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第六話「決戦前の悲喜交々」⑥

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 第六話「決戦前の悲喜交々」⑥

 ---Enemy's Side Eye's---

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 自軍の司令部の置かれた大天幕に飛び込むなり、ダイン将軍は大声で怒鳴り声をあげた。

 

「おいっ、お嬢っ! 俺だ! 今戻った! 今すぐ全軍に撤収準備を開始させろ。それとパーラミラ軍にも手持ちの糧秣の半分を大至急送ってやれ! その上で向こうにも撤収準備をさせるんだっ! 大将にはもう話しつけてるから、一方的に押しかけて、押し付けていっても構わん……大至急やらせろっ! そもそも、お嬢……起きてるだろうな? 聞こえたら返事しろっ!」

 

「うるさいわねぇ……聞こえてるし、起きてるわよぉ……将軍……ふわぁ……眠い。撤収準備って……撤収するんじゃなかったの? まだこんなトンチキ祭りに付き合うおつもりなのかしら?」

 

 暗がりから長い金髪の気だるそうな女がよたよたとした足取りで、ダイン将軍を出迎えながら、呆れたような声をかける。

 実際は今の今まで、ぐっすり寝ていたのだろう……夜着のままで、人前に出るのは、少々はばかれるような姿だった。

 

「しかたねぇだろ……こいつも政治って奴だ……戦争から簡単にゃ足抜けできねぇって事だ。それにしても、騎兵五千騎しか連れて来なかったのは、やはり少な過ぎたな……おかげで東方軍は舐められっぱなしでどうにもならん。今からでも遅くない……本国に大至急増援の手配をしとけ……とりあえず手始めに一万ほど……寄せ集めの歩兵師団で構わんからよこせと言っとけ。……パーラミラにも、国境の守りを固めて、兵隊ありったけ出せって、せっついてやれ!」

 

「あら……ここに来て、兵隊もっとよこせって何言ってんのよ……5万もいらんとか言って、5千の兵しか連れて来なかったのは、貴方でしょう……。5万の兵の指揮とかめんどくせぇ……とか言ってたのに、今更方針変更なんて、相変わらず愉快なお方。それに忘れたの? 街道は現在通行止め……今から増援要請なんてしても早くても半月はかかる……今更、手遅れなんじゃない……? そんな事より……まずは私に会議の結果くらい教えてくださらないの? ずいぶん長々と会議してたご様子だけど、少しは実入りはあったのかしら……」

 

「会議の結果自体は現状維持ってケチな結論だが……あちらさんの内情は聞けた。まず、西方軍の糧秣庫は恐らく空かそれに近い状態だ。一週間くらい前から、輸送段列の数が妙に減って糧秣不足の兆候が見えてるとは思ってたが、予想以上に酷い。兵の様子も見てきたが、本部付きの連中ですら、痩せこけて座り込んでるような有様だ……あの調子だと餓死者もポツポツ出てるはずだ。おまけに西の街道で、街道を震源地とする地震があったとかで地割れやら断層が出来て、通行不可……復旧の見込み無しって状態らしい。バーツ王国領では、すでに王国軍による自国民への略奪が日常茶飯時になってる……。要するに何もかもがメチャクチャって事だ……おまけにあの馬鹿共……感覚が麻痺して現実が見えてねぇ……。グノーのバカどもはこんな状況に、更に二万の増援を注ぎ込んでくるつもりらしい。……やつら、正気じゃねぇぞ……ありゃ、もう自滅の一歩手前だ」

 

 ダイン将軍の言葉に彼女は、呆れたようにため息を吐く。

 

「……バーツの変態ブタ執政にイカレ神父……おまけにボケ老人のトリオだもんね……。どうせ酷いことになってるんじゃないかって思ったけど……案の定ってとこね……兵隊がかわいそ。なら、連中はもう見捨てましょう……まともに戦わずして10万近い兵をまとめて失った……なんて事になったら、前代未聞の大騒ぎ……。きっと西方各地で内乱のひとつやふたつ起きるでしょうけどね……私達の知ったこっちゃない。それと湖の件についてだけど、湖の水に魔術的な残滓が残ってたから、魔術師……それもかなり高位の術師の仕業って事で確定。しかも、あの湖を満たした大量の水……あれ、ほとんど魔術由来だったわ。自前でそんな量を生成するとか、もう意味分かんないレベルよ……。おまけに、どこからか延々と水が湧き続けてるみたいで、湖からも水が溢れかえっちゃって、パーラミラ各地で水害が発生してるわ……もうこんなの戦略級魔法と変わりないわ。西方の街道で地震ってのも……ほぼ同日なんて、タイミングが良すぎるから、明らかに自然現象じゃないわね。そうなると敵は最低でも戦略級魔術の使い手が少なくとも1人……いや、2人の可能性も……」

 

「おいおい……戦略級魔法の使い手なんて、そんなゴロゴロいてたまるかよ……」

 

「そうね……戦略級魔法の使い手なんて、東方、西方、いや大陸中を探しても、10人もいないわ……だから、むしろ未知の第3勢力……魔王軍の攻撃が始まった可能性がもっとも有力ね。例の軍勢も……基本力押しだし、今回の件とは関係ないでしょうね……」

 

「魔王軍か……その可能性は俺も考えたんだが、そうなると連中どうやって、外に出てきたんだ? 確かに兵からも、空飛ぶ小さな人影やら、幽霊みたいな奴を見たとか妙な報告を聞いたな……。そんときゃ、寝惚けんなっつって、笑い飛ばしちまったが……」

 

 将軍の言葉に女は深々と溜息を吐き、呆れたように言葉を続ける。

 

「そう言うイレギュラーな報告こそ、まじめに聞いときなさいっての……貴方ってほんと融通が利かない人ね。確かに次元の狭間に引きこもってる連中がどうやって、こっち側に干渉してるのかは私にも解らないわ。……けど、こっちと向こうを行き来する何らかの手段を開発したって思っていいかも……それなら、一ヶ月も浮上を中断したままなのも説明付くわ。こっちの軍勢の待ち伏せに気付いて、慌ててストップかけて、じっくり対抗策を練りあげて、誰も気付かないうちに静かに攻撃を開始してたって寸法。何と言っても、向こうにはあのワイズマンがいる……あの人なら、それくらいやってのけても驚かない。彼、世界中を相手にしたって、平然としてるに違いないわ……ホンット相変わらず、クールで素敵……貴方とは大違い」

 

「悪かったな……これでも俺はアツい男なんだ……あんな冷血野郎と比べてんじゃねぇぞ……。確かにあの野郎は手強い……毎度毎度アイツが敵になると、こっちにとっては悪夢の始まりだ。アイツのせいで何度煮え湯を飲まされたことやら……正直、二度と見たくないツラ、ナンバーワンだな。真っ向から斬りかかってくる分、マフラー女や青髪姉妹の方がまだマシだ」

 

「そんな嫌わないでよ……私にとっては、いつだって、どこでだって一番大切な人なのよ……ああ、ワイズマン……。あの人との殺し合いはいつも魂が震える……どれもこれも忘れられない大切な……私の思い出」

 

「野郎の相手はお前さんに任せるわ……勝手に互いの腹の探り合いでもなんでもやってろ。しかし、この……姿を見せずに真っ先に補給を断つってやり方も、奴らしく陰湿なやり口だが、大軍勢相手には極めて効果的だな。大軍に戦略なしなんて言うが……こんな風にまともに戦えない状況を作られて、補給線を潰されると脆いもんだ……。おまけに、無警戒の後方へ忍び込んで国が傾きかねないような破壊工作……やり方がえげつねぇどころじゃねぇぞ」

 

「戦わずして勝つ、それが最強の戦略って言うけど、まさにそれね。なにせ、向こうがまともに攻撃してきたのは、湖の件一回だけ……それ以外、敵との接触すら果たせてないのが実情。とにかく、全然しっぽを掴ませないのよね……あの人らしいわ。湖の件にしたって……そこまでやる? ってくらい徹底的にやってくれちゃって……前フリだけでこれじゃ、本番は思いやられるわ……。ホント、厄介なのを敵に回しちゃったわね……どうしようかしら……将軍」

 

 お嬢と呼ばれた女性は、すらすらと正解に近い回答をならべていった。

 途中、楽しそうに、踊るような仕草でくるくると回りながら。

 ……少女のような朗らかさと妖艶な毒婦のような……そんなバラバラな雰囲気が混在する実に不思議な女だった。

 

「俺に聞かれても、困るんだが……そうも言ってられんか。やれやれ……完全に八方塞がりだな……なぁ、お嬢は……どこまで見えてる?」

 

「そうね……きっと楽しい事になるのは間違いないわ……。ねぇ、将軍……今すぐに私を抱いてくれるかしら? これからの事を考えると、もう身体が火照ってしょうがないのよ。」

 

 ダイン将軍は一瞬呆気にとられたような表情を見せるが、頭を抱えながら深くため息を吐くと、表情を改めて口を開く。

 

「なぁ、お嬢……改めて色々言いたいことはあるんだが、ひとまず単刀直入に聞く。東西補給ラインへの一連の攻撃が魔王軍の攻撃と仮定した場合、Xデイはいつだ? お前さんの予想を聞かせてくれるか。」

 

「そうね……今、こうしてる間にも攻めてくるかもしれないわ。言うまでもなく、輸送ラインが寸断されて、もう3日……。元々限界が近かった各軍の糧秣庫は底が見えて来た……いい頃合いよね……。西方軍は、略奪を許容しても兵は飢餓地獄、トップはお花畑で妄想の世界に入り浸り……もはや、頭数だけの烏合の衆に過ぎない。こっちも主力のパーラミラが青色吐息……すでに窮状いっぱいいっぱいだから、貴方に内情を正直に打ち明けたんじゃないの? さっき向こうの陣地の様子を見にいったけど、兵隊の士気はガッタガタよ。……まともに戦えるのはたぶんうちの兵隊だけ。増援も今からじゃ、間に合いっこない……となると攻めるなら、新月の今夜か明日あたりが最高のタイミング。……とここまでは読めたんだけど、敵の戦力規模が全然わからない……さすがよね……まったく、どんな戦いになるのかしら? ちょっと絶望的かもしれない……けど、絶望ってそれを乗り切った時、もう絶頂って感じになるから最高の刺激なのよね」

 

 そう言って彼女は楽しそうに妖艶な笑みを浮かべる。

 そんな彼女の様子に、将軍は心底うんざりしたような顔をする。

 

「言ってろ……クソッタレ……毎度毎度、付き合わされる俺の身にもなれ……」

 

「そう言わないの……偉大なる使徒「ゼロ」……これは試練よ。久しぶりに、本気の貴方を見せてもらうことになるかもしれないわね。だから、これは……前払いの私からのご褒美よ……」

 

 将軍の首に両腕を回ししなだれかかり、半ば強引に抱き寄せると、彼女は口づけをする。

 そして、長い間深く情熱的に交わり、名残惜しそうに離れると……上気した顔でうっとりと目を閉じる。

 

 すると、それに合わせたかのように、遠くから低い地響きが鳴り響く。

 重なり続ける地響きに合わせるように、両手を掲げて、左右に大きく広げると微笑みながら告げる。

 

「ほぉらね……始まったみたいよ……それじゃあ、素敵なパーティを始めましょうか。続きはお互い生き残ってから……うふふ……楽しみだわぁ……」

さぁて、物語もちょいとアダルトな帝国の女狐の登場で、双方役者が揃い踏み! いよいよ盛り上がってまいりました!


次回! 第七話「魔王軍襲来!」


いよいよ決戦の時、来たる! 魔王軍の少女達は戦乱の中へ解き放たれる!

彼女達の運命の行末は如何にっ! 乞うご期待っ!

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