらいの勢いだったのだ……他にも何匹かいたと思ったけど、これじゃあ、問題にならないだろう。
……とかなんとか言ってる矢先から、遠くの方でぐるぐる飛んでた影の側で、夜空を背景に盛大な爆発が起こる。
ありゃ、紅玉のフレアボム……だったかな……あの大きさだと最大威力で放ったんじゃないかなぁ……雑魚相手にご苦労様。
そういえば、くろがねなら、こいつをどう料理しただろう……と考える。
アイツ……一見、対抗手段なさそうだけど、たぶんこっちが思いつかないような奇策や思いつきで、仕留めるんだろう。
あの娘の怖さは、鉄壁の防御とか馬鹿力とかそう言うのではなく、戦闘中の機転、直感、応用力、順応性とか、そんなものにある。
要するに……戦闘中にどんどん強くなるタイプなんだよなぁ……。
あたしの必殺剣「輪舞曲」もあっさり盗まれたし、黒曜の魔力線による遠隔操作もなんかパクられたっぽい。
あたしらもアイツに鍛えられて相当強くなったけど、アイツ自身も、もっとパワーアップさせてしまったような気がする。
個人的には、恩人であると同時に友人……いやライバルのつもりなんだけど……なかなかライバルと認めさせるまでが大変そうだ。
けど、名乗り口上や技名一緒に考えたりは楽しかったな……アイツとはなんかウマが合う……。
そう言えば、あいつは上手くやってるかな……と思ったりもする。
とにかく、ここの戦闘は終わった……瑠璃ちゃんになるべく手薄なルートを指定してもらうよう指示して、一気に移動を開始。
なにせ、敵は10万……いくら倒してもきりがないくらいにはいる。
こちらの役目は、まとまった敵を散らしたり、指揮系統を徹底的に破壊すること。
不意に目の前に現れた敵兵の剣を躱し、一刀のもとに切り伏せる……うん、感傷はない……今の戦いに勝ったのはあたし。
こいつが死んだのは弱いから……弱いくせに戦場に出て、あたしの前に出て来て、剣なんて抜いたからこうなった。
……死にたくなければ背中を向けて逃げればいいのだ。
(そう……あたしは魔王様の剣が一振り……敵を殲滅せよとの号令がかかった以上、全てを撫で斬る! これは正しいこと……間違ってなんかいない!)
さてさて、何気に初めてなんじゃなかろうかって感じの本格的な戦闘回でしたね。
この世界での竜騎兵はほとんど無敵のチート兵器みたいな感じなんですけどね。
有効な対地攻撃の手段が無いので、魔王軍の娘達にとってはこんなもんです。
次はくろがね回です。
例によって、雰囲気ガラッと変わります。
まぁ、そんなもんです。




