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レッツride!

 園内に入って、私は案内図を広げる。

 ふむふむ。

 なかなか乗り物系は充実しているな。

 あんまり遊園地って来たことないけど、絶叫系が苦手とかそういう訳じゃない。

 どっちかっていうと来るのが面倒なだけで、来たら来たで楽しんじゃうんだよね。

 でも確か理子先輩は絶叫系が苦手なんだよな~。

 じゃあこのコーヒーカップとか、どうだろう。

 あ、このシューティング系のも面白そう。

 お化け屋敷も行っちゃう!?

 

「じゃあ、これ、借りてくな」


 これ?

 桃坂先輩の声に、私は案内図から顔を上げる。

 首を傾げた途端にぐいんと腕を引っ張られた。


「え? なに? 先輩?」

「ここ?」


 遠ざかっていく理子先輩のぽかんと口を開けた顔。

 そんなお顔も可愛いです。

 てか、桃坂先輩、なんで私だけを連れていく。


「ちょ、ちょっと、なんなんですか。桃坂先輩。みんなで回るんじゃないんですか?」

「え~。だってさ、佐藤ってあの顔で絶叫系ダメなんだよ? 確か一之瀬もダメなんじゃなかったっけ」

「ああ、理子先輩は全然だめですね~」

「だろ!? でもさ、遊園地来て、絶叫系乗らなきゃ何乗るって言うの!?」


 桃坂先輩、目が輝いてます。お子様です。


「だからお前付き合えよ。チケット代出してやったんだから、乗らなきゃ損だろ?」

「いやだから払いますって」

「まずはあれだ!!」

「だから先輩」

「ほら! 今なら待ち時間少ないぞ! 走れ~~~~~!!」


 聞いてない~。


 それからお昼までの三時間。

 乗りに乗りまくった絶叫コースターの数々。

 もうやだって言ってるのに、聞かないんだよこの人。

 声だって枯れちゃったし。

 ジュース買ってくれたくらいじゃ騙されませんよ。

 約束してあるお昼の場所に向かいながらも「あ、これ乗りてえ」とか「これ面白そー」とかまだ言っている。

 どれだけ楽しいこと好きなんだって感じ。

 もうほんとに乗りませんからね。


「ところで、佐藤先輩って理子先輩にまだ告白とかしないんですか?」


 ぶらぶらと集合場所に向かいながら、常々疑問に思っていたことを桃坂先輩に尋ねてみた。

 すると桃坂先輩はすごく驚いた顔で私を見た。


「えっ!? 佐藤が一之瀬のこと好きだって、知ってた?」


 失礼な。いくら私がのほほんとしているからといって、それくらい気付きます。

 私が、わが校ではちょっとした有名人である佐藤&桃坂コンビに遊びに誘われるようになって、数か月が経った。

 最初は映画だったっけ。

 次がボーリングで次がファミレス勉強会、カラオケも行ったな。

 ゲームセンターでは桃坂先輩が暴走して大変だったよ。

 最初の頃はなんでだろうと首をひねっていた私も、いつも一緒に誘われる理子先輩と、理子先輩を見る佐藤先輩の様子を見ていたら、すぐになるほどと納得した。

 佐藤先輩が誘いたかったのは理子先輩だ。

 けど、いきなり一対一のデートに誘っても、きっと理子先輩はやんわりと断るだろう。

 理子先輩はそういう人なのだ。

 だから親友の桃坂先輩と組んで、理子先輩の金魚のフンのようにくっついている私を誘うことで、デート感を消しているんだろう。

 もしかしたら佐藤先輩、『ここちゃんが理子先輩も一緒に行きたいって聞かないんだよ』とか何とか言っているかも知れない。

 桃坂先輩が私だけを連れ出したのも、多分、佐藤先輩と理子先輩をふたりきりにさせるためなんだろうし。


「それくらい分かりますよ~。でもなんで告白しないのかが、分かんないんですけど」


 佐藤先輩くらいのイケメンなら、思い悩むことなく告白すればいいと思う。

 そうすれば私が借り出されることもなくなるだろうに。


「お前ねー、簡単に言うけど、一之瀬の後輩だろ? あいつの性格考えろよ。佐藤が告白したって、その辺の女みたいに簡単に頷くわけないだろ?」

「そーですかねー」

「じゃあさ、お前が佐藤から告白されたら、どうする? 喜んではいって言える?」

「え……」


 想像すらしていなかったシチュエーション。

 でももし佐藤先輩があの顔で真剣に付き合ってって言ってきたら。

 …………。

 

「無理かも」

「だろ?」


 ドヤ顔はやめてください。似合いすぎです。

 でも本当に無理だ。

 可愛い系の桃坂先輩の隣ですら、居心地が悪かったりするのに、あのハイスペック標準装備の佐藤先輩の隣なんて。

 無理無理。

 居心地悪いどころの騒ぎじゃない。

 身の置き所がない。

 自分がみじめになっちゃうよ。


「お前も一之瀬も、外見には惑わされないってタイプじゃん。俺やあいつから言わせれば充分惑わされてるって思うけど、まあ、佐藤のツラにふらふら引き寄せられるような女でないことは確かだよな」


 なんか桃坂先輩が意味不明なことを口にしたような気もするけど、まあ大体先輩の言う通りだ。

 佐藤先輩が今まで付き合った子は、みんな人目を引く派手な子や美少女ばっかり。

 理子先輩はもちろん可愛いけど、ちょっと彼女たちとはタイプがちがう。

 

「佐藤がいきなり告白したりしたら、絶対一之瀬引くだろ? ってか、まず信じないと思うんだな」


 桃坂先輩の言葉にこくこくと頷く。

 確かに。冗談ばっかり~とか言ってさらっとかわしそうです、理子先輩。

 

「だけどさ、顔がいいからってだけで断られるって、納得いかないじゃん? 性格が嫌だとか、ここが嫌いとかだったら納得出来るけど、外見だけで判断するって、それどうなの? ひどくない?」


 外見だけで断る、か。

 そうか。今まで考えたことなかったけど、不細工で断られるのも綺麗過ぎて断られるのも、外見だけってことでは一緒なんだな。

 でも佐藤先輩は結構遊んでるって噂も聞くし、外見だけでってわけでもないと思うんだけど。


「佐藤ってさ、ほんとは真面目な奴なんだ」


 時々桃坂先輩、私の考えてること、読みますね。


「あいつが女をとっかえひっかえしてるって噂、知ってるだろ?」


 はいはい。頻繁に聞いてます。


「けど俺に言わせたらあんなの付き合ってるとは言わねえ。ストーカーの勘違い女が、勝手に佐藤の彼女だって言い張って、佐藤に付きまとってるだけなんだ」


 えっ!? そうなの!?

 それは知らなかった。


「佐藤もさ、変に優しいし気の弱いとこがあって、強く言えないんだよな。まあ強く言ったとしてもあいつらの耳、自分に都合のいいよう変換する機能がついてるみたいで、話になんないし」


 桃坂先輩は憂鬱そうにため息をつく。

 自動変換機能付きの耳。

 確かにこわいよね~。


「真面目に相手にしようとすると、やっかいだぞ? それで肯定も否定もしなかったら、自称彼女が増殖しちゃってさ。何股かけてるとか、とっかえひっかえしてるとか、そんな噂が流れちゃうし」


 ちょっと佐藤先輩が気の毒になってきた。


「佐藤が誰かのことを本気で好きになるのって、一之瀬が初めてじゃないのかな。だから佐藤も慎重なんだって。俺わかるわ~。好きだからこそ、好きだって言って逃げられるのが怖いんだ。好きだって言わなきゃ一緒にいる方法はあるけど、言っちゃったらイエスかノーの二択だしね」


 そりゃそうだ。

 好きだって口に出してしまえば、もう友達には戻れない。

 でもだからと言って、その気持ちに振り回される私の気持ちにもなってほしい。


「だからさ、も少し付き合ってやってよ。俺、佐藤が幸せになるとこ、見たいんだ」


 うわ。

 そんな優しい顔で笑わないでほしい。

 桃坂先輩だって、佐藤先輩に付き合わされている立場なのに、そんな顔されたら。

 ……もういやだって、言えないじゃん。

 

「分かりましたよ」


 渋々そう言うと、桃坂先輩はにやりと悪い顔で笑った。


「じゃあも少し時間があるから、これ、乗ってこ?」


 先輩が指さした先には、この遊園地一番の絶叫コースターがあった。

 

 一瞬だけいい人だって思ったのに!!!

 もう乗らないって言ったでしょー!!!

 

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