非日常は突然に
うららかな天気の朝、黒髪の少年は寝床から身を起こしぐっと手を伸ばした。
「あー…くっそ。……だっりー」
彼が止めるデジタル式の時計には、4月2日という文字が爛々と青く輝いている。これが彼が憂鬱そうな顔をしている理由かもしれない。
(にしても……親父の命日は一週間後か)
彼は片親であり、父も数年前に他界している。故に
「トーストも焼けた」
独り言が増えるのも仕方ないのかもしれない。
そしてトポトポとコーヒーを注ぐその瞬間だった。
「なんで床が光ってやがるんだ」
突然彼の足元の床が光りだした。
とりあえず、と気だるげに移動してみるも光は相変わらず彼の足元を追尾するように捕まえる。
(明らかだったが、なんらかの物質が付いてた訳ではないことは確認。 そして理由は分からないが俺を捕捉するということは家ではなく俺自身に何らかのことをするのか?)
流石に何かが可笑しいと思い寝不足の脳を働かせるが、あまりにも情報は少なく。
(光るということは……レーザーポインタを集めて俺の足元に当てるとかか? そんな馬鹿な、何の意味が?)
窓などを見渡してみる内に、眩いだけだった光は彼の脚を渡り彼の体を這いずり回るその瞬間。
「嘘………だ、ろ?」
彼の足元や体に宿る光は、精密な線を描いていて。
(まさかとか思うけどよ、魔法陣、なんていう奴なんじゃねーの?)
彼の魂が地球から消失する。いや、正しくは。
彼の魂は、異世界へと召喚された。