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第六話「決戦前の悲喜交々」④

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 第六話「決戦前の悲喜交々」④

 ---Enemy's Side Eye's---

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 そして……場面は、魔王軍被害者の会ならぬ、魔王討伐連合軍の会議室に移る。

 時刻は日付も変わり……深夜1時を過ぎようとしていたところだった。

 

「ああ、クソッタレがっ! てめぇらいつまで染みったれたツラで不毛な会議なんて、続けてやがるんだ! 結論なんて、とっくに出てるだろ! 全軍即時撤退あるのみ! ……今や補給は完全に絶たれたんだ……10万の軍勢なんて、数日で干からびちまう……いい加減、この現実を見てくれ! そもそも、魔王さんもいつまでたっても出てこねぇ……どこの馬鹿だ、三日以内に確実に浮上してくるとか抜かした野郎は! あれから一ヶ月も経ってやがるんだぞ……いつまで居座り続けるつもりなんだ……どう考えても限界なんだよっ! ここは一旦仕切りなおしするしかねぇだろ。」

 

 くすんだ金色の鎧をまとった茶色い髪の顎髭を伸ばした中年の男が立ち上がり、そう言い放つと、同席している各国の将軍達とその幕僚達に殺気に近い緊張が走った。

 

「ダイン将軍……ディエルギス帝国随一の将と誉れ高い閣下ともあろうお方が、そのような態度ではいけませんな……。我らは同格である故に、多少の暴言程度なら許容できますが……このような席、出来れば言葉を選んで頂きたいものです。この会議はお互いを罵倒する場ではなく、東西連合軍の代表がお互い知恵を出し合って、解決策を模索する場です。であるからこそ、こんな深夜まで長々と会議を続けているのではありませんかな?」

 

 片メガネの顔色の悪い老人が冷静な口調でたしなめる。

 立ち上がり怒鳴り散らしていたダイン将軍もその言葉を受けて、憮然とした表情のままながら自席に座り直すと机の上にどっかりと足を乗せる。

 ちなみに、彼の席は下座の一番端……つまり、末席扱いであったが、列席する他の誰よりも偉そうだった。

 

「ダストン司令のおっしゃるとおりです! ダイン将軍も口の利き方は考えていただきたい。そもそも、今引き上げてしまったら、東方と西方が共に手を結んで、魔王に対抗するという歴史的な大遠征は完全に失敗となり、我々は良い笑いものとなります。そんな事になったら、末代までの恥っ! いや、もはや国辱級の大問題といえますな! 将軍、この戦いは言わば聖戦です……神の名に誓って退く事などありえない……そのようにご理解ください。我が国におわす教皇猊下も、神託のもと、魔王城の次の転移地はこの地に間違いなく、決戦もあと数日以内だろうと明言されておりました。いいですか……聖戦の日は、もう間近に来ているのです……内輪もめなぞ見苦しい真似……恥と知るべきです。それにこれは、言ってみれば、敵が姿を見せぬだけで、攻城戦のようなものではありませんか。お解りですか? 攻城戦で攻め手が逃げる必要などありません……敵は孤立無援の孤城に過ぎないのです。援軍もありえない以上、我らの勝利は時間の問題……それで逃げるなど、臆病風に吹かれたのか……語るに落ちたとはこの事ですな!」

 

「その通りです……如何に魔王軍が強大だとて、我ら選ばれし神の精兵10万……その大遠征軍の総力を結集する以上……神敵は確実に討ち滅ぼせるに違いありません! 神敵に滅びを! ラーバラーヤ! 神の子らに祝福と勝利を……。聖戦の時は来たれり! 悪しき魔王とその下僕共に神の裁きを与えんことを!」

 

 勝ち誇ったような態度の太った中年と、祈りの言葉を捧げ、狂信じみた言葉を並べる痩せぎすの男。

 それぞれ、バーツ王国の執政ゴールマン子爵、その国教、神聖アルテマ教のカルダモン司教。

 

 そもそも、この魔王討伐計画を提示し、実行に移した張本人が彼等だった。

 

 彼等の言葉を耳にして、同じく反対側の末席に座る鷲鼻の黒衣の男……東方同盟の一国パーラミラ共和国のベル・カシュガル将軍もさすがにあっけにとられたような顔をする。

 けれど、一斉に視線を浴びることにより、躊躇いがちながらも同意するように頷いた。

 

 そんな様子を見ながら、ダイン将軍は舌打ちをかろうじて耐えた。

 

 攻城戦とか、上手いこと言ったつもりなのだろうがただの詭弁だった。

 ……なにせ攻め込もうにもその城は入り口もなく、姿も見えない文字通り難攻不落の城なのだ……。

 攻撃は何一つされていないが、居座っているだけで、日々勝手に消耗して行っているのはむしろ自分達の方だ。

 こんなバカげた攻城戦などあってたまるか……と。

 

 やはり魔王軍に関わってしまったのが運の尽きと言った所か……400年前の皇帝陛下もその崩御の際「帝国は金輪際、千年魔王と争ってはならぬ」と遺言を残したらしいのだが……その言葉は間違っていなかった。

 

 けれども、国際情勢上、帝国としてもこの戦争に関わらざるを得なかったのだ。

 だが、状況は最悪をとっくに通り越していた……現状できることは、如何に被害を最小限に食い止めて、この状況から足抜けをするか……その一点につきた。

 

「解った解った……諸兄らも遠路はるばる遠征してきたんだものな……聖戦だのなんだのと実にご苦労さんな事だ。とは言え、何の戦果も挙げられないままじゃ、国に帰れないのはお互い様だからな……おっしゃりようもごもっともだ。ひとまず、即時撤退はうちもしないってことは約束しよう」

 

「将軍……ただの遠征などではなく「大遠征」ですぞ……訂正いただきたい。それにこの戦い……聖戦とは何か……その意義について、良く解っておられないようですな。よろしければ、この場でご説明させていただきますぞ?」

 

 カルダモン司教がわざわざ訂正を要求する。

 ダイン将軍はイラただしげに舌打ちをすると、司教を見ようともせずにそのまま言葉を続ける。

 

「はいはい……大遠征でもなんでも構わんが……聖戦とか言ってんのはそちらさんだけだろ……。こっちは、おたくらの仕出かした馬鹿騒ぎにしぶしぶ付き合ってんだ……説法たれてぇなら穴でも掘って叫んでろ。それと、この場の全員に確認したいんだが……いつからこの会議は、各国将官級以外の奴に発言権が出来たんだ? こっちは、将軍だけで護衛も付けずに来いなんて、ふざけた条件を呑んでるんだ……そっちもルールくらい守ろうぜ。という訳だ……おい、カルダモ司教様だったか? 君に発言権は無い……直ちに発言を慎み給え! さっさと黙らんとそのカタカタと良く鳴る顎を我が剣でかち割るぞ! なんてな……クァッハッハ!」

 

 これについてはダイン将軍が正しかった。

 この会議は、原則発言権を持つのは各国の将軍級の者のみ、もしくはその場において将軍に許可されたものと明確に規定されており、司教にはそもそも、発言権はおろか、この場に臨席する理由すら存在しなかった。

 

 司祭は歯ぎしりし、赤くなったり、青くなったりと忙しかったが、名指しで黙らないと斬ると言われたようなものなのだ……。

 ここで下手に反論すれば、本当に叩き斬られる可能性もあった……このダイン将軍と言う男はそれくらいやりかねなかった。

 

「ダイン将軍っ! カルダモン司教殿は私の権限でもって、特例としてこの場において自由な発言を許可しているのだ。司教殿への侮辱は、私への……いや、我が国への侮辱も同然! 厳重に抗議させていただきますぞっ!」

 

 ゴールマン子爵が顔を真赤にして、拳を机に叩きつけると、司祭を庇い立てする。

 

「なんだそりゃ? 勝手に俺様ルールで例外とか作られてもなぁ……。そもそもなんで、ただの民間人が紛れ込んで将官づらしてんだかなぁ……それもまた特例かい? んじゃ、俺も連れの女を同伴させて、横で酒でもかっ食らっててかまわんか? 俺が帝国の権威を傘にきて認めた特例って事でさ。正直、交渉事は俺なんかより、あいつの方が適任だからな……そういう事で、手を打ってやるぜ……ゴールマン子爵殿?」

 

「貴様……いいかげんにしろっ! どこまで我らを侮辱すれば気が済むのだ! おのれっ! おのれっ! この帝国の番犬風情が! 立場をわきまえろ!」

 

 ゴールマンが立ち上がると血走った目でダイン将軍を睨みつける。

 ダイン本人は涼しい顔だが、今にも抜かんばかりの様子に、周囲の幕僚達が必死でゴールマンを押し留めようとする。

 

「ダイン将軍……ゴールマン子爵……そこまでにしましょう。同じことを何度も言わせないでいただきたい。司教殿も、以後の発言はどうかお控えください。本会議の列席者の例外規定についての話し合いはまたの機会に致しましょう。ダイン将軍も、発言の途中ではなかったのですか? 続きをお願いしてよろしいですかな」

 

 ダストン司令の静かな一言に場は沈黙する……。

 ダイン将軍もダストン司令に目礼をすると、机にあげていた足を下ろすと姿勢を正す。

 

「ま、ここはしゃあねえか……ゴールマン子爵、俺も少々言い過ぎた……暴言、誠に申し訳なかったな。お互い思う所はあるだろうが……ここはひとつ、穏便に国際協調と参りましょうや」

 

 ゴールマンも憮然とした表情のままながら、座り直す。

 元々横紙破りをゴリ押ししようとしたのはゴールマンだった。

 ダイン将軍は言葉尻は悪いものの正論を言っている上に、はっきりと謝罪もした……ここは引き下がるしかなかった。

 

 そもそも、ダインの言っていた連れの女と言うのが少々問題だった。

 帝国の雌狐……西方諸国連合ではそう呼ばれる帝国の第三皇女が、お忍びで婚約者のダイン将軍に同行していると言う噂は、公然の秘密と言うものだった。

 

 はっきり言って、ダイン将軍のほうがまだ御しやすい相手だった。

 

「とにかくこれだけは、はっきりさせてもらいたいんだが。まず……おたくらの糧秣庫の蓄えはどうなってる? 先に、うちの内情を暴露するとだな……俺達の本国との輸送ルートは現在、途中の街道が水没しちまったから、完全に寸断されちまってる。目下、工兵隊が最優先で仮設橋と迂回ルートを突貫工事で作ってるとこだが……どちらもなかなか難儀してるようで、輸送段列が問題なく渡れるようになるまで、どんなに早くてもあと3日は優にかかる。輸送段列の足だと、丸一日はかかる距離だから、次の補給はどんなに早くても4日後だ……まぁ……最悪一週間と見積もってる。俺たちだけなら、元々少勢の上に補給断絶の可能性はもとより想定してたから、10日くらいまでなら問題ねぇが……。ベル将軍、そんな訳であと4日間はそっちも補給なしだと思うんだが、どうなんだ? おたくさん、それで持つのか?」

 

 向かいに座るダイン将軍に話しかけられる形になったベル将軍は、しばし天井を見上げて迷うような素振りを見せる。

 ダイン将軍がとっとと吐けと言わんばかりに、咳払いをすると、意を決したようにその口を開く。

 

「……正直、厳しいですな……将兵には2日前から糧食の配給制限をかけておりますが。この分だと兵たちが周辺地域で自主的に徴発……つまり略奪を始めるのは時間の問題……。秩序を保てている今のうちに、いっそ半数を本国に引き上げるべきとの意見も出ております。ただ、あの寸断された街道は我が国の交通の要所でもありますので、現状……我々は引き上げる事もままならない状況です。それにしても、早急なる帝国のご支援……誠に感謝の極みです」

 

 黒衣の将軍……ベル将軍は伏目がちに現状を正直に白状した。

 内心を言えば、いつ侵略してくるか解らない西方軍首脳の前で自軍の現状を暴露するのは危険な行為だった。

 パーラミラとしては、帝国も含めて、全員とっととこの地から出て行けというのが本音であり、魔王の事など端からどうでもいいのだ。

 

 帝国の要請もあり、成り行き上魔王討伐軍の一翼を担ってはいるが、本来の敵は西方なのだ。

 

 だが、立場的にはパーラミラは帝国の衛星国家のひとつ……宗主国の将軍相手に、反抗できるはずもなかった。

 

 パーラミラは独立国家なのだが、一国ではバーツ王国や西方には太刀打ちできない……だからこそ、帝国の属国として同盟の一翼を担っている……はっきり言って、帝国には頭が上がらないのであった。

 

 実際、帝国軍はパーラミラの支援要請を待たずに勝手に工兵隊を派遣し、復旧工事を始めてしまっており、これは主権問題に関わる話なのだが……。

 死活問題なのはお互い様で、復旧にかかる莫大な費用についても帝国持ちと言うことで上層部同士では話が付いていた。

 

 国同士の関係というものは、実に複雑怪奇でややこしい……そんな話だった。

さてさて、面白い展開になってきましたね。


ちなみに、ダイン将軍はCV大塚明夫で決まりです…人をお前さん呼ばわりする中年キャラには、この人以外あり得ないでしょ。


ダストン司令は…今は亡き青野さんか大塚周夫さんあたりをイメージしてます。

ゴールドマンとカルダモンは…旧ジャイアンとスネ夫?


キャラクターのセリフとかって、大抵脳内声優に声あてしてもらってるんですけどね。

声はイメージできても、この声優さん誰だろーって事が多々ありますwww


くろがねは…一応、当初は艦これの初霜をイメージしてたんでCV小林元子さんですかね。

芯の強い女性的な感じって事でわりとイメージ的にはしっくりします…割と独特の声なんですけどね。

そのうち、キャラクター一覧とか作って、勝手にCV当てとかするのも楽しそうです。


追伸

うっかり、あとがきをまえがきに持っていってしまってました。

なんか、すんません。

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