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ちょっとブレイクタイム!

 真夏のぎらぎら輝く太陽の下、桃坂先輩の半乾きのTシャツを着て、上半身裸の先輩とベンチに並んでるって、一体これどういう状況なんだろう。

 ベンチの前を通り過ぎていく人たちが、興味深そうに私たちをチラ見していく。

 そうだよね~。興味引くよね~。

 私だって、上半身裸の男の子と、ぶっかぶかのTシャツを着た女の子が、足元に水たまりを作ってベンチに座っていたら、見ちゃいけないと分かっていても見ちゃうもん。

 幾分うつむき気味で小さくなる私と反対に、桃坂先輩は両手をおしりの後ろの方に着き、両足を思いっきり投げ出して、太陽の光を目一杯浴びていた。

 そりゃその方が効率よく乾くよね。

 水を吸って黒くなっていた先輩のジーンズが、ところどころだけど元の色を取り戻し始めている。

 でも本当にこの人、他人の目が気にならないんだな。

 ある意味尊敬する。 


 それにしても、すごいな太陽の力。

 あっという間に生乾き状態になったよ。

 っていうか、桃坂先輩、上半身裸で日焼け大丈夫だろうか。

 こそっと桃坂先輩の様子を横目で窺う。

 髪の毛はまだしっとりと濡れてるよね。

 けど、もともと白い肌だから、日に晒された上半身はなんとなく赤くなりかけているような気がする。

 色白の人って、日焼けすると赤くなって痛いっていうよね。


「大丈夫だよ。俺は男だから、裸だろうが焼けようが大したことねえよ」


 私の視線に気づいたのか、桃坂先輩がぶっきらぼうな調子で言った。

 また私の思考を読みましたね。

 しかも無駄にイケメン発言。やめてください。

 いじめっ子でガキ大将な桃坂先輩には似合いませんから。


「それよりごめんな。俺、夢中になって、佐倉が女子なの、完全に忘れてた」


 そうですねー。完全に忘れてましたねー。いつものことです。

 でも我を忘れて楽しんでいたのは私も一緒だ。


「いいですよ。私も楽しかったし。恥じらいを持たない私の責任でもありますから」


 私がそう言うと、桃坂先輩がくしゃりと笑った。


「なんでだろー。俺、佐倉と一緒にいると、まじ楽しくってテンション上がっちゃうんだよな」


 どきり。

 桃坂先輩の笑顔が、言葉が、本当に心から楽しそうで、不覚にも私の胸が大きく脈打った。

 やばい。

 そう思った時には立ちあがっていた。

 いきなり立ちあがった私を、桃坂先輩が不思議そうに見上げる。

 濡れた前髪から覗く瞳を、なぜか見ていることが出来なくて、私は肩にかかったままだった理子先輩のタオルを、先輩の頭にばさりとかけた。


「わっ。なに? 突然」

「こうすると乾くの早いですよー」


 慌てる桃坂先輩の頭を、タオルでぐしゃぐしゃと乱暴にふく。

 なにって、先輩が変な顔で見るからじゃん。

 私は胸の鼓動を無視するために、心の中で毒づきながら、ひたすら先輩の頭をふいた。


「いい加減にしろよー。禿げるだろー」


 桃坂先輩の苦情が切実だったので、頭をふくのはやめてあげた。

 タオルはそのまま先輩の肩にかけておく。

 どすんと乱暴に腰を下ろした不機嫌な私を、桃坂先輩は面白そうに眺めていた。


「ほんとにお前って、読めないなー」


 また、足を大きく投げ出して、太陽の光を一杯受ける体勢に戻って、桃坂先輩が楽しそうにつぶやいた。

 読めないのは先輩です。

 子供みたいにはしゃいで振り回すかと思えば、男らしく自分の服を脱いで着せてくれたり。

 わざとじゃないのは分かってるけど、その度に振り回される私の気持ちをどうしてくれる。

 本当に、本当に勘弁してほしいんだから。


「どうした? 疲れちゃった?」


 黙り込んでじっと足元を見ていると、桃坂先輩が珍しく優しい声色で尋ねてきた。

 私の顔を覗き込もうとするから、わざとぷいとそっぽを向く。

 だーかーらー、気を使うなんて、らしくないですってば。

 私が疲れていようが嫌がっていようが、好きなようにするのが桃坂先輩でしょ。


「それとも腹減った?」

「!」


 さっき食べたばっかりだから減るわけないでしょ!

 からかうような響きに、思わず反論しようと桃坂先輩の方を見た私は、そのまま固まってしまう。

 いつもの桃坂先輩なのに、いつものように見えないのはなぜなんだろう。

 私の目、どうなっちゃったの!?


「あれ? やっぱ調子悪い? 熱でも出ちゃった?」


 フリーズした私の頭に向かって、桃坂先輩の手が伸びてくる。

 その手から逃げたいのに、体が動かない。

 私を見る、桃坂先輩の瞳から目が離せない。

 うひゃーーーーーっ!!!

 私が心の中で大絶叫を上げた、その時。


「お待たせー。Tシャツ買ってきたよー」


 理子先輩の声に、桃坂先輩の手が、私の額に触れる直前で止まった。

 セーフ。セーフだよ。

 理子先輩ナイスっ!!


 一瞬、何とも形容しがたい不思議な顔で私を見た桃坂先輩が、すっと立ち上がって理子先輩たちに手を振った。


「おーさんきゅー」


 その声は、いつも通り。

 どきどきどきどき。

 いつも通りじゃないのは、私だけだ。

 どきどきどき。

 こっちに背を向け、桃坂先輩が佐藤先輩たちと話しているうちに。

 どきどき。

 Tシャツを持った理子先輩が私のところに歩いてくる前に。

 

 お願いだから。

 静まれ。私の鼓動。

 

 

 


 

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