アリスの手紙(清書)
最近は冬の足音も高らかに、めっきり冷え込んできていますけれど、あなたは元気でやっておりますか?
姉は風邪もひかず、皆さんにも相変わらず良くしていただき、申し訳ないほどの心地です(毎度のことですが、どうかしつこいなどと思わないでくださいね)。
先日は、ピュリア、ええと知っていますよね、ハーピーの女の子です、彼女と一緒に演奏会になど出かけました。
私達は教養のない生まれですが、芸術というものは貴賎に関わらず感動を与えてくれるものだと改めて思いました。
……ピュリアは、自分の羽根を見て、これでは何の楽器も扱えないと不貞腐れていたけれど。
彼女の歌声は、それこそ天上の調べの様に美しいのに。無い物ねだりという奴かしらね。
ああいう所に行くと、ついつい自分も何か始めてみたくなってしまいます。三日坊主になるのが関の山かもしれませんけどね。
あなたも何か、楽器など覚えてみたらどうでしょうか。それでいつか私に聞かせてくれたりしたら、姉さん、とても嬉しいのだけれど。
まあ、もちろん無理にとは言いません。ただ、貴方は思いつめるところがあるから、趣味の一つでも持ってみてはと思ってのことですので。
……そうそう、以前あなたがくれた手紙に、美味しいワインの銘柄について書いてあったけど。
駄目じゃない、あなたまだ未成年なんだから。もうちょっと体が出来上がってから嗜むものですよ……と言っても聞かないと思うので、ほどほどになさいね。
……実を言うと、こっそりアロマ様のコレクションから拝借して、一口飲んじゃいました。
けど、私にはやっぱりまだお酒は早いみたい。酸っぱくて飲みきれなかったの。
……そうそう、話は変わりますが、あなたに一つ伝えておくことがあります。
最近ディアボロに、人間がやってきました。もちろん、餌としてではなく、同胞として。
私自身も、今までは人間なんて……と思っていたのですが、この度いらっしゃったナイン様は、本当に素晴らしい方でした。
お優しくて、格好良くって、今までの人間に対する偏見と言うものがなくなってしまいそう。
……勿論、あの様な方ばかりではないということは理解していますけどね。
もし機会があれば、あなたにも是非会っていただきたいと思います。そうすれば、あの方の素晴らしさが、きっと伝わると思うから。
それでは、また。寒いので、体を冷やさないように。
それと、乾燥しているから、加湿を忘れないようにね?
かしこ
東暦620年11月26日、アグスタはディアボロ領にて
アリス・クラックスより
愛する弟、ボルト・クラックスへ




