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おてまみ

 謹啓 


 冬将軍も最早近しくなりましたが、ガロン母さん、お元気でしょうか。

 

 折角レターセットを頂きましたので、ありがたく使わせて頂きたく思いまして筆を執りましたが、手紙を書くにも不慣れな身ゆえ、もしも無礼等ございましたらご容赦くださいませ。



 さて、僕は今、貴女もご存知の通りリール・マールに滞在しています。

 

 こちらはアグスタとはまた違った文化様式で、色々慣れぬところもあって最初は戸惑ってしまいましたが、僕は元気でやっています。

 

 

 

 ところで僕の現状ですが、仕事が仕事ですので余り詳しく記すのは望ましくないと思います故、さわりだけの報告になってしまうことを重ねてお許しください。

 

 まず、リール・マールの獣人さん達が親魔族派と親人間派に別れて昔から争っているのは母さんもご存知の通りでしょうが、彼らも当然普段の生活がありますので、喧嘩ばかりしていられるわけではありません。

 

 勿論、ある程度どちらかの派閥よりの思想を持っている方が大半ですが、その殆どが無為な争いを望まない人々で占められていて、そういった方は自分の派閥を明らかにはしていません。

 

 では、どうやって派閥の規模が決まり、また、敵味方を判別するのかと言うと、これがまた変わっていまして(これを聞いたとき、僕は驚いてしまいました)。

 

 

 なんとまあ、日常の会話の中に、時折符丁を混ぜ込んでいるそうです。

 

 

 具体的な内容については伏せますが、各派閥にもランク分けの様なものが為されていて、それぞれの地位に見合った符丁が与えられているらしく。

 

 地位の高い人は、自分と同ランク以下の同じ派閥の人が分かるけれど、地位の低い人は自分と同ランク以外の人が、敵対派閥か、自分より上の人間か分からなくしているそうで。

 

 しかも、意図的に最低ランクの符丁はお互いの派閥にリークし合っているってことでした(つまり、少なくとも自己防衛の手段がそれぞれに与えられている、というなんともとぼけたお話です)。

 

 この曖昧さ……しかも、こんな情報を僕如きがすぐ手に入れられるって緩さが、お互いの対立を決定的にしていない遠因だと思うんですよね。

 

 

 どうも、ここ十年くらいで取り入れられた手法みたいなんですが……。

 

 

 ……ちなみに、各派閥の意思決定というか、本体についてですけれど。

 一定以上の地位の方のみが、派閥の会合などを開催して方針などを決めているとのことでした。

 

 

 逆に考えれば、この会合に出ている人たちを親魔族派に取り込んでしまえば、後はなし崩しにスリザは落とせそうな気がするんですけどね。

 

 

 誰がこんな不安定な制度考えたんでしょうね。

 

 

 

 誰にとって、都合がいい制度なんでしょうか、ね?

 

 

 

 ……それはいいとして、一つ泣き言を言わせて貰いますとね、こちらの現地の担当者がどうも僕のこと嫌ってるみたいなんですよこれが。

 

 エヴァさんと一緒に顔合わせした時も感じ悪かったですし、上記のお話(外部の人にも割と知られている程度の内容だそうで。だから僕もこの手紙に書いちゃってるんですけど)を教えてくれる時も、スゴい冷たかったんですよう。

 

 一回、ちゃんと「メッ」しておきますね。

 

 

 

 

 ――まあ、僕の方はこんな感じで、多少問題はあれどのんびりやっていますので、ご心配なく。

 

 お仕事のことばかり書いて、無粋な男だと思われてしまうのはこちらとしても本意ではありませんので、もう少しばかり。



 ……そうそう、エヴァさんと食べたこちらの銘菓の小鳥饅頭、中々いいお味でした。お土産に買って帰りますね。

 

 スリザの名物の食べ歩きなども、これから時間ができればやってみたいと思っています。



 ……エヴァさんといえば、あの方、けっこうおとぼけさんだったんですね。


 トイレに行った際には、鍵を閉め忘れてて『真っ最中』に出くわしてしまったり(彼女の掌底のお蔭で僕の奥歯はいまだにグラグラしています)。


 引き戸を何度も何度も押して、「何故だ、何故動かんのだ……」と呟いたり(代わりに開けてあげたのに、不機嫌になってしまったのには閉口しました)。


 色々不安になるパートナーですが、今はエルフの里の方で頑張ってくれていると思います。


 ……貴女に送る手紙に、このようなことを書くなどと、無神経だと思われるかもしれません。


 しかし、母さんが餞別にくださいました洋服は、段々と匂いも薄れてしまい、やや寂しい心持ちでいるのです。



 ……何が言いたいかというと、貴女の温もりが恋しいということです。


 

 早く貴女達の顔が見たいものです。

 


 

 それでは末筆ながら、これからますます寒くなりますが、ご健勝であられますようお祈りしております。

 

 そちらの皆さんにもどうぞよろしくお伝えください。

 


 敬白

 

 東暦620年10月28日、リール・マールはスリザにて


 親愛なる貴女達のナインより 


                 愛しいお母さんへ














 追伸:でもやっぱりぱんつにまでマーキングしたのは許せません。


 もうらめぇってなるくらいお尻ぺんぺんして差し上げますので、楽しみにしていてください。


 きっとご満足いただけます故。

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