表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/94

第四話「明日の闘争の為に、今日から始めること」②

 -----------------------------------------------------

 第四話「明日の闘争の為に、今日から始めること」②

 ---Kurogane Eye's---

 --------------------------------------------------


 とりあえず、2人の装備をチェックとか言われて、二人の事を舐め回すようにじっくりと見る。

 服装は……黒一色のメイド服……普段の白シャツじゃなくて、黒いのを用意してもらったらしい。

 まぁ、メイド服は魔王様のこだわりのひとつだからね。


 わたし達=メイド服はもはや基本なのだよ。


 二人共も闇の中では目立ちそうな髪の色だけど、ちゃんと濃いねずみ色のマントのフードにしまい込んでるから大丈夫かな。

 でも、その猫耳っぽいのが付いてるのはどう言う経緯でそうなったのかなぁ……まぁ、可愛いから許すっ!

 けど、そう言う事なら、わたしのこのポンチョのフードにも猫耳つけようっと。


 ……それにマントを黒一色とかじゃなく灰色系統にしたのもなかなか解ってる感じ。

 純粋な黒一色ってのは、意外なことに闇の中で動く時にシルエットが目立ってしまう為、実はかえって目立ちやすい色なのだ。


 要は、そこだけ妙に黒くなってしまうので、結構バレバレになる。

 夜闇の中でのカモフラージュは、周囲の物に溶け込むよう、くすんだ濃い灰色とかダークグリーンみたいな色が理想的。


 余談ながら、いわゆる黒猫さんとかも、明るい所で見ればわかるけど、真っ黒じゃなくて少し茶色みがかってたり、灰色入ってたりする……それにあの毛皮のせいで輪郭がボヤけるから、驚くくらい闇に溶け込む……黒猫の夜間迷彩ってすげーのですよ?


 なんでそんな事知ってるかって?

 病院の敷地って、なぜか良く猫ちゃんが住み着いてることが多くて、たまに散歩に出せてもらえた時とかに遊んだりするのが楽しみの一つだったの。


 あのクロちゃん……元気してるかなぁ……。


 っと、話が逸れた……とにかくまぁ……二人の装備は基本的に問題はなさそうだった。

 ただ、ロングスカートの翡翠はともかく、琥珀のミニスカスタイルはちょっと太ももが眩しすぎるし、フェイスペイントもした方がいいかなって気がする……羽は本来は髪の色と揃いらしいんだけど、炭塗って黒っぽくしてるっぽい。

 そこまで解ってて、お顔やお肌にも塗ろうってならなかったんだ……惜しいっ!


「そだね……服は黒一色メイド服で……そいや、魔王様が張り切ってデザインしてたね……これ、なかなかカッコいいじゃない。髪の毛もマントのフードに仕舞い込んでるし、マントの色もそのねずみ色ならそのままでオッケ。猫耳フードも可愛いから許すっ! でも、琥珀の太もも……ソイツは実にけしからんねっ! まぁ、そのカッコでもいいけど、せめてタイツとかでお肌隠すか炭塗ってカモフラした方がいいよ。あと、お顔もちょっと黒くした方がいいかな……嫌かもしれないけど、意外に暗闇で人肌って目立つのよ……だから、お化粧しないとね。と言うか……お羽は黒くしてるのに、なんで顔にも塗ろうってならなかったのかなぁ……。後は……武器は携帯しない方がいい……音が鳴るし、重たいだけ……特に刃物や金属パーツはキラキラ光ってすっごい目立つ。最低限の折り畳みナイフとかでもポッケに入れて、基本手ぶらでいいと思うな」


「うわっ、僕達これでも部屋真っ暗にして、お互い色々試してたりして、このカッコに落ち着いたんだけど、まさかダメ出し食らうとは……そんなにけしからんようなカッコかな……これ?」


 そう言いながら、スカートを抑えながら、苦笑する琥珀。

 うん、可愛いんだけどねー。


「むしろ、この猫さんイヤーの方を注意されると思ったんですけどね。でも、顔に炭を塗るってのは……ごめんなさい……解ってましたけど、ちょっと抵抗がありまして……。大丈夫かなぁって思ったんですけどね……。外界の夜の暗さと魔王城の室内では条件が違いますものね……なんか思った以上に明るいんですよね。たしかに、これじゃ顔も黒くしないとダメですね……。けど、武器を携帯しないってのはちょっと……いざと言うとき、非武装では困るのではないですか?」


「いざって時は二人とも羽生えてるから飛んで逃げればいいじゃない……そもそも、そんな事態は絶対に避けてもらわないといけないの。いい? 敵と交戦するってのは、それだけで敵にもこちらの情報を与えちゃうのよ。もちろん、普通の兵隊程度ならわたし達なら束になって来ても軽く瞬殺出来るだろうけど……死体を音も痕跡も無く消すとか、さすがに無理だよね。つまり、敵に見つかって、相手を始末したとしても、その結果色んな情報を敵に与えてしまうわけ……死体の傷からだって、色々バレるよ。体の大きさとか武器の種類、使い手の技量とかね……」


 ……まぁ、この辺のはタイトル忘れたけど、刑事ドラマの受け売りなんだけどね。

 皆、感心したように聞き入っているので、そのまま続ける。


「何より自分達が偵察されているって言う事が解れば、色々と警戒されちゃうし、あいつら、どこから出てきたんだって話になっちゃう。……だから、まず今回も含めて一連の偵察行動は絶対に敵に見つからないってのが前提になるの……戦闘なんて論外って訳。作戦決行のその時まで、あの人達にはわたし達がこうして外に出てこれるなんて、夢にも思わないまま、ゆるっゆるでダラケててもらうってのが理想ね。敵にこちらの情報を極力与えず、こちらは敵を徹底的に相手を知り尽くして、弱点を探す……それが偵察ミッションの目的なんだからね。敵を知り己を知れば百戦危うからず……こんな格言があるくらい……偵察ってのはすっごい重要なの」


 ひとまず、そんな風に返すと三人とも感心したように頷く。


「くろがねさんが、指揮官補佐に選ばれたのも納得です。なんと言うか……私達より広い視点で一歩も二歩も先を見てるようです……すっごく頼もしいですわ」


「そうだねぇ……実際、くろがねって僕達よりも強いからね……イザとなったら、よろしく! それに、魔王様とワイズマンさんの作戦聞いた時もなんかすごく解りやすく説明してたもんね。ご飯無くなったら、確かに困るっ! 僕達もあんな大勢の怖そうな人たちとまともに戦うなんてイヤだしね……」


「ふふ……くろがねは私の自慢の妹だからね……! やれば出来る子なのよ……この娘!」


 感心したように、琥珀と翡翠がそんな感想を述べると、何故かしろがねが胸を張る。


『斬月作戦』


 我らが魔王軍に戦いを挑むべく、魔王城跡地に居座り続ける10万人の軍勢。

 どのみち魔王城は外界へ浮上させるつもりではあるのだけど、どうも行き先はここで確定状態の上に、浮上シーケンスは中断してるだけなので、時間の問題でこの地に浮上してしまうので、その前に邪魔くさいこいつらを排除する必要があった。


 その為に魔王様とお師匠様が協力して立てた作戦の名がそれだった。


「兵隊共はまともに相手にしない……夜闇を突いて敵の兵糧を焼き払い、指揮官級を一掃し、然るべき後に殲滅する」


 酷くシンプルなコンセプトのこの作戦。

 敵は、10万なんて馬鹿げた人数かき集めた時点ですでに破綻してる……と言うのがワイズマン様の言い様。


 兵隊と戦わずして、どうやって大軍勢に勝つのかと当然皆、疑問が殺到したのだけど。


「ご飯無くなって明日から飢える事確定、おまけに命令をする人が居なくなったら、あの人達それでも居座り続けると思う? ついでに少人数と言えど、一騎当千のわたし達と相対してその脅威を目の当たりにすれば……きっと恐慌状態になる。そうなっちゃえば、人数なんていくらいたって関係ない。あとはもう一方的な蹂躙タイム……そんな感じになるんじゃないの? ……ですよね、魔王様」


 議論が紛糾しそうになったので、思わず口を挟んだら、皆呆然としてしまい……魔王様達だけが、我が意を得たり……みたいな顔をしてた。


 と言うか、古今東西……大軍勢に相対する側の戦略なんて、だいたい決まってるのだけどね。


 大軍勢ってのは、戦わなくても膨大な物資を浪費する……10万人なんて言ったら、現代日本だってちょっとした地方都市一個分。

 東京ドームの収容人数が5万人だから、東京ドーム二個分……とんでもない数だと言う事は容易に想像できる。

 まぁ、わたしは東京ドームなんて行ったこと無いのだけどね。


 そんな軍勢が長々と居座るのだ……実際、飲水とかも川の水だけじゃ賄いきれないようで、あちこちに井戸が掘られているのがここからでも確認できる。


 それに輸送の馬車が深夜にもかかわらず、ひっきりなしに集積所へと向かい列をなしている……要するに、そこまでしないと物資の消費に追いつかないような状況なのだ。


 だからこそ、わたし達の取るべく戦略としては、補給潰しのほぼ一択。


 大軍勢に少勢が対抗する場合、これはもう定石……歴史的に見ても、そのような事例は数多く存在する。

 戦争の天才フランス皇帝ナポレオンも第三帝国アドルフ・ヒトラーも補給を甘く見て、ロシアの大地に沈んでしまった。


 太平洋戦争の日本軍だってそう……結局100万人もいた軍勢も、片っ端から輸送艦を沈められてにっちもさっちも行かなくなった。


 フィクションだと、銀英伝もそんな感じだったなぁ。

「新世界より 第四楽章」が同盟軍、終了のテーマになってしまったのは、きっとわたしだけじゃないだろう。


 そんな訳で、この状況から即座にこの作戦を立案したワイズマン様は、戦争ってものをホント解ってる人だった。


 何と言うか……色んな世界を戦い歩いた歴戦の異世界英雄みたいな感じらしいけど、わたしみたいな半端な転生者みたいなのと全然違って……さっすがだなぁ……ほんと、惚れ惚れするね。


 今はどうも守備範囲外っぽいけど……隣をちゃっかりキープして……とか、なんならお兄様とか、呼んでみようかな……なんてことを考えてみたり……。


 もっとも、最近は忙しいんだか、ボロが出て来たのか、何かモッサリしたボサボサ頭で猫背で歩いてるのをよく見る。

 何か残念なイケメン臭がして来てるのだけど、気のせいかな?

 あのオサレな清潔感が売りの一つなんだから、悪化しませんように……。


「じゃあ、僕らは予定通り、空の上から偵察に行ってくるね」


「あの……くろがねさん、上から見た様子をあとで報告するだけで、本当に良いんですか? 一応、近くに降りて、細かく敵軍の様子をみたり調べるくらい出来ますよ」


 そろそろ、2人の出撃予定時刻だった。

 ひとまず、上空を軽く旋回して、周辺地形や陣地の様子を軽く見るだけで良いと言ってあるのだけど、それだけでいいの? と言った様子。


「どうせ夜間の上空偵察だから、細かくは解かんないでしょ。篝火の配置や天幕の数とか、哨戒網をどれくらいの範囲に展開してるのか……陣地の位置関係とかその辺がいくらかでも解れば上出来。今回は初めてづくしなんだろうから、簡単に思えるくらいでちょうどいいの。本格的な偵察やるなら、もっと人員増やさないといけないし、偵察隊の拠点もどこか見つかりにくいところに作っとかないとね。近辺の村落とかからの現地情報の聞き取り調査とかも想定してるらしいから、やることはたんまりあるね。それと明日から訓練も平行してやるから、これから開戦までめっちゃハードになるわよぉ……」


 そう言って、ニコリと笑いかける。


「ひぇっ……お、お手柔らかにお願いしますぅ……」


「それと月が明るい夜は月の位置もちゃんと意識すること。特に地上に映る自分達の影をよく見る……敵陣に自分の影がかかったら、アウトだからね!」


 この世界の月……ちょっと大きいみたいなので、月の出ている間は結構明るい……もちろん、東京の夜なんかと比べたら、全然暗いけど。


 今夜は半月なんだけど、自分達の影ができる程度には明るかった……満月なら本くらい読めそう……まぁ、今後はどんどん明るくなっていて、徐々に暗くなっていくと思うけど。

 月の周りは……ほぼ一ヶ月……これは地球と大差ないみたい。

 夜の闇の濃さは、単純じゃない……天候、月齢、時間帯によってコロコロ変わる。


「月明かり……これも、考えてませんでしたわ……くろがねさん、空飛べないのによくご存知ですよね。……色々ありがとうございましたっ! じゃ、また後ほど……ここの守りはよろしくお願いしますわね」


 翡翠がそう言うと、2人は羽を広げて、ふわりと宙に浮いて、漆黒の空へと飛び立っていく。

 ほんと、天使みたいで可愛い……って! なんか……スカートの中の白いのとかカラフルな柄がチラチラと見えたんだけどっ!


 こ、これ、後で言わないとダメかなぁ……パンチラで敵に見つかるとか、女子的には恥ずかしすぎる……。

 でも、どう言おう……うーん? 困った。

戦争モノは、始まる前の準備段階こそ、じっくり描くべきなのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ