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観察する者

「アロマぁ、下着を見られた。あいつはすけべえだ」


 執務室に飛び込んで来た我が魔王が、いつもどおりの凛とした表情で情けない声を上げた。


 他の者では分からないかもしれないが、私には分かる。

 ちょっと眉が下がり気味だ。

 声のトーンも落ちている。


「脚舐めさせておきながら何言ってんです。あいつ、あの時点でガン見でしたよ」

「そ、そうなのか?」

「口をもにゅもにゅさせない。威厳がなくなるでしょ。それに、アレの調教は貴女が言ったことじゃないですか。まあ、貴女を傷付けられるとは思いませんがエルちゃんの例もありますし、あんまりアレと二人きりになるのは望ましくないんですけれど?」

「だって、余だってアロマがいなくても、自分で出来るってところを見せたいではないか」


 これだ。


 陛下は、未だに依存癖が残ったままだ。


 母親は彼女に無関心で、早くに父親を亡くしたものだから、結局甘えたがりのクリ坊のままここまで来てしまった。


 なんとか『魔王陛下』の外聞を崩さない振る舞いは出来るようになったが、少し気を抜くとすぐこれだ。


 別に私がどうこうではない。

 自分の力量を把握して、出来る事はやれば良いし、出来ない事は助けを求めればいいだけの話なのに、いちいち私にそんな事を言う時点で『見ていてくれ』と言っているようなものだと言う事に気付かない。


 この間の賭けの時、結局私は負けてしまったものの堂々と自らベットを吊り上げるクリスを見て少し安心していたのに、あっという間に駄目なところが蘇ってしまっている。


 だから私はいつまでも貴女の事が放っておけないって言うのよ。


 ……それとも、甘やかし続けている私の所為かしら。


 この娘のお父様……いいえ。先代の魔王陛下に『娘達を頼む』と言われてからずっと支えてきたつもりなのだけど、私はやり方を間違えてしまったのかしら。


 間違いなく魔族を率いる魅力は持っているし、力だけは途方も無い彼女だが、このままでは王として世界に君臨させるのは難しい。


 故に、手回しを慎重に慎重にずっと行ってきてはいるのだが。


 貴女が成長しない限り、世界なんて巨大な化け物は貴女に御せ切れるものではないのよ?


「貴女が言ったんでしょう? 貴女が……ファースト・ロストで殺しそびれたあの人間を支配さえすれば、自分は自信を持てるんだって」

「それはそうだが」

「ならば、やりきって見せなさいクリス。貴女は、やれば出来る子なんだから」


 ああもう、私は貴女の母親じゃないんだから。


 いつまでも私におんぶに抱っこじゃいけないのよ?


 貴方の父上が出来なかった……そう、出来なかった、魔族による世界の席巻。


 これも、貴女が言い出したことなのだから。


 今更後になんて引けないんだからね?


「でもあいつ、余の事をババくさいとか言うし」

「一々家畜の言うことに耳を貸さない! 貴女は王なのよ?」

「ん、む、そうだな。余はこの世で最も尊き、魔王である」



 そうそう。


 それでいいの。





 ――そうそう、それで良いの――


 ――アロマ・サジェスタ。ナインの敵。貴女も、それで良いのよ――?


 ――精々、その臆病な魔王のお尻を引っぱたいてあげなさいな――


 ――生まれついての卑怯者・・・、クリステラ・ヴァーラ・デトラの傍にいる者として――


 ――それが、この世界での、今の貴女の役割なのだから――




「……? クリス、貴女、今何か言いました?」

「んむ? 余は何も言っておらんぞ」

「あら……そう、気のせいかしら」












 ――そんな魔王と宰相を、じっと見つめる者がいた。


 隠形に長けた、本来アロマの手足たるべきその者の瞳は常と異なり瞳孔が縦に裂けて、まるで蛇のように――



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