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パレードがやってくる!

 本気でへろへろになってお昼の集合場所にたどり着いた。

 だってあれ怖すぎるって。

 最後に乗ったコースターを降りた直後、膝が笑って力が入らなくて。

 ふらついた先に偶然、桃坂先輩がいなかったら、絶対ころんでた。

 こころ一生の不覚です。

 てか全部、桃坂先輩のせいだ~!


「ここ~。大丈夫~?」

「理子先輩~」


 待っていてくれた理子先輩の胸にふらふらと飛び込む。

 佐藤先輩がうらやましそうな顔をしていたのが一瞬目に入るが、構うものか。

 よしよしと頭を撫でてもらって私の気力が回復していく。

 すごいぞ、理子先輩パワー。


「もう、桃坂くんったら。もうちょっとここのこと、大事にしてやってよ」


 ん? 理子先輩、なにか変なこと言わなかった?


「え~。こいつ結構楽しんでたよ~。なあ、佐倉」

「楽しんでたのは桃坂先輩だけですー」


 私の味方は理子先輩だけですー。すりすり。


「……じゃあそろそろお店に入ろうか」


 ぞわりと、真夏なのに背中にブリザードのような冷気を感じて振り向く。

 にこにこ。笑っているのに、怖いって、それどんな技ですか? 

 佐藤先輩の笑顔に威圧され、そろりと理子先輩の胸から離れる。

 ゴメンナサイ。モウシマセン。ユルシテクダサイ。


 


 食事のあとは、四人でパレードを見ることになった。

 さんせーでーす。

 食後に絶叫モノは絶対無理です。

 男二人には先に行ってもらい、理子先輩とトイレに寄る。

 午前中、佐藤先輩とどんな風に過ごしたのか分からないが、なんだか理子先輩は楽しそうだった。


「おーい! こっちこっち!」


 外に出ると桃坂先輩がぴょんぴょん飛び跳ねながら、元気いっぱい手を振っていた。

 佐藤先輩といることで、数倍目立つってこと、分かってるのかな。

 ほら、先輩たちを何気に取り囲んでいた何組かの女の子連れが、一斉にこっちを睨んでますよー。

 刺すような視線に怯みながらも、先輩たちのところに行くと、大きなマシンガンタイプの水鉄砲をはい、と渡された。

 

「なにこれ」


 ずっしり重いそれを手に、理子先輩と顔を見合わせていると、陽気なリズムが近付いてきた。

 「パレードだ!」と誰かが叫んだ。

 と思った瞬間。


「つめたっ」


 どこからともなく飛んできた水しぶきが頬にかかった。

 なにこれっ。

 

「ほら! ぼうっとしてないで反撃しろよ!」


 隣にいた桃坂先輩が水鉄砲を構えて叫んでいた。

 えっ ちょっと待って!!? 

 にぎやかな音楽と共にやってきたパレードの車から、水が四方八方に噴きあがる。

 夏らしくデコレーションされた車の上からばらばらとキャストの男女が降りてきて、踊りながら水鉄砲を観客に向け乱射し始めた。

 観客たちも各々手に持った水鉄砲で応戦する。

 なにこれ。

 こんなの聞いてないよ~。

 ぎゃーっ。つめたいっ!! だれ!? 後ろから撃ったの!!


 ついには水の入ったバケツを振り回すキャラクターが現れるわ、車から引っ張りだしたホースで放水する輩が現れるわ、観客側は完全に不利だ。

 そんな中、桃坂先輩は大きな口を開けて楽しそうに水鉄砲を乱射している。

 ちょっと、なんでこっちに向けて打つんですか!!?

 至近距離で桃坂先輩の水鉄砲攻撃を顔面に喰らって、私の頭に血が上った。

 くっそー。反撃だ!!

 もうそこからはカオスだった。

 ハイテンションで水鉄砲を乱射する桃坂先輩につられたのか、私の周りの人たちはなぜかパレードのキャストではなく、桃坂先輩に向けて水鉄砲を乱射し始めた。

 当然、先輩の隣にいた私にも容赦なく水は降りそそぐ。

 もう誰に向けて撃っているのか、誰から攻撃されているのか、さっぱりわからない。

 桃坂先輩の歓声と夏の太陽にきらきら光る水しぶきで私の中はいっぱいになっていく。

  

 真夏の太陽の下、大声で叫びながら水鉄砲を乱射するのは、信じられないくらい気持ちよかった。





「あ~~~~。びっちょびちょ」


 祭りが終わってなんとやら。

 楽しげな音楽が遠ざかっていき、あとに残されたのはびしょぬれの観客たち。

 みんな、ちょっと恥ずかしげに笑いあいながら、立ち去っていく。

 さらばだ。同志たち。


「うわ~。静流、これはないだろう」

「ここ~。大丈夫~?」


 どこに避難していたのか、佐藤先輩と理子先輩が近寄ってきた。

 さすが佐藤先輩。理子先輩は全然濡れてない。

 理子先輩が慌てて私の肩にタオルをかけてくれる。

 いやありがたいけど、このタオル一つで何とかなる状況ではない。

 ぽたぽたと前髪からしたたる雫に、髪までびっしょりなのがわかる。


「あ~」


 佐藤先輩の責めるような言葉にこちらを見た桃坂先輩が、一瞬顔をしかめた。

 その視線を追って、自分の足元を見下ろした私はぎょっとした。

 薄手の白いブラウスを着てきたことを、今ほど後悔したことはない。

 水でぐっしょり濡れたブラウスから、水色の下着が透けていた。

 うわ~。だから理子先輩、慌ててタオルをかけてくれたのか~。

 思わず前を掻き合わせるようにしたが、全然タオルの長さが足りないよ~。

 こりゃ困ったなと思っていたら、突然、桃坂先輩が着ていたTシャツをガバリと脱ぎだした。


 何がおこったのか茫然と見守る私たちの目の前で、上半身裸になった桃坂先輩は、周りを気にする様子もなくTシャツを雑巾のようにぎゅっと絞った。

 地面に落ちる水の量に、今の状況を忘れて、どんだけ楽しんでたんだよと突っ込みそうになる。

 無表情の桃坂先輩は絞り終えたTシャツをぱんぱんと勢いよく振って、私の頭にすっぽりとかぶせた。

 え? なに? なんで?

 軽くパニックに陥った私の背中に手を回し、桃坂先輩がすぐ近くにある日当たりのよいベンチを指さした。


「悪いけど、二人でなんか着るもの買ってきてくれる? 俺たちあそこで乾かしてるから」

「了解。すぐに買ってくるよ」

「うん。すぐ帰ってくるからね。待ってて、ここ」


 佐藤先輩と理子先輩が足早にショップへと歩いて行った。

 

「ほら行くぞ」


 何がなんだか分からないうちに、背中を押され、私は桃坂先輩と並んでベンチに腰かけた。




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