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思索

 ――「ガロンさん、どんな感じでした?」……だ、なんて。

 

 ガロンさんの説得に失敗したらしいピュリアさんに、暢気にもそう尋ねた半日ほど前の間抜けな僕の顔を、出来ることなら思いっきりぶん殴ってやりたかった。

 そう、たった半日程度。そんなに経っていないのに、あれから随分と状況が変化してしまった所為で、時間感覚が狂ってしまった。


 現在の状況は、正直最悪と言ってもいいのだろう。


 こうなってしまった以上、副次的な原因たるピュリアさんを責めたくなる気持ちを押し込め、自己嫌悪に陶酔したくなる下衆な欲求から目を逸らし、今までガロンさんを抑圧し続けた両親に対する軽蔑の念も追いやり、ただ、これからどうしなければならないか、それだけを思惟しなければならない。それほどに、すなわち人間的な思考の一切を排してまで効率を求める必要性が出てきたほどに現状はよろしくない。

 

 しかし、人間は論理形式のみで活動するモノではない筈で、冷静になっているつもりの者、つまり現在必死に頭を動かそうとして空回りしている僕自身が最適な行動を出来る状況に持っていく必要がある。


 出来ることなら昨日から……いやもういっそリール・マールに行く前からやり直したいが、人は過去には戻れない。

 だから僕は、次善の策、とりあえず自分が冷静になれることを祈って、誰も居なくなったガロン母さんの部屋で、自分の頬に思いっきり拳を叩きつけてみた。

 

 視界がブレただけで、他に何も感じなかった。

 


 ガロンさんは、たった今誘拐された。

 僕の目の前で。







 

 

 

 

 

 ――少し、時間を遡る。


 ガロンさんの説得に部屋に帰ってきたピュリアさんは、少しだけ落ち込んでいたように見えた。

 ありゃりゃ駄目だったか、さもありなん、なんて。その程度に僕は考えていたのであったけれど。

 

「その様子を見るに……駄目だったんで?」

「……ん」

 

 思ったとおりの事を口に出したが、どうも、ピュリアさんが必要以上に落ち込んでいる理由が判然としない。

 説得に失敗した、自身の能力に対する自信の喪失か。

 僕が思っていた以上にガロンさんに懐いていたんだろうか。

 それとも、何かキツイことでも言われちゃったんだろうか。

 あるいは、僕には想像もつかないが、女性同士の真剣なお話し合いというものは、もともと得てして憔悴を与える性質のものなのだろうか。

 

 なんにせよ、だ。

 このようなことになってしまった以上、つまりはピュリアさんの脱落により僕自身が行動をする必要が出てきた以上、僕自身の意思に基づいて動くのであらば、まずは事態を整理してみるがよろしかろう。そうすれば自ずからやるべきことははっきりする筈。

 

 まず、事の起こり。ガロンさんは何故、アロマさんと喧嘩なんかしたのか。アロマさんの言い分だけで判断は出来ない。物事は多面的に見なきゃいかんし。


 次。彼女は現在、何の為に家に残ろうとしているのか。彼女が以前言ったことにゃ、ヴァーミリオン家の戦士としてではなく、妻として家を守るという生き方には反発があるらしい。彼女の考えが変わっていたら話は別だが、もしそうでないのならば、今回の態度は矛盾極まる。家に引きこもったら、お嫁さんとして出荷コース一直線だろうに。


 次。ピュリアさんの説得を拒んだ理由。前の疑問と同様、心変わりがあったならおかしくはないが、そうでなければ態々城に戻るきっかけが出来たのに食いつかない理由もあるまい。それとも、目下に説得されたことで変にプライドを拗らせたのかな。

 

 補足事項。

 ピュリアさんとの関わり。そも、アロマさんとバトる前に彼女となんか一悶着あったらしいし。ピュリアさんがここに来るのを拒まなかったから、大したことないのかな、なんて思ってたけど、もしかしたらピュリアさんに対して一物思うところがあったのかもね。一応、考慮。

 もう一つ。彼女自身の、コンプレックス。女性的でありたかった彼女が、何がしか思春期じみた反抗を示すきっかけがあったのやも。

 

 ……結論。

 と言っても、僕自身に出来ることは一つしかないのだ。

 愛してあげよう。

 僕がやるべきはそれだけで、そしてそれしか出来はしない。

 僕自身の精一杯の誠意をぶつけるだけだ。失敗したらその時はそれだ。

 

 だから、ぶつける機会をいただかねばならない。具体的には、パパンとママンに了解を貰わねば。

 

 そうして、曲がりなりにも今後の方針を決めたところで、窓の外にぼんやりと目をやっていた小鳥さんから、小さく声を掛けられた。

 思わず聞き逃しかけたけど、彼女が目の端でこっちを見ていたものだから、気付くことが出来た。

 

「なあ、ナイン」

「はいな?」

 

 僕の名前を呼んで、そして、しばらくの間をおいた後、再び彼女は口を開いた。

 

「どうしても、隊長に戻ってきて欲しい?」

「……?」

「……」

「ええと、ピュリアさん?」

「ウチじゃ……」

 

 もう一度、ウチじゃ、と口にした彼女は。

 俯いて、ごめん、なんでもない、と。

 

 そう言って、部屋を出て行った。

 

 

 

 ……。

 …………。

 



 補足事項の重要性に、修正。


 ピュリア・ハープの行動による、ガロン・ヴァーミリオンへの影響の考慮の必要性は、極めて大きいと思料される。以後の行動の参考とする。

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